NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~ 作:大島海峡
それから英志は、名もライダー名も同じその若者から教わることとなる。
別の次元の話。こことは似て非なる世界における、時間とそれを統べる王位を巡る戦いの物語を。
ライドウォッチ。
仮面ライダージオウと、その未来の姿たる魔王、オーマジオウ。
簒奪者たらんとするタイムジャッカー。
各ライダーの歴史と力を奪う反存在、アナザーライダー。
多くの命が失われた果て、世界の融合。そこで出会った並行世界のチェイス。
再整理された平成ライダー達の時間軸。
リセットされた新世界。
……時と事情が混在するその物語を、半分以上は理解できなかっただろう。
だが、この異常な状況が、それに関する事物が原因いうことだけは、察しがついた。
「つまり、あのシンジの力は、そっちから流れてきたもの、ってこと?」
「あぁ」
英志の問いかけに、ゲイツは腕組みしながら頷いた。
「パラドックスロイミュードを、知ってるな?」
……そして、思いもよらなかった名を、挙げた。
「詳しい経緯は省くが、奴は俺たちの世界に現れた。アナザードライブとしてな。そして奴はコピー元の女と組んで仲間を裏切り、殺した」
あまりに飾り気ない物言いだったが、だからこそ信じられる。その悪辣さも、自分の知るパラドックスのそれだ。
「そして、奴らと対峙していたジオウは、それを嘲笑う奴に怒った」
物憂げに息を吐いて、ゲイツが言った。
「情の深い男だ……つい先まで敵だった奴に入れ込んでしまうほどにな。だから、最大の火力と激情を込めて、パラドックスを撃破した」
それが、問題だったと彼が続ける。
「あの時のジオウは、すでにオーマジオウの領域の一歩まで来ていた。そんなあいつの烈しさを一身に浴びたウォッチは、本来破壊されるはずのところを、時空の彼方、この世界の未来にまで吹き飛ばされた」
あるいはそれは、パラドックスの怨讐の念だったのか。
「そして時を飛び越えてきたことでウォッチにはさらなる変化がもたらされた。未来のドライブ同位体……つまりアナザーダークドライブへと進化し、それをあのシンジというヤツが手に入れた……おそらく、ジオウの力の一端も帯びた状態でな」
だからこそ、歴史改変や時間停止、副作用的なロイミュードの復活、そして仮面ライダーファイズ……乾巧の召喚などが出来たわけか。
「でもよく知ってるね、この状況のこと」
「……妙に訳知りな奴が身内にいる。俺にとっては、この世界よりもそいつの方がよほど曲者だ」
そう、苦々しい吐息を漏らした。
「俺のことより、問題はお前だ」
「僕?」
「アナザーライダーを完全に倒すことが出来るのは、時空に干渉できるほどの力か、それぞれに対応するライダーだけだ。つまり、お前は世界の崩壊より前にダークドライブの力を取り戻し、奴に勝つしかない」
「それは……そうだけど」
英志は言い淀む。
「でももし僕があいつを倒せたとして、世界は、ここに住まう人たちやハート達やチェイスは、どうなる?」
「全ては、あるべき時間に戻る」
……その力、技術を今持ち合わせていない、というのも勿論ある。
だがそれ以上に迷いがあった。
不幸に見舞われて、本来ならこの時代まで生きていなかった人々。
何事も無ければあり得た家族の幸福。
(それを、僕の
そしてその先の未来には、地獄が待っているというのに。
そんな英志の逡巡を見抜いてか。
渋い面持ちでゲイツは、
「俺は、この事態に深入りするつもりはない」
と言い切った。
「この未来は本来、俺たちの時間軸には関わりないことだ。どうするかは、そこに生きるお前が決めることだ」
それに、と瞑目しながら、低く小さく呟いた。
「最低最悪の未来を変えるため、過去を変えようとするシンジの気持ち、俺には理解できなくもない」
と。
「……じゃあ、なんで君は来たのさ?」
そう問いかけた英志に対し、そこまで頑なさを示していたゲイツの表情が、困ったようなものへと移った。
何かを口の裏にへばりつかせたようなに、唇をもごつかせた彼は、やがて意を決したように、そして捨て鉢気味に、一つの鉄屑をアンダースローで英志へと投げ渡した。
「記憶をなくす前の、王様からの預かり物、だそうだ。俺をこんな場所まで送り込んだ例の曲者から、そいつをお前に渡せだと」
それは、彼の使っていた時計のようなデバイスに似た装置だが、そこには何の意図も力も感じさせない。
透き通ったディスプレイの向こう側の機構は、その動作の一切を止めていた。
「だがお前の覚悟が決まった時、そのウォッチは応えるだろう」
救世主、というよりも予言者めいた口ぶりでそう言うと、踵を返す。
最後に、
「――俺だったら、たとえ誰に何を言おうとも、自分の夢や未来を諦めるつもりはないがな……思い出すことだ。自分がこれまで、何のために戦ってきたのかをな」
と言い置いて。
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そして人間態へと戻ったチェイスもまた、大した別辞もなくその場を去ろうとした。
彼が引き合わせたいといった友人があのゲイツであり、その用事は済んだのだから、当然と言えば当然だが。
「――ひとつ、訊いてもいい?」
そんなチェイスの背に、英志は問いを投げかけた。
「チェイスは、なんのために僕を助けてくれたの?」
かつての友からの依頼とは言え、見ず知らずの自分の代わりに戦ってくれる謂れはなかったはずだ。
ましてや、そもそも仮面ライダー、ひいてはドライブとの縁は、このチェイスには皆無なのだから。
端正な横顔だけを向けたチェイスは、一切の動揺もない低い声色で、淡々と答えた。
「あの男は言った」
と、おそらくゲイツのことを指して、チェイスは言った。
「お前たちが『
「……」
「俺は、その言葉の先にある未来を、信じたい。人間とロイミュードが手を携えて生きていられる世界が、あるというのなら」
わずかながらに、だが確かな感情の熱を乗せて、チェイスは告げる。
それに答えるだけの言葉は、迷う英志の中にはない。
「しかしそれは、こんな未来では、なかったはずだ」
そう言い捨てる彼を留める術もまた、ない。
ただ掌中で静止した『時』を、じっと見下ろし、立ち尽くす。