NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~ 作:大島海峡
結局、答えは出ないまま。
気づけば夕刻。帰路についていた。
果たしてどうするべきか。皆のために、仮面ライダーとして。どうすることが正しいのか。
「英志、どうかしたのか?」
門前で懊悩する英志に、斜め向こうから声がかかった。
庭の垣根。そこから頭を出して、英介が様子を伺っていた。
答えに窮する彼に、それ以上追及することなく
「これ、食べないか? 現役時代の後輩から貰ったんだ」
と、屈託なく笑ってスイカを掲げて見せたのだった。
〜〜〜
実家に続く祖父の家は平屋で、その縁側でスイカを切り分けて食べる。
自家栽培で収穫されたらしいそれは、家族全員で食べ切るに小さ過ぎ、一人食べ切るには大き過ぎる微妙なサイズ。それを二人分に切り分けて、塩を振って齧る。
「お父さんとお母さんには、内緒な」
と、そう悪戯っぽく言い置いて。
対して生返事で応じる英志を横目で眺めながら、英介は、
「今日の夕飯、ハヤシライスだからな。今食べ過ぎるなよ。好物だろ、久々の」
などと釘を刺してくる。
「……そうなんだ」
言われるまでもなく、食欲なんてあってないようなものだ。促される分だけしか、口をつけていない。
それでも祖父には気取られないよう、さりげないように、
「じゃ、これぐらいにしておこうかな」
と返す。
そんな孫の横でふっと息を落として虚空を見上げつつ、
「嘘だよ」
そう、笑った。
「本当はハヤシライス、先週食べたばっかりなんだ。お前や婆ちゃん含めて、みんなでな」
それが何を意味するのか。何を意図しての嘘だったのか。
英志は察して、軽い驚きの後で苦笑した。
「……ひょっとして、カマかけられた?」
彼の問いかけに英介はスイカを一切れ手に取って差し出した。
「でも変だよな。君はロイミュードのコピーってわけじゃなさそうだ。記憶も感情もコピーしたなら、こんな単純なブラフに引っかかるわけがないし、敵意も感じない……もっともこればかりは、元刑事の勘だがね」
英志は脱力した腕でスイカを受け取り、そして
今更取り繕う何かがあるわけではない。それにかつて単身フリーズロイミュードを追い詰めたほどの名刑事に、しらばっくれる愚を悟る。
「じゃあ……怒らないで聞いてくれますか? ……英介さん」
全てを見透かした祖父だった人に、あらためて他人に立ち返ったうえで、英志は能うかぎり説明した。
この世界の由来を。
そして自分が生きた世界で起こったことを。本来の歴史、そして彼自身の儚き人生の本道を。
「……なるほどな」
身を屈めるようにしたまま、だがきわめて親身に、英介は英志の言葉に耳を傾け、その話が一通り終わると、ひとつ頷き返しただけだった。
「信じて、くれるんですか……?」
あまりに落ち着き払った様子の彼に、不安を覚えつつ英志は尋ねた。
「嘘なら、もう少し現実味のある内容にするさ」
と、もっともな理屈を返したうえで、傍らのウエットティッシュで手を拭う。
「ただ、夢みたいだ……とはずっと思っていた。あまりに都合が良すぎるってね」
「……この『現実』を、否定する気はないんです。ヘンテコだけど、実際多くの人たちが救われてるのも事実だし。僕自身この二日間、居心地が良かった」
「でも納得してるって顔じゃないな」
穏やかに、だが明確に急所を定めて英介は鋭く切り込んでくる。
ショックを受けるのは本来なら英介のはずだろうに。それを語る英志自身が背を丸め、俯く。
蝉の声が、今は物悲しく響く。
「僕は、一年前に取りこぼした過去を、無かったことにはしたくない。守り抜いた今を、失いたくない。勝ち取った未来を、信じたい。でもそのために、この世界を犠牲にしなくちゃいけないなんて……」
考えは決まっている。だが答えが決められない。
その決断を今下せる、非情さなど持ち合わせてはいないし、いけない。
「英志」
悩める青年に、隣に座る老人は目線を合わせた。
「君は、いやお前は、自分のすべきことをしなさい」
と、その背を押した。
「……なんで、そんなこと……言えるんだよ……? 意味わかってる!?」
それは彼自身の死を、愛する者たちの不幸を意味する。
それが分からない、かつての名刑事ではないだろう。
「たしかに、多くの人間が傷つくかもしれない。悲しい想いをするかもしれない……お前の比ではないだろうが、お爺ちゃんも警察官を全うして、失敗もしてきた。正しいことをしてきたつもりでも、中には救えなかった被害者や傷つけてしまった人間はいる。そっちの世界でも、背を預けた相棒がそんな俺の姿に苦しんでいたことに気付けないで、結果としてその後に数々の悲劇を招いてしまったようだしな」
細めたその目は決してぶれることなく、
「それでも、きっと俺は同じ道を行くだろう……自分の使命から、人々に託された想いから、逃げてはいけないよ」
しかして真摯な信念とともに、英志の拳に自身の傷を
細かな傷によってふしくれだった大きな手だった。暖かな手だった。
そしてその下で握り固めた手が、己の答えだった。
……いや、おそらく最初から決まっていた。欲しかったのは背を押す言葉。だからこそ帰ってきた。この家に、そしてルーツに。
ただまぁ、と。手にスイカを掴み取って英介は言った。
「向こうの世界に帰れば、こうしてお前とスイカを食べる機会もないわけか……そこはちょっと、残念かな」
と茶目っけを交えて、老人ははにかんだ。
「それでも進ノ介もお前も、変わらず仮面ライダーか……面白いな」
「僕らだけじゃないさ。叔父さんも、あとさっき話したロイミュードたちも。あと、もちろん忘れちゃいけないの、が」
そう言いさした英志は、言葉を詰まらせた。
まさに今、とてつもない大きな見落としに気がついた。
常にまとわりついていた違和感。物足りなさ。
ハート達のボディ。ブレンのドライバー。
「――そうだ。なんで今まで気づかなかった? なんで
縁側に置かれた己のドライバーを見下ろし、英志は反射的に立ち上がった。
次の瞬間には、それを掴んでいた。
「英志?」
「ごめん、爺ちゃん。ちょっと行く場所できた」
訝しむ祖父に口早にそう告げると、英志は家を出る。
「父さんたちには上手く言っといてー!」
と、その間際に手を振りながら。
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遠ざかっていく足音。そしてエンジン音。
それを少し物寂しく、だが最後まで聴き漏らすことのないように堪能しつつ、英介は
「動き出したら一直線、か……血筋だな」
と苦笑をこぼす。それでいて、我ながら、どこか嬉しそうな口ぶりで。
そしてスイカの残りを、やや苦労しつつも平らげたのだった。