NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~ 作:大島海峡
ハートとハートが、互いの身体と存在をぶつけ合う。
腕を取っ組み合わせて指で締め合い、そして角を突き合わせる。その様は、バッファローの縄張り争いにも似ていただろう。
力は拮抗。腐っても超進化態の己ということか。
いや、そもそも今のハート自身のボディが、汎用的なもので儘ならないのだ。
「なかなかの力のようだが」
と、ハート教授は笑いを含ませて言った。
「ボディは出来合い。それで仲間はコアだけの二体か? ずいぶん寂しい陣容だなぁ?」
より強い圧迫を加え、仮面ライダーのハートを下がらせる。
「だが私は違う! 見ろこの数多の同胞たちをッ! コアやボディがどれほどの破壊されようとも、いくらでも増やし放題だ!」
そう高々に宣う黄金のロイミュードの周りには、なるほど無数の機械生命体の配下が控えている。
「くだらないな」
だが本物のハートは、一切の羨望さえ見せずに切り捨てた。
教授の様子から嘲弄の気配が潮のごとく引いていく。時と共に、態勢は逆転していく。
「どれほどに増えようとも、得る喜びも無ければ、喪う悲しみもない……そんなものは友ではないッ!」
その怒喝は心よりの叫び。その力は心よりの発揮。
一度引かせた拳を、狩猟民族や原始人のような、巻き舌の蛮声を発しながら、超進化態の身体へと叩き込む。
そのボディが吹き飛ぶと同時に、今まで同士討ちを恐れて遠慮していた周囲のロイミュード『もどき』たちが、数を恃んで押してくる。
〈Come on! Medic!〉
シフトブレスを動作させると同時に、鎌を振りかざす『死神部隊』の波状攻撃を身を切り返して直撃を躱す。
『ほら、貴女の好きそうなヤツ、来ましたよ』
『嫌味なこと……けどハート様モドキでさえ無ければ、遠慮は要りませんわ」
反回転させた爪先に、衝撃波が乗る。それが敵を刈り取るたびに、ブラックスワンの羽が散る。
そして着地と同時に軸足同じくして反転。電光一閃。白鳥の羽が舞い、敵を薙ぐ。
〈Come on! Brain!〉
再びレバーを操作すると、肩のタイヤ部分より仮面ライダーとしての姿で、ブレンの上半身が半ば具現化した……液状化して。
「ライダァー……毒手ゥ!」
粘つく指先で第二第三の敵を突いて回る。
垂らすは一滴。それが染み込むのみで、機械の身体が不全に陥りショートし、自爆へと追い込まれる。
味方を誘爆に巻き込み、ロイミュードの次陣は壊滅した。
「ふっふっふっ! 如何ですか、華麗で瀟洒で洗練されたこの無双ぶり! 仮面ライダーブレンは体内に九百九十……」
『良いからさっさとすっこみなさいなっ』
怪笑轟かせるブレンを、同じくタイヤの内から金色の触手が引きずり込んで退がらせる。
「くっ……なんだその動きは!? バラバラでメチャクチャなのに、何故押し切れん!?」
幾度となく体勢を整えて反撃を仕掛けようとしていたハート教授は、その都度に、崩れる味方に巻き込まれて押し戻される。
そしてようやく立ち上がってきた彼の前に、ベルトのイグニッションキーを回し、シフトブレスを操作した仮面ライダーハート、幕引きに向けて万端準備を整えた真のロイミュードが立っている。
「そうだ……息の詰まるほどの、強烈な『個』! それこそがっ!」
〈ヒッサツ! Full throttle! Heart!〉
乾坤一擲の捨て身で、紛い物は飛びかかる。
だがすでに時遅し。その悔いも怒りも、周回遅れも程がある。
「造り物の俺たちを、命の高みへ至らしめるモノだッ!」
その吶喊を躱し、すれ違いざまにミドルキックを繰り出した。
その衝撃の熱波が、暴発が、残敵をコアごとに吹き飛ばす。
有象無象の断末魔と爆火の連鎖。その後に君臨するは、ただ一個の勝利者、ただ一機の王者。
『お見事でしたわ、ハート様』
ゆっくりと足を下ろしたハートに、内部にてメディックが慰労の言葉を捧ぐ。
「あぁ……もっとも、今ので限界だった、ようだったがな」
そう呟きながらハートは、己の掌を見つめる。
外皮からうっすらと光の粒子となり、三者のコアは再びその結合を撓み始めている。
あの偽者に言われるまでもなく、これはクリムが突貫的に作り上げた出来合いのボディ。
仮面ライダーへの変身も、そしてその総力を出し切れば自壊するのは目に見えていた。
いや、あるいはこの世界が元に戻ろうとする反動か。
もっとも、後悔はない。倒すべきを打倒し、やるべきことはやり切った。あとは今を生きる者たちが、どうにかすることだろう。
『やれやれ。じゃあ今回はここでお開き、ですかね』
『次こそは、わたくしも仮面ライダーメディックとして、活躍を披露してみせますわ!』
『……まぁ、万に一つぐらいのチャンスはあるんじゃないですか? なんかこう……アウトサイド的なあれこれとか、アニバーサリー的な何やらで』
その気持ちと信頼は、他の二人も同じなのだろう。悲嘆も不安など微塵も見せず、常と変わらないお気楽な丁々発止とともに、装置を抜け出た二つのナンバーが天へと召されていく……霧散する。
変身が解除されたハートの表情は、目を細めて見送った。そう、すべてはあるべきところへ戻るだけなのだ。
穏やかな心持ちで夢幻と消えていくことを受け入れる中、ハートは自らのブレスよりシフトハートロンを引き抜いた。
「行け――泊英志を、助けてやれ」
それが自律的に手を離れた直後に、覇王の姿もまた、光の露と消えた。
色を徐々に失い、ただのコア集積装置に戻りつつあるもそのシフトカーは、托生の想いを乗せて、空を駈ける。