NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~   作:大島海峡

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「なんだ、そのタイプは……? そんなドライブシリーズは、存在しなかったはずだ!」

 

 動揺に次ぐ、未知の力との遭遇。

 混乱の極みに達した彼の精神は、獣じみた雄叫びという形で暴発し、突撃という衝動的かつ原始的な手段で表れた。

 

 瞬間、人外となって極限まで拡張されたはずのシンジの視界から、ダークドライブの新形態が消えた。

 その行方は、一瞬後に身をもって分からされる。

 

 すぐ足下からふいに圧と共に沸いた気配。

 さながら鯱が獲物を掬い取るがごとく、あるいは地の裂け目からその下を通る高圧電流が爆ぜるがごとく。

 懐に我が身を、そして拳を滑り込ませたダークドライブのアッパーカットが、突き出された。

 

 いや、ギリギリ視界に捉えた。間に合う。防ぐ。

 防――

 

「ガッ!?」

 だが咄嗟の読みに反して、抑えに成功し、出鼻を挫いたはずのその拳はシンジの身体の真芯を打ち抜いた。

 

 両脚が地を離れ、高く浮き上がりながら、立て直す間も無くきりもみしつつ落下する。背で砕かれたコンクリートの硬さ、衝撃。だがその痛みを上回る動揺と困惑が、シンジの精神を占める。

 

 確実に、防げたはずだ。間合いを、タイミングを、時の揺らぎさえ把握し切るこのアナザーライダーの眼が見誤るはずがない。

 

 残心を示すが如く、あるいはシフトブレスとそこにセットされた新たなシフトカーを見せるがごとく掲げた腕を、ゆっくりと下ろした英志はしかし、刹那的に、再びその姿を雷光へ変じて消えた。

 

 青い軌道が、檻のごとくアナザーダークドライブを囲う。包む。空間そのものを削り取るように狭めていく。

 

「うお、お!?」

 声にならない声と共に、シンジは腕の振った。

 真空の刃を生み出し、雷撃を撒き散らす。とにかく全方向へ、面的に。

 紛れ当たりでも良い、とにかく一撃を与えて奪われた戦闘の流れを取り戻す。

 

 だがその反撃の数々を掻い潜って、その内側にダークドライブは実体化した。車輪を噛み合う音を鳴らしながら、

〈Next・Special・Miracle! Tire カキマゼール!〉

 青、黄、赤。三色の光の螺旋を肩口に取り巻かせて。

 

〈Extra Ignition!〉

 タイヤを中心に三層に渦巻く、稲妻の輝き。

 青き一閃、奇跡の閃き、デッドヒートの灼熱。

 肩から腕へ、掌へ。スライドしていくそれを直に叩き込まれて、シンジの総身がスパークする。

 だが、正しくその姿を捕捉した。

 崩れそうになる膝を必死に支えつつ、腕を掴み取った。

 

〈Builder・Hunter・Traveler! Tire カキマゼール! Surprise Future!〉

 ――次世代のシフトカーを取り込んで、タイヤが回る。

 その回転によって生成された兵器型のエネルギーが内側でダークドライブの腕と融合し、強引にシンジのホールドを外すと同時に青き火柱を噴射するとともに彼を吹き飛ばした。

 

 その彼を、組み上げられた光の格子が閉じ込め、隔絶し、伸び上がったクレーンが外周よりそれを叩くと同時に、発生したショックウェーブが彼を苛む。英志自身の攻撃によって破壊された格子が、そのままレーザー砲となってさらなる追撃と化して襲いかかる。

 

「ぐっ!」

 だが、無駄だ。

 この未知の敵が如何に手数火力を増そうとも、所詮は決められた時間という盤上の強さでしかない。その枠組みから外れている己に、王手を掛けられる道理はない。付け焼き刃の技術など、それを無に帰す超常の力を前にしては、勝ちの目はないのだ。

 

 シンジの突き出した掌から生じた波動が、時空を歪ませる。

 再び一帯丸ごとに時を静止させ、それに巻き込まれて英志の身柄も凍結する。

 己だけが動ける空間の中で息と体勢を整えたアナザーダークドライブは、右脚に力を充溢させる。

 先には相手に思い知らせるためにあえて時間を再動させてから一撃を見舞ったが、もはやコンマ一秒の猶予も与えない。この止まった時間で全てを決める。

 

 その覚悟の下に強く踏み込み脚を打ち出したシンジだったが、その直前に、ダークドライブのバイザーの色、模様が変じた。

 タイプトライドロンの主導権がクリムに移譲される時のように重ねられた円は、黄色く閃く。身じろぎさえしようのない英志の身体が切り返し、素早くその腕が伸びた。

 

「なっ!?」

 慌てて我が身を引き戻そうとするも、もう時遅し。

 大ぶりの蹴りは手の甲で弾くようにいなされ、反撃など想定もしていなかったその身に左右の掌底が叩き込まれる。

 

 地を削って転がったシンジに、追い打ちがかけられる。単純な肉弾戦に持ち込まれ、押し捲られた。

 

「何故、何故動ける!?」

 今、そんなことを確かめる暇も余裕も意味もない。だが問わずにはいられない。

 

 ……その答えが、あるいは英志自身知り得なくても。

 あるいは、シンジ自身の中にすでにあるとしても。

 

(時間干渉を超えてきたネクストライドロンとの融合、そこに記録されていた二重の時間軸を戦い抜いたダークドライブという存在それ自体の複雑性! それが、時への干渉に対しての耐性を身につけさせたか!)

 

 それが、単純なテクノロジーを超え、奇跡さえ呼ぶコアドライビアシステムの集大成。

 何度捻じ曲げられ、途切れようともなお紡がれる、仮面ライダーの道程。

 その厚さに、圧倒される。

 

「まだだ――まだだ!」

 折れてはならない。退いてはならない。

 背負う者の多さ、深刻さでは、こちらが上なのだ。正しいのは、こちらだ。

 

「オレが世界を、みんなを救わなきゃいけないんだァッ!」

 周囲の時が動き出す。

 アナザーライダーの両脚に込められた激情が、マグマとなって足下に沸き立つ。車輪のごとき円を描き、時計の針が刻まれる。

 その熱を吸い上げて、シンジは飛び上がった。

 

「シンジ……」

 何かを言いたげに、感情を込めて英志がその名を呼ぶ。だがその手さばきに淀みは無く、己のベルトとシフトブレスを操作する。

 

〈NexTridoron!〉

 鳴り響くは簡素なコード。バイザーは再び青く染まる。ボディから吸い上げ、爪先に集約するのは未来を拓く雷鳴。いくつもの時代、世界を表すその光の色は、白へと一極化される。迎撃に飛び上がる。

 そして必殺を期した互いのキックは、中空で衝突した。

 喉裂けんばかりに、声枯らし、ぶつかり合うエネルギーが触れた周囲の一切を融かし、裂けた空を衝く。

 

 だが、どうして

(どうして――押し切れない……ッ!)

 さっきは対応に遅れただけだ。単純な力押し合いとなれば、時の魔王の力が退けをとるはずがない。

 背負ったものは、こちらが上だ。上のはずなのだ。

 

 本当に、そうか?

 本当に、分からないのか?

 気づいていない、という言い訳はもはや通らない。

 

 その理由は、英志がすでに残酷なまでに突きつけてきたはずだ。

 

(オレは……)

 背負ってきたのではない。背を向けてきただけだ。

(この人は)

 その背にのしかかるものと、向き合い、言葉を重ねて手を取り合って、自らの答えに至った。

 数ではなかった。まして覚悟の差など、比ぶべくもない。

 

 絶対的に埋まることのないその差に、今この瞬間……破られる。敗れる。

 それを静かに認めた時、また別の答えを己の内に見出す。

 

(オレが、本当に欲しかったの、は――)

 

 押し負けた身体が、魂が、ダークドライブの蹴撃に揺さぶられる。

 痛みと慚愧を慟哭に変えて絞り出す彼の身を爆炎が包み、その力の源たる(ウォッチ)を一閃が貫き、シンジの体と分離させた。

 

 アナザーライダーを完全に破壊するには、時に影響を及ぼすほどの高次のエネルギーか、あるいは対応するライダーの存在を賭けた一撃が必要。

 そのいずれをも満たしたダークドライブのキックは、アナザーウォッチを、そこに込められていた時の王の未練無念ごとに、完膚なきまでに破砕した。

 

 そしてその残骸に押し留められていた時間が溢れ出す。

 黄金の波濤と化して、そこを基点に時空を裂け目を狭め、そして世界を再び塗り替え始める。

 

 本来在るべき、二〇三六年へと。

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