NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~ 作:大島海峡
「すっかり遅くなっちゃったよ……て言うか結局あの人、誰!?」
色々と調子を狂わされたまま、気づけば夜。
山道の電灯に照らされて、黒いボディと青いラインが夜道に閃く。
ネクストライドロン。
英志の許に唯一残った、彼が仮面ライダーであったことの証であり、この時間軸とは異なる別の『今』で作られた、英志の愛車だ。
と言っても、ドライブシステムのない今、ただハイテクノロジーなスーパービークルでしかない。もっとも、それで難儀するような事件も、ここ一年は起こってはいないが。
「……まぁ、今日は父さんたち泊まりって言ってたし、そう急ぐことも……」
と呟いた矢先、フロントガラスの向こう側で、異様な光が垣間見えた。
遠く空、夜の雲の中で、何かが大きく渦巻いている。
それは稲光のように、明滅を繰り返す。その間隔は狭まり、ペースが早まっていっている。
「ブロッケン現象、なわけないよな?」
やがて、というよりも目に見えてそれは肥大化していく。雷鳴にも似た轟音とともに街を、山を、ことごとく巻き込み、呑み込んでいく。
そしてそれは、英志とネクストライドロンも例外ではない。
「ちょ、ちょっちょちょ!?」
慌ててUターンして引き返そうとする彼だったが時すでに遅し。
その現象の正体も定かでないままに追いつかれた英志の視界と意識は、車の中で漂白された。
〜〜〜
その後英志が目覚めたのは、車のガラスを外から叩く音によってだった。
目覚めた彼を、向こう側で警官が怪訝そうに見ていた。外に出るよう促す、そのジェスチャーに前後不覚のまま従う。
「ダメでしょ、こんなところに路駐なんて」
「こんなところ……?」
呟いて見上げた英志は、絶句した。
そこは夜の山の中などではなく、陽の登った街の真ん中。商店街のアーケード前。
しかも見覚えがある。家の近所で、打ち立てられた案内板や標識が、間違いなく都内のその場所であることを示している。
だが、妙だった。
上手く言葉に表すことが出来ないが……あえて言うなら、どことなく街並みが古い。
店の名前や形態が自分の記憶しているものと細かく違っているのもそうなのだが、
『マジヤバ大特価!』
だの
『熱盛ラーメン』
だの。
使われているメニューや店名のセンスも、耳慣れない、前時代的なものばかりだった。
というかこの警官の制服自体、父が新米だった頃の写真と同じデザインだ。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど……」
「なに?」
「スカイツリーって、どっちの方角ですか?」
「すかいつりぃ?」
まるで初めて赤子が言葉を口にしたような調子で、その年季の入ったお巡りさんは聞き返した。
「そんなもん、とっくの昔に建設中止になったでしょ? あんた、若いのによくその名前知ってんねぇ」
逆に感心されて、英志は困惑を浮かべていた。
「あ、見つけた!」
とそこに、駆け寄って来る人影が視界の片隅に見えた。
見覚えのある顔と声に、英志は安堵を浮かべた。
紛れもなく、そのシルエットと高めの声音は、父進ノ介のものだった。
「あ、良かった。帰ってきたんだね、父、さ」
……思わず、言葉を詰まらせてしまった。
あらためて目にした父の姿は黄色いシャツにノーネクタイでサスペンダーという、今まで職場でもプライベートでも見たことのない出立だった。
髪はやたら量が多くもっさりとしており、パーマがかかっていた。
「……なに、その変なカッコ?」
「そりゃこっちのセリフだっ。お前も
「デカァ!?」
思わず声が裏返る。そんな息子を半ば無視するように、
「悪い、職務中悪いんだけどさ。ちょっとこいつ借りて良いか?」
と、居合わせた警官に頼む。
「は……と、泊さんお知り合いでしたか!? これは失礼いたしました!」
態度をあらためて親子に敬礼する警官と別れ、ネクストライドロンも放置して、英志は進ノ介に腕を強く引かれていく。
「急げ、お前がいないと始まんないだろうが! てか、いつの間にあんな車なんか買ったんだ。帰ったらオヤジにも絞ってもらうからな!?」
有無を言わさず早口にまくし立てる調子は、説教する時の父そのもの。であればこそ、なおさらに混乱する。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
このままでは、何もわからないまま異常な状況に飲み込まれる。
そう咄嗟に思った英志は、父の腕を振り払って制止をかけた。
「色々と聞きたいことあるけどさ!? とりあえず、ひとつだけ良い?」
「は? なんだよ」
「……今って、何年?」
タイムトラベル。空気感からして色褪せた世界の中、そんな言葉が英志の脳裏を過ぎる。そこを起因とする最大の疑問だった。
もっとも、時間転移に巻き込まれたとしても、父が英志を我が子と認識しているのだから矛盾しているのだが。
「……お前。まさか飲酒なんてしてないだろうな?」
相手にとっては、当然理解しがたい問いかけであったことは認める。
アルコール接種した覚えは微塵もないが、自分も自分の正気を疑いたくなる。
だがそこは流石に泊進ノ介らしい。息子の目の中の真摯さを汲み取り不審がってため息を吐きつつも、真っ直ぐに答えた。
「二〇三六年。