NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~   作:大島海峡

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6.

 英志は、今起こっているこの大異変の原因を、ドライビングの最中に考える。

 おかしくなったのは、昨晩から。あの雷風に巻き込まれてから。

 思いついたのは大別し、三つ。

 

 一つ、この世界の時間が何者かによって書き換えられた。

 一つ、何らかの異常によってパラレルワールドに転移させられた。

 一つ……あまり考えたくないことだが、世界は元からこの形で、自分自身がどうにかしてしまった。

 

 もっとも可能性が高いのは、第一の案だろう。

 これには前例がある……そもそも、『泊エイジ』からしてが、()()なのだ。ロイミュードに支配された未来を変えるため、彼は、そして彼に擬態した108は、過去に飛んで時間を書き換えようとした。

 

(ともかく、味方が要る)

 この状況の異常さを共有できる仲間が。

 即座に思いつき、かつ足が向いたのは隣接する風都(ふうと)

 

(あそこには、照井(てるい)さんが、春奈(はるな)さんがいる)

 照井春奈。

 彼女も新世代の仮面ライダーであり、一年前共に事件を解決した戦友でもある。

 今は里帰りで故郷に帰ってきていると連絡があったはずだ。

(彼女ならば)

 仕事柄、超常現象や最新鋭の技術に造詣の深い彼女であれば、きっと何かしら事前に対抗措置を備えている。

 そのはず、だった。

 

『ファンのみんなーッ! 来てくれてありがとなーッ!!』

「ガッツリ変わってるー!?」

 

 旧風都タワーが見える風都署入り口は、熱狂に包まれていた。

 沸き立つ群衆、無数の人垣の向こう側。ミニスカポリス姿の照井春奈の姿が壇上に在る。

 肩に掛けたタスキには、『風都署一日署長』とあった。

 ……その後ろで、本来の署長は少なくとも今まで英志が見たこともないような、ニッコニコの笑顔で、満足げに頷いている。

 

「良ぇで、春奈ちゃん! 輝いとるでー! さっすが照井春奈、我が291芸能が見出した輝きや! 八雲クゥーン、こうしちゃおられんで! レフ板用意、早速ブログにUPや!」

「了解っす月射社長! 蜘蛛糸に乗った気で任せてくださいよ」

「そうそう、なんかこうそっとしたタッチで足つけてな……ってそこは素直に雲で良ぇやろがいっ」

 

 などと、如何にも業界関係者っぽくセーターを肩から打ちかけたり頭にサングラスを置いたりした男たちが、カメラ片手に英志を押しのける。

 

『風都と大阪、二つの故郷を持ててウチ、めっちゃ幸せやねん! その二つで一つの郷土愛とファンのみんなへの想い、しっかり込めて歌うさかい、しっかり応援してやぁーっ』

 

 容姿としては偶像(アイドル)たりえるからにしても、普段のキャラクターを知る英志としては、その所感は、

「きっついなぁ、アレ……」

 の一言に尽きる。

 

 春奈はあの有様。もう一人の友人、天空寺(てんくうじ)アユムは世界がこうなる前から別世界にいるらしく、連絡が取れない。

 

 一縷の望みさえこんな有様で、打ちひしがれる英志は、ふと背後に浮かび上がった異様な気配に、反射的に振り返った。

 

「……そうか。やっぱりアンタか」

 あの少年が、そこに立っていた。

 あの荒んだ風体の彼。ロイミュードとの戦闘を落ち着き払って目撃していた。

 だが背筋は電流を直接流されたかのように反り、英志の顔は険しいものになる。何か、運命めいたものを感じると同時に、見た目そのままの少年ではなく、猛獣と対峙しているような錯覚に陥る。

 

 彼の側でも何か想うところはあるらしく、睫毛や唇がわずかにリズムを刻んでいた。

 その震えめいたものが止まると、落ち着き払った口ぶりで、

「この状況について、混乱しているようだね」

 と口を開いた。

 

「……誰だ、君は」

 英志が誰何の声をあげれば、ふと目元を陰らせた少年は、

 

「オレは、シンジだ」

 そう重く答えた。

 

 そんな二人の向こう側で、照井春奈の、決して達者とは言えない歌が聞こえる。

 

「……場所、変えようか。オレもあれはキツイ」

 やや肩の力を抜いた『シンジ』は、苦笑とともにそう促した。

 

 〜〜〜

 

 署から、人目につかない程度に離れたあたりにある、河川沿いの駐車場。

 どちらが招くでもなく足を向けたその場所に、有事に備えて英志はネクストライドロンを待機させていた。

 

 英志の身体越しに、その黒光りする機体を眺めつつ、

「さすがタイムロード機能を搭載するネクストライドロン。時間改変にも耐えるとはね」

 と、その名称と機能を正確に挙げつつ、シンジは苦い顔を英志へと向けた。

 

「もしアンタがダークドライブの力を得たままだったら、その事実ごとクルマを消せた。でも生身でそれに乗り込むっていう、中途半端なことをしてくれたせいで、アンタ自身が特異点みたいになってて、ここから先の時間帯に手出しが出来ないでいる」

「……言ってることはよく分からないけど、経験上一つだけ言えることがある」

 視線を鋭く返して、英志は彼から距離をとった。

「訳知り顔で僕に近づいてくるのは、だいたいロクな奴じゃない。元凶だったこともある」

「……酷いこと言ってくれるね」

 心底から悲しむように、少年は目を伏せた。

 

「オレは、人々を最悪の未来から救うためにやったのに。むしろ褒めて欲しいぐらいさ」

「なんで僕が君を褒めなきゃいけないんだよ」

「……ただまぁ、そうさ。アンタの見立て通り、オレがこの世界を変えた元凶ってヤツだ」

 

 いささかの気後れも見せずにそう認め、彼は円形のデバイスを上着から取り出した。

 

「……アンタが捨てたものと、同じ力でね」

〈DarkDrive〉

 

 黒い下地に金と毒々しい紫が入り混じる、懐中時計のような機具。

 ツマミに当たるボタンを押すと、どこか既視感のある悪鬼の顔が浮かび上がる。

 そのまま自身で翳した手首に押し当てるとその皮膚が時計を呑み込んでいく。

 そして衝動的な絶叫をあげた。

 彼の身体は、磁気嵐のごとき視覚効果によって覆われ、輪郭を変えつつあるその向こう側で、神殿のアーチのように、石化したタイヤが二つ、地面より突き出した。

 

 その石の肌を内側から電光が突き破り、飛んでいったそれらは上下より少年を異形の身体へと変えていく。

 

 所々が茶褐色に錆びついた、黒いボディ。マスクを二つに割るように大きな亀裂が奔り、そこから垣間見えるのは、剥き出しの赤いアイライトと鋼の歯茎、そして糾える黒と金の触覚。

 ネクストライドロンが正面から破壊されればそういう風になるのではないか、という冒涜的な造詣を主体として、本来であればタイヤの嵌まるその体の溝には、くたびれた腕時計を想わせる、鬱金色のベルトが取り付けられている。

 

 その上にアルファベットでペイントされた名は、その身体から復唱されたその名は、

 

「ダーク、ドライブ……!?」

 

 そしてベルトの表面に刻まれていたのは、

 2055

 ――という、近からずとも遠からぬ先の年数だった。

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