NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~   作:大島海峡

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7.

 ダークドライブ。

 それが以前英志が変身していた仮面ライダーの(よびな)

 それが今、歪められた形で鏡像のごとく、彼の前に立っていた。

 

 その姿は、とても世界の救済とやらを唱える者の在り様ではなかった。

 

 とっさに伸ばしたその手に、黒く分厚く小さな車が乗る。

 シフトワイルド。それを手のブレスに嵌め、完全AI制御のドライブドライバーを腰に巻く。

 

「……っ、変身!」

〈Drive! Type Wild!〉

 

 シフトブレスを上下させると、融通を利かせたネクストライドロンから、変身用のタイヤが重い衝撃とともに、メタリックなボディスーツと黒い装甲に包まれた英志の右肩に乗る。

 

 仮面ライダードライブ タイプワイルド。

 ドライブの基本形態においては最硬の――そしてデッドヒートも封じられた今となっては、最大の攻撃力を有する形態だ。

 

 ひとまず、トライドロンは自走で退かせる。

 

 即時転送したドア銃を連射。そうした牽制ののち、次いでハンドル剣で斬り込む。

 だが射撃は正面から命中したにも関わらず身じろぎする様子さえも相手は見せず。剣は片手で押さえ込まれる。

 

「……いったい何が目的だ!? どうしてこんなことをした!?」

「目的? もう達成してるさ。強いて言うなら、この世界がずっと続くこと。それ自体が目的かな」

 

 押し切ることも引き斬ることもできず、剣刃は掴まれたまま、動かせない。

 だがふいに力が緩み、その剣が解放された。

 

 さながら誘うように、両手を掲げてみせる怪人に、

「ふざけるなッ!」

 と、二重の意味で叫ぶとともに斬りかかる。

 

「皆を、この世界を元に戻せよッ」

「もとに?」

 

 さも驚いたように、大仰にオウム返しするシンジは、防御の体勢さえもとらずに、肩口で太刀筋を受け止めた。

 そして、

 

「誰が望んでるのさ、そんなこと」

 と、そう問い返した。

 

「みんな、この現実を受け入れている。ワガママ言ってるのはアンタだけさ」

「それは……君が記憶も弄ったからだろう!?」

「どうかな? みんな、喪われたものを取り戻してる。悲劇さえ起こらなければありえた暮らし。人として慎まやかな幸福。元の暮らしって言うなら、そもそもそれこそが、本来アンタたちが送るべき営みだったはずじゃないか」

 そう低く静かに答えたシンジは、大きく腕を振った。それだけで、ドライブの剣撃は外れ、代わり叩き込まれた反撃の拳は、その衝撃波は、高い防御性を貫通して英志の身体をくの字に折り曲げ、そして街路樹まで吹き飛ばした。

 

「――っ、そうは、思わない!」

 

 なお折れず意気を示し、英志はシフトカーを、さらにごつい形状のものへと入れ替える。

 

〈タイヤコウカーン! Rumble Dump!〉

 と、掘削機とタイヤが融合したかのような兵装が肩へと嵌まる。腕の先に移したドリル部分を突き出し、英志は吶喊した。

 

 高速回転してこの未知の敵を穿たんとするその先端だったが、魁偉な肉体にそれが命中することはない。

 足さえ動かさず、上体の動きだけで、紙一重の間合いでそれをかわしていく。

 ――否、おそらく当たったとしてもたいしてダメージは入らないだろう。それゆえの、余裕だった。

 

「おーおー、頑固だねぇ」

 と、シンジは暗く嘲る。

「でも技術、力量の差は精神論じゃ覆せないんだよ。どれだけ気高い志や勇気を持っていたとしても、人の裁量を逸脱したテクノロジーはそんなもの、かんたんに凌駕してしまうんだよ」

 

 慣れない装備のためか……それとも、この一連の言葉に動揺しているとでもいうのか。

 動きが鈍い、ままならない。

 そして焦れて攻撃が大振りになったタイミングで、はじめて『ダークドライブ』の爪先が動いた。視認さえできない瞬発性で、蹴り穿たれる。

 

 ここまで食らったのは、カウンターの二発。

 だがすでに、英志の肉体、ドライブの耐久性は、限界に近かった。

 

 ――ならばせめて刺し違えようとも。

 そういう覚悟をもって、シフトブレスのボタンを押して、レバーを引く。

 

〈ヒッサーツ! Full throttle! Dump!〉

 

 エネルギー膨張、集約する風の圧によって、実体の何倍にも膨れ上がったドリル、その旋回。

 乾坤一擲のその技を、大地を蹴って射出した我が身ごと、一直線に叩き込む。

 

 どれだけの性能差があろうとも、明らかに避けられる間合いではなかった。

 そして当たれば、互いに無事では済まないはずだった。

 

 だが、外れた。

 その必殺の特攻は空を切り、むなしく粉塵を巻き上げるのみ。

 そして気づけば、背後にシンジは立っていた。

 

 顧みる間もなく、裏拳が親の折檻のように、英志の側面へとぶち当てられる。

 倒れ伏す間、英志は困惑、混乱とともに考える。

 

 一体、何が起こった?

 瞬間移動か、それとも空間転移か。だがその兆候さえ、認識できなかった。

 それこそ唐突に、シンジの身柄はすぐ前方から消え失せ、気づけば背に回っていたのだった。

 いや、そもそもが彼の言うところの時間改変など、ダークドライブの特性ではありえない。

 

 ――まるでそれは、時を操る王者であるかのような――

 

 タイプワイルドの重装甲は剥がれ、地に伏した英志を踏みつけにし、声だけ、シンジは低く嗤った。

 

「だからさ、そんな過ぎた力の進化も、持て余すほどの技術の進歩も、人類には要らないんだよ。成熟した時代。手に収まる程度の文明、片手で片づけられる敵との闘争、そこそこの幸せ。人にはそれだけあれば良い……まだ見ぬ未来なんて必要ない。だからさ、アンタも前の世界のことなんか忘れて、楽しくやろうよ」

 

 だがどこか、投げやりな調子を含んでいる。

 その足首を、英志は掴み取った。

 どうあっても、少なくても今の訳が分からないままに、認めるわけにはいかなかった。

 

「そうかよ」

 呆れたように、シンジは溜息を落とした。

 だがその掌には、青白いスパークが球体の形をとって集まっている。

 間違いなく、生身の英志を吹き飛ばすに足るだけの質を備えて。

 

「じゃあ、この時間のアンタには消えてもらって、物分かりの良いのをどっか別の時間から引っ張ってくることにするよ」

 

 残酷な宣告とともに、躊躇なく、シンジは英志に向けてその雷光を撃ち放ったのだった。

 

 〜〜〜

 

 そして、泊英志の身体は、シンジの目の前で消し飛んだ。

 だが、その間際に妙な違和感が挟み込んだことに、爆光が霧散してから気がついた。

 無惨な黒焦げになっているはずの英志の骸。それが彼の目の前でグズグズに溶けて、頭から崩れて消えた。

 それは、自分の攻撃による効果ではない。

 

「……なんだと?」

 呻くシンジの足下。英志の死を偽装していた何か粘性の物体は、戦闘で破壊されたアスファルトの裂け目に吸い込まれていく。

 

 ――それはなんとも毒々しい、緑色であった。

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