NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~ 作:大島海峡
あの駐車場からどうやって逃げたのか、そのガードレール下の坂道に至るまでまるで分からなかった。
思い返すことが出来るのは、爆発の間際に飛び込んできた影と、それが振り回したマントに庇われ、包まれて川に飛び込まれたこと。
そして、その水深がそれほどあったわけではないので、膝や脛などが砂利に散々擦られた痛みだった。
突っ伏して息を整える英志は、そこでようやく自分を救い上げた影の姿を見た。
「ドライブ……?」
と、未だ朦朧とする意識の中で想起したのも無理はない、酷似したパーツ。
だがその色は濃い緑で、かつマントを肩から打ちかけている。
額から脳天にかけて、脳を模した生物的なパーツが張り付いているし、ベルトのカラーリング黒だ。
「すごいな、本当に仮面ライダーになれたんだな……」
と、そこに声がかかった。
若い男の声音。だが他を従わせるような威厳が、その奥底にはあった。
そしてその主もまた、引き締まった長躯に赤いロングコートがよく似合う、堂々たる佇まいの男だった。
側に侍るのは、バレリーナともナースともとれる黒い衣装の、美女。色合いと雰囲気が、良く彼を引き立てている。
「フフフ……私は、貴方と、貴方のように自分の存在を賭けて戦う者達のためならどこまでも進化出来るのですよ、ハート」
と、誇らしげにかつ嬉しげに、ライダーは聴き覚えのある声で応えた。
「……ハート教授?」
男の顔に見覚えがあった英志は咄嗟にそう尋ねてしまったが、男はそれに対して不本意げに、
「あんな道化と一緒にするな」
と険しく答えた。
確かに、あのマヌケな敵と目の前の彼とでは、同じ顔でもその威圧感には雲泥の差がある。
となれば、目の前にいる男への心当たりは、一つしかない。
「まさか本物の……ハートロイミュード?」
「そう言うお前は、泊進ノ介の息子だな。108のコピー元の」
「……厳密には違うけど、まぁそうだね」
畏敬と共に、英志は頷いた。
ハート。かつてロイミュード達を率いて人類に牙を剥いたリーダー。
そして父進ノ介の最大の好敵手にして、やがては友となった漢。
その在りようは、伝え聞くだにまさしく王の度量。
となれば、隣にいる女性も何者かは推測できる。
「ということは……そっちがメディック!?」
「ご機嫌よう? ドライブの二代目」
そう小悪魔的に微笑むのは、メディック。
その名や可憐な容姿とは裏腹に、盲従するハートのためであれば人間のみならず味方のロイミュードさえも魔手にかけてきた、
しかし最後は真実の愛に目覚め、ハートとドライブの勝利を祈り、一途にその命を捧げた天使。
そして英志を助け起こした謎のライダーは、ハートの隣に、メディック対となるように立ちつつ、変身を解いた。
特徴的に切り揃えた明るい髪に、理知的に光らせた眼鏡の青年。
「あ、ブレン」
「ちょっと待ちなさい。私の時だけ反応薄くないですか!?」
やはりというか、これは予測の範疇だ。
それが面白くないのか。口を尖らせ目を見開いた彼から、物言いが入る。
「いや、だってあんた去年会ったじゃん……」
「はぁ!? そんな訳ないでしょうが! まったく不可解で不躾で不愉快な塩対応だ……!」
その受け答えに、英志は首を傾げた。
去年、ベルトをチェイスのボディに返還して後のその復活実験の折、ハートの参謀役たるそのブレンが誤って復活したことがあった。
まぁ、その直後にカオスな展開が押し寄せてきて記憶は吹き飛んではいるが、そこだけは疑いない。
「……どうやら、互いの認識にラグがあるようだな」
と、ハートが口を挟み、さらに状況を混乱させるような一石を、彼は投じてきた。
「俺たちは、二〇一九年からこの時代に流れ着いた」
〜〜〜
二〇一五年、全ロイミュード、撲滅。
その後何度も復活の兆しを見せるも、良くも悪くも安定はすることなく、今日に至る。
その中で、平成が令和に変わろうかというその間際に、ハート達の意識は突然データの海の中で覚醒した。
最初はブレンが。
曰く彼は漠然とした世界で、『ム』なる存在と仮面ライダーとして戦っていたのだとか。
それが先ほどの姿、仮面ライダーブレン。
そしてそれが夢か現実か定かでないまま、三人まとめて、気づけばこの世界に送られていたのだそうだ。
「っていうそっちの事情は分かったけどさ」
一通りの情報共有をし、認識のズレを解消した英志は、あらためてハートに尋ねた。
「そのボディはどうしたのさ」
「それがよく分からないって言うか……気づいたらこの状態で三人仲良く目覚めてたんですよね。それがその、シンジでしたっけ? 彼の能力と関係があるのか、はたまた別の何かがあるのかは知りませんけど」
ブレンが頭脳役らしからぬ、曖昧な調子で口をもごつかせた。
「本当に、誰なのかしら……こんな妄想まで現実化させて」
と、メディックがブレンのドライバーをサラッと奪い取りながら、悩ましげな表情を浮かべた。
「妄想じゃないですっ、返しなさい!」
とブレンは慌てて奪い返そうとするも、彼女は涼しい顔で飛びかかる彼をすり抜けて躱す。
そんな応酬を背に、ハートは逆に、
「で、俺たちなりにこの世界を見て回り、正気なのはお前だけだと判断して救ったわけだが……お前の方は? ヤツの正体に心当たりはないのか?」
そう言われても、と英志は首を捻る。ロクな憶測も持てない、というのが正直なところだ。
「そうか……」
英志には失望を示さず、だが少しばかり落胆した様子でハートは肩を落としてため息をついた。そんな所作は、到底一般のロボットではなし得ない、人間的な動きだ。
「まるで見当がつかんな……これではまるで遠い銀河のロイミュード、浦島太郎状態といったところだ」
上手いかどうかもよく分からない例えとともに、ハートはぼやく。
「だが、そろそろ『あいつ』が戻ってくる。何かしら持って帰っては来るだろう」
「あいつ? でもさっき三人って」
「それが貴方を助けるちょっと前に、しれっと合流してきたんですよ、『彼』が」
それが誰のことか、問う前にエンジン音が聞こえた。
その方角を顧みれば、細い橋と河川を隔てた対岸。そこにバイクが停まった。
ドクロを戴く大ぶりの車体。そこから身を離すと、ヘルメットを律儀に外し、黒髪を外気に曝す。
知り合いの警察官によく似た、いやそれよりもいくらか若い、冷ややかで端正な顔つき。
紫のライダースーツが、その痩躯に良く似合う。彼のトレードマークだ。
そしてまるで測ったように均等な歩幅で橋を渡り、こちらへと近づいてくる。
ハート達と同じく、直接顔合わせしたことはない。
だが、間違いなく、彼を知っている。
「待たせてすまない、ハート」
顔に見合わぬ低く平坦な声で、青年を模した機械生命体はそう言った。
「チェイス、復活した……」
そんな彼の横顔を茫然自失で見つつ、英志は冗談ではなくそう言った。