あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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冒険のはじまり
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 あなたはエルグランドの冒険者だ。

 

 エルグランドとは正確に言えば、エルの大地を意味する言葉だ。

 エルとは古くはイェールと言い、イェールとは「そこにある」を意味する言葉だ。

 そして、それがどういった意味であるかと言えば、普遍的(ふへんてき)な神を指す言葉であり、特別な断りがなければ最高神を指す。

 

 すなわち、エルグランドとは、神の大地を意味する言葉であり、意で言えば、神に抱擁(ほうよう)されし大地と言う意味だ。

 その大地の中心に座す、神々の休戦地(きゅうせんち)と言われる最高神のお膝元を除けば、あらゆる神々の息吹がそこかしこにある。

 この世で最も祝福された大地であり、そして、この世で最も激しい宗教戦争が常に勃発している。

 神々の休戦地とわざわざ断るような場所が存在するということは、そこ以外は神々の戦地と言うことである。

 

 そして、神々が跋扈(ばっこ)するエルグランドの大地は、この世で最も奇跡に溢れる。

 死ですらもが絶対ではない。ゆえに、エルグランドは倫理と常識の墓場である。

 

 色んな意味で終わってるし、イッちゃってる大地、そんな地の冒険者があなたである。

 

 

 

 ここで突然だが、あなたはいま見知らぬ場所にいる。

 これはいささかばかりに不思議な話である。

 

 エルグランド広しと言えど、長い冒険者生活の中で足を踏み入れなかった地はない。

 年中雪に閉ざされた地も、熱砂にあふれた地も知り尽くしたあなたにとり、未踏(みとう)の地はもはや存在しない。

 無論のこと、エルグランドに存在する都市や村々もよく知っているし、ほぼすべての町の衛兵とは顔見知りだ。

 

 はてさて、なにがあったものかとあなたは首を傾げる。

 

 とりあえず、あなたは自分の手持ちの道具その他を確認した。

 すべて準備万端(じゅんびばんたん)、抜かりない冒険の準備が整えられており、愛用の装備品類もしっかりと手入れがされている。

 食料品と水にいくらかの消費が見受けられたが、それは旅程を進めば当然あること。疑問に思うことではない。

 

 手鏡を取り出して覗き込んでみれば、いつもの自分の姿が映っている。

 冒険者の女は、線の細い優男に見えがちな程度にはごつく、男らしい様相を示す。

 それに相反するように、鏡の中のあなたは可愛らしく、手入れの行き届いた髪は艶がある。

 軽くニコッと笑ってみれば、いつもの自分の笑顔。あなたは割と珍しい女性の冒険者である。

 

 次にあなたは自分になにがあったのかと思案に耽ろうとしたところで、甲高い悲鳴を聞いた。

 今まさに殺されます、と言わんばかりの絶叫であり、ついでに言えば絹を裂くような悲鳴。つまり、女性の悲鳴だった。

 あなたは大急ぎでその場を出発すると、その甲高い悲鳴の持ち主のもとへと急いだ。

 

 あなたは自分をたいへん善良で人品に優れていて、きわめて心優しい人間だと思っている。

 あなたとは気の置けない仲の友人たちも、冒険者の中ではトップクラスに優しいと評価している。

 そんなあなたであるから、今まさに殺されそうになっている人を助けようとするくらいの慈悲の心はあるのだ。

 

 

 そして、辿り着いた先では横倒しにされた馬車。

 

 幾人かの男が事切れた状態で転がっている。装備が統一されているのでなんらかの組織の人間だろう。

 そして、幾人かの女性。若く、見目麗しい女性が多い。シンプルな装いの女性が多い中、1人だけ派手な服装の少女がいる。

 これは察するに、なんらかの貴族、あるいは王族などのやんごとない家柄の令嬢と、その女中であろうと察しがついた。

 

 襲っている側は装備に統一感がなく、顔つきも卑しさを感じさせるものがある。

 人品と言うのはほんとうに顔に出るものなので、ある程度は顔や眼を見れば、その人間がわかるものだ。

 まぁ、本物の狂人や飛びぬけた異才の持ち主などは、一見するとごく普通に見えてしまったりもするのだが。

 

 さておいて、あなたはその場に飛び込むと、まずはいちばん危険そうな女中を襲っている男を蹴り飛ばす。

 すると、あわれにも山賊と思われる男は水平にカッ飛び、森の木々の合間に消えていった。

 次に危険そうな女中を襲っている男の頭を掴み、軽くクイッと捻ると、首がベキボキゴキとか音を立てて折れた。

 

 そうやって順繰(じゅんぐ)りに貞操が危ない女中を救っていき、山賊を(またた)く間に片付ける。

 そうして、組み敷かれている女性たちを助け終えると、横倒しになっていた馬車に腰かけてその光景を眺めていた男が手を叩いた。

 

「ほー、強ぇ強ぇ。やるじゃ」

 

 言葉の途中で男は死んだ。

 

 特に不思議なことが起きたわけでもなく、あなたが投げた石が頭に直撃しただけだ。

 残念ながらあなたは変身中の敵も攻撃するし、戦闘中にやたらと長い会話をするやつも容赦なく攻撃する。

 そのため、他のやつらとは格が違うと言わんばかりの態度をしてのけた相手にも抜かりのない先制攻撃をする。

 結果、先制攻撃はそのまま必殺となってしまった。それだけの話だった。

 

 あなたなら、いてっ、で済む程度の一撃だが、普通なら頭が爆散して死ぬ。

 鍛え抜いた人間ならば、やはり頭が爆散して即死するだろう。

 人を超えた超人であったとすれば、変わらず頭が爆散して死ぬ。

 

 そう言ったわけで、あなたのぶん投げた石は、その男の頭を綺麗さっぱり消し飛ばすほどの威力で以て、会話を強制的に、そして、永続的に終了させたのだった。

 

 

 そんな具合で、あなたは御令嬢の御一行を見事に救出することに成功したのだった。

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