あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 迷宮探索とは消耗するものだ。

 そのため、今日1日は休養日にすることにした。

 ほんのちょっと行って、熊を3匹ほど殺しただけであるが。

 いや、熊3匹殺すって相当な大乱闘ではあるが。

 この迷宮の第一層であるソーラス大森林の殺意の満ち溢れぶりがヤバい。

 

 休養日だから遊びに行っても構わないのだが。

 あなたはサシャの訓練に付き合っていた。

 訪れたのは、町中にある広場。

 かなりの広さがある場所で、公園と言うにはすこし広い。

 

 この広場では、相当荒っぽいことをしても問題ないらしい。

 周囲に被害を出さない限りは武器を振り回しても構わないくらいだ。

 

 迷宮都市と言う独特の都市機構らしい場所だ。

 普通の都市の広場は市民の(いこ)いの場であったり、商業の場である。

 だが、ここでは違う。ここは冒険者のための場所なのだ。

 戦う者のためにこの広場はある。

 

 あなたたちの周りでは冒険者が試合に勤しんでいたりする。

 剣や槍を振り回し、拳で殴り合ったり。

 時としてそれに金が賭けられていたり。

 

 武器に布を巻いて殺傷力を減じるとかはされているが。

 それでも本物を使った試合だ。危険なことに違いはない。

 普通の都市でこんなことをしていたら警察が出張ってくることだろう。

 

 また、そうした者たちに指導をしている年配の冒険者の姿もある。

 金のやり取りが見受けられるので、善意ではないのだろうが。

 休養中の冒険者の小遣い稼ぎの場、あるいは初心者支援の場なのだろう。

 有望そうな冒険者に唾をつけておく意味もありそうだ。

 

 中には腕試しに金を取って試合をしている者もいる。

 勝てばいくら払う、負ければいくらもらう。

 そんな看板を準備している者すらいる。

 その中の1人にあなたの眼が停まった。

 思わず、ほう、と言う感嘆(かんたん)の声も漏れた。

 

 血が抜け落ちたかのように白い少女の姿だった。

 冒険者と言うには似つかわしくない。

 ドレスのような服装をしている。

 手には何も持っていない。

 

 白い髪はよく整えられており、肌も滑らかで美しい。

 戦うことを生業としているようには見えない。

 傍らには、挑戦料銀貨1枚、勝てば金貨100枚。

 随分な自信を匂わせる内容の看板が立っている。

 少女は素手で戦うが、こちらは武器を使っても構わないとも。

 

 そんな少女だが、疑いようもなく強い。

 あなたはその少女を見て確信した。

 

 細い腕は鍛えられていないのは明白。

 おそらく身体能力自体はレイン以下。

 だが、行動の節々に見える無限の錬磨(れんま)を思わせる技量。

 真っ向から力づくで押し潰すことはできるだろう。

 だが、純粋な技量同士の勝負となるとあなたでもどうか……。

 

 あなたは超人的に強いが、身体能力ありきだ。

 技量と言う意味では、そこまで隔絶したものはもっていない。

 試合の形式の上ではふつうに負けることもある。

 

 しかし、まったく鍛えられていないのは明白なのに。

 どうやってあれだけの技量を得たのだろう?

 成長阻害の装備でも着けていたのだろうか?

 

 しかし、面白い。

 セリナも相当強いと思ったが。

 この少女はさらに格別だ。

 

 セリナは武を極めんとする武人の類と思うと納得がいく。

 一方で、この少女は野生を感じさせる部分がある。

 武人と言うには幾分か不自然なところがあるのだ。

 どういう成り立ちの技を持つのか興味があった。

 

「ご主人様」

 

 いてて、とあなたは笑いを含んだ声で痛みを訴えた。

 後ろからサシャに尻をつねられたのだ。ちょっと痛い。

 サシャからすると、美しい少女に眼を奪われていたように見えたのだろう。

 まぁ、美しさに目を奪われていたのも事実なのだが。

 

「もうっ、今日はちゃんと私の訓練に付き合ってくださいね!」

 

 やきもち焼きのサシャちゃんのご機嫌を取らなくてはいけないようだ。

 あなたは笑ってもちろんと頷いた。

 訓練の後はなにかおいしいものでも食べに行って埋め合わせよう。

 

 さておき、訓練をするのはいいが、なにをするのだろうか?

 

「えとですね、投石です」

 

 投石。石を投げるやつ。

 たしかに、訓練して損のない技術だ。

 そして宿の中ではできない。

 ここまで来たのも納得か。

 

「的確に、強く投げる。これってどうやったらいいんでしょう?」

 

 あなたは難しい質問をすると腕を組んだ。

 コントロールとパワー。これは相反する要素だ。

 その2つの両立はとてつもなく困難なのだ。

 人間はパワーを振り絞ると制御が粗末になる。

 訓練で多少改善はするものの、完璧ではない。

 

 ならどうするのが賢い方策かと言えば……。

 よりパワーを身に着ける。これが一番楽な方法だ。

 10の力を持つ人間の100%は10のパワーだ。

 しかし、20の力を持つ者が50%で投げれば?

 当然、それは10の力で投擲することになる。

 

 あるいはまぁ、道具を使うことで解決する。

 投石紐を使えば、150%のパワーを振り絞ることすら可能とする。

 その上で100%のコントロールも実現できる。

 素手で全部満たそうと言うのは無謀だろう。

 

 あなたはそれを提案した後、サシャに尋ねた。

 サシャは投擲と言う武器を、どのように使いたいのかと。

 

「どう使うか、ですか?」

 

 サシャはちょっと勘違いしているかもしれないが。

 あなたにとって投石は咄嗟にやるものでしかない。

 

 戦闘開始の際に、とりあえず投げる。

 決着がつけばそれで最善。

 当たって怯んでくれれば上々。

 ダメージが少しでも与えられればよし。

 そのくらいのポジションでしかない。

 

 距離が近すぎれば投石せずに武器を抜くこともある。

 投石は本当に予備の予備の戦法なのだ。

 

 サシャはどうしたいのだろうか?

 

 投石は極めれば強力な戦闘技術だ。

 あくまで補助的な役割に留まるが……。

 

 投石を主力の補助戦術として使うのか。

 とりあえず使う程度のものにするのか。

 逆に投石を戦術の主軸にしてしまうのか。

 

 投擲を主軸にする者は少ないが、居ないわけではない。

 重く強力な投擲物や、特殊効果のある投擲物を使い分け。

 ポーションや薬品、投擲用の道具を多数そろえ、これを使いこなす。

 トリッキーで面白い戦闘が構築できる。

 なにより珍しいので対応できるものが少ない。

 

「あ、そう言うことですか。えっと、あくまで私は補助に使いたいかなって……こう、なんていうんでしょう? 戦ってる実感と言いますか……その、武器を使って戦う方が性に合ってる感じがするので」

 

 ならば重要なのは威力よりもコントロールだ。

 脚に当てることで脚をもつれさせる。

 握りの甘い武器を狙って武器を弾き飛ばす。

 身に着けているポーション類を破壊する。

 後ろの仲間を狙って、立ち位置を強制してやる。

 こうした補助戦法にはコントロールこそが重点となる。

 

「なるほど……では、威力は求めなくてもいいということでしょうか?」

 

 もちろん威力はあった方がいい。

 だが、それよりもコントロールだ。

 威力は身体能力で補えばいい。

 

「……もっとたくさんハーブを食べろと言うことでしょうか?」

 

 まぁ、そうなるな。

 あなたはそのように頷いた。

 サシャは涙目になった。

 

「と、とりあえず、コントロールを大事にした投げ方はどうやって身に着ければいいでしょうか?」

 

 あなたはサシャにコントロールの基本を教えた。

 適当に的になるものを調達し、練習もする。

 やっぱり練習は数をこなすしかない。

 

 サシャの投石練習を見守る。

 だが、次第にヒマになって来た。

 面白い訓練でもないし、しょうがない。

 なので、あなたはサシャに席を外すと伝えた。

 

「席を外す、ですか?」

 

 先ほどの少女とちょっと試合がしてみたい。

 あなたは正直に答えた。

 

「夕食代でも稼ぐんですか?」

 

 あなたが勝つこと前提のサシャにあなたは苦笑する。

 たしかにあなたは圧倒的に強い。

 だが、それでも負けることはある。

 殺し合いなら負ける余地はないが。

 試合なら負ける余地は十分にある。

 

「そうなんですか?」

 

 あなたの強さは超人的な身体能力がゆえ。

 剣が刺さらない頑丈さ、指先ひとつで頭を砕く膂力。

 しかし、そのどちらもが試合では役にたたない。

 

 試合で使う剣は木製がふつうで刺さらない。

 刺さったとみなされた時点で負けになる。

 

 試合で相手の頭を爆散させたら大惨事だ。

 勝ち負け以前の問題である。

 

「なるほど……それで試合をしてみたいと思ったんですね」

 

 そう言うわけだとあなたは頷き、なんなら見学してみるかと伝えた。

 

「あ、では、ぜひ」

 

 と言うわけで、あなたは先ほどの少女に試合を挑むことにしてみた。

 

 

 先ほどの少女のところへと向かう。

 少女は変わらず挑戦者を待っていた。

 挑戦料の銀貨1枚を手に、あなたは少女へと声をかけた。

 

「挑戦者か……たしかに受け取った。武器は好きに使え。本身のものでも構わん。殺しだけはなしだ」

 

 少女は無造作に銀貨を受け取って懐へと放り込む。

 そして、構えを取るでもなくあなたに答えた。

 では遠慮なくと、あなたは武器を抜いた。

 そして、少女の首を叩き切る軌道で剣を振るった。

 

 少女はその軌道をちらりと見やる。

 そして、腕が閃き、あなたの剣を弾いた。

 凄まじい技量の冴えを見せつけられた。

 あなたは思わず感嘆の息を漏らす。

 剣の腹に、手首をぶつけて軌道を反らしたのだ。

 凄まじい身体制御と見極めである。

 

 あなたは再度剣を振るう。

 今度はスピードを重視した、軽い一撃だ。

 とりあえず毛筋程度でもいいから斬り付けてみよう。

 

 少女はそれを軽やかな動きで躱す。

 上体をかすかに反らし、流麗なステップで回避。

 あなたは追撃し、さらに剣戟を放つ。

 少女は軽やかな動作で躱し続ける。

 

 これはどうやら本物のようだ。

 あなたはにやりと笑う。

 そして、軽い一撃を振るっていた最中、突如として本気の一撃を放つ。

 

 少女が風のような素早さで踏み込んだ。

 そして、先ほどと同じように、腕が閃く。

 剣の腹を手首で叩き、上へと弾いて見せた。

 

 不意打ち気味の本気の一撃を見極める。

 あまつさえ、弾いて見せるとは。

 信じ難い観察眼である。

 

 少女は弾かれたことで姿勢を崩したあなたを追撃する。

 鋭い、矢のような貫手(ぬきて)があなたの胴体を穿った。

 

「ふん?」

 

 少女の手に返った手応えは重く、硬い、異様なものだったろう。

 それであなたがなんらの痛痒にも感じていないことを即座に察知。

 少女は軽やかな動きで後ろへと下がり、あなたから距離を取った。

 

 あなたはその動作を潰すように踏み込む。

 そして、力強く上段からの一撃を振るった。

 

「それは、悪手だ」

 

 少女が腕を交差させ、その交点であなたの一撃を受け止めた。

 身に着けたガントレットで威力を削ぎ落とし、受け止める。

 とんでもない真似をする。どういう度胸だ。

 少しでも見極めを誤れば腕を叩き切られている。

 やってのける自信があったのだ。

 

 少女が腕を振るい、あなたの剣を打ち下ろすように流した。

 その動作にあなたの体が揺らぎ、前へと踏み出すようになってしまう。

 少女の鋭い貫手が、あなたの脇腹を打った。

 

 さほどの痛みはない。

 だが、反射的にあなたの足から力が抜ける。

 体勢を崩すことを狙った一撃だったのだ。

 体重移動までも見極められていたらしい。

 

「さぁ、終わりとしよう」

 

 少女が指を曲げ、まるで鉤爪(かぎづめ)のような形を作る。

 そして放たれた少女の掌打は、あなたの胸を穿(うが)った。

 胸が押し潰される若干の痛みと、心臓部へと打ち込まれる衝撃。

 

 なるほど、常人なら十分に有効打だと言えるだろう。

 あなたは1歩2歩と下がり、体勢を整える。

 溜息を吐いて、振るっていた剣を鞘へと納めた。

 

「終わりでよいのか」

 

 今のでも大したダメージはなかったろう?

 そう言外に滲ませつつ少女が訪ねて来た。

 

 あなたはこれで終わりでよいと答えた。

 これは殺し合いではない試合だ。

 有効打を貰ったら負けだろう。

 

 最初の貫手はそもそも防御を貫通出来ていなかったので流したが、これは違う。

 防御の上から抜いてくる一撃だ。普通に痛い。

 

「そうか」

 

 少女は頷く。

 ぱちぱちと拍手が聞こえて来た。

 そちらへと眼をやると、木箱を積み重ねた影に、少女が座っていた。

 あなたと試合をした少女と瓜二つの少女。

 その少女が拍手をしていたのだ。

 

「今日も無事に勝利なされましたね、闘士(とうし)様」

 

「血濡れの芸術とはなり得ぬ戦いであるが、満足していただけのならば幸いだ」

 

 瓜二つの2人。

 姉妹と言うわけではないらしい。

 距離感がだいぶ遠い。

 

 騎士と令嬢のような……。

 そんな遠くも近い関係のように思う。

 そう言えばとあなたは2人の違いに気づく。

 あなたが戦った少女は鋼色の瞳をしている。

 その少女に拍手を送った少女は、血のように赤い瞳をしていた。

 

 どっちにせよ可愛い。

 イイコトしたいなぁ……。

 あなたはいつも通りの平常運転だった。

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