あなたはサシャと熱く濃厚な夜を過ごした。
やっぱりケモ耳最高。溺れてしまいそうだ。
さておき、翌日にあなたは宿へと戻った。
そこではフィリアとレインが待っていた。
「おかえり……どうしたの?」
レインが訪ねた相手はあなたではなく、サシャだ。
サシャはもうあなたにべたべただった。
あなたの腕を抱き締め、もう離さないと言わんばかりだ。
あなたはサシャの好きにさせている。
帰ってきたらバカップルみたいになってた。
そんなサシャを疑問に思うのは自然なことだろう。
「えへへ……ご主人様に、いっぱい本を買ってもらったんです」
「あら、そうなの。あなた本当にサシャには甘いわね……本って結構するのに。何を買ったの?」
レインも読書はそれなり以上に嗜んでいる。
図書室の蔵書には一通り眼を通したと言っていたし。
そのため、読んだことのない本だったら読ませてもらおうと考えているのだろう。
「えっと、たくさんあるので、あとで確認しますね」
「よっぽどたくさん買ったのね」
「はい! 書店にあった本を全部買ってくれたんです!」
「全部!? あなた一体いくら使ったの……?」
金貨500枚くらいじゃなかったか。
端数は忘れた。
「500枚じゃなくて、400枚弱ですよ。386枚って言ってましたから」
じゃあ、四捨五入しておいてくれ。
「そこを四捨五入するのはちょっと……」
「400って……うちの荘園の1年の収入より多いわよ、それ……」
まぁ、たいそうな出費だったのはたしかだ。
「すごい数でしょうね……うちの蔵書より多いんじゃない?」
かもしれない。
あと、サシャ用の図書館も建てる予定だ。
レインは建築士や大工のツテがあるだろうか?
できれば紹介してもらえるとありがたい。
「甘やかし度合いがすごいわね……奴隷のために本を買い占めて、専用の図書室を建立する……? ちょっと理解できない……」
理解はしてもらわなくても構わない。
だが、許容はしてもらわないと困る。
と言っても、あの屋敷は既にあなたのものだ。
べつに、レインの許容も必要はないのだが。
やはり元々レインの家だったので、そのあたりの心情は
「ああ、うん……図書室は好きにしたらいいわ。大工と建築士も、前金は必要でしょうけどなんとかなるわ」
それはありがたい。
その手のコネがあるレインには世話になっている。
レインも助力が必要なら、いくらでも力になろう。
「ああ、うん、ありがとう。その時は助けてもらうわ。今のところ必要はないけど」
本当に困った時にでも使えばいい。
とりあえず保留にしておけばよいのでは。
「そうね。さて、世界一奴隷に甘いあなたは今日はどうするつもり? 冒険の準備は万端よ?」
もちろんあなたも準備は万端だ。
今日もまた迷宮に挑むのもいい。
もちろん、準備期間と言うことで訓練に勤しむのもいい。
とは言え、今のところ訓練が必要な事項は思い当たらない。
レインの
サシャの投石に関しても基本は教えた。
あとは実戦で磨くべきだろう。
「では、今日も迷宮に挑みましょう、お姉様。もちろん私も準備は万端ですよ」
傍らに置いていたクロスボウを持ち上げ、フィリアが意気込みを見せる。
サシャの方を見やると、ちょっと困ったような顔をしていた。
「えーと、ご主人様。その、武器が……」
そう言えばそうだった。
サシャの武器がまだない。
あなたは腰に下げていた愛剣を渡した。
先ほども使っていたのでまだしも使い易いだろう。
一方のあなたは新しい剣を取り出して腰に下げる。
「あら、北方風の剣ね。珍しい」
こちらでは北方風と言うらしい。
エルグランドでは東方風と言うのだが。
刀と呼ばれる種類の剣で、反りのある剣だ。
サイズ的には片手剣程度だが、両手で使うのが基本と言う珍しい剣だ。
まぁ、あなたは気にせずに片手で振り回しているが。
この剣には愛剣のような魔法を強化するエンチャントはない。
この剣に込められているのは、体力と魔力を吸収する効果だ。
なお、この場合の体力はスタミナのことを言う
なので、体力……生命力を回復する効能はない。
「またすごいもの持ち出したわね。どちらか一方なら聞いたことあるけど、両方は聞いたことないわよ」
「たぶん、存在はするんだと思いますよ。でも、両方が有用な人ってあんまり……」
「あ、そうか。考えてみれば両方がついてたら魔法剣士向けの効果ね……魔法剣士が珍しいからあんまり聞かないんだわ」
そして、あなたは魔法剣士。有用だ。
まぁ、魔力が枯渇する事態はまずない。
なので、魔力吸収効果は普通に要らない。
この剣はどちらかと言うと体力回復用だ。
武器として持っていた感じではない。
使用に制限はあるが、使いべりしない回復アイテム感覚だ。
「じゃ、全員準備は整ってるわね。行きましょう!」
さぁ、出発だ!
ソーラス大森林への再度の挑戦。
前回と違い、情報を確認し合うこともなく。
あなたたちは森林へと歩を進める。
あなたは前を歩くサシャの姿を見やる。
ぴくり、ぴくりと耳が動き、顔は忙しなく左右に動いている。
後ろをちょっと見やると、左右を見渡しているレインの姿があった。
「なに?」
振り向いたあなたにレインが問いかけて来た。
あなたはなんでもないと答えつつも、隣にいるフィリアに眼をやった。
フィリアは苦笑気味に前を向いて歩いていた。
「慣れるしかないですね」
あなたもまた苦笑した。
サシャもレインも警戒のし過ぎである。
警戒することはいいことなのだが。
ちょっと気を張り過ぎだ。
警戒や索敵の技術は教えていなかった。
あなたは自分の指導のミスを省みる。
周囲の探知と、周囲の警戒。
それは似て非なる技術なのだ。
周囲を警戒するための景色の見方がある。
この場合、敵のいそうな場所を探すだけで事足りる。
この森の敵対的な生物は、3種類。
つまり、熊、山猫、蝶である。
うち、山猫は刺激しない限り攻撃してこない。
なので、敵対的であれど積極的ではない。
蝶は強力な神経毒を持つ。
だが、意図的に人を襲っているわけではないらしい。
人以外も襲っている。って言うか、生物なら無差別に襲っている。
たぶん、生物の呼吸か何かに反応しているのだ。
熊はエサとして人間を見ている。
だから積極的に襲って来る。
割と簡単に狩れる美味しい敵だと思っているのだろう。
以上を総合すると、明白かつ最大の脅威は熊とわかる。
つまり、熊が隠れられる木の影だけを警戒していればよいのである。
蝶が上方から来る可能性もなくはないが、低い。
毒撒き蝶の飛行能力は高くなく、あまり高く飛べない。
まぁ、警戒のし過ぎで疲れたら教えてやればいい。
何事も失敗から学んだ方が成長は速いのである。
「あっ! 毒撒き蝶よ!」
レインが緊迫した声で叫ぶ。
指差す先は、だいぶ離れた地点だった。
ざっと50メートルほど先にあるだろうか。
小さな草地に5~6匹ほどの蝶が飛んでいる。
位置関係で言うと、あなたたちの左手側。
進行方向からは思いっ切りズレている。
あなたはレインの手を掴んで下ろしてやる。
こっちには来ないだろうから戦う必要はないよ。
「え、あ……そ、そう、ね」
レインもそのことに気付いたらしい。
恥ずかしそうな顔をして目を伏せた。
疲れで視野狭窄に陥っていたのだろう。
敵だから排除と言う思考に直結してしまったのだと思われる。
冒険者とは戦いを是とする生業だ。
しかし、戦いを生業としているわけではない。
つまり、無暗に戦う必要はないのだ。
まぁ、それは戦いを生業とする者でも同じだが。
それが儲けになるなら挑むこともある。
だが、避けられるリスクに自ら突っ込む意味はない。
「こほん……い、行きましょう」
止めていた足を戻し、あなたたちは再度歩き出した。
拍子抜けなと言おうか。
今回はさっぱり熊に襲われなかった。
なんでだろう?
不思議に思っていたあなたに、フィリアが笑いながら教えてくれた。
「ソーラスの大熊は倒せると見たら挑んで来るほど頭がいいんですけど、逆に言うと、強敵と見たら避けるだけの知恵もあるんですよ」
つまり、事前に敵戦力に見当をつけている。
さらに言えば、索敵技術すら持っていると言うことである。
それは納得のいく話だ。
昨日、熊はわざわざサシャを狙って襲った。
弱者に見当がつくほど知能が高いのだ。
そして、あなたは先日、3頭もの熊を葬ったことを思い出した。
もしや、熊は同族の血の匂いにかなり敏感なのだろうか?
「はい。ですので、この森の熊を倒せるくらい強くないと、そもそも第2層までいけないんですよ」
なるほど。
まるで、ソーラス大森林の門番みたいだ。
あの熊を乗り越えなければ、第2層に挑むことすらもできない。
なるほど、迷宮探索に実績が必要なのも分かる難易度と言える。
「熊って結構な強敵ですからね……特にこの森の熊は凶暴なので。以前の『銀牙』ではあっさりと倒せるほどではなかったですから」
なるほどなぁ、とあなたは頷く。
まことに迷宮とは自然の驚異なのであろう。
あなたは迷宮の奥深さに感じ入った。
ソーラス大森林の第2層とは、
森の最中にぽっかりと開けた空間。
その中に地面から突き出た岩肌がある。
そこに、大きくて黒くて、丸い穴がある。
まるで巨獣が飲み込まんと大口を広げているかのようにも見える、不気味な穴。
洞穴なのは見ればわかることだが。
入口は先を見通すことの叶わない闇が広がっている。
これはまったくもって尋常の存在ではない。
エルグランドの迷宮とはまったく毛色が違う。
あれは過去から蘇って来た遺跡に過ぎない。
まぁ、こういう迷宮が一切なかったわけではない。
この手の魔法現象が絡む迷宮も数は少ないが存在した。
その迷宮に挑んだ経験があるからこそ、これが尋常ではないと納得することができたわけだ。
「ふぅ。挑む前に、少し休憩しない?」
「賛成。賛成です!」
気疲れした様子のレインと気を張っていたサシャ
2人は共に疲れを感じているようだ。
あなたとフィリアは笑って同意した。
あなたたちは背の低い草に覆われた地面に腰を下ろす。
すると、サシャがあなたの真横に寄り添うように座り込んだ。
「ご主人様、私、ちょっとお腹空いちゃいました」
あなたはサシャの頭を撫でた。かわいい。
なにが可愛いって、意図的に甘えて来たのだ、これは。
あなたの愛を軽く試すジャブのような行為とも言えるし。
このくらいの可愛い我がままなら、喜んで叶えてくれると信じている。
わがままを言ってくれた方があなたは嬉しい。
あなたはイイ子ちゃんしているよりも、わがままな方が好みだ。
サシャはあなたがおねだりされると喜ぶと気付いたのかもしれない。
そのいずれにせよ、とにかくサシャは可愛い。なので、それでヨシ。
あなたはクッキーを取り出し、お茶を淹れて、ティータイムを始めた。
甘いものは疲れに効くし、栄養もある。
それに、軽く食べた方がいいという理由もある。
「あ、クッキー。ご主人様のクッキー、美味しいので大好きです!」
たくさん食べなさい。
あなたはサシャの頭を撫でた。
もちろん、レインとフィリアにもお茶とクッキーを供する。仲間外れはよくない。
「毎度思うけど、『ポケット』って本当に反則的よね。クッキーなんて砕けやすいお菓子を持ち運べるんだから」
なんて言いながら、レインも『ポケット』からシュガーポットを取り出す。
現地調達した食料用に調味料を持つのはよくあることだ。
しかし、ティーテーブルに相応しいシュガーポットを持ち歩くのはどうなのだろう?
紅茶にひとつふたつと砂糖を投ずるレインを見てあなたはそんなことを思った。
『ナイン』をおもちゃとして持ち歩いているあなたには言われたくないだろうが。
「外部からの影響を受けずにものが持ち運べるって言うのは凄いことよね」
打撃などで壊れたりはしない。
だが、燃える、凍るなどの影響はちゃんと受ける。
なので、その2つで壊れる可能性はあると伝えた。
「そっちの影響はあるのね」
自分に付随する空間に折り畳んで仕舞っている。
それこそが『ポケット』の基本的な原理だ。
そのため、眼には見えないがたしかにある。
触れられないので打撃では壊せない。
しかし、空間そのものへの作用は影響を受ける。
空間を高熱にしたり低温にしたり。
そう言ったような影響は、もちろん受ける。
「なるほどね」
砂糖を2つ投じた紅茶をレインが音も無く飲み下す。
その辺りの所作は気品があり、レインが貴種の育ちなのだということを思わせる。
「こういう瞬間はほっとするわね」
「ですね」
特にサシャとレインは少し疲れ気味。
甘いクッキーと暖かいお茶で安堵も
サシャもレインも冒険者らしくなって来た。
あなたはそんなことを言って笑った。
2人はどんな冒険者になるのだろう?
冒険者にもいろんなやり方がある。
そのどれを選ぶも自由だ。
金のために冒険をする者。
未知を知りたいがために冒険をする者。
もはや冒険者に身をやつすしかなかったもの。
そして、仕事ではなく生き方として冒険者を選んだ者。
いや、冒険者以外で生きていけないようなバカもいる。
あなたのような、とんだ冒険馬鹿野郎のようなやつ。
本当のところ、冒険なんて行く必要はないのだ。
未知を知りたければ本でも紐解いていればいいのだ。
でも、あなたは行って見たがる。
冒険をしたがる。検査してみたくなる。
体験主義と言うわけでもない。
未知を知るという理由付けで冒険をしたいだけのバカなのだ。
これはもうどうしようもない
なんたって、それを何も悪いことと思っていない。
そんなのだから、本当にどうしようもなかった。
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