あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

112 / 614
2-018

「あぶぶぶ……ひ、ひたいですぅ……」

 

 サシャはさんざんマロンちゃんにボコられた。

 そのせいでサシャはなかなか悲惨な状態だ。

 マロンちゃんの攻撃には容赦がない。

 しかし、これでもちゃんと手加減はしている。

 

 マロンちゃんは1分あればサシャの急所に5発叩き込めるだろう。

 それを10分かけて丹念に5発叩き込まれたのだ。

 どう考えても手加減はしてくれているのだ。

 威力は手加減してくれてなさそうだが……。

 元から威力自体が低いので、見た目ほど痛打は入っていない。

 

 マロンちゃんが渾身の力で打ち込んだところであなたはノーダメージ。

 サシャだって急所に5発も喰らっておいて、痛いとか泣き言を言えるくらいだ。

 

「銀貨5枚」

 

 あなたは金を要求してきたマロンちゃんに銀貨を10枚渡した。

 

「5枚多い」

 

 返そうとしてきたマロンちゃんを押し留め、あなたはサシャに向けて言った。

 

 サシャ、やれ。

 

「あ、あうぅ……は、はい……」

 

 と言うわけで、続行である。

 そのようにマロンちゃんに告げる。

 

「ふむ……おまえ、いささか狂っているぞ」

 

 べつにそれはどうでもいい。

 これが効率的なのでそうする。

 ただそれだけの話だ。

 

「まぁ、よかろう」

 

 そう言うわけで、サシャは再度マロンちゃんにボコられた。

 

「ひん……い、痛いよぉ……」

 

 うずくまってうめくサシャ。

 急所に5発貰う前に、手足を痛めつけられているのでつらいのだろう。

 あなたはマロンちゃんに銀貨5枚を支払いつつ、サシャに声援を送った。

 

「さ……」

 

 さ?

 

「作戦タイムを要求します!」

 

 せめて作戦を練ろうと言うことだろうか。

 そう言う慎重なやり方は嫌いではない。

 あなたは許可すると告げ、それを認めた。

 

「ご主人様、あの、そのですね、なにをどうしようと勝ち目がないです」

 

 そんなことは分かっている。

 マロンちゃんは強い。ルールの上でなら、だが。

 試合と言うルール上でなら、あなたもマロンちゃんに勝てるかは怪しい。

 

 しかし、そもそも勝つことが目的ではないのだ。

 マロンちゃんから戦技を学ぶのが目的である。

 究極的に言えば、訓練として有益ならいくらボコられてもいい。

 

「おぉ……もぉ……」

 

 サシャが顔を覆って嘆きだした。

 どうしたのだろうか。

 

「あの、それ、つまり、私は殴られ放題になってろってことですよね」

 

 反撃は好きなだけすればいいではないか。

 それが当たるか、当たっても効果的かは知らないが。

 

「そうなんですけど。あの、その、もうちょっとこう……なにか、あるでしょう!?」

 

 なにかとはなんだろうか。

 少し考えてから、あなたは十数本のポーションを取り出した。

 

「えと、これは?」

 

 このポーションを呑むと潜在能力が覚醒する。

 潜在能力が養われるという説もあるが、結果は同じだ。

 要するに、訓練の効率が飛躍的に向上する薬。

 

 肉体能力に利くタイプと。

 技術に利くタイプの2種類がある。

 これは後者。肉体能力に効くタイプは一瞬で効くようなものではないし。

 

 前者の場合は単に全般的な肉体増強効果。

 後者は脳の覚醒作用がある。

 ヤバいお薬だという説もあるが……。

 エルグランドの薬の大半は劇薬なので問題ない。

 

「そんなすごいポーションが!?」

 

 そう言うわけなので、これを全部飲め。

 あなたはポーションを渡しつつサシャに命じた。

 

「えっ、これを全部」

 

 1本あたりの容量は100ミリリットル程度だろうか。

 それが20本ほどあるので、2リットルと言うことになる。

 大丈夫大丈夫、胃の容量的には楽勝だから。

 

「え、いえ、でも、そんなにたくさん……」

 

 あなたはニッコリと笑って、サシャに安心させるように告げた。

 吐いても1度飲んだポーションの効果は消えない。

 キツくなったら無理せず吐け。そして続きを飲め。

 

「ええ……」

 

 吐きながらポーションを飲みまくる。

 これは修行における嗜みと言っても過言ではない。

 

 上位冒険者に達すれば、最早ポーションは呑まない。

 冒険者を介して大地に還っているとか、そうなる。

 なあに、吐いても薬効は取り込んでいる。

 ならば問題はない。むしろ胃が空いてお得。

 そのため、わがままを言うとおしおきをするとあなたはサシャに厳しく言った。

 

「うぅ……お、おしおきってなにをされるんですか……?」

 

 あなたはちょっと考えた。

 ベッドの上のおしおきは最高に楽しい。

 

 しかし、近頃のサシャにそれが罰になるかは微妙だ。

 おしおきと称してのプレイならいいのだが、今回はダメだ。

 本当にきついおしおきである必要がある。

 

 あなたのペットに対する本気のおしおきはいろいろある。

 だが、食事抜きだけは絶対にしないと決めている。

 ペットにはキチンと食べさせなくては飼い主の品格が問われる。

 しかし、食事の量と栄養さえ確保していれば問題はないハズ。

 つまり、内容に関しては自由でいい、と言う柔軟性もある。

 

 なので、サシャの強化のため、今後1か月ほど食事は全部ハーブにすると告げた。

 いままでは訓練の時にしか食べていなかったのだ。

 それが3食おやつのすべてがハーブになる。

 すばらしい能率で強化されることだろう。

 精神面もすごい勢いで摩滅しそうだが。

 

「飲みます」

 

 サシャは顔を蒼くしながらポーションに口をつけた。

 よっぽど嫌だったらしい。

 あなたも泣いて許しを請うレベルなので疑問でもないが。

 

「ん、んぐ、んっ、んっ……」

 

 必死で飲むサシャ。

 しかし、10本ほど飲んだところで眼に見えて勢いが衰えた。

 それでもがんばって11本目に挑むサシャ。

 だが、入っていかずに口の端からポーションがこぼれる。

 

「う、うぐっ、うっ、うぶっ……うぶぶ……」

 

 あなたはジャンプしろとサシャに告げた。

 ジャンプして胃の中身を攪拌(かくはん)すると、なんとかなることもある。

 ぴょんぴょんとサシャが跳ぶと、先ほどよりはなんとか入っていく。

 17本ほど飲んだところでまた眼に見えて勢いが悪くなる。

 またぴょんぴょん跳び、追加で1本。

 

「おえっ……うっ、ううっ、ううううう……!」

 

 しかし、残る2本がどうしても入らない。

 あなたは無理せずに吐けとサシャに忠告した。

 

「で、でも、うぷっ……」

 

 その状態で腹を叩かれたら、最悪胃が破裂する。

 べつに破裂したところでさっさと治せばそれでおしまいだが。

 胃が破裂するとめちゃくちゃ苦しい。おすすめはしない。

 そのため、あなたはサシャの背後に回ると、そっとサシャを後ろから抱きかかえた。

 

「ご主人様……?」

 

 あなたはぎゅっと腕を締め、斜め下からサシャの胃袋を刺激するように腕を持ち上げた。

 

「うっ」

 

 サシャの乙女の尊厳が放出された。

 

 

 

「ひぃ、ひぃぃ……」

 

 2本のポーションを追加で飲み干し、サシャが泣きながらマロンちゃんに挑んでいく。

 短剣で挑んだ後は長剣で挑ませ、ついでに素手、それから投石主体でも戦わせた。

 潜在能力向上のポーションは種々の技能に効く。

 1度大量に飲んだら一通りの訓練をするのが効果的だ。

 一通り終わったらボロボロになったサシャに回復魔法を。

 よくがんばったね、とあなたはサシャに語り掛けた。

 

「はひ……」

 

 あなたは20本の潜在能力向上のポーションを取り出し、これを飲めと告げた。

 飲んだらまた一通り挑むのだ。あと3回くらいやっておきたいところである。

 

「ああ……!」

 

 サシャが泣きながら地面に突っ伏してしまった。どうしたのだろうか。

 

「……おい、今日は店じまいとする。挑むにしても明日にしろ」

 

 これは失礼をしたとあなたはマロンちゃんに謝罪した。

 考えてみれば、マロンちゃんも連戦続きだったのだ。

 1時間近くも戦いっぱなしだったのだ。

 苦戦するような相手ではないとはいえ疲労はあるだろう。

 

 マロンちゃんの戦闘はかなりの集中力と繊細な身体制御が求められる。

 疲労感は並大抵のものではあるまい。

 1時間の戦闘でも相当の消耗だろう。

 見る限りそんなに疲れてるようには見えないが。

 あくまで商売は余力で行っているのかもしれないし。

 

 では、今日はとりあえず帰ろうとあなたはサシャに告げた。

 

「はい…………」

 

 うつろな目でサシャが返事を返し、ふらふらと歩き出す。

 そっちは宿の方向ではないのだが。

 あなたは苦笑すると、サシャの手を引いて歩き出した。

 なんでか知らないがいっぱいいっぱいといった雰囲気なので、このまま宿で休もう。

 

 

 

 

 宿に戻るとレインが下の食堂でぼんやりとお茶を飲んでいた。

 

「あら、おかえり……どうしたの?」

 

 憔悴(しょうすい)しきったサシャに、レインが訝し気な顔をする。

 あなたは訓練をしたらこうなったと伝えた。

 

「な、なんでか分からないと仰いましたか……」

 

 サシャにすごい恨みがましい目で見られた。

 なんでだろう……なにが悪かったのだろうか。

 吐きつつも訓練をするのは冒険者の嗜みでは?

 

 あなただってそうだ。

 潜在能力のポーションを吐くほど飲みまくった。

 その他にも、なにかしらの能力が鍛えられるものは使いまくった。

 ハーブだって気合の限りムシャムシャ食べた。吐いてもだ。

 あなたにとって訓練の中で嘔吐するのは普通のことなのだ。

 

「ご主人様って……訓練の方法も頭おかしいんですね」

 

 サシャに直球で貶された。

 

「ええと……なにがあったの?」

 

「潜在能力が伸びるというポーションを20本無理やり飲まされて、それで吐いた後に戦闘訓練をさせられて散々嬲られました」

 

「……もうちょっと加減してあげなさいよ」

 

 ええー……。

 これが効率的なのに……。

 でも、仕方がないのだろうか。

 サシャの精神的消耗が激しいようだし。

 

 なので、間を取ってこうしよう。

 朝から昼にかけて20本を飲む。

 腹がこなれる午後に訓練をする。

 これなら負担は少ないはず。

 

 これならば吐くような事態にはならないだろう。

 効率は下がるが……やむを得まい。

 吐いた方が効率的なんだけどなぁ……。

 

「よ、よかった……ナチュラルに鬼畜な訓練をさせられて、私ご主人様のこと嫌いになりそうでした……」

 

 あなたは顔を蒼くしてサシャに謝った。

 そんなにきついとは思わなかったのだ。

 あなたにしてみれば日常だが。

 サシャにしてみれば非日常だったのか。

 エルグランドの常識はこちらにおける非常識と言うことを忘れていた。

 

「そ、そうですか……いえ、ほんとにもう、こう……ご主人様が遠い……」

 

「割と言動はそれなりにまともなせいで、時々常軌を逸した真似をすると困惑するのよね」

 

 しみじみとレインがそのように言う。

 あなたには常識的な言動のつもりなのだが。

 エルグランドで培った常識と。

 この大陸の常識はあまりにも違う。

 そう言うことだ。

 

「そう言えば、途中でフィリアに会わなかった? まだ帰ってないのよね」

 

 あなたは首を振った。

 フィリアは見かけていない。

 ただ、町中にいるのは間違いない。

 なぜわかるかと言えば、サシャにも施している生命力の接続をしているからだ。

 これを施すと、ペットがどのあたりにいるかが大雑把にだが分かるのだ。

 

「……初耳なんだけど?」

 

「前に私がどこにいても分かると言っていたのはそう言う……」

 

 こちらにだってそう言う類の魔法とか道具くらいはあるだろう。

 あなたはそのように適当に答えたが、レインは首を振った。

 

「たしかに遠く離れた仲間の状態が分かる魔法はあるわよ。でも、あなたのそれ、サシャが把握してない感じからして永続でしょ?」

 

 あなたは頷いた。

 基本的には解除しない限りは永遠にそのままである。

 

「そんなに高度じゃない奇跡……要するに神官の魔法ね。その中にある『状態確認』の魔法を使えばほとんど同じことはできるけど、効果時間がそんなに長くないのよ。フィリアでも半日くらいが限界じゃないかしら」

 

 それは不便だ。

 まぁ、別行動をする必要がある際に都度かければいいだけではあるのだろうが。

 

「それ、お互いに対してやっておいたら便利じゃない?」

 

 言われてみればたしかに……。

 エルグランドでは常にペットを追随させていた。

 なので、場所の把握はほぼ無意味だったのだが。

 

 こちらではペットと言うわけではないレインも仲間にいる。

 そのレインがどこにいるかを把握するのには便利だ。

 では、やってみるとしようか。

 あなたは生命力の接続をするための道具を取り出した。

 

「それがその道具なの?」

 

 それは聴診器と言われる道具だ。

 本来は心臓の音を聞くための道具。

 心臓の音を聞くとは生命の鼓動を感じるということ。

 それで相手の生命力を把握することができるわけだ。

 

「へぇ、聴診器。そう言う形のもあるのね。こう、小さいラッパみたいなやつじゃないのね」

 

 それはだいぶ古いタイプの聴診器だ。

 まぁ、あなたが持っている聴診器もべつに新しくはない。

 むしろエムド・イルの時代で主流だったものなので、古代の聴診器になる。

 あくまで型がエムド・イルのもので、これ自体は割と新しいものだが。

 

「それをどうするの?」

 

 あなたは聴診器のイヤーピースを耳に差し込む。

 そして、サシャに胸元をはだけるように言った。

 

「ええっ!?」

 

 ちょっとだけ、さきっちょだけだから。

 そのように言うと、サシャは少しだけ胸をはだけた。

 恥ずかしそうにしながら、周囲を気にしてはだける姿には格別の滋養(じよう)がある。

 あなたはその光景を堪能しつつ、サシャの胸にチェストピースと言う部分を当てて心音を聞く。

 

 ドキドキしているのだろう。

 サシャの心臓の鼓動は速い。

 その鼓動を感じていると、魔法の道具特有の感覚を感じる。

 目の前のサシャとの繋がりを切るかどうかと言う感覚だ。

 もちろん切らない。切ったらつなぎ直す必要がある

 

 あなたはサシャからチェストピースを外す。

 そして、レインに向かって、このようにやる、と伝えた。

 

「んん……聴診器って言うからには……そう言う風に使うのが正しい……のよね……」

 

 スケベ目的でやったのか。

 道具本来の使い方なのか。

 レインの眼には分からない。

 だからか、悩んだような様子だ。

 

 スケベ目的があるのは事実だ。

 だが、これが本来の正しい使い方だ。

 素肌につけなくてはならない。

 まぁ、服越しでもイケるかもだが……。

 

「あ、あとで部屋でやりましょう。ええ、寝る前とかに……お風呂に入ったあとでね」

 

 あなたは頷いた。

文字数はどの程度が好ましいですか?

  • 2000文字前後
  • 3000文字前後
  • 4000文字前後
  • 5000文字前後
  • 6000文字前後
  • 7000文字前後
  • 8000文字前後
  • 9000文字前後
  • 1万字前後
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。