あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 魔法の聴診器について説明をした。

 使いどころは限られるが、便利な道具だ。

 そのためか、あなたはほかにもないのかと尋ねられていた。

 あなたは魔法のロープと、魔法の紐を取り出してそれを見せた。

 

「普通の縄と紐に見えるけど……」

 

「そんなに長くないですけど、なにに使えるんですか?」

 

 魔法のロープはいつでもどこでも首を吊ることが可能だ。

 エルグランドにおいてはそれなりに用途がある。

 魔法で拡張された空間などに置いてあることが多い。

 

 魔法で拡張された空間は術者の準備が必要なことがある。

 入口と出口を自分で用意する必要があったりするのだ。

 そうした空間で出口の用意を忘れて中に入ると出られなくなる。

 死ねば助かるのに……と言う絶望の対処のために、手軽に死ねる魔法のロープがあるわけだ。

 

 ふつうに出口を用意してやれよとは思うのだが。

 家の構造こだわりたい……と言う者もいるわけだ。

 そうしたわがままに雑に対処するのが魔法の縄と言うわけである。

 出口の用意を忘れたまぬけを煽るためという説もある。

 

「いつでもどこでも自殺できるとかなんの意味があるのよそれは」

 

「う、うーん……斬新過ぎる道具ですね……」

 

 しかし、こちらでは死んだら終わり。

 このロープの使い道はほぼ無いだろう。

 

 一方の魔法の紐は用途がまったく異なる。

 これはお互いの位置を固定するための道具だ。

 本来は奴隷の逃亡防止の道具なのだが。

 ペットの犬とか少女とはぐれないために使ったりもする。

 

 これを結んだ対象を連れ戻してくれる効果があるのだ。

 ペットと離れられないのは割と不便なこともある。

 なのであなたはあまり使わないのだが。

 

「うーん、なるほど……はぐれたら命取りって言う場面では使い道もありそうね」

 

「これって、どういう風に引き合うんですか?」

 

 使われた側が一方的に引き寄せられる形となる。

 また、複数に対して使うことも可能である。

 

「じゃあ、あなたが私たち全員に使っておいた方がいいんじゃない?」

 

 この道具、わりと効果範囲が狭いのだ。

 なのでかなりの不便があるとあなたは応えた。

 それこそ、ほんの数メートルほどから作用し始める。

 

 たとえばこの宿では全員仲良く入浴することになるし。

 トイレも漏れなく連れション。別行動も無理になる。

 野営をする際にも、ちょっと森の中で小用を……と言う場面でも全員で行く必要がある。

 

「ううん……それはたしかに不便ね……必要な時だけにするべきだわ」

 

 そうだろう。娼館にもこっそりいけなくなるし。

 あなたが頷いたところで、宿にだれかが入って来た。

 そちらにあなたが目を向けると、フィリアがちょうど宿に入ってくるところだった。

 

「ただいま戻りました。それと、お客さんですよ」

 

 そう言うフィリアが連れて来たのは。

 先日あなたがナンパした少女、カイラだった。

 

 

 

 空気と言うか、あなたの気が重い。

 5人で卓を囲み、カイラが訪れた理由を話しているが。

 あなたの気は鉛でも詰め込まれたのかと言うほどに重い。

 お姫様にしてあげなければ自殺する少女、カイラ。

 

 ふつうに意味が分からない。

 だがそうなのだから仕方ない。

 

 とは言え、2人切りの時にお姫様にしてあげなければ……。

 とのことなので、無理難題と言うほどではないのだ。

 だが、そうしたクソやべーヤンデレ少女に対して気が重くなるのは仕方ないだろう。

 まぁ、気が重くなるだけであって、忌避するとかそう言うことはないのだが。

 

「えーと、ご主人様?」

 

 疑問気にサシャが声をかけてきたので、あなたは気を取り直す。

 そして、カイラが訪れた理由についてちゃんと聞くことにした。

 

 訪れた理由に関してはなんのことはない。

 以前にセリナに頼んだこと、サシャの剣が理由だ。

 この町で最も優れた職人カイルの師匠であるカイラに渡りをつけてもらった。

 

 しかし、漏れ聞いた情報からすると。

 この町で冒険者をしていたカイル氏のことはよく知らないが。

 腕利き職人の師匠となると、それなりの年齢のはずだ。

 見た目よりも年嵩だろうとは思っていたのだが。

 大成した弟子がいるとなると本格的に年齢が分からなくなってきた。

 仮にカイル氏の年齢が20だとした場合。

 カイラの年齢は少なくとも30歳くらいにはなりそうなのだが……。

 

 円熟期に達した職人となると30やそこらはザラなはず。

 そうなると、カイラの年齢はさらに……。

 

「それで、剣の制作を依頼したいとのことですけど~、どなたが使う剣なんでしょうか~?」

 

 問われたのであなたはサシャだと答えた。

 

「ん~、なるほど~……将来的な部分を見越して大きめに作るか、今現在の最適な剣にしますか~?」

 

 あなたは少し考えこんだ。

 

 剣は体格に合わせてサイズを決めるものだ。

 基本的には自身の腕程度の長さ、あるいはそれより少し長め。

 身長ごとに厳格に決めるという場合もある。

 中には大きい剣を無理やり使う者もいるし。

 体格に適合しない剣を使う技術もあるのだが。

 

 サシャはまだ年若い。今後の成長が見込める。

 その成長の終着点を見越して、少し大きめに剣を作るか。

 現在の体格に最も適合したサイズの剣にするか。

 

 あなたは考え込んだ後、今現在の体格に合わせて欲しいと答えた。

 新しいの剣の製作依頼は請けてもらえるのかとも尋ねたが。

 

「ええ、もちろん構いませんよ~。その時々に依頼料はもらいますけれども~」

 

 などと答えるカイラは普段通り……。

 いや、普段と言うものをよく知るわけではないが。

 見る限りは平常、不穏な様子ない感じだ。

 2人切りにならない限りは、あなたのお姫様になるつもりはないのだろうか?

 

「さて、剣の制作については承りましたけど~……どれくらいのレベルのものを御所望ですか?」

 

 壊れない剣。

 特別な機能はいらない。

 とにかく頑丈な剣。

 見た目の良さも求めない。

 切れ味もほどほどでいい。

 さすがに皆無では困るが、なまくらと言われる程度でもいい。

 現状ではそれ以上のものは要らないだろう。

 

 将来的にはいろいろと求めるものもあるかもしれないが……今はそれでいい。

 今は純粋に剣技と、それに伴う技術を学ぶ段階なので、壊れない剣でいいのだ。

 

「なるほど~……とは言え、絶対不滅のものは存在しませんので~、あくまですごく頑丈な剣になりますけど~」

 

 あなたはそれでいいと頷いた。

 元からそこまでのレベルは求めていない。

 そこまで行くと魔法の付与も必須になってくる。

 

「わかりました~。素材の指定とかはありますか~?」

 

 特にない。

 金で解決するなら金で。

 無理なら調達してくる。

 

「ん~。そうしますと~、ほとんどお任せですよね~。正直それだと困ってしまうのですが~」

 

 と言うと?

 

「つまり、壊れないという条件がありますでしょ~? ですけど~、それも常識の範囲内で使って壊れないなのか~、無茶なことをしても壊れないなのか、色々ですよね~」

 

 なるほど。

 壊れないと言う要求に対し、どこまで妥協できるかだ。

 剣は適切に使う限り、10年や20年も使い続けることが可能だ。

 職人がちゃんと鍛造したものならば、その程度の耐久性はある。

 

 もちろん毎日バッサバッサと斬りまくっていたら別だ。

 10年20年と経つ前に使い物にならなくなるだろう。

 そして、たとえばテコの代わりに使うとか。

 鈍器代わりに鎧越しに人をガンガン叩くとか。

 そう言う乱暴な使い方をすれば、もっと早くダメになる。

 

 そう言う使い方をしても平気なものが欲しいのか。

 常識の範疇内で頑丈な剣が欲しいのか。

 『ナイン』の爆心地に叩き込んでも平気な不滅の剣が欲しいのか。

 

 カイラが訪ねているのはそう言うことだ。

 

 もちろん可能なら『ナイン』もヘッチャラなのがいい。

 しかし、そんなものを要求すれば大変なことだ。

 それに見合うだけのすさまじいものを要求されるだろう。。

 

 あなたの妥協できる範囲。

 そこまで手間ではなく、可能な限り金で済む剣。

 これはちょっとやそっと話し合うだけでは済まない内容の気がする。

 

「ですよね~。では、その辺りの条件は後々詰めましょうか~」

 

 長い話になりそうなので否はない。

 とりあえず今決められるところを決めておきたい。

 

「納期はどれくらいが希望ですか~?」

 

 逆にどの程度が必須なのかをまず聞きたい。

 その辺りの条件が分からない分には要求のしようがない。

 あなたがそのように述べると、カイラは頷いて答えた。

 

「素材次第ですけど~、単純な鉱石系素材で作るものなら1週間程度ですね~。特殊な加工が必要な素材であれば最長で4か月かかります~」

 

 4か月はさすがに長過ぎる。

 そうすると、長大な加工期間が必要な素材も無しになる。

 可能なら1か月以内に出来上がるものがいい。

 

「それでしたら特殊加工が必要ない素材だけになりますね~。生物系素材もやめておきましょう~。単純な鉱石系素材で作る、普通の剣にしましょうか~」

 

 面白味のない結果だ。

 まぁ、それでいいのだが。

 自分なら面白全部で使う武器を選んでもいい。

 そう死ぬことはないし、死んでも蘇る。

 だが、かわいいペットの使う武器ならおふざけはなしだ。

 

「詳しくは後々詰めるとしまして~、使う人間に合わせる必要がありますので、採寸をお願いしますね~」

 

「採寸ですか」

 

「はい~。手足の長さはもちろん、身長とか裄丈(ゆきたけ)とか、色々ですよ~」

 

「色々測るんですね」

 

「見る限り、そこまで繊細な剣は使いませんから、それで十分ですよ~。本当に繊細な剣を使う人は、椎間板の形状まで測定しますからね~」

 

「つ、ついかんばん?」

 

 椎間板とは背骨の椎体の間にある構造物のことである。

 なんのためにあるかは知らないが。

 椎体とは背骨と言われて、分かりやすい円柱状の形状をしている方だ。

 まぁ、人体を解体したことのあるものでもないと分かりにくいと思うが。

 

「背骨のうねりまで意図的に使う人なんかはそこまで測定しますね~」

 

 そんな剣技があるとは知らなかった。

 あなたはやはりまだ自分の知らないことは数多いなと頷いた。

 知らないことを知るというのは楽しいものだ。

 

「では、服の上から測定させてもらいますね~」

 

「あ、はい」

 

 その後、カイラはサシャの各所を測定した。

 あなたなら部屋に連れ込んでスケベな真似をしていたのは間違いない展開だ。

 いや、ここはサシャのことは自分がよく分かっているかと言って部屋に連れ込んで採寸すべきだったか?

 

 やはりお胸の発育度合いなどは大事だ。

 主人としてナノメートル単位で把握しなくては。

 その把握のために人間の持つ皮膚感覚の鋭敏な手。

 あるいは唇、舌などで丹念に測定する必要があるだろう。

 こう、なんと言うか、そう、味とかも見ておく必要がある。

 いや、カイラがやった後とは言え、やらねばなるまい。

 今日のサシャに相応しいプレイは決まった!

 

「だいたいこんなものでしょう~。さて、あとは話合いが必要なことになりますので~、一晩この方をお借りしてもいいですか~?」

 

「えっ」

 

 サシャがビックリしたような表情をする。

 今朝方にお互いに高めてしまった性感はくすぶったままだ。

 この調子で行ってしまうとサシャはお預けとなる。

 

 あなたはサシャの頭を撫でた。

 そして、一晩いい子でお留守番できるね、と確かめるように言った。

 これはサシャの剣のために必要なことだから。

 しかたがないことはのだ。あなたは心を鬼にした。

 そう、サシャのため。あくまでも、サシャのためである。

 

 サシャにお預けプレイさせておきながら。

 自分はカイラと愉しむつもりとかそんなことはない。

 サシャを1晩寝かせて熟成させたら最高に美味しかろう……。

 そんな邪な目論みは一切ない。

 

 あくまで、そう、サシャのためである。

 あなたも今晩はサシャと愉しむつもりでいた。

 それを断腸の思いで断ち切り、カイラとの話し合いに費やすのだ。

 あくまでもサシャのためだ。だからこれは仕方がないことなのだ。

 

 エルグランドの知己なら「はいはいサシャのためサシャのため」などと雑に流されそうな言い訳を内心で展開しつつ、あなたはサシャに諭すように言った。

 サシャのための剣を作るのに必要なことだ。

 それに、武器がないのだから、できる限り早い方がいい。

 そのため、明日たくさん遊ぼうね、とサシャの頬を撫でつつ言った。

 

「……はぃ……わかりました……」

 

 しょんぼりと耳の垂れ下がるさまは反則的に可愛い。

 なんだろう、この耳と言うやつは。

 反則ではなかろうか? 気が狂いそう。

 こんなにかわいいお耳をぶら下げていたら、あなたのような金髪の女たらしに食われても文句は言えない。

 

「明日、そう、明日、たくさん遊びましょうね、ご主人様」

 

 などと健気に笑うサシャ。

 やっぱり今夜もサシャと遊びたい。

 だが、実際に剣が必要なのも確か……。

 

 この大陸に来てからと言うもの、あなたはサシャに首ったけである。

 あなたは後ろ髪をひかれる思いを感じつつも、カイラとの話し合いのために席を立つのであった。

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