丘巨人の酋長のほか、幾人かいた指導者層のシャーマンたち。
彼らは、あなたたちに新鮮な知見をもたらしてくれた。
森の中を快適に移動する魔法。
植物たちから話を聞ける魔法。
どれもこれも、じつに興味深い。
その辺りの魔法はレインは知っていたようだが。
シャーマン特有の魔法は興味深く感じられたようだ。
あなたにしても、シャーマンの魔法はじつに興味深い。
美味しい果物を創り出す魔法とか。
石ころをパンにする魔法とか。
興味深いものばっかりだった。
錬金術を使えば石ころをパンにすることはできる。
だが、魔法の方がお手軽だし、すぐにできて楽だ。
無から果物を創り出す魔法も興味深い。
美味しいし、軽い怪我を治すほどの滋養があるのも面白い。
いろんな魔法について詳しく聞き。
それを身に着けるのは本当に楽しかった。
丘巨人の
魔法の難易度と言う意味ではさほどではなかった。
ならば、使い方さえ分かれば使える。
魔法とは動作、詠唱、物質の3要素によって構成される。
ただし、それは使用するにあたっての話だ。
なので、もっと根底を見れば式が存在する。
魔力が伝達する秘術の回路こそがその術式であり。
魔法の構築とはパズルを解くのに似る。
その、秘術の回路さえ分かれば、あとは技量と魔力の問題である。
自分で作ればどうとでもなるが。
あなたには石をパンにするなんて言う発想自体がなかった。
仮にあったところで、どうすればできるのか分からない。
石をパンにする魔法を元にすれば。
パンを石にする魔法を作るのは簡単だろう。
逆呪文にすればいいだけだ。だれでもできる。
同様に、石ではなく木や鉄をパンにすることも可能だ。
対象指定を行う回路の変更さえできればよい。
木を限定対象とする魔法の回路をつぶさに観察し。
対象指定部分の回路を見いだせればなんとかなるだろう。
しかしたとえば、鉄に変えるにはどうすればいいのか分からない。
それは実戦的な魔法の使い方を旨とする冒険者の領分ではない。
魔法を研究し、構築する魔法科学者の領分だ。
『物質変性』の魔法を細かく紐解けばできる。
そのくらいの予測はついているのだが。
言葉にすれば簡単でも、やるのは大変だ。
新しい魔法を作るのはきわめて困難な行為なのだ
それに、新しく魔法作るは儀式を行う必要がある。
術式をちょちょっと弄ればそれでおしまい! というわけにはいかない。
魔法とは神秘のエネルギーによって世界の理を歪める技術だ。
迂闊に新しい魔法を作ろうとすれば壮絶なしっぺ返しを食らうこともある。
自分の肉体が爆散するくらいならいいのだが。
それで変なモンスターが召喚されたりとか。
生ける呪文が創り出されるなどすると問題だ。
というかそれくらいならお可愛いものだ。
魔法科学者たちは生ける呪文を作って大惨事を日常的に引き起こしている。
湧きいずる魔力の力をこそ神の恩寵と捉えたローナの時代。
魔法文明の絶頂を極めた、エルグランド第3期文明。
その時代に終焉をもたらしたのは、無茶な魔法作成の儀式が重なった末に起きた魔法災害が原因だ。
時凍る果ての災厄、ヴエルコ。
そのヴエルコの大々的な発生によるドゥームズ・デイ。
それこそがローナ終焉の原因である。
さすがのあなたもそんなやべー事態を引き起こしたくはない。
そのためには迂闊なことはするべきではない。
まぁ、そのヴエルコを意図的に利用した氷結系最強魔法『永久氷棺』は気軽に使うが……。
魔法を教わり、伝承を聞くなどしているうちに、すっかり日が暮れた。
元から昼過ぎに訪れたので、日没が来るのも早かった。
かがり火の焚かれたテント前の広場では、あなたが贈ったドラゴンの頭が
丘巨人たちが総出で解体を行ったため、残っているのは頭部だけだ。
頭部はのちほど処理を施し、トロフィーとして飾られることになるようだ。
分類としてはハンティングトロフィーということになるが。
巨人族への友好を示したあなたのトロフィーと言うことになる。
解体された肉たちは丘巨人の女衆たちが調理し、特別なご馳走をこしらえている、らしい。
本来、ドラゴンは丘巨人たちが総出で狩猟するような強大な獲物だ。
だからこそ、それを成し遂げた時は宴となる。
だから、ドラゴンの肉はそのまま特別な宴料理となるようだ。
「中々勉強になったけど、さすがにすぐに覚えるってわけにはいかないわね」
レインはすこし苦戦しているようだった。
見たことのない魔法を覚えようというのだ。
それはしかたないことだろう。
あなたは高度な詠唱技術と強大かつ高純度な魔力。
そしてその運用技術でゴリ押ししてるだけだ。
「あ、そうそう、あなたが贈ったドラゴンの肉だけど、それで宴をするからぜひ参加して行って欲しいんですって」
異種族の料理と言うのも興味深い。
あなたは知的好奇心に誘われるまま参加することにした。
広場を見渡せば、楽し気にしている丘巨人たちが料理の準備をしている。
地面を掘り返したり、大量の薪を持って来たりと慌ただしい。
ご馳走を作っているとのことだが……。
いまのところ調理しているようには見えない。
宴は夜半に始まるのだろうか?
フィリアは丘巨人たちの調理に興味があるらしい。
踏み潰されないようにしつつ、料理の準備を眺めている。
なにしろ身長5メートルもある巨人たちだ。
2メートル未満の人間は視界にすら入らないことがある。
特に至近距離となると危険なことこの上ない。
そのため、ある程度距離を取りながら調理を見つめる様は、なにやら踊っているようにも見えた。
丘巨人の伝承をあれこれと聞けたサシャは紙束に書き留めている。
かがり火の明かりに照らされる横顔は真剣そのものだ。
あなたの与えた小遣いで買った紙はどれも上質紙。
使っているペンは予備を何本も用意しているようだ。
サシャは割と自分の使うものに対して金に糸目をつけないようだ。
まぁ、使える金が無尽蔵と言う理由もあるだろうが。
読書好きなことから分かっていたが。
サシャは伝承や英雄譚を聞くのが好きなようだ。
いずれ、自分の冒険の足跡を本にしたり。
各地で集めた伝承を編纂して本にしたり。
そんな作家としての活動をするのかも。
その時はぜひとも作者サイン1号を貰いたいところだ。
出版の根回しに必要な金は任せて欲しい。
「ふぅ……」
レインは魔法と頭を使ったせいか疲労しているようだ。
あなたの近くで座ったままのんびりして動かない。
あなたも巨人語を覚えるのに四苦八苦していた。
そのためか、頭の奥に重い疲労感を感じている。
見知らぬ言語を覚えるのはやはり大変だ。
ただ知識として記憶するだけでは足らない。
発音するための口と舌の動かし方も覚える必要がある。
また、言語によっては喉の使い方に特徴があったりもする。
身体操作の方法も覚える必要があるのだ。
本の知識を記憶するのとは違うのだ。
幸い、巨人語はそこまで特徴的な言語ではない。
同時に、むずかしい文法などもなかった。
こちらで用いられている共通語に近い文法だ。
単語と発音さえ覚えればそう難しいことはない。
「ああ、巨人語はね。この大陸の先史文明は巨人族文明なのよ。私たちの話す共通語は巨人語から作られたの。だから似てるのよ」
ということは、因果としては逆なのだ。
巨人語が共通語に似ているのではなく。
共通語が巨人語に似ていると言うことになる。
そう言った歴史的背景についても中々面白いものがある。
アルトスレアの歴史的背景も面白いものだった。
アルトスレアの言語はすべてエルフ語から始まっている。
エルフ語から共通語が作られている。
そのため、エルフ語特有の美しさを継承しているのだ。
そこまで考えたところで、あなたはある疑問に気付く。
なぜこの大陸で会話だけは通じるのだろう?
読み書きといっしょに考えると。
この大陸の言葉は発音も単語もエルグランドのそれとは異なる。
なにかしらの魔法の作用、あるいは神格の介入の可能性があるが……
仮に神格の介入だとすると、人知の及ぶ領域ではない。
あなたはいったん理解を諦めた。
「ふぅん。じゃあ、アルトスレア大陸って言うところは、エルフの文明が先史文明なのね」
その通りだ。
そして、人間がそれを破壊し尽くした。
数千年前の大分裂戦争によってエルフ文明は崩壊。
人間は当時のエルフのほとんどを殺し尽くした。
「ええ……」
当時エルフは2億人ほど居たと伝承に残っている。
だが、生き残ったのは数万人程度だったとされる。
その数万人にしても、俗世から離れた生活をしていたおかげだった。
そうした生活をしているエルフがいなければ。
それこそ本当に絶滅に追いやられていただろう。
それくらい徹底的にエルフは殺し尽くされた。
それだけエルフは恨みと憎しみを育てていたのだ。
「そんな壮絶な真似がされるほどって、いったいなにをしてたのよ……?」
自分たち以外の種族全てを奴隷種族としていた。
また、戯れに奴隷を殺すなどは当たり前だったらしい。
命を命とも思わぬような真似をしていたようだ。
殺人はエルグランドでは疑問にも思われない行為だが。
なにしろアルトスレアは死んだら蘇れない。
そんな大陸でそんな真似をしていたら、他種族から恨みと憎しみを買うのは当然だろう。
当時、赤子の性別当てゲームと言うものがあった。
人間の娘を強姦させて孕ませる。
半年ほどしたら腹を裂いて赤子を取り出す。
その赤子の性別を的中させるゲームだ。
当然腹を裂かれた妊婦は死ぬし。
取り出された赤ん坊も死ぬ。
命を無意味に浪費する遊びだ。
人間を用いるのは見た目で性別が分かりやすいからだ。
さすがにエルグランドでもやらない冒涜的行為だ。
エルグランドはあくまで命が紙切れよりも軽いに過ぎない。
死体を冒涜するような真似は悪行と見なされる。
喧嘩は悪いことだが、止めずに好きにやらせることもある。
そして、それはエルグランドでも同じこと。
だが、命が極めて軽いために、喧嘩の延長線上に命のやり取りがある。
そして、そこまで非常に気軽に到達するに過ぎない。
時折喧嘩するような相手を殺したとして。
その死体に小便をかけたりするような冒涜をするか。
それはノーである。そう言うことだ。
人間同士で殺し合いをさせたり。
赤ん坊を取り上げて親の目の前でペットのエサにしたり。
そうした行いによって憎悪と憎しみを育て続けた結果がエルフの虐殺だった。
「なるほど……」
今やエルフはそうした傲慢極まりない歴史を反省し、ほそぼそと暮らす少数民族として知られている。
ハイエルフ、つまり先史文明の傲慢なエルフたち。
その言葉が侮辱表現とされるくらいだ。
ハイエルフとされた者たちはエルフ社会で容赦なく村八分にされるのだとか。
まぁ、アルトスレアでは人間が恐れられているという背景もある。
人、ヒューマン。明白な優位がなく、数と多様性を強みとする種族と言われる種族だが、裏ではまた違う評価がある。
殺戮と破壊においてはデーモンですらもが
種族間戦争での凄惨極まりない記憶。
アルトスレアの民たちは人間を潜在的に恐れている。
一度タガが外れると、底すらないほどの悪意と憎悪をブチ撒け。
立ち塞がる者すべてを殲滅し尽くし、容赦のない殺戮をする。
その悪意と憎悪を正面から叩きつけられたエルフは特に人間を恐れている節がある。
エルフの老若男女を問わずに殺し尽くし。
運河がエルフの死体で埋まり。
川下は血で真紅に染まったと言う伝承もある。
古戦場跡地などを掘り返すとエルフの骨が山ほど出て来るらしい。
その殺しぶりは尋常なものではなかったようだ。
記憶や知識ではない、まるで遺伝子に刻み込まれたかのように。
エルフは本能的と言えるレベルで人を恐れているのだ。
人間が容赦のない破壊と殺戮を振り撒かないように。
ハイエルフを二度と生み出さない。また戦争が起きるから。
エルフたちの自粛は、そのような恐怖からだと言われる。
「いろいろと壮絶ね……」
そう言えばそのエルフだが。
こちらに来てからエルフはあまり見かけていない気がする。
アルトスレアでもあまり見かけることのない種族だったが。
こちらではなぜなのだろう?
「そもそも数の多い種族じゃないのよ。でも、隣国のトイネまで行けば一杯いるわよ。あそこは別名エルフ王国って言われるくらいだから」
そう言うものかとあなたは頷いた。
たしかに地域によって特定種族が多く住んでいるということはよくある。
その点はエルグランドでも変わらないので、特に疑問はなかった。
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