あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたはあれやこれやと魔法を教えた。

 そしてレインとフィリアに魔法を教わった。

 

「そこまで難しくない魔法とは言え、さらっと真似されるの、なんかむかつくわね」

 

「ちょ、ちょっと複雑ではありますね……」

 

 なぜか不評だった。

 

 レインには『持続光』の魔法を教わることが出来た。

 いろんなものにかけることが出来て、効果は永続。

 なんて素晴らしい魔法だろうか

 教わることが出来てうれしい。

 

 フィリアには『病気治療』の魔法を教わることが出来た。

 これはエルグランドにはなかった種類の魔法である。

 

「病気にかかったらどうするのよ?」

 

 回復ポーションがぶ飲みが基本だろうか。

 治るまで飲み続ければ治る。

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

 これからは病気にかかっても自分で治すことが出来る。

 かつては娼婦などから性病を貰って困ったものだ。

 耐性ができたのか、もうずっと罹っていないが。

 

 『病気治療』は、エルグランドに帰ったら改良もしたい。

 病の原因は、種類によるが細菌感染によるものだ。

 この魔法はそう言った病原菌を除去することが可能なはず。

 

 ならば、その対象を広げることが出来れば。

 病原菌以外の細菌も除去できれば……。

 相手の肉体のバランスを著しく崩すことが出来るのではないか。

 あなたはそう言った思惑の下に改良を目論んでいた。

 

 つまり、『病気治療』の魔法に殺傷力を持たせようとしていた。

 

 まこと殺意極まる魔法だらけのエルグランド。

 そのエルグランドの生え抜きの民であるあなたらしいと言えよう。

 やっぱりエルグランドの民は頭がおかしい。

 

 

 

 魔法談義をした後、あなたたちは宿に戻った。

 残念ながら、サシャは『魔法の矢』の発動には至らなかった。

 ちょっと落ち込んでいたものの、レインが苦笑しながら慰めていた。

 

「しょうがないわ。一朝一夕で使えるものじゃないのよ。私だって最初に魔法が使えるまで2年かかったんだもの」

 

 それでもかなり早い部類に入るらしい。

 ふつうは魔法使いに弟子入りし、雑用などの下働きをさせられながら学ぶ。

 言ってみれば丁稚奉公だ。

 身に着けるまでに5年や10年かかるのがザラ。

 

 レインの場合は、教わった環境の差だとか。

 レインは貴族の少女であり、丁稚奉公などする立場ではない。

 つまり、教えを乞うて弟子入りしたわけではない。

 魔法使いを招き、金を払って教えを授けられたのだ。

 学びだけに専念できれば速いのは当たり前だろう。

 

「ご主人様は使えるまでどれくらいかかりましたか?」

 

 問われ、あなたは考える。

 そして、物心ついた時には既に使えていたので分からない、と答えた。

 少なくとも『ポケット』は気付いたら既に使えていた。

 

 また、初歩的な魔法である『魔法の矢』も気付いたら既に使えていた。

 当時は3回くらい放つのが精一杯だった。

 調子に乗って使い過ぎて爆散したりもしていた。

 

「気付いたら使えた……」

 

「エルグランドの魔法の習得の速さが異次元なだけだと思うわよ。いえ、使うだけならホントに簡単なのよ、あれ」

 

 言いながらレインが呪文回路を構築し始めた。

 複雑な回路だが、見る限りは力場の魔法の類のようである。

 構成はシンプルで、力場を構築し、それを放つと言うもの。

 

「これが私たちの使う『魔法の矢』ね」

 

 レインが目配せしてきた。

 意図を察したあなたが『魔法の矢』の回路を構築。

 基本構成要素はほとんど一緒だ。

 だが、一見しただけでは別物にしか見えない。

 それくらい構成に差がある。

 

「前に教わった時も思ったけど、シンプルよね……シンプル過ぎて頭痛を覚えるレベルだわ。使う人のことを欠片も考慮してない……」

 

 魔力を注ぎ込む焦点。

 それを力場へと変換する工程。

 弾丸への成型と、発射。

 

 上で述べた点はレインも同じだが。

 焦点部分に力を込め過ぎないようにする安全弁のようなものがある。

 また、力場への変換にも制限がかかっている。

 弾丸成型部分や、発射部分にも種々の制限がある。

 分割し細分化することで、術者に過度の負担が行かない仕組みになっているのだ。

 これなら無茶に使っても定格通りの効果を発揮してくれることだろう。

 

 あなたの場合は無茶するとそのまま出力が跳ね上がる。

 そして、危険度も同じくらい……いや、それ以上に跳ね上がる。

 術者の匙加減で万事を解決する構成の魔法。

 術者に全てを丸投げする仕組みになっている。

 

「見える? 一応同じものなのよ、これ。でも、私の方が複雑で難しそうでしょ」

 

「は、はい。こんなの絶対にできないです……」

 

「できるようになるまで頑張るのよ」

 

 ストロングスタイルの回答だった。

 こっちの大陸でもやはり努力のゴリ押しは有効のようだ。

 

「それにしても、いずれは使えるようになりそうね。これが見える時点で結構修行の進んでる魔法使いの弟子なのよ」

 

「そうなんですか?」

 

「私は確か半年くらいかかったもの、この回路が見えるようになるまで」

 

 魔法的視覚を得るには特段遅いということはない程度の速さだろう。

 エルグランド以外を旅して得た知見から推察するにだが。

 

「そうなったらパーティー全員魔法が使えるパーティーになるのね……」

 

「そう言われてみると、すっごい豪華なパーティーですよね……1人魔法使いがいるだけでも恵まれてるのに」

 

 たしかに、この大陸の魔法は習得がむずかしい。

 その分だけ魔法使いの数は少なさそうだ。

 そして魔法使いが冒険者になる率は、もっと低いに違いない。

 魔法は金になる。町中で生涯を終える魔法使いもいるだろう。

 と言うより、そちらが普通なのだと思われる。

 

「魔法が使えるってだけで色んなパーティーに勧誘されるものね」

 

「田舎の村に立ち寄ると、教会の司祭様になって欲しいなんて言われることもありますね……勝手に司祭名乗ったら大問題なんですけども……」

 

 強力な治癒魔法が使える人間が近くにいれば、安心感があるだろう。

 エルグランドでも癒し手と言う治癒魔法に長けた職業があった。

 その数で都市の安心度が決まると言われていたくらいだ。

 

「ちなみに魔法が使えるようになったら、それだけで将来のご飯の心配はいらなくなるわよ」

 

「魔法使いは儲かるって言うのは聞いたことがありますけど、そんなにですか?」

 

「ええ。基本の魔法……まぁ、この場合は第一階梯ね。その辺りの魔法のアイテムなら、安くても金貨で2~3枚くらいの価値があるわ。作るのは半額くらい」

 

「そんなにですか!?」

 

「そうよ。原価が金貨1枚程度のアイテムを、金貨2枚や3枚で売れるの。使える魔法がもっと上なら、もっと儲かるわよ」

 

「ど、どれくらいですか?」

 

「私は3階梯まで使えるわ。ここまで使えるようになると、金貨数百枚で取引されるものも作れるようになるわ。作るのにも莫大なお金がかかるから、たくさん作って大儲けとはいかないけどね。時間もかかるし」

 

「す、数百枚……すごい……」

 

 たしかに、この辺りの市井の人々の暮らしを見るに、目もくらむような大金だ。

 その分だけ身に着けるのにお金と時間が必要なのを思うと納得と言えるかもしれない。

 

「でも、魔法のアイテムの作成って結構な専門技能だから、学ぶのも大変よ? もし稼ぐなら、ワンド作りが主になるんじゃない?」

 

「えと、それは簡単なんですか?」

 

「まぁ、魔法が使えればだれでもできるわよ。スクロールもね。初期投資に必要な額からすると、スクロール作りから始めることになるんじゃないかしら」

 

 貴族の令嬢だった割には、その辺りの金稼ぎに妙に詳しい。

 それができると分かっていれば容易く分かることだが。

 すらすら出て来るあたり、金策を試みたことがあったのだろうか。

 

「魔法の研究ってお金かかるのよ」

 

 レインが死んだ魚のような眼で答えた。

 そんなにお金に困っているのだろうか。

 なら、魔法1つ教えてくれるごとに報酬を払おうか。

 1回教えてもらえれば何回でも使えるのだ。

 多額の報酬を払ってもまったく惜しくない。

 

 エルグランドの金なんかドブに捨てても構わない。

 あなたはそのくらいにしか思っていないのもある。

 

「本当!? あ、でも、エルグランドの魔法を1つ教えてもらえるって言うのも凄い破格の条件なのよね……ううん……」

 

 まぁ、あなたが教えられる魔法はいずれ打ち止めになるだろう。

 そうなった時、レインに教えられる魔法がまだまだあれば。

 その時は金銭の報酬に切り替えればいいのではないだろうか。

 

「たしかにそれもそうね」

 

 1晩好きにさせてくれたら金貨100枚払ってもいい。

 そう言う提案もしたかったが……。

 さすがにサシャの前でそれはまずい。

 怒りを収めてくれた直後によその女に粉をかけたら、また怒られかねない。

 

 

 なにくれとなく魔法談義をし。

 ときどきサシャが初心者の視点から疑問を呈する。

 知性を高め合う、実に有意義な時間だった。

 

 そうしているうちに日も暮れた。

 食卓を囲み、入浴したら就寝の時間となる。

 

 今日はなんだか随分と穏やかに終わったなぁ。

 あなたはあくびをしながらそんなことを思った。

 

「さ、ご主人様、寝ましょう」

 

 いそいそとサシャがあなたのベッドに潜り込んで来る。

 もう引っ張り込むこともなく自分から入ってくるとは。

 サシャは本当に可愛いなぁと、あなたはサシャを抱きすくめた。

 

「えへへ……」

 

 サシャは嬉しそうにあなたの腕に納まり、身を摺り寄せて来る。

 サシャの少女らしい高い体温と、甘くて蕩けるような少女の香り。

 こんな最高の抱き枕を腕にしていれば、安眠は約束されたようなものだ。

 

 レインは呆れたような眼で、フィリアは羨ましそうな眼で見ていた。

 フィリアとも熱い夜を過ごしたい気持ちはあるのだが。

 どうにもこうにもサシャが可愛すぎる。

 

 こういった時は我が身が1つしかないことを呪うしかない。

 仮に身が2つ3つとあったところで、やることは女をコマすことだけだが。

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