翌朝、あなたは訓練のために広場に来ていた。
レインとフィリアは引き続き魔法談義。
と言うよりは実践的な魔法の使い方をフィリアから習っている。
サシャは魔法を使えるようになろうと頑張っている。
あなたはセリナから学んだ内功の訓練に励むことにした。
要約すると『深呼吸しろ、吸い込んでみろ』らしい。
説明はそれで終わる技術だが、これがどうして奥が深い……らしい。
具体的に何がどう奥が深いのかはあなたでは分からない。
とにかく実践してみるしかない。
あなたは時の針を最大限まで加速させる。
周囲の音が静かになる。
加速したあなたにとって、世界は無音に等しい。
今のあなたは常人の数百倍もの超スピードで活動している。
それはそのまま、数百倍の速度で生きているということであり。
言い方を変えれば、数百倍の速度で訓練ができるということ。
あなたはセリナに習った通りに『内功』の訓練を始めた。
体感で半日ほど修行をしたところ。
あなたは伸び悩みを感じ始めた。
同時に、重たい疲労感を体の中に感じていた。
スタミナお化けのあなたが疲労するとはただ事ではない。
とりあえず、あなたはサシャにもガブ飲みさせた潜在能力のポーションをガブ飲みした。
それから『ブルーカプセル』と言う疲労回復薬をポリポリと食べた。
『内功』の訓練は、とても、すごく、地味だ。
派手なことをせず、ただ呼吸をするだけ。
自分の体内に意識を向けて、筋肉の1本1本にまで意識を巡らす。
そうしてみると、なるほどこれは奥が深い。
今まで無意識に動かしていた体を、意識して動かす。
これはそう言う、総合的な身体制御技術だ。
たとえば、剣を振る時、腕を真っすぐ伸ばし、真っすぐ振り下ろす。
これはまさに感覚的な、無意識的な動きそのものである。
その真っすぐ伸ばして真っすぐ下ろす。
この動きを意識的に行う。
剣を握る指はどう動くのか。
どの指が剣の動きを制御しているのか。
その指を動かす筋肉、筋はどこに繋がり、どこと連動しているのか。
振り上げた時、どの筋肉がもっとも活動し。
どの筋肉がもっとも活動していないのか。
やればやるほどに果てがない。
めまいがするほどに奥深い。
まさに武とは深淵である。
奥深過ぎてやる気が失せて来た。
渾身の力を込めて普通に振り下ろすのじゃダメ?
思わず浮かび上がって来た弱気を捻じ伏せる。
セリナにえっちな個人授業をしてもらうのだ。
あなたはセリナの艶姿を思い浮かべて意識を奮い立たせる。
あなたはエロいことするべく全身全霊で訓練に励んだ。
体感時間で数日。現実時間で言うと数十分ほど。
さすがに疲れたあなたは『時逆の針』を稼働させて体感時間を平常に戻した。
そして、その場に座り込むと、大きく溜息を吐いた。
これは長丁場になりそうだ。
そんな今後の苦労を知るがゆえの溜息である。
技術を積み上げるスピードを才能と言うのであれば、あなたは凡人だ。
あなたの素質は天下一品と言えるほどのそれではある。
だが、そんなのはスタートラインが他の人よりもちょっと前にあるだけ。
今となっては妖精とハイランダーの混血と言う利点は美貌くらいなものだ。
あなたは数えるのも億劫なほどの年月を費やして技術を積み上げて来た。
絵物語でよくあるような、劇的な成長もなかった。
強敵との激戦の中でついに奥義に開眼……。
そんな感じのやつだ。一切なかった。
凡人らしく地道に積み重ねるしかなかった。
そして、『内功』に関してもそうなりそうである。
技術とはわりと流用が効くものだが。
『内功』は流用が効きそうにない。
長剣の扱いにこなれていれば、多少なりと短剣も使える。
同じように弓の扱いに慣れていれば、クロスボウもそれなりに使える。
放つ仕組みは別物でも、狙うのは人間だ。
そうした狙う機微と言うのは、クロスボウでも弓でも大きく違いはない。
そんな風に技術の流用を利くことがある。
それによって武器類の習得はそれなりに早く済むことがある。
しかし、『内功』はあなたが積んで来たどんな技術とも類似点が見当たらない。
技術の流用が効かないなら、1から積み上げるしかない。
自分を強くするための努力は喜んでするが。
その地道な修行が楽しいかと言えば微妙。
成果を感じられれば楽しくなりもするが……。
あなたは再度溜息を吐く。
疲れを解きほぐす方法に意識を向ける。
前途多難さばかりに意識をやると、気が滅入りそうだ。
「ご主人様、どうしてそんなに憔悴してるんですか……?」
心配してくれるのか、声をかけて来たサシャ。
あなたはなんでもないと疲れた声で答えた。
数十分前まで、あなたは気力充実と言った調子だった。
それがほんの少しの間に疲れ果てているのだ。疑問にも思うだろう。
あなたは気晴らしを兼ねて、サシャに魔法の指導を行うことにした。
サシャを通した回路構築と、回路構築の実演。
その感覚を肉体と眼で覚え、なんとなくでいいから再現する。
やはり回路構築の感覚に慣れていないせいで、だいぶおぼつかない。
「う、うぅ、む、むずかしいです……はぅう……私、魔法苦手かもしれないです……」
大丈夫? 潜在能力のポーションがぶ飲みする?
そのように勧めたが、サシャは青い顔で断った。効くのに……。
とは言え、まだ初めて1日だ。
悲観するにはまだまだ早い。
こういうのは苦手意識を持つのが1番よろしくない。
誰だって最初はうまく行かないものだ。
めげずに挑戦するのが結局いちばん伸びる。
そのためにも、気楽にやって欲しいものだ。
「うぅ、がんばります……私も、ご主人様みたいな魔法剣士に……」
などと可愛いことを言い出し、サシャは意気込んで訓練を再開した。
あなたはサシャの訓練風景をアレコレ褒め称えた。
発射部分の構築は上々で申し分のない仕上がり。
ここ10年で1番素質を感じさせる。
サシャの努力が現れている。
今回は記憶に残る素晴らしい出来栄え。
エレガントで、魅惑的な回路。
非常にバランスが取れた爽やかな出来栄え。
割と適当なことばかり言っている。
だが、褒められて人は悪い気はしないものだ。
サシャは意気込みを感じさせる熱意でもって魔法の訓練に励んでいる。
それに、適当ではあるが、ウソを言っているわけではない。
サシャの構築した回路を基準点とすれば、の話だが。
基準がそれなら、後の方がいい出来栄えなのは当たり前だ。
ただ、まぁ、この調子では半年くらいかかってしまうかも。
とはいえ、あなたはそこまで悲観はしていなかった。
これから10年でも20年でもいっしょにいるのだ。
半年くらいは目くじら立てるようなことでもない。
それに、サボっていて半年かかったならともかく。
努力して半年かかったなら十分評価に値するだろう。
半年間めげずに努力してがんばったのだ。
たくさん褒めてあげるべきだろう。
それに、最悪の場合は魔法書を使って無理やり覚えさせればいい。
使い方がめんどくさいので滅多に使わないが、何度でも使える魔法書がある。
それを使って『魔法の矢』を覚えさせれば、すぐにでも使えるようになる。
基本のやり方を覚えた方がのちのち苦労しないので基本のやり方で教えてはいるが、そこまでこだわることでもないとは思っているのだ。
「ねぇ、ワインの品評みたいなノリでサシャを褒めてないで、ちょっとこっちの訓練にも付き合ってもらえない?」
レインにお呼ばれしてしまったので、あなたはそちらに出向いた。
フィリアはメイスを手にし、レインは長剣を手にしている。
どちらの武器も一見して分かるほど高品質な代物だ。
長剣は貴族趣味な装飾がされているあたり、実家から持ち出したものだろう。
「あなたがフィリアに教えた魔法、私も教えてもらったのよ。これ、結構面白いわね」
などと言いながら、レインがなかなか迫力ある剣戟を披露して見せる。
魔法の効果によって長剣の扱い方が分かっているのだ。
身体能力も強化されているため、専業魔法使いとは思えない立派な剣筋である。
「使うことがあるかは微妙だけど、覚えておいて損はないでしょ? ちょっと剣での戦い方を教えてもらえない?」
「一応、長剣の使い方も分かるので教えられはするんですけどね。でも、ほとんど使ったことはないので、お姉様が教えてあげてくれませんか?」
そんなことならお安い御用だ。
魔法で剣の扱い方は分かるだろうが。
それだけでは剣での戦い方は完璧とは言えない。
そのため、剣を使うにあたっての感覚や、意気込みなども含めて指導していく。
「へぇ、根元で殴りつけるつもりで斬り付ける……なんで?」
人間は生来ビビりな生き物だ。
慣れていない奴が先端で切ろうとする空ぶる。
それを防止するには、根元で殴りつけるくらいがちょうどいい。
そうやって何度も剣で戦闘するうちに度胸がつく。
そうなれば剣の間合いも分かって先端で切れるようになるものだ。
「なるほど。なにか、必殺技とかあったりしない? 手軽に使えるやつ」
手軽に使える技はいくらでもあるが。
その上で必殺の名を冠することが出来る威力。
あるいは決定力があるほど強力な技。
そんなものあったらあなたは大喜びで連打している。
つまり、そんなものはないということだ。
一応、それなりに技はあったりするが、手軽に使えて強力なものはない。
「まぁ、そうよね」
とは言え、必殺を冠することが出来るほどではないものの、手軽で強い技ならある。
それも、本来は魔法使いであるレインにはピッタリの技が。
「え? なになに? そんな技があるの?」
あなたは木剣を『ポケット』から取り出す。
そして、意識を集中して魔力を込めた。
単に魔力を注いだわけではない。
魔力単体で攻撃として成立するような形に成立させた魔力だ。
言ってみれば『魔法の矢』の劣化版みたいな状態の魔力を剣に込めた。
「へぇ? そう言う使い方もあるのね。それくらいなら割と手軽に……うん、できた!」
レインがあなたの魔力運用の真似をして剣に魔力を込めた。
そう、この技、すっごく簡単なのである。
魔法使いならやろうとすればだれでもできる。
まぁ、実戦で使うには、それなりに訓練をして特技と言えるレベルまで鍛える必要があるだろうが。
「それで、これってどんな技なの?」
剣の威力が上がる。以上だ!
「……いや、そりゃ、威力は上がるでしょうけども。それだけ?」
それだけ。つまり魔法剣士専用の技である。
しかも威力が上がると言ってもわりと微々たるもの。
まぁ、その微々たる差が馬鹿にならないのが実戦だが……。
これはアルトスレア大陸で学んだ技である。
うまく使いこなせば強力ではあるのだが。
あなたにはあまり有用ではないので使うことはない。
向上する威力があなた的にはあまりに微々たるものなのでしょうがない。
「言ってみれば、劣化版『魔法武器』よね……」
まさにその通りである。
しかもこの技にはわりと大きい難点がある。
この技、常時体から発している
その漏出魔力、普段は魔法への抵抗力として用いられている。
漏出魔力だから魔力消費無しで使えるという利点があるのだが……。
漏出魔力を攻撃に使ってしまうと、だれもが持ち合わせる外的な悪影響に対する抵抗力が低下するのである。
つまり、打たれ弱くなる。
しかも、生命に直接影響を及ぼす類の魔法がよく効くようになってしまう。
使う相手を見極めないと、逆にピンチになってしまうという技なのである。
「……手軽だけど、強いの?」
相手次第ではノーリスクで威力を上げられる。
なので、強いと言えば強いのではないだろうか。
加えて、この技を極めて行くとまさに必殺と言うべき威力となる。
それを魔法使いがやることかと言うと微妙だが……。
「……まぁ、覚えておいて損はないわよね?」
ないんじゃないかな。あなたは気楽な調子で答えた。
無意味ではないはずだ。有意義かは知らないが。
だが、手札を増やす時はそんなものである。
いつどこで何が役に立つか分からない以上、無意味そうでもとりあえず身に着けておくのが吉だ。
文字数はどの程度が好ましいですか?
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