あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたが奴隷商の店に出向くと大歓迎された。

 

「ようこそおいでくださいました。本日はどのような?」

 

 めぼしい新商品がないかを見に来たのだ。

 すると、商人は我が意を得たりと頷いた。

 

「もちろん、極上の奴隷を仕入れております。どうぞごらんくださいませ」

 

 奴隷商に案内され、あなたは奴隷たちを検分する。

 商人は獣人の奴隷を重点的に仕入れたようだ。

 だが、獣人の奴隷はサシャがいる。

 

 サシャは獣人であることに自負がある。

 あなたがサシャの耳が大好きなことに自信があるわけだ。

 そこに新しい獣人の奴隷を買ったら。

 サシャは不安を抱いてしまうだろう。

 

 あなたのお眼鏡に叶う者も居たのだが、今回は諦めた。

 獣人の奴隷を買うには、もうちょっと時間が必要だ。

 

 そのため、他の種族の奴隷を重点的に見て行った。

 しかし、冒険のお供に連れて行くのには微妙なのが多い。

 見目麗しい奴隷を集めるとなると、そうなりがちなのだろう。

 

 いつもなら気にせず買ったのだが……。

 今はちょうど訓練期間に入る。

 サシャの面倒で手いっぱいなのだ。

 1から面倒を見なきゃいけない奴隷を買うのは負担が大きい。

 

 エルグランドならば色々な設備が揃っているし。

 あなたに代わって指導してくれる先輩ペットもたくさんいる。

 そのため、ド素人の小娘を何人買おうと問題なかったのだが。

 こちらの大陸ではそうもいかないのだ。

 エルグランドからペットの1人や2人くらいは連れて来るべきか……。

 

「いやはや、ご満足いただける奴隷が居なかったとは、汗顔(かんがん)の至りでございます……ぜひとも次はご満足いただける奴隷を探し出してごらんに入れましょう」

 

 奴隷商には期待している。

 あなたは金貨を1万枚ほどテーブルの上にぶちまけた。

 これは投資のための金だ。自由に使って欲しい。と伝えておく。

 

「次は、次こそは……! 必ずやご満足いただける奴隷を仕入れて見せます……! どうか、どうか今後ともご愛顧いただけるよう……!」

 

 拝む様な勢いで言われた。

 あなたは期待していると再度告げて店を後にした。

 

 

 

 サシャの家へと戻る。

 すると、近所の家の軒先(のきさき)で話し込んでいるサシャの姿があった。

 レインはヒマそうにその近くで街並みを眺めるなどしていた。

 

「あ、ご主人様。おかえりなさい」

 

 あなたはただいまと告げるとサシャの頭を撫でた。

 そして、話し込んでいた相手、ご近所さんに軽く自己紹介などをした。

 それからは、サシャについて世間話などをして回った。

 

 主な目的はサシャの過去の話を聞くことである。

 ご近所さんは、そう言った過去の話を知っているのでありがたい。

 サシャが何歳までおねしょしていたかなど、実に興味深い話が聞けた。

 

 ご近所さんは、サシャが様変わりしていることに驚愕し切りだった。

 まぁ、以前までは薄汚い身なりの痩せっぽちの小娘でしかなかったのだ。

 それが上等な身なりでふっくらと肉をつけていたら驚きもするだろう。

 

 こんなにいいご主人様なら自分が買われたいくらいだ。

 そんなことを言って笑っている者もいた。

 あなたとしては大歓迎なのだが……。

 ご近所さんをペットにしたらサシャがキレそうだ。やめておこう。

 

 さて、そんな和やかな時間を過ごした後。

 あなたたちはサシャの家へと戻った。

 ブレウの香りが染み付いた家だ。

 じつに清々しい空気で満ちている。

 あなたは眼を閉じて静かに呼吸を繰り返した。

 あなたの体内にブレウの要素が満ちて行く。

 すばらしい、実質的にブレウを食べたようなもの。

 

 あなたが愚かな夢想をしながら過ごしていると、ドアがノックされる音がした。

 

「だれかな」

 

 そんなことを呟きながらサシャがドアを開ける。

 すると、そこに立っていたのはサシャと同い年くらいであろう少年だった。

 

「あ、ライリー」

 

 知り合いらしい。

 幼馴染、と言うやつだろうか。

 あなたはライリーに嫉妬した。

 サシャが幼馴染だなんて羨ましい……。

 

 あなたがサシャの幼馴染だったら……。

 たぶん1人目を妊娠している頃合いだろうか。

 

「サシャ、久し振り。元気……そうだな」

 

「うん、元気よ」

 

 などと言いながら腕を振り上げるサシャの姿は可愛らしい。

 その腕にはトロルを力技でひねり潰せる力が満ちている。

 元気と言う触れ込みに偽り無しだ。

 これで元気がなかったら世の人間の9割は病人だ。

 

 ところで、先ほどからレインからの視線が痛い。

 すごく疑わしい目で見られている。なぜだろう。

 ライリーが来てからだ。悪だくみでもしていると思われているのだろうか。

 

「……ああ、いえ……あなたのことだから、サシャに近付く悪い虫を片っ端から排除するとかしでかすんじゃないかと」

 

 あなたは笑ってその考えを否定した。

 あなたはみっともない嫉妬こそするが。

 ペットのそう言った交友を否定するつもりはない。

 サシャが男の恋人を作るどころか。

 夫を迎えたいと言ってもあなたは祝福するだろう。

 

 それはそれとして狂おしいほどの悲しみと憎悪に包まれるが。

 その上でサシャを夫とか恋人から寝取り返す。

 

「そうなの?」

 

 ところで一盗二婢三妾四妓五妻(いっとうにひさんぎししょうごさい)と言う言葉を知っているだろうか。

 

「知らないけど。どういう意味?」

 

 興奮するランキングだ。

 他人の妻を寝取るのが1番。

 下女や使用人が2番。

 娼婦が3番目。

 愛人が4番目。

 そして正妻が5番目だ。

 つまり、サシャが夫を迎えれば。

 サシャは4位から1位になるわけだ。

 

「知ってたことだけど、あなたって頭がおかしいのね」

 

 レインはあなたのことを直球で罵倒した。

 あなたも倒錯している自覚はあるので、笑って流した。

 しかし、男の味を知った女を寝取るのが1番楽しいのは事実なのだ。

 

 そんなことを話していると、サシャがあなたたちの元へと戻って来た。

 

「あのご主人様、ええと、幼馴染の子が、ちょっと出掛けないかと誘ってきたのですが……行っても大丈夫ですか?」

 

 あなたはサシャの頭を撫で、行っておいでと優しく送り出した。

 ただし、その前に、あなたはサシャの手に大きな袋を握らせた。

 ずっしりと重たい袋だが、サシャの腕力ならばつらくはないだろう。

 

「えと、これは?」

 

 遊びに行くならお小遣いが必要だろう。

 遠慮なく受け取ってほしい。

 中身は金貨が500枚である。

 遠慮せずに全部使っていい。

 

「い、いやいや、そんな、金貨500枚って、どんな豪遊したらそんなことになるんですか」

 

 あなたは笑ってサシャに思い出させるように言った。

 スルラの町にも書店はあるのだろう。

 そして、各地の書店で本を買い込む約束がある。

 

「あ、それは」

 

 どのタイミングでもいい。

 書店に寄って本を好きなだけ買って来るといい。

 足りなかったら、後でいっしょに不足分を買いに行こう。

 

「はいっ。それじゃあ、行ってきます!」

 

 あなたはサシャに手を振って送り出した。

 ライリー少年がポンと金貨500枚を出したあなたを唖然とした顔で見ていたのが印象的だった。

 

 

 

 ヒマ潰しにチャタラでレインと勝負をしている。

 酒をちびちびちやりながらの、こだわらない勝負だ。

 酒のせいか、それとも純粋にへたくそなのか。

 レインはクソザコだった。わざとやってるのかと言いたくなるくらいへたくそ。

 

 レインをコテンパンにしていると、ブレウが帰って来た。

 無事に退職にこぎつけることが出来たようだ。

 あとはサシャが帰って来るのを待つだけだ。

 もしかしたら、ライリー少年と大人の階段を登って帰ってくるかもしれない。

 

「まぁまぁ、そんなことになったらライリーにサシャを買い戻してもらわないといけませんね」

 

 などとブレウは笑っていた。

 たぶん不可能だと思われる。

 

 ブレウにサシャを買い戻す気はほぼないようだ。

 まぁ、あれだけ可愛がられているなら買い戻すのは控えるだろう。

 

 やるにしても、寵愛(ちょうあい)を失って扱いが粗末になってからだ。

 その境遇に置かれていたら不幸になるだけだ。

 それに、扱いが粗末なら値段も安くなる。

 買値以下にはならないかもしれないが。

 寵愛分の上乗せがなくなる。安く買い戻せる。

 

 ついでに言えば、あなたはいまブレウを雇い入れる予定だ。

 そうなれば、ブレウはサシャと同じ場所で過ごせる。

 サシャがあなたに所有されている。

 その一点を除けば以前とそう変わらぬ生活に戻れるのだ。

 しかも、信じ難いほどの超好待遇でだ。

 相場の5倍以上の給金など普通はありえない。

 この状況を自分から蹴るのは考えにくい。

 

 そして、そうなったならば。

 ブレウの生活水準は一気に上がる。

 そして、戻れなくなる。

 

 金貨5枚あれば、豊かな生活を送れるようになる。

 いや、使用人として衣食住の保証をしてもらえるのだ。

 それを考えると、実質的には上流の生活を得られるだろう。

 

 今まで下層市民だったのが、一気に上流。

 それは麻薬のような快楽になることだろう。

 人は、上げた生活水準を下げることは難しい。

 生活水準を下げないために借金をするものだっている。

 

 ブレウは雇用を維持したいと思うだろう。

 そのために自分の体が武器になると分かれば。

 積極的に使って来る可能性は高い。

 あなたはブレウをコマすための努力を怠らなかった。

 

「くっ……こっちは、詰みだし……でも、こっちでも……うぅ……」

 

 しかし、レインは本当にチャタラが弱い……

 サシャより弱いのではないだろうか。

 以前に自信満々に誘ってきたのは一体なんだったのだろう?

 

 

 

 レインが意地になって挑んで来る。

 あなたは心折(しんせつ)に解説しながらギタギタにし続けていた。

 これだけボコボコにされても懲りないのは心が強いと褒められなくもない。

 

 娼婦として接客するなら、手加減して相手に気持ちよく勝たせてやるのだが。

 そうでなければ、あなたは勝負事には勝つつもりで挑む。

 レインがあなたに勝つための最適解はひとつ。

 あなたに金を握らせて今晩ベッドに来いと命じることだ。

 そうすれば娼婦としてレインに気持ちよく勝たせてやるだろう。

 

 まぁ、そんなことをしても勝ちを譲ってもらったことがありありと分かる。

 それでレインが納得するかと言えば、微妙ではないかと思われる。

 

「ああもう! もう1回! もう1回よ!」

 

 何十回目のもう1回だったろうか。

 挑まれて断る理由もないので応じるが。

 再度レインをボコボコにしていると、サシャが帰って来た。ライリーの姿はない。

 

「ただいま帰りました」

 

 すてて、と小走りに寄って来たサシャがあなたたちの手元を覗き込む。

 

「チャタラですか。レインさん、お好きですね」

 

 下手の横好きと言うやつだろうか。

 好きな癖に上達しないとなると。

 根本的にやり方を間違えているのだろう。

 

 まあ、勝つことだけが目的ではないのかもだが。

 勝敗がある以上はこだわるのが自然な気もする。

 

「ええ、戦況は今のところ五分と言ったところかしら」

 

 これで五分だと思っているとは幸せなことだ。

 この調子ではレインの負けは今回も確定だろう。

 既にレインの状況は8割がた詰みである。

 勝ち筋はいくつかあるが、そこに辿り着けるかと言うと……。

 ただ、待ったを使わないのは好感が持てる。あれはめんどくさい。

 

 ところで、ライリーとはどんな話があったのだろうか。

 

「あ、ライリーですか? ライリーは冒険者になるって言ってましたよ。冒険者学園に行くって言っていたので、同級生になるかもしれないですね」

 

 わざわざそんなことを報告しに来るとは律義(りちぎ)だ。

 冒険者なんてなると言ったらなれるものだ。

 それが人々に認められるかはともかく。

 そんなことを思いながら、あなたはレインの駒を詰みに持って行った。

 

「もう1回! もう1回よ!」

 

 ハイハイ分かった分かった。

 あなたは雑にレインの求めに応じた。

 駒を並べ直しつつ、あなたは今日はこの町に泊まる予定でいると2人に伝えた。

 来る前に1泊するかも、とは言っていたので問題はないだろう。

 

「1泊するの?」

 

 サシャとブレウは久し振りの再開なのだ。

 親子水入らずの時間を過ごさせてあげたい。

 

 その都合上、あなたとレインは宿を取って泊まることになるだろう。

 あなたはそんなことを言うと、レインが納得した様子を見せた。

 まぁ、本音を言うと、今晩はレインと遊びたいなと思っているだけなのだが。

 

「いいんですか?」

 

 あなたは親子を無暗に引き離すほど薄情ではない。

 これは建前ではなく本音だ。

 だからこそブレウを家で雇うことにしたのだ。

 まぁ、8割くらいはブレウをコマすためだが。

 以前に言ったように、おいしい親子丼を食べるためには下ごしらえが重要なのだ。

 

「ご主人様、ありがとうございます……」

 

 ブレウにいっぱい甘えておいで。

 そう言うと、サシャは顔を赤くして唇を尖らせた。

 

「もう……そこまで子供じゃありませんよ……」

 

 そうは言いつつも、ブレウと過ごせるのは嬉しいのだろう。

 サシャの頬は緩みっぱなしだ。

 そこであなたはサシャに1枚の金貨を握らせた。

 

「えと、これは?」

 

 少ないがサシャの分け前である。

 実際にはほとんどあなたが与える小遣いだが。

 自分で稼いだ金と言う名目を与えるのは大事だ。

 この金でブレウに晩餐をご馳走してあげるといい。

 

「なるほどぉ。そうしてみます!」

 

 はじめて得た稼ぎと言うわけではないが、自分で得た稼ぎだ。

 それで親に食事をご馳走するというのは、色んな意味で感慨深いものだろう。

 あなたはサシャの頭を撫でて、思い出に残るように豪勢なものにしておいでと伝えるのだった。

 

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