あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 翌朝(よくあさ)、あなたはお祈りを済ませてなお目覚(めざめ)めないサシャを舐め回していた。

 お祈りの時間に寝坊(ねぼう)をするとは、さすがに不届きである。おしおきを兼ねてだ。

 ベッドの下側から潜り込んだあなたが舌を()わせる都度(つど)、とくとくと(あふ)れ出す(みつ)

 それを丹念(たんねん)に舐め取り、なおも執拗(しつよう)に舌を這わせ続ける。

 

 実に楽しい。

 

 反応が薄いのはすこし寂しいが、時折びくりと痙攣(けいれん)して太ももで(はさ)まれる心地よさはすばらしい。

 ()み出す甘露(かんろ)を求めるように舌を這わせ続けるあなた。目覚める時が楽しみである。

 

 

 

 

 結局、サシャが目覚めるまで1時間ほどかかった。

 

 シーツがぐしょぐしょになるまで舐め回され続けたサシャは汗だくだった。

 あなたも寝汗で汚れていたので、いっしょにシャワーを浴びた。

 朝起きて、すぐにシャワーと言うのもなかなかに心地よいものである。

 冷たい水を浴びつつ、あまりにも熱いコミュニケーションをとるのもすばらしい。

 

 

 朝っぱらから一戦(いっせん)(まじ)えてシャワーから出ると、あなたとサシャはウカノへの祈りを行った。

 

 エルグランドの神はおおむねにおいて寛大(かんだい)である。自身の信徒(しんと)へもそうだが、他の神の信徒にもそうだ。

 意味もなくよその神の祭壇(さいだん)を焼き払っても天罰(てんばつ)を食らったことは無いし、信徒を()き肉にしても尖兵(せんぺい)を差し向けられたことは無い。

 

 そのため、お祈りをしなくともべつに怒られないし、むしろ毎日お祈りをしていると心配される。

 お祈りしてくれるのはうれしいけど無理(むり)はしないように、とかそう言う感じの内容だ。

 だが、あなたにお祈りをサボると言う選択肢はない。

 

 毎日必ずモチを(そな)え、苦心(くしん)して作ったアブラアゲをお供えする。それがあなたのライフワークだ。

 ちなみに、エルグランドにおいてアブラアゲの発明者はあなたである。

 ウカノがときおり(くち)にするアブラアゲなる食物(しょくもつ)をウカノの使徒(しと)から詳しく聞き、苦心して作り上げたのだ。

 なので正確に言えば再現者(さいげんしゃ)なのだが、あまり大きな違いはないだろう。エルグランドになかったものを作ったのは事実だ。

 

「ウカノ様へのお祈りの言葉ってどんなものなんでしょう」

 

 サシャの疑問(ぎもん)にあなたは特に決まった祈りの文句(もんく)はないと教えた。

 ただ、五穀(ごこく)豊穣(ほうじょう)を祈り、旅の安寧(あんねい)祈願(きがん)するだけである。

 

「ゴコクってなんのことですか?」

 

 五穀とは主要な栽培(さいばい)穀物(こくもつ)のことである。

 ウカノ曰く、イネ、ムギ、アワ、ダイズ、アズキのことだそうだ。

 イネとムギは分かるが、アワがなんのことかはいまだに不明である。

 アワってなに、と聞いてみると、バブルのこと、という意味の分からない返事が帰って来て困惑したこともある。

 ダイズとはソイビーン、アズキはそのままアズキとして知られる豆だ。

 

「食べ物がたくさん(みの)るようにお祈りするんですね。なるほど……」

 

 むむむ、とサシャが眉根(まゆね)を寄せて真剣にお祈りをし出した。

 あなたは五穀の豊穣についてはさほど真剣に祈らない。

 あなたの主食は卵とミルクであり、イネ、ムギ、アワ、ダイズ、アズキへの関心は薄いからだ。

 

 今日はモチとアブラアゲに加え、アズキを用いて作った菓子、ドラヤキなるものを捧げる。

 ()でた豆のペーストにたっぷりの砂糖を加えるという不思議な菓子、アンコを材料に作る菓子だ。

 (こう)ばしい生地と、アンコの不可思議な甘みは好みがわかれる味だが、決してまずくはない。

 

 あなたが祈りを(ささ)げると、祭壇(さいだん)(そな)えていたモチ、アブラアゲ、ドラヤキが光とともに消滅(しょうめつ)する。

 

『まぁまぁ♪ 今日もすてきな(おく)り物をありがとうございます♪』

 

 ウカノが喜んでいるようでなによりだった。

 

「きえちゃった……ウカノ様がお受け取りになられたのですか?」

 

 もちろんそうだ。ウカノの祭壇に供えたものを、ウカノ以外が受け取る道理がない。

 そう言えば、と思い出したあなたは、サシャに料理を教えることを伝えた。

 

「え? お料理、ですか? ある程度はできますが……」

 

 あなたが教えるのは、ウカノが好むモチとアブラアゲの作り方だ。

 信仰(しんこう)する神の喜ぶ品の作り方を弁えるのは信徒として当然だろう。

 

「なるほど……! ぜひ教えてください!」

 

 もちろんである。とは言え、いきなり料理修行(しゅぎょう)をしても仕方ないので、今日もまずはモンスターとの戦いである。

 

「きょ、きょうも……が、がんばります!」

 

 頑張ってほしい。

 

 

 

 

 

 今日のサシャはなかなか冴えており、犬と見事に戦い抜いた。

 怪我(けが)も、腕を()まれたくらいで(あぶ)なげなく(たお)していた。

 戦いのセンス自体はかなりのものがあると考えられる。

 が、身体能力と武器を(あつか)う技術が不足している。

 そのあたりはこれから鍛えていけばいいのだ。

 と言うか、それ以外にないのだし。

 

「はぁ、はぁ……ご主人様、倒せました!」

 

 えらい! とあなたはサシャの頭を()でまわす。ふにふにとした耳の感触がとても心地よい。

 一生撫でていたいくらいだが、うっかり力加減を間違えてサシャの首をもいでも大変なのでやめておく。

 そして、あなたは(ふところ)に手を差し入れると、パンパンの革袋(かわぶくろ)を取り出し、それをサシャに渡した。

 

「はい? これは?」

 

 その革袋の中身はハーブだ。あなたが丹精(たんせい)込めて栽培(さいばい)したハーブである。

 あなたはその革袋の中身を噛みながら戦うように言った。

 

「はい。はうっ……」

 

 袋から取り出したハーブを頬張(ほおば)ったサシャが涙目になる。

 そうもなるだろう。なぜなら、あなたが渡したハーブはたいへんまずいのだから。

 

 そもそも生で食べるものではなく、基本的(きほんてき)半生(はんなま)になるまで干してからすり(つぶ)して使うものだ。

 そのほか、様々なハーブを用いて作られる丸薬(がんやく)は、気分(きぶん)高揚(こうよう)止血(しけつ)効果があり、兵士に珍重(ちんちょう)される品となる。

 

 このハーブだけでもほぼ同様の効果が得られるが、とにもかくにもクソまずい。

 丸薬にするのはまずさを緩和(かんわ)すると言うのが一番大きい。

 衛生(えいせい)に気を(つか)うのが難しい兵士向けに口臭(こうしゅう)防止(ぼうし)効果を織り込むためでもあるが。

 

「ご、ごひゅじんひゃまぁ……な、なんなんれすか、こぇ……」

 

 薬草(やくそう)の一種で戦いに有用な効果があるので、しっかりと歯ですり潰してから飲み込むようにとあなたは告げる。

 それを聞いてサシャはますます涙目になった。たしかにあなたもあのクソまずいハーブをペースト状になるまで噛んでから飲めと言われたら泣きたくもなる。

 百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の冒険者のあなたですら涙目になろうというのだから、サシャが涙目になるのも当然と言えた。

 

 がんばれたらご褒美(ほうび)にこれをやると、あなたは今朝作ったドラヤキを見せた。

 

「ひょれはウカノひゃまにおささげひていた……」

 

 甘くておいしいお菓子である。神様も大好物。

 

「うぅ……がんばりまひゅ!」

 

 サシャは涙目になりつつも健気に頷いた。

 筋力増強(きんりょくぞうきょう)効果のあるハーブなので、本当なら3食すべてそれで腹を満たしてほしいくらいなのだが。

 さすがにそれはかわいそうなので、戦いの時だけ食べさせることにする。

 常時(じょうじ)食べさせるほどの手持ちがない、と言うのもあるが。

 いずれ栽培できる場所を確保する必要があるだろう。

 

 

 その後、サシャは鶏やウサギは余裕で倒し、イノシシには辛勝(しんしょう)し、クマには普通に負けた。

 1戦ごとに傷を(いや)してやり、また新たな雑魚を召喚しては、サシャ、やれ。のくりかえしだ。

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