あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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念のため先にお伝えしておくと
エタりやすいとよく言われる学園編に突入しますが
この作品はカクヨムで先行連載しており
カクヨムでは500話以上連載済みのため、エタの心配はございません


冒険者学園1年目 バカンス編
3-001


 あなたは冒険者学園の入学式に参加していた。

 

 石造りの講堂で椅子に座り、入学のあいさつを聞く。

 あなたの視線の先には、講堂の檀上で長広舌を披露している学園長とやら。

 実に皺深い老人で、逆の意味で年齢の想像がつかない。

 60くらいかもしれないが、80や90だったりするかもしれない。

 かつては名うての冒険者として大陸全土を旅していたのだとかなんとか。

 

 それら入学式が終わると、学園の授業形式などについての説明会が行われた。

 

「この学園における基本は、月に1度ある試験日です。この試験を超えない限り、学園を卒業することはできません」

 

 学園では3か月、あるいは6か月で1つの課程となる講義が多数存在している。

 これらの講義を受講の後、試験を受けてこれに合格すると、講義受講完了となる。

 必修科目である冒険基礎、歴史学、言語などなどに合格しない限りは卒業すらできない。

 

 必修科目はそれなりの数がある。

 それらすべてを律義に受講していくと3年かかるということらしい。

 なお、講義を受講せずにいきなり試験に挑むことも可能だ。

 その仕組みを駆使すれば、1年で卒業も可能なようだ。

 

 なお、最初の3年間は学園側負担――と言うよりかは国の負担――で在学することが可能だ。

 これを超えると、寮費と学費、それから給食費がかかるらしい。

 年間で一律金貨60枚。結構な額である。

 まぁ、3年間遊んでいたのでもなければ捻出は可能だろう。

 冒険者としての仕事で稼げば、そう難しくない額だ。

 

 在学期間中に仕事をしてはならない。

 そんな規則はないので、学費を稼ぐことも可能だ。

 学園に入らずに冒険者になれるのだから、別に不自然な話でもないが。

 

 意外と言うべきか、あるいは順当と言うべきか。

 必修科目の中に戦闘が必要なものはない。

 どんな立ち位置であろうと、冒険者として当然弁えておくべき基礎的な部分。

 つまり旅をする中での野営であるとか、原住民との交渉であるとか。

 毒のある植物の見分け、危険地帯の判別方法などなど。

 そう言った、地味でおろそかにされがちな部分が必修科目で。

 剣を使った戦闘だとか、魔法を使った戦闘だとかは選択科目として自由に選べるようだ。

 

「剣士基礎学……あぅ、魔法基礎学と同じ時間……投擲基礎は……大丈夫」

 

「魔法基礎学は少し受講してみて、必要なさそうだったら実戦系の講義の受講かしらね……戦闘における指揮官講義も受けた方がよさそうね」

 

「運動基礎は必修。剣士基礎学、仲間を守る盾学……んー、指揮官講義って言うのも一応受けた方がいいのかな?」

 

 サシャたちはさっそく開催されている講義の時間割表とにらめっこを始めている。

 まだ教授の説明中なのだが、話を聞かなくていいのだろうか。

 

「カリキュラムは配布した通りで、担当教諭も併記されていますね。我々はそれなりに時間に余裕があるようにカリキュラムを配置していますので、質問などは空き時間などでも随時受け付けていますよ」

 

 親切だ。質問を受け付けてくれるなら聞きたいことがいろいろある。

 初体験をした日や、同性経験の有無なども聞いたら答えてくれるだろうか?

 あなたは女性であろう教諭陣に目星をつけるところから始めた。

 もちろん、興味の惹かれる講義はちゃんと受講する。

 そこでふと気になったあなたは質問をすることにした。

 

「はい。なんでしょう」

 

 剣士基礎学などは、人によっては容易に合格出来ると考えられる。

 そのため、発展剣士学や、応用剣士学、実戦剣士学などの発展広義。

 これらを直接受講、試験を受ける者もいるだろう。

 その場合、剣士基礎学などは受講した扱いになるのだろうか?

 あるいは、剣士基礎学を受けないと、次の講義は受けられないのだろうか?

 

「いい質問ですね。剣士基礎学の試験を受けずに発展剣士学の講義も試験も受けることは可能です。その場合、剣士基礎学の受講はしていないが、試験には合格したという扱いになりますね。これはさらに上位の講義でも同じことです」

 

 あなたはよく分かったと頷き、教諭に礼を述べて質問を終えた。

 

「そのように言いましたが、基礎学の講義内容は言葉通りに基礎であり、とても大事な内容です。基本的には基礎学の受講から始めることをおすすめします」

 

 などと釘を刺されたので、そのとおりにするとしよう。

 あなたはひとまず基礎学に関しては一通り受けてみることにした。

 時間割表とのにらめっこは後でやるべきだろうか。

 

「ああ、それと。試験は複数回挑めますが、2度落第した方は翌月の試験資格失効と同時、以降試験費用として金貨5枚の支払いを求めます。繰り返せば合格すると言う不心得者を抑止するためですので、御理解願えますね」

 

 順当な話と言える。数撃ちゃ当たるはある意味基本である。

 努力でゴリ押しと同じ考え方とも言える。

 1000回やってもダメなら1万回。

 それでもダメなら10万回やる。

 10万やってダメでも、1億回。

 繰り返せばいつかは出来るようになる。

 あまりにも愚直な発想の直線運動で、遠回りとも思える馬鹿らしいやり方だ。

 だが、結局はそれが1番の近道になることだってある。

 

 あなたは色んな技能の訓練の中で、いつも最短の道筋を求めた。

 そして、1番の近道は、努力のゴリ押しで、遠回りだった。

 遠回りこそがあなたの最短の道だった。

 

 しかし、それを試験でやるのはダメだろう。

 試行錯誤の段階でやるべきだ。

 

 試験は実戦と同じく考えるべきだ。

 実戦で失敗してもいい、いつか成功するは通じない。

 失敗したら死ぬのだから。

 

 エルグランドなら違うが、この大陸では死は絶対である。

 失敗してもいいや、で挑んでいいものではないだろう。

 

「なお、一部の上級科目を除いて受講登録などは必要ありません。受講するもしないも、自由です。気になる授業をちょっとだけつまみ食いなどしても構いませんよ」

 

 なるほど、そのあたりも自由度が高いらしい。

 どちらかと言うと、自己責任の側面が強い形なのだろう。

 真面目にやらなくてもいいわけだ。

 まぁ、真面目にやらずにいて試験を突破出来るかと言えば、話は別なのだろうが。

 

「では、カリキュラムの説明については以上です。皆さん、立派な冒険者になれるように努力してください」

 

 そう述べて、カリキュラムの説明を担っていた教授が立ち去っていった。

 後に残された新入生たちは、見知った相手とカリキュラムを片手に、どこの講義を受講しようかと騒がしく話し合い始めた。

 

「ねぇ、あなたから見て、私が取るべき講義ってなにがあるかしら?」

 

 レインの質問に、あなたは目星をつけたものについて話す。

 この地域における魔法使いは、エルグランドのそれと立ち位置が異なる。

 基本的には専業の魔法使いが多く、軽装で、肉体的素養は凡庸。

 後衛型と言うのが基本となる立ち位置になるだろう。

 

 後方から戦況を俯瞰できると言う特性から見て、指揮官としての役割を担い易い。

 加えて、魔法による瞬間火力の高さは戦況を一変させることも容易いだろう。

 先ほどレインが言ったように、戦闘における指揮官と言う講義は受けておいて損はないだろう。

 また、魔法ばかりに頼らないように、投擲技術や、遠距離攻撃手段、以前に少し練習したクロスボウなど磨いてもいいだろう。

 

 他には人が作った迷宮では割とありがちな、リドルの解決。

 人間と言うのは知識をひけらかすのが大好きだ。

 なので、そうしたリドルと言うのはよく見かける。

 このリドルの解き方などに関する講義もいくつか見受けられる。

 それらを受けても損はないだろう。

 

「なるほど、私の考えていたのとそんなに変わらないわね」

 

 言いつつカリキュラムに何か印をつけだすレインに続き、今度はサシャがカリキュラム片手に泣きついてきた。

 

「ご主人様、魔法基礎と剣士基礎が被ってます……どうしたらいいでしょう……」

 

 とりあえず剣士基礎を受けてみたらいいんじゃないかな。

 必要なさそうだったら魔法基礎に顔を出せばいい。

 あなたに言えるのはそれくらいだった。

 

 剣士の基礎くらいならあなたでも教えられるのだが。

 この大陸とエルグランドで重視される剣士の基礎が同じかは分からない。

 それが全く噛み合わないものだった場合、あなたが教えた結果、学園の剣士基礎の試験に落第する可能性は高い。

 

「あぅぅ……ですよね……」

 

 まぁ、必修講義と言うわけでもなし。

 無理にどちらの講義にも合格する必要はないのでは。

 それに最短ではそうだが、まず剣士基礎を受講して合格した後、半年後にある魔法基礎を受講してもいい。

 専念すれば3年間で発展剣士学、応用剣士学、実戦剣士学と全て受講出来るが。

 実戦学は諦めれば両方を応用まで受講できる。

 それに無理に3年で卒業しなくても、もう1年かけて実戦魔法学と実戦剣士学を受講したっていいだろう。

 

「うぅん……たしかにそれもアリなのかな……」

 

 それに、無理に魔法まで習わなくてもいいだろう。

 とりあえず剣士として専念するのもいい。

 魔法はまた後日、あなたから習えばいい。

 正直、教え手側のことを思えばそれが最適である。

 

 威力と使い易さと言う意味で最高の使い勝手を誇るエルグランドの魔法はあなたにしか教えられない。

 まぁ、代わりに命をまったく大事に出来ないという難点があるが、そこらへんは諦めてもらうことになる。

 へーきへーき、ちゃんと丁寧に扱えば死なないから。粗末に使うと即死するけど。

 

「諦めたくないです……」

 

 泣きそうな顔でサシャが言うので、あなたはその選択を尊重した。

 

「お姉様、とりあえず私は戦士系の講義で固めればいいですよね」

 

 あなたはとりあえずそれでいいと頷いた。

 ひとまずは挑戦してみて、必要なさそうならやめればいい。

 フィリアは既にある程度は完成した状態だ。

 そこに付け足していく形で成長することになる。

 自分に足りない部分はある程度分かっているということだ。

 あまり口出しする必要はないだろう。

 

 あなたは一通り受けてみることにする。

 エルグランドの冒険者としての年季と実績はあっても、この大陸であなたは新参者。

 この大陸の流儀も基本も分かっているとは言い難いのが現実だ。

 だからこそ、とりあえず一通りすべてを受けてみることにするわけだ。

 

 人生とは常に学びの連続だ。

 よく見知った事柄でも、改めて学んでみれば新しい発見があるかもしれない。

 なかったとしても、基本を見つめ直すことにつながる。

 決して無駄にはならないだろう。

 3年間で学べることがそう多いとは思わないが、それが無駄であるとも思わない。

 あなたは3年間で自分のことを見つめ直し、また、自分を鍛え直すことを決めていた。

 

 色んな意味で、学園での3年間が楽しみである。

 

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