あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 朝食を済ませた後、使用人に客人らはそれぞれ時間を過ごしている。

 その一方で、あなたは最寄りの町へと向かって移動していた。

 

 アトリとの交渉でズタボロに敗北したあなたは食料や酒の提供を確約させられている。

 食料はなんとかならないでもないが、手持ちではバリエーションの乏しさが目立つ。

 そして、酒類は基本的に手持ちの品は自分用なので、調達しないと自分の飲む分が無くなってしまう。

 

 そのため、最寄りの町で食料品と酒の調達をしようとしているわけだ。

 まぁ、元々常に手持ちの食料品だけで賄っていたわけではないし、調達の予定もあったのだ。それが前倒しになっただけである。

 

 いい酒と食料があればいいのだが。

 そう思いながら移動していると、あっという間に町までたどり着いた。

 貴族らがバカンスをするために来る地域だからか、僻地の割には中々立派な町があった。

 

「速過ぎて心臓止まるかと思った……」

 

「エルグランドの冒険者は本気でヤバいな……」

 

 同行と言うか、あなたが背負っていた2人、レインとアトリを降ろす。

 レインはバカンスついでに少し稼いでおきたいとのことで、何か手頃な仕事がないかを探しに。

 アトリはあなたの買い出しに口出しをして、具合のいいものを手に入れたいからとのことだった。

 

「馬も目じゃない速度で爆走するとか、どうやったらできるのよ……」

 

 がんばって鍛えるとできる。まぁ、今回は『加速』の魔法で高速移動したのだが。

 『時逆の歯車』で生命としての速度を上げると、会話が不可能になってしまうのだ。

 魔法でならば根源的な加減速が効くので、高速移動しつつ会話も可能だ。

 

「へえ……その魔法、教えてもらえる?」

 

 もちろん構わないが、凄まじい魔力と威力向上の工夫をしないと大した効果はない。

 そのため、あなたほどの劇的な効果は得られないと先に断っておいた。

 

「まぁ、あなたと私じゃ魔法使いとしての技量差は天と地ほどあるもの。そうなるのも当然よ、仕方ないわ」

 

 納得してもらえたようなので、いずれ教えるとあなたは約束をした。

 さておいて、あなたたちは町へと入り、各々の目的を果たしに向かう。

 

 レインは冒険者ギルドへ。あなたとアトリは買い物へ。

 なかなかに立派な市場があり、そこでは多数の食料品が商われていた。

 

 あなたはアトリに負けた自分の技能が衰えた可能性を鑑み、本腰を入れて交渉に臨んだ。

 その結果、タダ同然で買い物をし、詐欺同然に買い取りをさせることに成功した。

 なぜあそこまでアトリにボロ負けしてしまったのか分からず、あなたは首を傾げた。

 

「料理がまずいとレインに聞いていたが、食材は案外悪くないな。このエビも悪くない」

 

 などと嬉しそうにアトリが眺めているのはザリガニだが……まぁ、美味ければそれでよい。

 そもそも、ロブスターとザリガニはほぼ同じものであるのだから、ザリガニとてエビである。

 女所帯とは言え総勢で言えば50人近いし、客人らの胃袋は宇宙に近しい。

 そのため、豪快にタル一杯での購入だ。

 

 そのほか、魚類もタル一杯に購入し、果物なども山ほど購入している。

 屠畜したばかりの豚や、捕らえたばかりの野牛なども、金に糸目をつけずに購入していく。

 壮絶な値切りを仕掛けて来るものの、大口購入をするあなたのことは瞬く間にウワサになったらしく、商人側からの取引が持ちかかって来たりもした。

 

 樽一杯の淡水生の貝類、小指にも満たない大きさの小魚を笊に何掬いも買ったりしていく。

 アトリからの要望で買うものには不思議なものも多い。

 確信のある様子で購入を頼まれるので、なにかしら調理のアテはあるのだろうが。

 

 見慣れた豚や牛のほか、あまり見慣れない食材類も購入していく。

 あなたではいまいち調理のアテがないが、使用人たちは知っているものもある。

 そのあたりを学んでみるのも一興であろうという意図だ。

 それに肉ならとりあえず焼いてソースをかければ食べられる。

 

「ウサギにカンガルーにワニにラクダ……ちと珍しい食材が多いな。ダチョウとかエミューがないのが少し意外だ」

 

 ウサギ肉以外はあなたも扱ったことがない肉なので楽しみである。

 山と言うほどに食料を購入し、片っ端から『四次元ポケット』に詰め込んでいく。

 

「何度見ても便利だな、その魔法……」

 

 アトリが羨ましそうな様子で言う。

 アトリも便利な魔法のかばんを持ってるのに。

 

「そんなでかいもの入らん」

 

 牛の枝肉を突っ込んでいるあなたに呆れたように答えるアトリ。

 たしかに、アトリたちの使っていたポーチはそれほど口が大きくなかった。

 容量が広大であっても、出入口が小さければ大きいものは入らない。当たり前の話だった。

 

 

 買い集めたものを仕舞いこんだ後、レインと合流すべく冒険者組合へと向かう。

 そして冒険者組合に到着してみると、なにやら騒然としていた。

 

「なにかあったのか?」

 

 分からないが、あなたはとりあえず訪ねてみようと中へと入った。

 入ってみると、酒場が併設と言う信じ難い間取りがあなたを出迎える。

 そして、そこでは同じ衣服を纏った女性たちが片っ端から暇をしている冒険者に声をかけている。

 

「あっ、冒険者の方ですか?」

 

 あなたも目を付けられ、そう声をかけられた。

 あなたは頷き、指にはめられた冒険者登録の証とか言う指輪を示して見せた。

 

「いま、緊急の依頼が出ています。湖水地方にて巨大なモンスターが出没したとのことで、腕に自信のある方を募っているのですが」

 

 そう言ったところで、溜息を吐きそうになったのを咄嗟に抑えたような仕草をした。

 周囲を見渡してみれば、かなり広い酒場は閑散としている。

 暇をしている冒険者たちも、武装をしている様子がほとんどない。

 

「この時期に好き好んで仕事をする冒険者の方は少なくて……」

 

 それはまぁそうだろうとあなたは頷いた。

 この近辺はかなり涼しく避暑地に使われているが、それでも夏は夏、暑いのだ。

 庶民にだって夏季休暇があるのだから、金回りがいい冒険者なら尚更休むことだろう。

 そして、避暑地に来れるような冒険者の金回りが悪いわけもなかった。

 そこでアトリがひょいと前に出て、ギルドの職員へと声をかける。

 

「おい、私も冒険者だ。巨大モンスターと言う話の根拠は?」

 

「え、はい。回収された犠牲者の遺体の痕跡からそのように……」

 

「私は大型モンスターの討伐を専門としているチームでな。何か役に立てるかもしれん。その死体、私も見せてもらうことは出来るか?」

 

「それは構いませんが……」

 

 そう言えば、メアリがボルボレスアスの狩人であるなら、アトリもそうなるだろう。

 ボルボレスアスのモンスター、飛竜はそのほとんど全てが大型種である。

 というよりボルボレスアスの標準サイズは基本的に他大陸の1つか2つほどランクが上である。

 この大陸で巨大と評されるモンスターだろうと、アトリたちには手慣れたサイズだろう。

 

 ボルボレスアスでは体長10メートル以上から大型種と言われる。

 逆を言うと、10メートル未満なら中型か小型なのである。

 この時点で相当なサイズ感覚のぶっ壊れ具合が伺える。

 しかも、大型種の上には巨大種、超巨大種とケタの違う分類まであるのだ。

 

「すまんが、巨大モンスターと言うなら見過ごすわけにはいかんのでな」

 

 あなたは頷いた。

 ハンターズが仕事を請けるのにあなたが口出しをする筋合いはないだろう。

 これから何か約束事があるというわけでもないのだし。

 

「では、その死体とやらを見せてもらえるか」

 

「はい」

 

 アトリが職員に連れられて移動していったのを見送る。

 さて、どうしたものかなとあなたは首を傾げた。

 まぁ、せっかく酒場が併設なのだしと、あなたは適当な席について店員を呼ぶことにした。

 

 

 

 飲んでいるうちに、レインも合流した。

 めぼしい依頼がなかったので、魔法の道具を作成するための材料を買い集めていたらしい。

 魔法の品は高く売れる。材料費の倍額が相場だという。

 魔法使いの人件費の高さが窺い知れる。

 

 レインも交え、湖水地方の純粋な蒸留酒を楽しむ。

 蒸留した純粋な酒精を湖水地方の清らかな水で希釈した酒だ。

 酒そのままの味が楽しめるし、果実の搾り汁などで割っても実に美味。

 

「あはは、かんぱーい!」

 

 レインと8……9? おそらく10は行っていないであろう乾杯をし、ぐいっと勢いよく呷る。

 キツイ酒精が喉を焼く。こういう飲み方はエルグランド北部では多かったが、この辺りでも結構あることらしい。

 

「ふぇ~? エルグランド北部ねぇ……そこではどんなおつまみがあったのよ~、教えなさいよ~」

 

 レインがダルい絡み方をして来た。

 しかし、寄せられる肌の熱さと、押し付けられる乳房の感触と言ったら!

 あなたは喜びに打ち震えつつも、発酵したサメの肉であるとか、クジラの脂肪や肉、また羊の内臓肉などが主に酒肴として食べられていたと伝える。

 

「へぇ~……おいしいの?」

 

 長い伝統と歴史を感じる味がするとあなたは答えた。

 まずくはないのかもしれないが、間違っても絶賛するほどおいしくはないというか。

 少なくとも毛嫌いするほどではないが、喜んで食べるほどではない。

 あなたは北部地方の出身というわけではないのも大きい。

 

「ところ変われば色々あるのねぇ~。ここではやっぱり、ザリガニよ! ザリガニだけは唯一おいしいわ!」

 

 とのことらしい。たしかに、あちらこちらでザリガニが売っていたし、買ってもいた。

 そこからすると、ザリガニは美味なのだろう。まずかったら盛んに売買されないだろうし。

 とは言え、自分の口に入れるものは自分で調理するのがあなたの基本原理。賞味するのはテントに戻ってからになるだろう。

 まぁ、女性に給仕とか給餌とかしてもらったら、割とその辺りの信条は曲げるのがあなたなのだが。

 

「あー、おいし! おいしすぎる!」

 

 レインはそうした信条がないため、注文したザリガニをバキバキと解体しては口に運んでいる。

 ぷりぷりとしてほろりほろりとほどけるザリガニの身肉は見ているだけで美味しそうだ。

 とりあえず今日は寝る前にザリガニを食べて飲もうと決意した。

 

 そんな調子で酒を飲み交わしていると、アトリが実に楽し気な顔をしながら戻って来た。

 対照的に泣きそうな顔をしているギルド職員が後をついて来ている。

 

「待たせたな。1つもらうぞ。それでモンスターだが、まず間違いなく大型甲殻種だろう」

 

 テーブルの上に並んでいた蒸留酒の瓶を直接呷りながら、アトリがそんな話を始めた。

 

「推定だが、体長は4メートルから8メートルと言ったところか。ハサミの体格比は種ごとのばらつきが大きいからな。ただ、より大型である可能性が高いな」

 

「大きいわねぇ」

 

「人間の胴体を金属鎧ごと両断できる膂力と、破壊痕から見て、ハサミの構造とサイズが戦闘向きの可能性が高く、好戦的な種の可能性が高い」

 

「うんうん」

 

「私たちとしては、この仕事を請けるつもりだが……どうだ、おまえたち……あー、っと?」

 

 そう言えばチーム名を伝えていなかったとあなたは気付いた。

 そのため、チーム名を発表しようと前置きをして、チーム名を述べた。

 

「ほえ~、エブリシング・バット・ザ・ガールって言うのねぇ」

 

「なんでお前のチームのメンバーが初耳みたいな顔をしてるんだ」

 

 実際に初耳だからである。チーム名、EBTGを知っているのはフィリアとあなただけだ。

 

「チーム運営が雑過ぎる……まぁ、運営実態はともかく、運営経緯が雑なうちもあまり人のことは言えた義理ではないのだが」

 

 まぁ、名前からして狩人たちと言う直感的過ぎる名前だ。

 雑な感じで始まっただろうことは伺える。

 

「話を戻すが、EBTGとしてはどうだ。一枚噛むか?」

 

 あなたは顎をさすりつつ、少し考えた。

 あなたとしてはべつに同行する理由はないのが正直なところだ。

 しかし、ハンターズと共に仕事をすると言うのはちょっとやりたい気分もある。

 

 レインは金が欲しいだろうから、稼ぎ的な意味で同行したいだろうが……。

 ベロベロと言うほどではないが、ぐでぐでに酔っぱらってはいるので戦闘は無理だ。

 アトリが酒を飲んで居るあたり、すぐさま出発するわけではないだろうが……どうせ明日のレインは二日酔いだろう。

 

「ちなみに、参加メンバーはおそらくトモ、モモ、メアリ、キヨになると思う」

 

 人選の理由はなんだろうか?

 

「扱う武器だな。甲殻種は刀剣が通り難い。私とリンは純粋な物理型で刀剣を扱うからだ」

 

 なるほどとあなたは頷き、であればあなたはサポートとして参加しようと述べた。

 ハンターズはハンターズでの狩りに慣れているだろう。

 あなたが出しゃばってもいいことはないと思われる。

 そのため、あなたは補助型の魔法使いに近いポジションで参加するのがいいだろう。

 

 補助魔法を事前にかけてやり、戦闘中は回復魔法などで援護をする。

 そして誰かが窮地に陥ったらカバーに入って助けてやる。

 そのまま夜にはしっぽりといくわけだ。

 

「ということは、そっちからの参加は1人か?」

 

 そうなる。

 無論、出発前にフィリアに魔法による支援を求めることはなんら問題ない。

 フィリアはあなたのペットであるから、魔法の使用を命じるのは自然なことだ。

 レインはあなたのペットではないので、そこはレインに交渉してもらうことになるだろうか。

 

「安くしとくわよ~。魔法の支援だけなら、それだけに魔力が使えるから『時間拡大』してかけてあげるわ」

 

「なるほど。3人も魔法使いからの支援がもらえるのはありがたい限りだ。では、前祝に乾杯といこう。ここの払いは私が持つぞ。報酬をふんだくってやったからな!」

 

「素敵~! お酒もう1瓶頼んでもいいかしら!」

 

「ああ、どんどん頼め。料理もおかわりだ!」

 

「きゃあ~~! かっこいい! すてき!」

 

 レインの知能指数がどんどん低下していく。

 酒とは本当に恐ろしいものだ。でもうまいのでしょうがない。

 あなたは真面目にやっているのが馬鹿らしくなってきた。

 自分も知能指数を下げていくことにした。

 

 素敵! 最高! カッコいい! 惚れちゃう! 抱いて!

 そんなことを叫びながらアトリに纏わりついた。

 

「フゥー……最高だな」

 

 あなたは娼婦としての技能を用い、アトリに接待をしてやることにした。

 アトリは積極的にあなたを組み敷くタイプなのでかなり楽しめる。

 抱くのもいいが、たまには抱かれたい気分の時だってあるのだ。

 

 今日はこのままアトリに可愛がってもらおうではないか!

 

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