あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたがほどほどのところで釣りを切り上げ、ブレウの家へと戻る。

 特にノックなどもせずに家に入ると、そこではブレウに髪を()かされているサシャの姿があった。

 

「あ、ご主人様」

 

 あなたはひらひらと手を振りつつ、釣果(ちょうか)を机の上に放った。

 ドラードゥ・ルージュは『四次元ポケット』に確保(かくほ)したが、他はすぐに食べて処理(しょり)する予定(よてい)だ。

 ちなみに『四次元ポケット』とは『ポケット』よりも高位の魔法である。厳密(げんみつ)に言うと別種の魔法だが、作用的にそう言われる。

 質量的制約(しつりょうてきせいやく)無視(むし)できるうえに、内部(ないぶ)に突っ込んだ物品の腐敗(ふはい)を否定する効果もある。

 (くさ)らずに食べ物を確保し続けられるのはきわめて有用であるし、重要なのは腐敗の防止ではなく否定である。

 すでに腐敗してしまった食べ物も、『四次元ポケット』に突っ込むとなぜか元に戻るのだ。意味は分からないが便利だった。

 

「わぁ、いろんな魚がありますね。どこで買ってこられたんですか?」

 

 買ってきたのではなく釣って来たのである。

 そう答えると、サシャがあなたの釣り上げて来たサバやスズキと言った魚を見つめる。

 

「あの、これは……海の魚では? 薬師(やくし)様のところで見た図鑑に載っていたような……」

 

 しかし、いまそこで釣って来たのは事実である。

 あなただって原理(げんり)は分からないが、魚が釣れるならなんでもいいと思っている。

 

「そう……ですか……すごいですね! ご主人様!」

 

 サシャは単純な戦闘力以上に理不尽(りふじん)な真似を見せられて理解を(こば)んだ。

 あなたはそんなことを知るよしもなく、褒められてちょっと胸をそびやかした。

 

「こんなに立派なものをこんなにご用意していただけるなんて……どうお礼をすればいいか……」

 

 そこらで釣って来たものに対してあなたは礼など(もと)めない。

 まぁ、それが冒険者としての依頼ならば、たとえゴミであろうと容赦なく報酬はむしり取るが。

 今回はサシャとブレウに対する純粋(じゅんすい)なプレゼントだ。好感を得るにはプレゼントと古来(こらい)より相場(そうば)が決まっている。

 

 決して高価過ぎるものではないだけにブレウも遠慮(えんりょ)なく受け取れるので、得られる好感(こうかん)は少ないが、自然に好感が得られる。

 とても賢いやり方だ。間違いない。

 

 そう言ったわけで、あなたが釣って来た魚をブレウが調理したもので夕食となった。

 あなたが腕を振るえばすばらしい晩餐(ばんさん)となったが、あなたはそれをしなかった。

 ここがブレウの家であることもそうだが、あなたにとって女性の作った料理はそれだけで価値がある。

 

 美味(びみ)であるとか、食すに耐えぬ味であるとかは、そう言った価値とは隔絶(かくぜつ)した部分に存在する。

 それが女と言う固有(こゆう)の性別を持ったものが手をかけたのでさえあれば、あなたにとっては価値があるのだ。

 まったくどうでもよいが、その関係であなたの母はあなたを食べ物の好き嫌いをしない子だと思っている。

 

「こんな粗末なものでお恥ずかしいのですが……」

 

 などとブレウは謙遜(けんそん)したが、あなたには十分以上の価値があった。

 それに塩味といくつかの香草で煮込んだ魚は、魚の旨味がよく出ていて十分に美味だった。

 

 その後、特に何と言うこともなく、あなたとサシャはブレウの家を()した。

 結局、最後の最後まであなたが警戒(けいかい)していたブレウの夫であり、サシャの父の姿はなかった。

 死んだ、と言う様子ではない。ただ、家にいないであろうことはたしかだ。

 

 あなたはサシャに、父親はどうしたのかと尋ねた。

 

「お父さんは出稼(でかせ)ぎに出ているんです。私が奴隷になったのも、そう言う理由なんです」

 

 そう言う理由と言われてもあなたには分からなかった。この地の風習(ふうしゅう)にくわしければわかったのかもしれない。

 あまり話したくはなさそうだったので、あなたはサシャにくわしく追及(ついきゅう)することはしなかった。

 重要なのは、おそらくサシャの父親とブレウはサシャを買い戻す気でいることだろう。これに関しては対処(たいしょ)を考える必要がある。

 

 エルグランドであれば、買い戻しに来る都度(つど)にサシャの両親を木っ端微塵(こっぱみじん)にして金を巻き上げるだけなのだが。

 しかし、ここでやればサシャの両親は2度と(よみがえ)らないし、サシャ自身もあなたを2度と信じはしないだろう。

 ここがエルグランドと同じ法則(ほうそく)で動いている場所であれば……とあなたは内心でため息を()く。

 エルグランドならばサシャの両親を木っ端微塵にしても、サシャの反応は「え、私の両親が来てて……粉々(こなごな)にした? 会えるのはまた今度ですね……」くらいだったろう。

 

 ひとまず、あとで奴隷商(どれいしょう)のところに行く必要があるだろう。

 サシャの代金を()()ししに行くのだ。さしあたって10倍ほど。

 

 それだけ積み増しすれば、どれほど過酷(かこく)労働(ろうどう)に身をやつしてもサシャを買い戻すなど不可能だ。

 金で解決できるのならば楽なので、あなたは金の力を存分に活用するつもりだった。

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