あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 サシャを訓練(くんれん)させ続け、やがて熊相手に(あぶ)なげなく勝つようになってきた。

 熊の攻撃を(かわ)す際に、相手の目ではなく肩を見て判断(はんだん)しろと伝えてから格段(かくだん)に良くなった。

 

 獣人には人を相手にする精神性(せいしんせい)が根付いているのか、目を見がちである。

 決して悪い判断ではないが、熊相手にそれはいささかむずかしい。

 人間よりも体が大きい都合上(つごうじょう)、目は小さく、毛に隠れて見えにくい。

 そのため、筋肉の動作の起こりを見た方が正確な判断ができる。

 

 あなたなら熊の腕の振りを見てからさきに殴り倒せるが、サシャには無理である。

 そのため、あなたが冒険者になる以前、母に教えてもらった戦闘技術の内容を思い起こしながらの教練(きょうれん)だった。

 

 

 そうして、ついにサシャが満足な戦闘力を得たことにあなたは納得(なっとく)すると、本格的(ほんかくてき)な冒険を行うことを決めた。

 

「本格的な、冒険……!」

 

 冒険と言う言葉にサシャは強く反応していた。なにか(あこが)れるものでもあるのだろうか。

 あなたも冒険心は分かる。未知を暴き立て、そこに眠る(とみ)を得ると言うのはえも言われぬ快感(かいかん)がある。

 

「いったいどんな冒険をするんですか?」

 

 わくわくとした表情でサシャが尋ねてくるので、あなたは基本的には迷宮の探索(たんさく)を行うと伝えた。

 

 エルグランドの大地には今までに12の文明が起こって来た。

 

 神々の息吹(いぶき)が大地に宿り出した、神秘主義(しんぴしゅぎ)の時代。ルス・マクナ。

 大いなる自然と神々の存在を対立するものと捉えた自然崇拝(しぜんすうはい)の時代。ベエラ・ドオ・デラ。

 湧きいずる魔力の力をこそ神の恩寵(おんちょう)(とら)えた魔法文明の絶頂(ぜっちょう)。ローナ。

 絶大(ぜつだい)科学力(かがくりょく)膨大(ぼうだい)な魔力の融合(ゆうごう)を試みた魔科学(まかがく)文明の時代。ロ・ラ。

 神々の勘気(かんき)に触れ、傷付(きずつ)いた大陸にひっそりと息をひそめた抑圧(よくあつ)の時代。ゼン・デンド。

 エルグランドを物理的にふたつに割ったと言われる闘争(とうそう)悲劇(ひげき)の時代。マクナ・イス・デオリス。

 過去の超文明の遺産を継承(けいしょう)し、エルグランドに複数の国家が(おこ)った叡智(えいち)の時代。エ・セラ・テール。

 純粋な科学技術による超文明と、神秘を否定する物質主義(ぶっしつしゅぎ)の時代。エムド・イル。

 暗黒(あんこく)混沌(こんとん)、神々と神々の闘争と、人類が神々への叛逆(はんぎゃく)を知った時代。イリオク・ドンゼ。

 神々への挑戦。融和(ゆうわ)協調(きょうちょう)による人類の結束(けっそく)と、神々を新たに生み出さんと(こころ)みた時代。オゼラ。

 神と人の戦い。絶大な力が激突(げきとつ)し、空に浮かぶ星々をも砕いた時代。イ・ド。

 

 過去の遺産が眠る大地に人々が(つつ)ましやかに暮らす、幻想(げんそう)と現実の時代。シ・エラ。

 

 そうした数十万年に及ぶエルグランドの歴史(れきし)の中において、あなたはシ・エラの時代に生きる人間だ。

 シ・エラの時代において、神々の大いなる息吹は大地を()り動かし、過去の超文明の遺産が眠る遺構(いこう)がときおり姿を(あらわ)す。

 冒険者とは、そうした場所を(さぐ)る者たちである。

 

 この辺りでどうなっているのかは知らないが、財宝(ざいほう)の眠る遺跡(いせき)くらいはあるだろう。

 そうした場所を探り、誰も手にしたことのない宝を得る。これほど楽しいことは早々無い。

 

「迷宮の探索(たんさく)ですか。それじゃあ、迷宮のある町に向かわないとですね」

 

 町中に迷宮がある町なんかあるのか。あなたはそうした疑問をサシャにぶつけると、逆にサシャが首をかしげた。

 

「迷宮の周りにはもちろん町がありますよ。いえ、迷宮の周りに町が出来る……と言う方がただしいとは思うのですが」

 

 それはそうであろうが、町ができるほどの長期間(ちょうきかん)にわたって迷宮が存在し続けるのだろうか?

 神々の大いなる息吹による地殻(ちかく)変動によって、迷宮は長くとも1年以上存在することは無い。

 そのため、よほど大規模な迷宮であっても周辺に町など存在することはない。精々、キャンプ地点になる程度(ていど)だ。

 

「ご主人様の故郷ではそうだったんですね……この辺りでは迷宮はずっとあり続けるものですから。迷宮からは莫大(ばくだい)な財宝や、絶大な力を持った武具が得られるんだそうです。最下層(さいかそう)ではとても強大なモンスターがいるんだそうです」

 

 その辺りはあなたの故郷とさほど変わらないようなのであなたは安心した。

 この世界のことはよく分からないが、そうした迷宮に潜るのが楽しみである。

 

「でも、迷宮に潜るには実績(じっせき)が必要ですよ」

 

 突如としてサシャから投げかけられた言葉に、あなたは固まる。

 実績とは。冒険者の実績とは迷宮に(もぐ)って得るものではないのか。

 

「そう言った部分もあると思いますが……冒険者ギルドの仕事を達成して、強さをある程度証明しないとダンジョンに潜る許可が出ませんよ」

 

 なんともめんどうな話である。めんどうな規則(きそく)力技(ちからわざ)で曲げるのがあなたたち冒険者だが、冒険者ギルドに(さか)らうのは(かしこ)いことではない。

 そのため、あなたもそうした規則に逆らうつもりはなく、仕方なく実績を積むこととした。

 問題は、その実績とやらをどう証明(しょうめい)すればいいのかである。

 

「……やはり強さを見せつける依頼であればいいのではないでしょうか?」

 

 となると、何かしらの討伐(とうばつ)、あるいは護衛(ごえい)依頼であるが、確実なのは護衛である。

 討伐では遠隔地(えんかくち)の討伐を命じられることもあるが、護衛ならば確実に(そば)目撃者(もくげきしゃ)がいる。

 そのため、あなたはギルドに出向いて仕事を請けることとした。

 

 だが、その前にと、あなたはサシャを抱きしめた。

 

「あぅ? ご主人様?」

 

 サシャの柔らかな耳を、あなたは唇ではむとくわえる。

 あなたは冒険中にはしたなくも野外でいたすような真似(まね)はしない。

 立ち寄った町の宿であるとかなら別だが、野外ではしない。

 自分と相手の艶姿(あですがた)を誰かに見せるつもりなど毛頭(もうとう)ないのもあるが、単純(たんじゅん)に危険だからでもある。

 

 そのため、今日はたっぷりと(たの)しむ。

 

「た、たくさん、するんですか?」

 

 今夜は寝かさない。ふつうに朝までコースかもしれない。

 その場合、睡眠不足で冒険には出れないのでもう1日たっぷりと愉しむ。

 いや、そうしよう。冒険はあさってからだ。

 

「は、はぅぅ……せ、せめて、やさしく……おねがいします……」

 

 あなたはがまんできそうになかったので、約束はできないとだけ答えてサシャをベッドに押し倒した。

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