「お待たせ! 腕が立つ人、上から順に連れて来たわ!」
ヒャンの都市で最も腕利きの魔法使いがサーン・ランドに転移で向かい。
そして連れて来たレインがヒャンにマーキング。
『引き上げ』で帰還し、再度サーン・ランドから人を連れて来る。
そうして連れて来られたのは、言葉通りにサーン・ランドの腕っこき冒険者だ。
「ほう、ここがドワーフの都市かえ」
「いろいろと小さい作りだから頭ぶつけそうだねぇ。姉者は心配いらなさそうだけど」
「まぁのう」
サーン・ランド冒険者学園の講師、エルマとセリアン姉妹。
別世界出身のエルフと獣人だが、別世界にもドワーフはいたようだ。
「ここがドワーフの都市でござるか」
「ドワーフと言えば、鍛冶や宝石細工が得意なんだったな」
「トモちんにつける貞操帯でも買ったらどうだ」
「意味ねぇよ。勃起したら弾き飛ばすから。叩くと金属音するんだよな、あのブツ」
「できないし鳴らないよ!? って言うか勃起するもの今ないからね!?」
「いや、叩いたら音がするだろう。チン、チンって」
「しょうもなさすぎて死に至りそうでござる」
そしてサーン・ランド冒険者学園1年生、ハンターズ。
相も変わらずのコメディアンぶりだが、本業は冒険者。
それも大型モンスター討伐専門の腕利きだった。
今回の状況には最適の人選と言えるだろう。
「フィリアさん!」
そしてEBTGの頼れるレズのサディストにして魔法剣士、キリムのサシャ。
もちろん完全武装状態で、持てる限りの道具も持ってきた様子だった。
「サシャちゃんも来てくれたんですね!」
サシャまで来てくれるとは思っていなかった。
予想外の展開に、思わずフィリアに笑みが浮かぶ。
サシャが腕利きなのは間違いない。
だが、サーン・ランドには学園の生徒でない冒険者もいる。
そうした者と比べれば、サシャよりも上の冒険者は何人かいるのだ。
「私は『ポケット』と『四次元ポケット』で物資を運べるので、それで抜擢されたんです」
「なるほど」
レインでも同じことはできるが、身体能力的な限界がある。
サシャは最低限の魔力と、驚異的な身体能力があり、可搬量が最も多い。納得の人選だった。
「こんにちはフィリアちゃん! こんにちはおっぱい! 私もお手伝いしますよ!」
「れ、レナイアさんもいらっしゃったんですね……か、歓迎します」
フィリアの胸に個別にあいさつする異常性愛者、レナイアもいた。
頭はおかしいし、性癖も常軌を逸しているが、こんなのでも腕利きなのだ。
これを連れて来るくらいなら、他の人を連れて来て欲しかったが。
他にレインの連れて来たメンバーは見知らぬ人間がほとんどだ。
金髪の女たらしは面識がある者がいるようで、何人かにあいさつをしている。
全員が女なあたり、ナンパしたことがある相手なのだろうという予想が立つ。
防衛戦の準備が急ピッチで進められていく。
破損した城壁をドワーフたちが魔法で修復。
連れて来られた魔法使いたちが魔法によって追加の防備を整える。
「なるほど、『力場の壁』を多数展開して町を覆ったと。凄まじい力業じゃな。おぬしの魔力量だからこそ、じゃのう」
「他になにか手立てとかある?」
「要塞や壁を作るとかならいくらか心当たりはあるが……巨人やドラゴンの軍勢に通用する手となるとのう……」
「まぁ、そうだよね」
「侵入を防ぐための位置取りや、配置に関しては儂が計算しておく。なんとかなるじゃろう。触媒もたんまり持ってきたわい」
「さすがだね、エルマ。お礼は今度、ベッドの上でね」
「礼は要らん。おぬしがちゃんと生き延びてくれるのが最大の報酬じゃぞ」
「エルマって優しくて素敵……そう言うお母さんみたいなこと言われると……エルマの母乳が飲みたくなってくる……!」
「なんじゃって?」
「よし、防衛戦がんばろうね!」
「う、うむ……母乳……?」
金髪の女たらしはここに交じって、大量の魔力を必要とする作業の担当となっていた。
「魔力が空っぽよ! 寝るわ!」
大量の人間を運べるレインは転移魔法発動マシーンにされていた。
サーン・ランドのほか、王都を筆頭に転移で移動。
そうして各地の巨大都市、大都市へと応援を要請していた。
ヒャンはそこまで商業規模の大きい都市ではない。
そのため、掻き集められる人間に限りはあるが……。
そのためにレインは転移魔法を使える限り使う。
魔力が枯渇したら、魔力回復のために薬草やらを食わされ、無理やり眠る。
魔力の杖による回復もあるのだが、あれには回数制限がある。
補充は金髪の女たらしでないと不可能だが、いまは時間を割けない。
結果、補充が利かないので最低限の使用に留められていた。
「あぐぐぐ……あ、足が……体が……全身ばきばきです……」
そして、人間ではなく物資を大量に運べるサシャも同行して大回転だ。
『四次元ポケット』は魔力消費量的に回数に限界がある。
そのため主力は『ポケット』になり、限界ギリギリまで荷物を入れては運んでいた。
他の人間の30倍も50倍も荷物を運べるものだから、その活躍は尋常ではない。
その代償として、重量物の運搬で全身が軋みを上げていた。
「ぶへっ、ブヘヘヘッ……! サシャちゃんの足! 足! ブヘヘヘ! すべすべしてきもちぃ!」
信仰系魔法の使い手でもあるレナイアが、そのサシャを専属で回復させている。
怪我人の類はほとんどフィリアが回復済みだったため、神官の出番はこれくらいしかなかった。
絵面は回復と言うか、変態性欲を満たす変態と、その被害者と言った感じだが。
「もっと、丁寧にさすってくださいね、レナイアさん。へたっぴだとお仕置きですよ」
「かしこまりっ! こんな感じでございますかサシャちゃん!」
「んー。顔、こっちに寄せてください」
「はい!」
「はい、ご褒美ですよ」
「はぶっ! ふへへ、ご褒美のビンタきもちぃですぅ! もっとぶってください! サシャちゃんのビンタしゅごいの!」
「サシャちゃん、ですか」
「お許しくださいサシャ様!」
変態性欲を満たす変態と、その被害者がコロコロ入れ替わりつつも、なんだかんだうまく行っていた。
「ほう、鱗の形状はアルトスレアのいずれとも合致せんな……」
「というか形態の違いが激し過ぎる……ドラゴンではあるが、どれも完全に別種だろ」
「足が6本あるんでござるが……前足、後ろ足、翼で6本あるでござろうこれ。なにから進化した生物なんでござるか、こいつら」
「形態の差が激し過ぎる。同系統ですらないと思うんだけど、どう?」
「あくまで外見が似ているだけなんでござろうな。まぁ、鱗の配置や筋肉の構造は大体わかったでござる」
「脳みそのサイズ的にどうなんこれ? 打撃通りそう?」
「首の太さ的に通りづらくはあるだろうけど、入らないわけじゃないと思うよ」
「皮の強度がハンパじゃないが……まぁ、切れんこともないな」
ハンターズを筆頭に、ドラゴンを解剖し、その特性を見定めている。
相手を知り尽くせば、その弱点をも理解するのは必然と言える。
戦いを有利に進めるため、相手を知る。狩人には必須の心構えだった。
「しかしこっちの巨人はマジなんなん? アルトスレアにも、この大陸にもこんな巨人いねぇだろ」
「それ言ったらあのドラゴンだって見たことないのばっかりだぞ」
「一応、ゴールドとかシルバーとか、そう言う区別はまだわかるんでござるが……亜種くらいの形態的差異があるでござる」
「フィリアちゃんが聞いたことのない言葉を発していたって言うから、別次元出身なのかもって言ってたけど」
「エルマ婆さんの占術でなんかわかんねぇの?」
「定命の存在の力が及ばない強力なレリックで引き起こされたらしいことは分かるそうだ」
「それ以上は分からないとのことだ。使い手の力量がエルマの遥か上を行くせいで、レジストされたそうだ」
「ええ……エルマ婆さんより格上とか世界滅ぶよ」
「それ」
「世界滅ぶ前は腹いっぱい寿司食いてぇでござる」
「世界滅ぶ前に仕事してる寿司職人いるのかな……」
「つーか最後の晩餐が寿司でいいんかよ。もっとこってりしたもん食いてぇ」
「まぁ、寿司を食わないと死ぬぜって感じの人もいるかもしれないですし」
「世界最後の日だったら寿司食わなくても死ぬんだよなぁ」
「言われてみればそうでござる」
そんな漫談染みた作業ではあったが、たしかに各々の知識は深まっていった。
その知識を噛み砕いて解釈し、それぞれにあわせて知識を流布していく。
少しでも有利に戦えるように、環境と知識面を整備する。
ボルボレスアスの狩人の常套手段であった。
「しかしよぉ、思った以上に数多いぞこれ。あの女たらしから解体の委託されたけど、取り分2割は安いわ……」
「最初聞いた時は、解体するだけで2割は破格と思ったんだがな……」
「追加料金取っても許されるレベルですよねこれ……」
「まぁ、請け負った以上はがんばるしかないでしょ……」
同時に、金髪の女たらしから委託された解体もこなしていった。
巨人はともかく、ドラゴンには素材としての価値がある。
そのため解体して売り捌けば随分と金になるのだ。
しかし数が数なので解体はだるい。
なにしろ数百どころか千にまで届こうかという数だ。
これを夜までにこなせと言うのだから、2割では安いのはたしかだった……。
日が昇り、やがて日が暮れ、夜が来る。
城壁に盛大にかがり火が灯され、冒険者と兵士が警戒する。
城壁の内側、その際では肝っ玉の太いおかみたちが炊き出しをしている。
同様に肝の据わった鍛冶師や神官たちが待機し、武具の応急修理や回復を行うつもりでいた。
ヒャンの都市、その全てを挙げての防衛戦。
いったいいつまで続くかも分からぬ持久戦であった。
緊張が高まる中、金髪の女たらしがどこからか連れて来たオークを絞首台に吊るしていた。
親でも見分けがつかなそうなほどに散々に殴られており、顔は倍以上に腫れあがっている。
首ではなく胴体を縛って吊るしているので死ぬことはなさそうだが、逆になんの意味があるのか謎だった。
「……なにをしてるんですか?」
「オークを吊るしてるんだよ。この絞首台には『不死身』の魔法が込められててね」
「『不死身』ですか。なんだかすごい効果のように聞こえますが……」
「大したことないよ。これに固定されている限り死ななくなるだけ」
「大したことのように聞こえますけど」
「でも全身拘束された状態で不死身になってもねぇ」
「それはそうではあるんですけど……」
「これの用途なんて過激な拷問くらいでしょ? だから『パンチングバッグ』とか呼ばれてるんだけどさ」
パンチングバッグとは、打撃系の格闘技で練習に用いる道具だ。
殴りつけて打撃の感覚や、筋力強化、そして打撃部位の部分強化をする。
転じて、無抵抗に殴れる相手のことをそう呼ぶことがある。
この場合は両方の意味だが、後者の方が強そうな感じだった。
「知らないと思うんだけど、『
周辺数メートルを一挙に薙ぎ払うだけの技だが、シンプル故に強い。
金髪の女たらしのような超級冒険者が使えば、それだけで殺戮の嵐が吹き荒れる。
「まぁ、大技ではありますよね。それがどうしたんでしょう?」
「『剣群』を連発するのには体力吸収効果のある武器で敵から体力を奪って解決するのが一番楽なんだよね」
言いながら取り出したのは、かつてソーラスで使っていた剣だ。
攻撃を命中させれば、それだけで体力と魔力を回復できる効果がある。
こちらでは北方風、エルグランドでは東方風と呼ばれる様式の片刃の剣だ。
「あ、もしかして、この『パンチングバッグ』は安定して体力を回復できるように?」
「正解!」
女たらしが吊るされたオークを突く。
悲痛な声が上がったが、傷が瞬く間に塞がっていく。
女たらしは体力が回復した実感があったのか、剣先の血を拭って鞘に納めた。
「この状態だと避けようがないから確実に当てられる。回復アイテムとしては最適ってわけ」
「なるほど。倫理としてはどうかと思いますが、効果は抜群ですね」
「でっしょー? まぁ、それだけが理由じゃないんだけどね」
などと言いながら、昨晩も使っていた剣を抜いてオークを突き刺しだした。
奇妙なほの白い輝きを持つ剣であり、たしか銘は『神々の黄昏』と言ったか。
何か特別な武器らしいが、フィリアは詳しいことは聞いていないので不明だった。
「お姉様、敵とは言え無暗に痛めつけるのはどうかと……」
「いやいや、ちゃんと意味があってやってるんだよ。この剣には特別なエンチャントがされててね」
そんな話をしていた時だ。
突如として大地より火が吹き上がり、死を孕んだ風が吹き出した。
「お姉様!」
「来たね、『終末』が」
「『終末』……たしかに、そう表現するほかにない光景ですね……」
異次元から染み出るかのように現れ出る巨人とドラゴンの群れ。
吹き荒れる焔が風に乗って舞い、2人の頬を熱く撫ぜていった。
既に展開済みの結界に阻まれる『終末』の軍勢の威圧感に、そこかしこで悲鳴が上がっている。
「じゃあ、行ってくるよ、フィリア」
「はい、ザイン様のご加護があらんことを!」
「ありがとう。フィリアも気を付けるんだよ」
そう言い残し、金髪の女たらしが結界の外へと飛び出して行った。
それを見送り、フィリアがバスタードソードを抜き放つ。
昨晩の壮絶な激戦の成果か、より一層強くなった実感がある。
生命力が格段に向上し、さらには待望の第7階梯にまで手が届いた。
大都市における超一流。王都でも一握りの到達者である。
冒険を果たせば、その赫々たる戦果は国中に名が知れ渡るほどだろう。
「お姉様……」
それを遥かに上回り、圧倒する者。
フィリアがお姉様と慕う、エルグランドの冒険者。
いまだ道は遠く、しかして手を伸ばすことを止めず。
周りを見渡せば、同じ相手にたらし込まれた人たちの姿。
共にエルグランドにまで渡ろうと思っている者は、そう多くはないだろうが。
ある意味では、ライバルと言える者たちでもある。
二重の意味で負けていられないと、フィリアは苦笑しながら剣を構えた。
今宵もまた、朝は遠かった。
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