2日目が終わり、だれもが安堵した。
3日目が終わると、不安が見え隠れした。
4日目になると、多くの者が絶望に打ちひしがれ出した。
終わりの見えない襲撃に、誰もが諦めかけた。
そして5日目、王都や各地の巨大都市からの応援が現れだした。
ドラゴンが狩り放題な上、巨人族の魔法の武具がいくらでも手に入る。
そんなウワサが広まり、各都市における一流、超一流が集い出した。
巨人はともかくとして、ドラゴンはそれそのものが財宝のようなものだ。
住居に攻め寄せることができれば、そのドラゴンが集めた財宝までも懐に入れられる。
今回は家探しはできないが、その血肉に鱗や皮だけでも十二分な価値があるのだ。
ドラゴンや巨人をも討伐可能なチームが集い。
また複数チームで連帯すれば同様に討伐可能なチームが多数集った。
防衛の安定感が格段に増し、誰もが希望を見出した。
同時に、ゴーレムが現れだした。
見たことのない同型のゴーレムが多数現れ、それは強い冒険者を優先的に狙って襲い掛かった。
多大な犠牲を出しながらも、数百のゴーレムを破壊した。
女たらしが「よく倒せたね……」と驚くほどの成果だった。
6日目になると、金髪の女たらしが疲れ始めていた。
疲れたというか、戦う意欲をなくしだしたというか。
もうやめて帰らない? みたいなことを言い出した。
ここで抜けられたらヒャンの防衛線は瓦解する。
誰もがみな慌てて止め、なんとかしてとどまってくれるよう引き留めた。
そこでEBTGメンバーが入れ知恵をし、ドワーフのきれいどころが女たらしのところに派遣された。
筋骨隆々の美しい肢体と、ふさふさとした豊かでなめらかな美ヒゲの美女たち。
そんな美女に囲まれ、女たらしはご満悦だった。
そうしてなんとか気を持ち直した女たらしが、またも孤軍奮闘。
しかし、やはりモチベーションは地にまで落ちている様子だった。
7日目。初期から防衛に参加していた者に限界が見え始めた。
休息は取っていても、精神の疲弊が無視できない領域に達しだした。
金髪の女たらしも同様に疲弊しているというか、だるそうに戦っていた。
それでも圧倒的な強さで敵を薙ぎ払ってはいたのだが。
あからさまに疲れているというか、気力がないというか。
無気力さに支配され始めた、悪い兆候と歴戦の者ほどそう見た。
そして、間もなく夜の明ける頃のことだった。
女たらしがかんしゃくを起こした。
「もういい! もうたくさんだ! 『終末』を破壊する!」
なんだかよく分からない宣言をして、杖を取り出したのだ。
以前、対抗演習の際に使った本気で戦うための装備だった。
「来れ来れ。
並みの魔法使いが何百と枯死するほどの膨大な魔力が吹き荒れた。
魔力は空に数多の黒点を穿ったかと思うと、それは溢れ出した。
夜明けを目前とし、疲れ果てて眠っていた者も目覚めるほどに耳障りな音を立てて。
蟲は滝のように溢れ出し、おぞましい翅音を立てて襲い掛かった。
ハチのような牙を持ち、トンボのように強靭な翅を、カマキリのように鋭い爪を。
殺意と言う形が蟲となって現れたのならば、それはそんな形をしているのだろう。
それは目に映ることごとくを無差別に襲い出した。
巨人の肉を抉り、切り裂き、食み。残るのはただ骨だけ。
ドラゴンですらも例外ではなく、その鱗をも引き裂いて蟲たちはひたすらに喰らった。
『ヴァーミン・テンペスト』
それはエルグランドの第3期文明ローナの時代が生み出した破滅の叡智。
滅びの呪文と謳われたもののひとつであり、エルグランドにおける究極破壊兵器に数えられることもある魔法だった。
巨人とドラゴンの肉を食い尽くして、なおも飽き足らぬ食欲。
ヒャンの都市、そこに住まう人間へと、蟲たちが一斉に襲い掛かった。
「来れ来れ。恐怖の稲妻を下し、苦しみの風を吹き起こせ。その
それに対応するように放たれたのは『フィアフルストーム』。
紅の
『ヴァーミンテンペスト』と比較して『フィアフルストーム』は大した威力がない。
この呪文の最大の特徴は効果範囲であり、町ひとつを飲み込むほどの凄まじい範囲を持つ。
効力の余波と言う意味では町ひとつを滅ぼせる呪文は数多あるが。
町ひとつを効果範囲として飲み込める呪文はきわめて稀だった。
その
大地に厚みを作るほどに、蟲の死骸が積み重なっていく。
おぞましい嵐はおぞましい風によって捻じ伏せられた。
……こうして、ヒャンの都市を襲った『終末』は収束を迎えた。
はじめに、誰かが疑問気に歓声を上げた。
本当に終わったのかと不思議そうに。
やがてそれに呼応するように声が広がり。
遂には歓喜の声が爆発した。
夜明けを前に襲撃は終わった。
自分たちは生き延びた。
きっとこれで終わりだ。
1週間でキリがいいしと。
そんな歓声だった。
それは何の確信もない歓声だったが。
そうでも思わないと、誰もやっていられなかった。
もう、誰もかれもが限界に達していたのだった。
疲弊しきったヒャンの都市は、瓦解寸前だった。
皆が泥のように眠って、不安と共に8日目の夜がやって来て。
そして、恐ろしいほどに静かな夜に、誰もが涙した。
「終わった……終わったんだ!」
「俺たちは生き延びた! やった! やったぞぉぉぉお!」
「うおおおおおおおおおお! うおおおおんっ! うおおおん……!」
「秘蔵の酒を開けるとするかよ! 今日は儂の酒をみんなに飲ませちゃる!」
「酒蔵を開けろぉ! 1週間分飲むぞ!」
やがて歓喜が爆発した。
1人また1人と、酒を求めた。
そして酒蔵がそれに応え、酒を出した。
大いに飲み、大いに歌った。
そして、『終末』の犠牲者たちが、その宴に参加し始めた。
金髪の女たらしが持ち合わせていた魔法、『
それは範囲化された最高位の蘇生魔法であり。
肉片1つ残らぬ犠牲者すらも蘇生を可能とする。
生還者に歓喜し、涙し、喜びを分かち合った。
この喜びを分かち合うものは酒杯を持てと、口々に叫んだ。
そうできぬものは泣く泣く立ち去るがいいと謳った。
こうして、ただ1人の犠牲者もなく、その事件は終わった。
ユールスの姉妹が解決に導いた『ヒャンの終末』。
最後に放たれた『ヴァーミン・テンペスト』により首謀者は死んだと目されたが。
結局は詳細不明に終わった大事件だった。
後味の悪い結果になったものの、そうなるらざるを得なかったのだろう。
生還の宴をし、大いに歓喜を分かち合い。
ヒャンの都市は復興に向けて動き出し。
町を救った英雄、ユールスの姉妹を讃える銅像を作ろうなんて話になった。
2人揃って固辞したのだが、ドワーフに押し切られた。
落成式典にはぜひ来てくれなんて言われてしまった。
町を救った報酬の支払いも提案されたが。最低限のみ受け取った。
女たらしは金に困っていないし、フィリアに金を支給しているのは女たらしだ。
そのため、本当に最低限のみ受け取った。するとドワーフたちはますます感動した。
銅像に金箔を貼ろう、眼は宝石で、服のボタンも宝石だ、なんて盛り上がっていた。
そうしてなにもかもが終わり、応援に駆け付けた者は魔法で帰還していき。
入れ替わるように、ドラゴン素材や巨人サイズの魔法の武具を買い付けに来た者たちでヒャンの都市は賑わった。
フィリアらは大変な勢いで歓迎されたものの、次の卒業試験があるからとサーン・ランドへの帰還を強行した。
「銅像の完成式典は絶対にブッチしようと思うんだ」
「私もそうしようと思います……」
ヒャンの都市からサーン・ランドに繋がる街道。
そこを金髪の女たらしと共に歩いている。
魔法で帰還してもよかったのだが。
せっかくだから歩いて帰ろうとフィリアが提案した。
自分たちが守ったヒャンの都市を、遠景から見たかったのだ。
「お姉様、結局あれって、なんだったのでしょうね」
「あれ?」
「お姉様が『終末』と称した、巨人とドラゴンの軍勢が襲い来る、アレです」
「ああ、なんなんだろうね、あれ。私にもよくわかんないよ。研究しようとか思ったこともないし」
加えて言うなら深く考えたこともなかった、と言った調子で応える女たらし。
「まぁ、ドラゴンの肉もたくさん手に入ったし、魔法の武具もたくさん手に入ったし、いいことなんじゃない」
「そんなに簡単な話でしょうか……お姉様のお蔭で被害は本当に最小で済みましたが」
もし金髪の女たらしによる最高位の蘇生魔法が無かったなら。
ヒャンの都市、その人口の6分の1が死に至る壊滅的被害が。
応援に駆け付けた冒険者200余名にも及ぶ犠牲者が、すべてそのまま。
マフルージャ王国の冒険者人口にも甚大なダメージが入ったし。
希少金属の採掘を担うドワーフの山岳都市は下手をすれば放棄されていただろう。
まさにマフルージャ王国を救った救世主と言ってもいいくらいだ。
しかし、いつものと違う剣を振るうお姉様の姿は本当に美しかった……フィリアは感慨深げに頷く。
『神々の黄昏』なる剣は、ほの白い不可思議な輝きを宿した美しい剣だった。
見ているだけで美しいと思わされ、振るえば白い軌跡が浮かび上がって酷く幻想的だった。
「あれ。そう言えばお姉様」
「ん?」
「あの『神々の黄昏』と言う剣はどうしたんですか?」
ふと女たらしの腰元を見やれば、剣帯にはいつもの剣が吊るされている。
不可思議な文字による装飾の入った奇妙に美しい『神々の黄昏』の鞘ではない。
同時に使っていた、北方風の剣も吊っていないようだった。
「ああ、あれ。あれは普段使いできる剣じゃないから仕舞ったよ」
「普段使いできないんですか、あれ」
「うん。剣としての性能はまぁまぁなんだけど、やっぱりあれじゃ不便だからね。あんなのあちこちで出来ないしさ」
「はぁ……?」
何に対しての話かよく分からず、フィリアはあいまいに頷く。
頭の回転の速さの差か、それとも単に女たらしの頭がおかしいからか。
このように会話がうまくかみ合わずに話が進むことは多い。
「まぁ、そう簡単に発動するようなものでもないんだけどね。ふつうに使ってると、発動前に敵を倒し切っちゃうこともあるし。だからこそ『パンチングバッグ』なんか使うんだけど。体力吸収効果武器の効果を確実に発動させられるのも相まって、1家に1台『パンチングバッグ』欲しいよね……こう、プレイとかにも使えちゃったりなんだりして……実は意外とレアだったりするしさ……」
なにやらうつむいてブツブツ呟く女たらし。
なにやら変なポイントを突いてしまったらしい。
「えっと……あの、お姉様。そう言えば気になっていたのですが」
「なーに?」
「どうして『ヴァーミンテンペスト』と言う呪文、すぐに使わなかったのですか?」
「ああ、あれ。あの魔法ね、私べつに制御してないんだよね」
「制御してない……?」
「うん。あれ、召喚魔法の類だから。蟲を召喚したらそれで完了だよ。あれは蟲が勝手に暴れてただけ」
「待ってください。もしや最後に私たちの方に向かってきていたのは」
「うん、『フィアフルストーム』で迎え撃たなかったら、私たちがムシャムシャ食べられてたね」
「えええええ……」
知らぬ間に間一髪命を拾っていたと知り、フィリアは戦慄する。
一歩間違えたらヒャンの都市の全生命が貪り食われていた。
『フィアフルストーム』を使えばおおよそ始末出来るのだろうが。
万一に討ち漏らしたら、それだけで大惨事だ。
使い渋るわけだ。フィリアがそのように納得する。
「まぁ、終わりよければすべてヨシでしょ。ちゃんと犠牲者も全員蘇生したしさ」
「そうですね。ヒャンの都市の復興は大変でしょうけど、ぜひ頑張って欲しいですね……」
「そうそう。だからまぁ、今回の件に関しては色々と許して欲しいなメンゴメンゴって感じ」
「許す……? えっと、何をですか?」
「ん? そりゃあ『終末』に関してだよ。あんな感じになるなら、最初からフィリアにもっといい武具とか支給しておくべきだったよ。それならもっとフィリアも経験を積めたろうし」
「そうかもしれませんが、さすがにそんな予測はできなかったでしょうし……しかたないことです。お姉様が責任を感じることではありませんよ」
「そうかな? まぁ、たしかに予測はできなかったね。あんなに凄腕冒険者がぞろぞろと集って来るとは思わなかったしさ」
「たしかに……この王国にはこんなに腕利きの冒険者がいたんだなぁ……って驚きましたね」
噛み合っているようで、実はあんまり噛み合っていない。
そんな会話を交わしながら、女たらしとフィリアはサーン・ランドへの歩を進めていく。
もうすっかり忘れていたが、卒業試験は無事成功したと思っていいだろう。
むしろあれでもっとうまくやるようにと言われたら、どんな大英雄でも卒業できない。
って言うかなんなら、あの一件だけで卒業確定にしてもらっても許されるだろう。
「帰ったらさ、フィリア」
「はい?」
「私の部屋に遊びに来ない? 1週間ずっと戦い通しだったし……」
「……はい。ぜひ」
女たらしもドワーフの綺麗どころを派遣された以外は禁欲状態だった。
戦闘中はもちろんのこと、そうでない時も誰もが防衛戦の準備で大忙し。
娼婦ですら人手として駆り出されていたほどなのだから。
当然、冒険者組も昼間は疲れを癒すために眠るか休むか。
フィリアも泥のように眠り続けていたので女たらしの相手はしていない。
おたがいにたくさん溜まっている。さぞかし激しい夜になるだろう。
「たくさん可愛がってくださいね、お姉様。レナイアさんにえっちな目線で見られて、私怖かったです……」
「おお、よしよし。レナイアにはきつく言っておくからね」
「お姉様ぁ……」
激しい夜を予期させるように、歩きながらいちゃつく2人。
いまから情感を高めておいて、夜にはさぞ盛り上がるのだろう。
どうしようもないやつらだった。
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