あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 またも男性が重傷(じゅうしょう)を負ったが、あなたの手によって治療(ちりょう)されたので問題(もんだい)ない。

 

「2人ともたいへんお強いんですね。戦闘のある依頼(いらい)十分(じゅうぶん)こなせそうで安心しました」

 

 エルグランドでは及第点(きゅうだいてん)くらいなものだが、こちらではそうでもないらしい。

 冒険者学園とやらはいったい何だったのだろう。あるいは戦闘能力に(かたよ)り過ぎたエルグランドがアレなのか。

 どちらが標準(ひょうじゅん)でないかと言えば、エルグランドなのは間違いないと思われる。

 

「とは言え、大きな実績(じっせき)もありませんので……それほど困難(こんなん)でないことが予想(よそう)される護衛(ごえい)依頼などが(おも)となりますが、よろしいでしょうか?」

 

 それでかまわないとあなたは応える。

 

「いまのところはこのような依頼がありますが、どうされますか?」

 

 提示(ていじ)された紙切(かみき)れの内容(ないよう)を目で追うと、言葉どおりに護衛の依頼である。

 細々(こまごま)とした条件(じょうけん)(ちが)いがあり、食事の支給(しきゅう)ありだとか、移動(いどう)の際は馬車に同乗(どうじょう)であるとかいろいろとある。

 あなたはそのうち、食事支給無し、馬車への同乗もなしの依頼を()けることとした。

 

 食事の支給がない方が遠慮(えんりょ)なく料理ができるし、サシャの行軍(こうぐん)能力も見ておきたい。

 待遇(たいぐう)が悪いのは依頼者(いらいしゃ)人品(じんぴん)に問題があるわけではなさそうだ。依頼の報酬(ほうしゅう)自体はもっとも高い。

 馬車の積み荷が大きく重いので、他のものを積載(せきさい)する余裕(よゆう)がまったくないと言ったところだろう。

 

「こちらの依頼ですね。では、受諾(じゅだく)いたします。なお、この手の依頼は他冒険者チームとの共同依頼(きょうどういらい)となる可能性(かのうせい)もありますので」

 

 それについては紙面(しめん)にそのような(むね)記載(きさい)があったので把握(はあく)している。

 

「では、出立(しゅったつ)明日(あした)とのことですので、指定(してい)時刻(じこく)に指定の場所(ばしょ)集合(しゅうごう)されるようおねがいします」

 

 あなたはうなずくと、サシャに仕事の準備をするので町に行くと告げて移動した。

 

 

 

「ご主人様、なにかお作りになるんですか?」

 

 紙だのインクだの宝石屑(ほうせきくず)だのを購入(こうにゅう)していくあなたにサシャが尋ねかける。

 なにやらよく分からないものを購入しているので気になったのだろう。

 あなたはポーションなどを作る予定であると告げる。

 

「ポーション……ご主人様はポーションまでおつくりになられるんですね」

 

 ヒマだったので学んだだけである。エルグランドの錬金術(れんきんじゅつ)はさほど価値の高いものではない。

 ポーションの効果はつねに一定である。腕のいい術者(じゅつしゃ)ならいいポーションも作れるが、限界(げんかい)がある。

 その点、エルグランドの魔法には限界がない。リミッターとか限度(げんど)とか常識(じょうしき)もないので、濫用(らんよう)すると死ぬが。

 

 あなたの『軽傷治癒(けいしょうちゆ)』の魔法は最高級(さいこうきゅう)のポーションに余裕で(まさ)る効果がある。

 ポーションを濃縮し、薬効を爆発的に高めると言った調合技術もあるのだが……。

 コストパフォーマンスが悪すぎるので、やはりポーションを回復の主軸(しゅじく)には置けないのが現実だった。

 

 もちろんそれはあなたが超級(ちょうきゅう)の冒険者であるからで、ふつうの冒険者には十分有用(ゆうよう)なものだ。

 つまり、あなたにとっては水代わりに飲むものでしかなくとも、サシャには十分な効果がある。持たせる価値はある。

 

 考えてみれば、そう言った道具はわりといろいろとあるのだ。

 あなたにとってはオモチャでしかないワンドの類もサシャにとっては有用だ。

 

 ワンドとは魔法を充填(じゅうてん)した短杖(たんじょう)で、魔法を封入(ふうにゅう)したスクロールと同種のものだ。

 ワンドを使うのにもある程度の技術は必要だが、魔法を覚えていなくても使えて、魔力も使わないと便利な道具である。

 サシャにいくつか持たせておくのも悪くはないだろう。

 

 あなたはさまざまな材料を購入したのち、宿に戻ると『四次元ポケット』の中に突っ込んであった道具を取り出す。

 

 ポーションを手持ちの材料でいくつか調合(ちょうごう)する。

 

 精製(せいせい)した水と、いくつかの薬草(やくそう)。そして魔法を用い、軽傷治癒のポーション。

 同様の材料にいくつかの薬草をさらに加え、より強い魔法を用いた致傷治癒(ちしょうちゆ)のポーション。

 疲れを(いや)してくれるスパークソーダと言う飲み物。

 

「わぁ……すごいです。ポーションってこういうふうに作るんですね」

 

 この辺りではどうだか知らないが、エルグランドではすくなくともそうなのであなたはうなずいた。

 余分に作ったスパークソーダの(せん)を抜き、あなたはそれをサシャへと差し出す。

 

「しゅわしゅわしてますね。炭酸水って言うんでしたっけ。どこかにしゅわしゅわする水が湧いてるって聞いたことあります」

 

 言いながらサシャがそれを口に含むと、口の中で弾ける刺激(しげき)に目を白黒させた。

 

「不思議な感じです……でも、おいしいですこれ!」

 

 そう言ってうれしそうに飲むサシャ。スパークソーダは疲労回復にも効果がある。

 実際には、疲労感(ひろうかん)を脳に伝える臓器(ぞうき)を回復させるので、肉体疲労はそのままだったりするのだが。

 ただ、まったく疲労回復効果がないわけではないし、疲労感を回復させるだけでもだいぶ違う。

 

 あなたは作ったスパークソーダを、疲れた時に飲むようにと伝えた。

 また、小指ほどの大きさの瓶に入ったポーションは怪我をしたときに飲むように。

 

「はい、わかりました! お疲れの時はご主人様にお渡ししますね!」

 

 あなたはそれには及ばないと告げる。あなたには自前の分がある。

 あなたが(ふところ)から取り出したのは透明な薬瓶(くすりびん)にたっぷり入った円筒(えんとう)形の物体である。

 ブルーカプセルと言うもので、中にはスパークソーダの薬効成分が濃縮(のうしゅく)されて詰まっている。

 このサイズでスパークソーダと同等以上に効くので、あなたはこちらを愛用している。

 使う際の見た目が危険薬物の乱用に見える以外は非常に便利な品だ。

 

「そんなお薬もあるんですね。そちらの方が便利な気がしますが」

 

 サシャがこちらがいいというならサシャの分も用意する。

 しかし、ブルーカプセルはべつに美味しくもなんともない。

 それでもいいなら、と告げると、サシャは耳をぴこぴこ揺らしたのち、頬をちょっと赤く染めた。

 

「えと、その……こっちのほうがいいです……えへへ……」

 

 照れ(くさ)そうにサシャが(わら)い、それがあんまりにもかわいかったのであなたはサシャを抱きしめた。

 むせ返るほどに濃厚(のうこう)な命の香りと、甘酸(あまず)っぱい少女の香りを胸いっぱいに吸いこんだあなたは癒された。

 

「んぅぅ……あの、えっと……今日は、しないんですか?」

 

 おずおずと尋ねてくるサシャに、仕事が終わるまではしないとあなたは答える。

 あなたは仕事中にはそうした色事(いろごと)を基本的に(さけ)ける。どうしても色事のさなかは気がゆるむ。

 仕事のさなかにそうした油断は命取りである、と言う(いまし)めからだ。

 

「そうなんですね。分かりました。じゃあ、その……」

 

 ちょっと恥ずかしそうにしながら、サシャがすりすりとあなたに頬を寄せてきた。

 それがどういった意図のしぐさなのかは不明だ。だが、とにかくカワイイ。

 なめらかな肌の感触をほほに感じながら、あなたはサシャのあたたかなぬくもりに癒しを感じていた。

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