たっぷりの朝食を食べ終え、ゆっくりと食休みをした。
あたたかい紅茶に、たっぷりのジャムを添えてのティータイムだ。
ジャムを舐め、濃く入れた渋めの紅茶を飲む。
ゆっくりと30分ほどそうしていると、体がぽかぽかと温まって来る。
たくさん食べたことによる活力の補給。
そして暖かな紅茶によって温まる体。
これで1日頑張れる活力が湧いて来るというもの。
「たしかに、たくさん食べた方がいいのね。おなかは重いけど、体がぽかぽかするわ」
「私たちは寒い場所は不慣れですもんね……」
まぁ、あなたからすると、このくらいは涼しいの分類に入るのだが。
とは言え、この『
それを考えると、たしかにこの大陸の人間には寒いのだろう。
ともあれ、あなたは動く元気が出て来たならさっそく出発しようと促した。
まぁ、出発と言っても、相変わらず魔法で飛ぶだけなのだが。
昨日と変わらず、6段ほどの崖を超える。
そこでまたもサシャの魔力が切れて休憩となる。
「ふへぇ……」
「大丈夫? 魔力回復のお茶飲む?」
「うぅ、飲みたくないけど、ご迷惑はかけられないので飲みます……」
そこまで気を張らなくてもいいのだが。
そもそも、魔力回復のお茶の効能に関してあなたは懐疑的だ。
まぁ、正確に測れるわけでもないので、あくまで懐疑的なだけだが。
この大陸全体で深く信じられている以上、なにかしら効能はあるのだろう。
さておいて、あなたは近くの滝壺を覗き込む。
そして、その中を所狭しと泳いでいる魚を眺める。
実に立派な魚がゴロゴロといるではないか。
しばらく眺めていると、フィリアが隣に並んで水中を覗き込み始めた。
「わぁ。すごく大きい……食べ応えは抜群そうですね」
2メートル級のカッドのほか、3メートル級のツナ。
4メートル級のサメや、1メートル級のサーモンなどなど。
大型魚がうようよと泳いでおり、どれも食べ応えは抜群だ。
これほどのサイズになると、持って帰るのも一苦労だ。
そして、これだけのサイズとなると、高値が付くのだろう。
これだけの大物になると、海で獲れても内陸部に運び込むのは無理だ。
その点、このソーラスの町なら海から運ぶよりはまだ難易度が低い。
転移魔法を使えば海から運ぶことはできるのだろうが……。
さすがに、魚1匹のために金貨数百枚もするサービスを使うのは金満に過ぎるだろう。
この階層なら技能次第では稼げるという意味も分かった。
そしてだが、あなたはある点を訝っていた。
あなたはフィリアに、パスアウェイフィッシュを見たかと尋ねた。
「えっと……見た覚えはないですね。いたんですか?」
あなたも見ていない。
だが、ソーラスにある料理店。
あそこではパスアウェイフィッシュの料理が食べれた。
まさか海から運んだわけではないだろう。
そうすると、この階層で獲れるのだと思われるが。
しかし、いまに至るまで見ていないのだ。
「なるほど……するともしや、環境の違う滝壺がどこかにあるんでしょうか?」
あるいは、いちばん上まで登ると海があるとか?
この滝壺の水は真水なので、さすがにそれはないと思うが。
また、あの店では出たが、滝壺にいない魚が何種かいる。
タコとかイカがあの店では出たが、滝壺にはいない。
また、フライにされていた小型の魚も見ていない。大型魚ばかりなのだ。
「大きい魚がいっぱいって喜んでましたけど、たしかに言われてみると……」
小型の魚でもおいしいものはたくさんある。
そう言ったおいしい魚があの店では出て来た。
どれもこの階層で手に入ると思ったのだが、そうではないのだ。
やはりだが、特別な環境の滝壺があるか、最上部に特別な環境があるのだろう。
あなたは次に釣りをするのはそこだなと決めた。
じっくり休憩をし、再度魔法で登る。
早朝に登って約6~7時間の休憩をしたため、今日はもう1回登れそうだ。
あなたたちは再度の休憩を取って魔力回復を待った。
その休憩後に崖を登り……ようやく、あなたたちはこの階層の果てを見た。
あなたたちが辿り着いた地点から上を見上げても、滝が見えない。
今までにない環境の違いから、あそこがこの階層の上層と見当がついた。
「崖がないわ。あそこが最上層ってことでいいのかしら」
「みたいですね。どうなってるんでしょう?」
「やっと終わるんですね……」
結局、崖は30回も登ることになる。
次に来るまでにはサシャの魔力も増強させておきたいところだ。
とは言え、魔力量と言うのはそう簡単に増えるものではない。
どうやって訓練したものかと、あなたは今から悩み出した。
さておき、既に時刻は22時近い。
今日はちゃんとした野営をすることにした。
つまり、ハイランダー伝統様式のテントを張った。
ハイランダー伝統様式のテントは内部で火を焚くこともできる。
今回はあなたの『四次元ポケット』に蔵している薪を燃やす。
昨日は最低限の火があればよかろうと生木を燃やしたが。
あれでは火力不足のようだったし、さすがにテント内で生木は煙がきつい。
「おお……暖かい……暖かさが段違いじゃないの。なんで昨日は使わなかったのよ?」
そんな寒くなかったし……あなたの答えはそれ。
普通にマントを被っていれば寝れる程度の寒さだった。
あなたにしてみれば、このくらいの環境でテントを使うのは大袈裟だ。
「寒さに強い人間はこれだから……」
あなたは南から目線で呆れられた。
暖かいスープとパン。
そしてソーセージとチーズ。
そんなシンプルな夕食を食べた後、眠る。
テント中央では薪が赤々と燃えている。
長燃えする広葉樹の太い薪をたっぷりとくべた。
これでざっと1時間は燃えてくれるだろう。
テント内も温まるので、ぐっすり眠れるはずだ。
「さすが、北から来た人間のテントね。寒い場所で過ごせるアイデアが満載だわ」
「あったかいですね……気持ちよく寝れそうです……」
ねむねむしながらフィリアがそんなことを言う。
昨晩はフィリアも眠りが浅かったのだろう。
サシャは魔力回復のために昼寝をしていたので、そこまででもなさそうだが。
「でもまぁ、念のため、全員で寄り添って寝ましょう」
「そうですね……寒いですもん」
「私、ご主人様のとなり!」
「あ、ずるい! 私も!」
「出遅れましたか。明日はお姉様と添い寝させてもらいます」
あなたの両隣が素早くレインとサシャによって占有される。
フィリアは苦笑しつつも、明日の寝場所を確保していた。
焚火の熱にぬくもりを感じながら眠りについて、翌朝。
時折誰かが起き出して、薪を追加していたが。
それ以外では誰も目覚める様子はなく朝までぐっすりだった。
最初に目を覚ましたのはあなただった。
ぐいーっと伸びをし、テントの中を見渡す。
あなたの周りに集った面々が団子になって寝ている。
ちょっと深呼吸をしてみると、むせ返るほど濃厚な女臭さが香った。
エルグランドを思い出して、あなたはすこし懐かしくなった。
この大陸の人間はきれい好きが多い。
高温で多湿な環境が理由なのか。
水が豊富で、温浴、水浴、どちらも満足にできるからか。
どうにせよ、この大陸の人間は入浴を欠かさないきれい好きだ。
ところが、この階層はこの大陸の人間には寒いようなのだ。
そのためか、3人揃ってこの階層に到達してから入浴をしていない。
それゆえに3人の体臭と汗の匂いが入り混じった香りがする。
こういう匂いの強さもあなたは嫌いではない。
だが、これが長く続くとさすがに不衛生だ。
さすがに全員下着くらいは変えていると思いたいが……。
1度、温浴して体を綺麗にするべきだ。
あなたは温浴をするために骨を折ることにした。
あなた自身、久し振りに水浴をして温浴の心地よさが恋しくなったのもある。
みんなを起こさないよう、そっとテントを出る。
そして、すぐ近くの滝壺を眺めて適当なロケーションを決める。
満足いく場所決めが出来たら、イマイチ使いどころのない魔法を使う。
その名をズバリ、『壁生成』の魔法である。
名前通りに壁を創り出す魔法なのだが、いまいち使いどころがない。
ふつうの冒険者ならば、なかなか渋い使い方のできる魔法ではある。
通路を封鎖して、敵を袋小路に追いやったり。
逆に自分を追跡できないよう遮断したり。
危険な迷宮内で自分を覆い隠すことで安全に休んだり。
部屋を分断して遠距離攻撃の射線を塞いだり。
そんないぶし銀と言った調子の使い方ができるのだが……。
超人級冒険者になると、壁ごとき一瞬で叩き壊してしまう。
足止めもクソもないし、安全もなにもない。使いどころなどありもしない。
なんなら『メテオスウォーム』で周辺の壁すべてを消し飛ばしたりするし。
だが、今回欲しいのは、区切られた空間だ。
莫大な水量を区切り、温水を溜めて置ける空間が。
こうした用途の時に、これほど役立つ魔法もない。
あなたは滝壺の水に向けて何度も『壁生成』の魔法を使う。
この大陸でも『石壁』と言うまったく同様の魔法があるらしい。
やや使い勝手は違うが、内容はほぼ同じだ。
エルグランドの『壁生成』は分厚い壁を作れるが微調整が効かない。
この大陸の『石壁』はかなり自由に壁を作れるが、薄い。
まぁ、薄いと言っても30センチくらいはザラにあるのだが。
エルグランドの魔法は最低でも1メートルからとヤケクソ気味に厚い。
あなたが使うのは『壁生成』なので、かなり分厚く、形状も融通が利かない。
お風呂と言うより、巨大な石棺と言った風情の構造物が出来上がる。
そして、次にあなたは愛用の採掘道具を取り出す。
それを用い、あなたは石棺をガシガシ削り取っていく。
数分ほどの奮闘の後、ほどよく小ぢんまりとした浴槽ができあがった。
大理石製の浴槽とまではいかないが、なかなか立派で心地よさそうだ。
あとはお湯だが……あなたは砕いた瓦礫を掻き集め、焚火を始めた。
よく乾燥した『四次元ポケット』の薪はもったいないので、そこらの生木を使う。
多少なり温度が低いかもしれないが、火は火。それで十分だ。
魔法で湧かせればいいのだが、エルグランドの魔法でやったら水はすべて消し飛ぶだろう。
「ガンガンうるさいわね……なにしてるのあなた?」
そこでレインが起き出して来た。
採掘道具で石を成型した音がうるさかったようだ。
あなたはレインに温浴の準備をしていると答えた。
「お風呂? 入れるの?」
あの『水晶の輝き』にも負けない心地よさを約束する。
あなたは笑ってそんな空手形を切った。
あのアミューズメントパークの風呂に負けないなど、大口もいいところだ。
だが、2日ぶりの風呂というだけで最高に気持ちいいはずだ。
その点だけは保証してもいいくらいだ。
「ま、そうかもしれないわね」
レインが苦笑気味に笑う。
髪の油気を気にしている様子からすると、入浴したい気持ちはやまやまだったのだろう。
焚火でガンガンに瓦礫を熱し。
その瓦礫を『念動』の呪文で持ち上げ、次々と浴槽へと放り込む。
ジュウジュウと音を立てて熱される水。
熱石を放り込む部分と、人が入る部分は分けてあるので安心だ。
熱石は割れることがあるので、一緒くたにすると割れた石で怪我をしてしまう。
やがてほどよくお湯が温まった。
手を突っ込んでみると、思わず頬がにやける心地よさ。
あなたはレインに手を突っ込んでみろと促した。
「どれどれ……あっ……」
ふにゃんとレインの顔がゆるむ。
寒さに縮こまった体に暖かいお湯ほど効く特効薬はない。
「よし!」
髪をまとめ、勢いよくレインが服を脱ぎだした。
あなたも服を脱ぎつつ、至近距離でガン見を始めた。
頭を引っ叩かれつつも、あなたは見ることをやめない。
やがてレインが生まれたままの姿になる。
そして『ポケット』から入浴道具を取り出した。
そのうちのひとつ、手桶で豪快にお湯を被った。
「き、気持ちいい~……!」
噛み締めるようにつぶやくレイン。
そして手早く体を洗い始めた。
あなたもレインの背中を流してやった。
お互いの背中を洗い合い、全身を綺麗にしたらついに浴槽へ。
「ああ……ああぁぁぁあ~~~……」
魂が抜けるようなうめき声を発するレイン。
心底気持ちいいんだろうなぁ……と実感させられる声だ。
実際、思わず呻き声が出るほどに心地よい。
「最っ高……たしかに、『水晶の輝き』のお風呂にも負けないくらい気持ちいいわ……」
自分でやっておいてなんだが、本当に気持ちいい。
ひんやりした空気を感じながらの入浴がこれほどよいとは。
かつて旅したボルボレスアスはヒフラ地方。
あそこの温泉ではここまでではなかったのだが。
あそこは厳冬地帯で、寒過ぎるからなのだろうか?
考えごとに沈みながらお湯の心地よさにとろける。
レインも同様に、どろりとした調子でとろけている。
そうしていると、テントの入り口が開き、サシャとフィリアが出て来た。
「えっ。なにしてるんですか……?」
「お、お風呂……ですか?」
やや理解を超越した光景だったのか、2人が戸惑ったような様子を見せる。
だが、あなたとレインの蕩けた調子に、その心地よさは一目瞭然。
2人は意を決すると、すぐさま服を脱ぎだした。
もちろんあなたはガン見した。
3人に揃って頭を引っ叩かれた。
いろんな意味で気持ちよかった。
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