あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 護衛(ごえい)依頼(いらい)必要()とされるということは、旅程(りょてい)にそれ相応(そうおう)危険(きけん)(ひそ)んでいることを意味する。

 それがモンスターであるのか、危険な人物であるかは不明だが、やることは排除(はいじょ)である。そこに違いなどない。

 

 とは言え、いまのところ武力(ぶりょく)が必要となる事態(じたい)には(おちい)っていなかった。

 かっぽかっぽと馬車を引く馬を眺めながら、のんびりと歩く。おだやかな旅だ。

 サシャの様子にも気をつけていたが、なかなかの健脚(けんきゃく)ぶりを見せており、疲れた様子はない。

 

 とは言え、こう言った旅の本番は2~3日が経過したあたりからだ。

 1日目は根性(こんじょう)でどうにでもなるが、2日目あたりから加速度的(かそくどてき)疲労感(ひろうかん)が増す。

 肉体的にはなんとかなっても、精神的な疲弊(ひへい)もなかなか侮れないものがあり、足は重くなるものだ。

 

 今回の旅は、4日の予定となっている。

 くわしい地理(ちり)を知らないのでなんとも言えないが、すべて野営(やえい)だとすれば多少は苦しい旅になるだろう。

 あなたならちょっとした散歩感覚でこなせる依頼だが、サシャは違うだろう。

 

 さておき、昼時になると、イスタール商会の男が馬車を止めて大休止(だいきゅうし)にすると告げた。

 その言葉におのおのが足を止め、食事の準備(じゅんび)を始める。

 

 商会の男はパンと水で薄めたワインを食べ始める。

 オウロらは、おのおのが持ち合わせていた干し肉やパンなどを食べ始めている。

 一方あなたは『四次元ポケット』から事前に調理していた料理を取り出す。

 

 今日のメニューは薬草(やくそう)カレーパンだ。

 滋養強壮(じようきょうそう)に効果があるが、苦くて評判の悪い薬草。

 それを多種(たしゅ)香辛料(こうしんりょう)と油で煮込んだ薬草カレー。

 それをパン生地(きじ)に包み、油で()げる贅沢(ぜいたく)一品(いっぴん)である。

 それを皿に山盛りに取り出す。『四次元ポケット』に入れていたので、揚げたてアツアツのままである。

 

 サシャ、お食べ。

 

 そう告げると、パンを見てごくりと(のど)を鳴らしていたサシャが飛びつく。

 よっぽどおいしそうに見えたのだろう。いつもなら確認(かくにん)を取ってから食べるのに、すごい(いきお)いだ。

 

「はふっ、あつっ、おいひぃ……!」

 

 カリカリの外側、そしてスパイシーなカレー。そのふたつの合わせ技は美味(びみ)としか言いようがない。

 苦くて評判の悪い薬草も、強烈(きょうれつ)な香りと味を(ただよ)わせるカレーに合わせると、苦味がいいアクセントになる。

 辛味と苦味がお互いにほどよく中和されてマイルドになるのだ。薬草が加熱すると苦味がやわらぐのもあるが。

 

「すごく贅沢なパンですね、ご主人様っ。おいしいです!」

 

 たくさんおあがり、とサシャの頭を()でながら告げると、サシャはうれしそうに尻尾を振る。

 可愛らしい仕草にほほえみながら、あなたもカレーパンを頬張(ほおば)る。

 

 あまりにも美味(うま)そうな香りを漂わせるカレーパンに、イスタール商会の男も、オウロらもうらやましそうに見ていたが、あなたはスルーした。

 (ゆず)ってくれと言うなら普通に(ゆず)るが、何も言われなかったからだ。食事は自弁(じべん)なのだから、それが当たり前である。

 

 

 

 昼食を済ませても大休止は続き、その間、あなたはサシャの足を()んでいた。

 脚の疲労を抜くためであり、いやらしい意図は一切ない。あなたが興奮(こうふん)しているのはコラテラルダメージだ。

 

 しばらくそうした後、あなたは包帯(ほうたい)を取り出して、それをサシャの足へと巻き始めた。

 ケガをしているわけではなく、足を締め付けてやると、足の鬱血(うっけつ)(ふせ)ぎ、疲労軽減(ひろうけいげん)に効果があるのだ。

 そうは見えないが効果は高く、これをしているとしていないでは全然違って来る。

 それに加えて、スパークソーダを飲んでおくように告げて、疲労の回復にも気を(くば)った。

 

 あなたはペットや奴隷のご主人様であり、その指揮者でもある。

 こうしたコンディション管理は手慣れたものだった。

 

 

 そうして再出発を迎え、それから日没まであなたたちは歩き続けた。

 今夜は野営であるらしく、道から少しばかり外れた平坦(へいたん)地形(ちけい)で野営を行う。

 商会の男は馬車の中で眠るようで、オウロらは荷物から取り出した毛布やらで野営をするようだ。

 あなたは『ポケット』から携帯用(けいたいよう)の寝具を取り出し、それにサシャを寝かしつけた。

 

 あなた自身は不寝番(ふしんばん)を行う。さすがにこの不寝番はオウロらと合同で行う。

 あなたの体力がいくら無尽蔵(むじんぞう)でも眠らなければ疲れは取れない。

 最低限の睡眠はどうあっても必要なのだ。

 

 とは言え、この不寝番に際しても一悶着あった。

 

 1人起きていれば十分と言うオウロらに対し、あなたは最低でも2人は必須と答えたのだ。

 不寝番1人と言うのはあてにならない。集中力が落ちるのは当然、1人だけだと居眠りの可能性もある。

 2人ならお互い監視(かんし)になるし、別方向にも警戒が出来る。それゆえ最低でも2人なのである。

 そもそも1人しか居ない場合、不寝番する都合上どうしても焚火(たきび)が必要なため、位置がバレバレなのである。

 

 遠距離から狙撃(そげき)して不寝番1人を殺害してやれば、襲撃側(しゅうげきがわ)はどうにでもなってしまう。

 不寝番が2人、3人になるにつれてそれはむずかしくなるため、多人数の不寝番は必須(ひっす)なのだ。

 

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