あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 夜が深くなりだした頃、オウロとセアラを起こして不寝番の交代となった。

 焚火を囲んでのおしゃべりでレインと少し仲良くなったあなたは、レインを手招きした。

 毛布に体を包んで眠ろうとしていたレインは何事かと声には出さずにあなたににじり寄った。

 

 あなたは『ポケット』から取り出したパンをレインへと渡してやる。

 あなたが丹精込めて作った、さっくさくのメロンパンだ。甘くて美味しい。

 

「いいの?」

 

 楽しい魔法談義のお礼だと答え、渡す。

 返却を受け付けることなく、あなたは毛布を引っかぶって眠る体勢に入った。

 

「……ありがと」

 

 レインの小さな声にひらひらと手を振って、あなたは寝入った。

 寝入り際、レインの小さな「うまっ」と言う驚きの声を聞きながら、あなたは暖かな眠りへと落ちた。

 

 

 

 あなたは目を覚ました。

 むくりと起き上がり、毛布を『ポケット』へ。

 こちらに歩み寄って来ていたオウロに、交代の時間かと尋ねると、オウロが感嘆(かんたん)したようにうなずいた。

 

「近付くだけで目が覚めるなんてすごいな。旅慣れしてるのかい?」

 

 家にいるよりも旅路の方が長い生活を何十年と続けているので当たり前である。

 何十年、と答えたあたりでオウロが疑問気な顔をした。

 が、疲れているのかすぐに眠ると告げて毛布に体を包めていた。

 

 あなたはサシャを揺り起こす。

 正直あなた1人でもいいので寝かせてあげてもいいのだが。

 不寝番には慣れて貰わないと困る。

 

「あぅ……おかーさん、まだ暗いよぉ……も、ちょっと……」

 

 あなたは心臓に痛みを覚えた。

 ときめきとも、疼痛とも言えるもの。

 思わず服をはだけて、自分の乳房をサシャの口に含ませたい衝動に駆られた。

 それを(つと)めて抑えると、あなたはさらにサシャを揺り起こす。

 

「あぅう……なーにー……?」

 

 こしこしと眼をこすりながらサシャが起き上がり、眼をしょぼしょぼさせる。

 あなたはサシャの耳もとに口を寄せる。人間なら普通は顔の横だが、サシャは獣人。

 獣人の耳は頭頂部左右に位置するので、サシャの(ひたい)に顎を当てるような位置となる。

 

 起きないとすっごいことしちゃう。

 

 そう告げると、サシャが眼をぱちぱちさせる。

 

「はわっ。ご、ご主人様っ」

 

 ようやくサシャはあなたが母親ではなく、女なら見境(みさかい)のないご主人様だと気付いた。

 顔を真っ赤にしてぺこぺこ謝るサシャの頭を優しく撫でると、あなたはサシャの口にクッキーを突っ込んだ。

 

「ふみ? あ、おいひぃ」

 

 さくさくほろほろのクッキーに目を輝かせるサシャ。

 ミルクたっぷりのミルクティーを注いだカップも渡してやる。

 眠気覚ましには少々弱いが、とりあえず腹に何かを入れるというのは大事だ。

 食べ過ぎると逆に眠くなるが、胃に何かを入れるだけでだいぶ目が覚めるものだ。

 

「おいしぃ……はふ……」

 

 このクッキーのレシピはあなたが父から習った自慢のレシピだ。

 家族みな大好きであり、父がクッキーばっかり作ってるんだが!? とキレるだけあり、サシャにも好評のようだ。

 

「ご主人様のお父さん……ですか。どんな方なんですか?」

 

 あなたの父親はとにかく可愛い。

 なにをおいてもひたすら可愛い。

 父の種族が天性の美しさを持つ、と言われる種族であることを踏まえても可愛いのである。

 あなたは自分の父ほど可愛らしい人を見たことがない。

 

「お父さんなんですよね???」

 

 父親に対する形容とは思われぬ内容にサシャが眼を白黒させる。

 しかし、熱っぽく自分の父親の可愛らしさを力説するあなたは気付かなかった。

 淡い浅葱(あさぎ)色の髪に、鮮やかな緑の瞳。

 肌は透き通るように美しく、声は草原を撫ぜる風のように愛らしい。

 微笑(ほほえ)む姿は木漏れ日のように煌めいている。

 水辺で(たわむ)れる姿は胸を掻き乱されるほどに美しい。

 

「そう、なんです、か」

 

 サシャの中であなたの父親がどんどんわけの分からない生き物になっていく。

 あなたにしてみれば、こう表現しているんだから父親が女だというのは分かるだろうと思っている。

 しかし、サシャにとって父親と言うのは男であるのが絶対の存在だ。当たり前だが。

 エルグランドでは女同士、男同士でも普通に子供が生まれるなど、別の大陸の人間にしてみれば驚天動地の事実である。

 常識と言うのは思春期までに身に着けた偏見のコレクションであるが、あなたもその例外ではなかった。

 

「あ、あの、じゃあ、お母さんはどんな……?」

 

 あなたの母は蛮族である。

 

「蛮族!?」

 

 蛮族である。まぁ、種族的にそうであると言われているだけであって、別に母が野蛮と言うわけではないが。

 

「で、ですよね」

 

 ただ、殺した敵の首を誇らしげにあなたの父、つまりは夫に見せつけたりする癖があるだけだ。

 ちなみにその首はきちんと持ち帰り、しっかりと干し首に加工され、我が家に飾られる。

 

「……蛮族ですよね?」

 

 蛮族だと言ったはずだが、とあなたは首を傾げた。

 

「野蛮と言うわけではない……? え? 野蛮……? え……?」

 

 異文化交流とは難しいものだな、とあなたはとぼけたように呟いた。

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