あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 エロいことしたり、弟子たちをズタボロに鍛えたり。

 そんな日々が5日ほど過ぎた頃に、セレグロス辺境伯の用立てた軍の準備が整った。

 弟子たちはもっと鍛えたかったところだが、タイムリミットだ。

 

 しかし、鍛えに鍛えた甲斐はあったと言うべきだろう。

 イミテルもダイアも段違いにレベルアップすることに成功した。

 出会った当初のイミテルと、現在のイミテルが戦えば。

 現在のイミテルがかつてのイミテルを瞬殺する。

 それくらい大幅な成長をさせることに成功した。

 

 まぁ、それはイミテルの元来の実力がそこまで高くなかったことと。

 あなたの弟子である戦士団たちからも教えを乞うことができたからだ。

 やはり、どうしても訓練相手が偏ると成長にも偏りが出る。

 あなたしか強敵のいなかった戦士団はそこまで劇的には伸びなかったように。

 

 とは言え、出会った当初の戦士団に匹敵するほどの戦闘力には鍛え上がった。

 戦わせれば、サシャともいい感じの勝負をするくらいにはなったろう。

 基礎身体能力の差からサシャの方が有利とは思うが、体系だった武術の習熟度からイミテルの勝ち目も十分あると言える。

 

 ダイアも、方向性は違えど同じくらいには鍛え上がった。

 イミテルと違ってダイアには武術的な素養がない。

 なので、サシャとの勝負は身体能力と爆発力の勝負みたいな感じになりそうだが。

 それでもその爆発力で一気に押し潰せれば勝ちの目はある。それくらいにはなった。

 

 戦士団の仕上がりはまずまずと言ったところか。

 少なくとも全員ワンランク上に行ったと考えてよい。

 劇的なものではないが、成長は傍から見ていても間違いない。

 

 この集団で戦争にいけるダイアは幸せだ。

 少なくとも、あなたを含めた近衛兵は一騎当千の猛者ばかり。

 そう言う触れ込みとか誇張ではなく、シャレ抜きで一騎当千なのだ。

 雑兵相手ならば、事実として1000相手に勝利することが叶う。

 あなたたちは万端の準備を整え、出征に臨んだ。

 

 

 馬を揃え、騎乗し、多数の民たちに見送られながらあなたたちは出陣する。

 軍を用立てたセレグロス辺境伯はダイアのすぐ傍で馬を駆っている。

 そして、ダイアの出奔から付き従ったイミテルもまたそのすぐ傍で。

 

 あなたはちょっと離れたところで馬を駆っている。

 あなたは他国人なのでそのあたりはしょうがない。

 むしろ他国人なのに、ちょっと、離れた程度の場所に居れる方が凄いのだ。

 そのあたりはロクな報酬無しで求めに応じたという認識が故だろうか。

 この国の女全員とヤらせろと言うのは慎ましい願いなのだろうか?

 機会があったら、別の国でも要求したら意外と通るかもしれない……!

 

 うへうへと笑っていたあなたの額に金属の棒が突き刺さった。

 普通に痛い。思わずうめきながら棒を引き抜き、飛んで来た方を見やる。

 イミテルが物すごい顔であなたを睨んでいた。手には金属棒。

 締まりのない面を晒すなと言うことらしい。

 あなたは表情を引き締め、凛々しく馬を駆ることに集中した……。

 

 

 

 軍を進め、夕暮れ前に宿場町へと到達した。

 そして、軍は略奪の準備を始めた。なんで?

 

「王都に辿り着くまでの糧秣(りょうまつ)など運べるわけがないからな……略奪するしかないのだ」

 

 金を払って買えばいいではないか。

 

「それはそうだが。1000人規模の軍だからな。それを養える量の糧秣となると、早々すぐに買い取れるものではないからな……場合によっては、この町が飢えることになる。出し渋ったならば、奪うしかあるまい。飢えながら王都に進軍するわけにもいかん」

 

 夏頃と言うこともあって、そう飢えるような季節でもない。

 それであっても1000人規模の突然の消費増は耐え難いものだ。

 トイネが乾燥地帯が過半を占めるお国柄と言うのも大きいだろう。

 マフルージャ王国は水が豊富で、それに支えられて穀物生産も豊かだと言うから、マフルージャ王国なら案外なんとかなったのかもしれない。

 

「そうだな。あちらなら何とかなったかもしれん。しかし、ここはトイネだ。マフルージャ王国に近いとは言え、ここらは既に乾燥気候だからな……」

 

 あなたはどでかい溜息を吐いた。

 戦争が終わったら食べ放題する予定なのに、女を減らされては困る。

 あなたはこのパンが1人当たり何個あれば間に合う? とパンを手に尋ねた。

 

「あまり大きいパンではないな……1日に1人当たり8個はいるな。無論、水と肉か魚もいる」

 

 ではなんとかしてやるので、略奪はやめろとあなたは頼んだ。

 

「なに? なんとかなるのか?」

 

 なんとかする。

 

「ううむ……セレグロス辺境伯に相談するか……」

 

 まぁ、ダメと言われたら略奪に出向く兵士をあなたがしばき倒した上でメシ抜きだが。

 もしかしたら軍が壊滅するかもしれないが、あなたが圧倒的強さで反乱軍を皆殺しにするので許して欲しい。

 

「私に変な重荷を背負わせるな……!」

 

 イミテルが半ギレになりながらセレグロス辺境伯へ相談に出向いた……。

 

 

 

「パンと魚を用意する準備があるそうですね。それは(まこと)ですか?」

 

 ダイアに呼ばれ……という名目であなたは参上した。

 実際のところ、ダイアに(はべ)っているセレグロス辺境伯が呼び付けたのだろうが。

 糧秣の解決と言うのは重大問題だ。なのでダイアの名のもとに呼び出すのは不思議なことではない。

 

 あなたは足元から雑草を引っこ抜き、なんだと思う? これね、パンの苗木。

 あなたは適当なことをほざきながら、土もついたままの雑草を鍋にぶち込んだ。

 そして、あなたはこれを錬金術の秘術によって、パンへと錬成してみせた。

 

 数秒の調理の後に蓋を開けると、中から出て来るのはふかふかのパン。

 あなたはそれをダイアへと献上する形で差し出した。

 

「まぁ、ふかふかでおいしいパンですね」

 

 ダイアはそれを受け取るとムシャムシャ食べだした。

 王族が毒見無しで貰い物を食うなよ……あなたは頭痛を覚えて頭を抑えた。

 イミテルも全く同じ仕草をしていて、あなたはシンパシーを感じた。

 

「そこらの雑草からパンを作れるわけか……乾燥地帯とは言え、雑草ならばいくらでもあるからな」

 

 さておいて、イミテルがあなたの仕出かした行いをそう評価する。

 セレグロス辺境伯も、奇跡を見たかのような目でパンへ熱いまなざしを注いでいる。

 

 この辺りは、それこそ芝生(しばふ)のように背の低い草がずうっと生えた平原だ。

 これを引っこ抜いてパンにすれば、軍の腹を満たすことも叶う。

 まぁ、そんな草むしりなんて面倒くさいアクションを挟むつもりはなく、手持ちの品からパンを作るつもりだが……。

 

「魚も同じように、魔術だか錬金術で作るのか?」

 

 あなたはパンを錬成するのに使った鍋に水を注ぐ。

 そして、あなたはそこへと釣り竿の糸を垂らした。

 

「……まさか釣れるのか?」

 

 問われたのとほぼ同時、あなたの竿がグンッと力強く引かれた。

 あなたが力いっぱい竿を引き上げると、実に力強く跳ねるマグロが釣れた。

 ソーラスの町ではカイラやケント氏、セリナも大絶賛だったマグロだ。

 生で食うのもよいが、ステーキにするといい脂が染み出してなかなか美味い。

 

「……もうこれ強いとかすごいとかの問題ではなく、純粋におかしいだろ。絶対になにかがおかしい……」

 

 エルグランドの民なら大体できることなのだが……。

 ただ目の前の現実に打ちのめされるイミテルに、あなたはなにも言えなかった。

 

 

 あなたは速度を上げて、超スピードで魚を吊り上げまくった。

 あなたの釣りの技術ならば、デカい魚も次々と釣れる。小型のクジラだって釣れるのだ。

 手鍋からクジラが飛び出して来る光景は悪夢にも等しいが、出来るからしょうがない。

 まぁ、無理を通せば道理が引っ込むとは上古の昔から言ったもの。これはたぶんそう言うことだ。

 

 ほどよく釣果が積み上がったら、調理班に魚の調理は任せた。

 あなたは次にパンの錬成もしなくてはいけないのだ。

 

「草をむしるのだろう。手伝うぞ。柔らかいパンが食えるなら惜しむ手間でもない」

 

 イミテルがそのように申し出てくれたが、あなたは首を振った。

 草から造るのもいいが、ここは手っ取り早く手持ちの品をパンにしよう。

 

「ふむ。まぁ、貴様がそう言うなら」

 

 あなたは『ポケット』から金貨を取り出し、それを鍋にざらざらと流し入れた。

 蓋を閉め、調理開始。数秒の調理を終えて蓋を開けると、鍋からもりもりとふかふかのパンが溢れ出した。

 

「いや、待て! おい! 貴様、金貨をパンにしたか!?」

 

 した。何か問題でもあったろうか。

 

「金貨1枚でパンを何個買えると思ってるんだ!」

 

 ……いっぱい? あなたは首を傾げた。

 この大陸のパンの値段はよく分からない。

 以前、レウナにパシらされた時は金貨1掴みで店にあったパンを買い占めたので詳細な値段は不明だし。

 

「標準サイズのパンが銀貨1枚だぞ! 貴様、パン10個分の価値がある金貨でそんなしけたパンをたった1個作ったのだぞ!」

 

 それくらいならセーフセーフ。あなたは雑に流した。

 しかし、これより大きいとは言え、パンが銀貨1枚とは。

 日当が銅貨1枚やらの層がいることを思うと高過ぎるような。

 

「貴様そんなことも知らんのか……? 私とて、貴族の令嬢として育ったので世間知らずの自覚があるが、それでも知っていることだぞ……?」

 

 あなたは別大陸の出身なのでしかたない。

 そのあたりは言及せず、とにかく教えてくれと頼んだ。

 

「そうか、まぁいい……この場合の標準パンと言うのは、混ぜ物無しの一等小麦で焼いたパン……それも1日分のサイズだ。トレイと同じくらいの大きさのやつ」

 

 パイかと思ったくらいでかいやつかとあなたは頷いた。

 

「そこから下がって、2等小麦で焼いたパンなどはさらに安い……詳しい値段は知らぬがな。まぁ、この辺りは銅貨で買えるのだろう。おそらくな」

 

 その、1等小麦とか、2等小麦とか言うのは?

 

「そこからか? 1等小麦は綺麗に製粉(せいふん)した小麦粉から造るパンだ。丁寧に挽くので当然高い。いわゆる白パンと言うやつだ。(くち)のパンとも言ったがな」

 

 あなたが普段食べているパンがそれだ。今作ったパンも、その白パンにあたる。

 イミテルの言うように、チーズやワインと共に美食として楽しめるがために、口のパンとも言った歴史がある。

 そのあたりの歴史はこの大陸も似ているらしい。

 

「元々はもっと高価な品で、1つで金貨が飛ぶような代物だったのだが……50年ほど前にロール製粉機が発明されたお陰で、銀貨1枚にまで値下がり標準パンとなったのだ」

 

 製粉技術の発達で小麦粉が安価になり、結果としてパンも安価になったということらしい。

 すると、二等小麦から造ったパンと言うのが以前の標準パンだったのだろうか。

 

「その通りだ。ふすまや胚芽(はいが)の混じった、やや茶色いパンが以前は標準パンだったらしい。私はほとんど食べたことがないが、これが銅貨で買えるはずだ」

 

 となると、さらに混ぜ物が増えたパンはもっと安いということだろうか?

 あなたが割と嫌いじゃない、やや酸味のあるみっしりと重たい黒パンとか。

 

「ライ麦から造るパンか? 私は食べたことがないが……それこそ貧しい民の食べ物だから、よほどの量でも安く買えるだろうとは思うぞ」

 

 なるほどとあなたは頷いた。

 するとあなたは貧民の食い物を姫君に食べさせたことになる。

 このあたりはイミテルには黙っておこう。

 

「後はまぁ、よほど貧しい者は、製粉せずにそのまま麦を煮るなどして食べているのではないか。ポリッジなんかにして」

 

 たしかに、それなら製粉分の手間と焼成分の燃料代が節約できる。

 パンが小麦粉より高いのは当たり前だし、小麦粉が製粉前の小麦より高いのは当たり前なのだ。

 

「そこにきて、貴様のそのパン……質は標準パン相当だが……その、大きさだ! 8個でようやく1個分だぞ!」

 

 ということは、金貨8枚を注いでようやく銀貨1枚相当のパンになっていると。

 80倍はたしかになかなかのぼったくりだ。あこぎな商売では100倍取るなども珍しい話ではないが。宝石などその典型ではないだろうか。

 

「ええい宝石の話はしとらんわ! 勿体ないことこの上なかろうが! 草を毟れ!」

 

 めんどくさいからパス。

 あなたはイミテルの要求をにべもなく却下した。

 だいたい、あなたの金貨を持ち出しているのだから、イミテルが気にすることでもないだろう。

 

「そう言われると、そうだが……いや、しかし、貴様のその無意味な浪費は妻として私が矯正せねばならん!」

 

 突然の彼女面を通り越した妻面である。

 しかし、たしかに結婚すると約束をしたも同然ではあるから……。

 あなたは分かった分かったと頷き、金貨を使うのはやめることにした。

 

「よし、それでいい……」

 

 あなたは自分の髪を掴むと、それをナイフでザクっと切り取った。

 

「ああぁぁぁぁぁあ――――!!」

 

 イミテルが物凄い絶叫を放ち、あなたの耳がキーンッとなった。

 突然どうしたとあなたはイミテルを訝った。

 

「な、なっ、なに、なにをしている……綺麗な髪が台無しじゃないか! なんてもったいないことを!」

 

 髪の毛は1本1本でカウントできるので、一束で何百個もパンが作れるのだ。

 どうせまた伸びて来るし、毛先をちょっと切っただけだから目立たないし。

 

「馬鹿! そう言う時は貴様の美しい髪ではなく、そこらの男の髪の毛を毟ってくればいいのだ!」

 

 あなたは男の髪の毛から造ったパンとかキショくて食べたくないよと真顔で応えた。

 女の髪の毛から造ったパンはパンで、なんか怨念とか籠ってそうで食べたくないし。

 今まさにあなたも自分の髪の毛でパンを作ろうとしているが……。

 どうせ自分が食べるものじゃないし、わざわざ元は髪の毛などと伝える必要もないのでセーフだろう。

 

「……言われてみるとたしかに気色悪いな」

 

 イミテルもハッとなって頷いていた。

 その辺りの感覚は共通のようだ。

 

「いや、だったら兵士どもに草をむしらせればよかろうが! こういう時のために雑兵がいるのだ!」

 

 べつに草むしりのために兵がいるわけではないだろうが。

 たしかに、しょうもない雑用を押し付けることはできるのか。

 それは盲点だった。まぁ、明日からそうしよう。

 あなたはもったいないので自分の髪の毛からパンを錬成した。

 

「ああああ……貴様の美しい髪が……こんな、ちっぽけなパンに……ああ……」

 

 イミテルがパンを手に嘆いていたのが印象的だった。

 パンを手に嘆いているとなにやら妙に面白げのある絵面だった。

 

 まぁ、イミテルの嘆きはさておき、軍の糧食問題はあなたの手によって解決した。

 糧秣(りょうまつ)(まぐさ)、つまり馬のエサはさすがに解決不能だが……。

 いざとなったら歩けばいいんじゃない? あなたはその程度の理解だった。

 それに馬のエサならば、人間の食事を出せと言うよりは出しやすい場合もあるわけで……。

 

 あなたたちは食料に関する憂いを消し去り、王都への進軍を速めた。

 そうして進軍が進むと、あなたは俄然楽しみになって来た。

 なんたって、人間対人間の大規模な戦争だ。実に楽しみである。

 

 エルグランドではそうした戦争が起きると、超人級冒険者が出張ることがある。

 軍、あるいは国に雇われたり……自発的に出張(でば)って行ったり。

 おっ、やってるやってる! と飲み屋に入って行くようなノリで戦争に参加するのだ。

 

 そして、普段はあまり使わない究極破壊兵器を乱発したりする。

 まずは『ナイン』で場を温め、適度に『メテオスウォーム』などを使う。

 軽い地獄を現出させたら、次に各種『滅びの呪文』を適当にパナしていく。

 

 そこから好み次第で『破壊神の槍』『空の振り子』『怒りの弓』『人造破壊神』『見えざる手』『疫病黒死戦鎌』『超越の刃』『シガルラネカルの槍』『三足蜂鳥の爪』などなどが乱用される。

 テンションが上がってくると、終末兵器まで持ち出すバカ野郎も出て来て、もちろん応戦する超人級冒険者も喜んで終末兵器を持ち出す。

 だいたい神とかに止められたりしてうまく使えない方が多いのだが……。

 『てのひらのはめつ』や『はいいろのそら』は使えた試しがないし。

 『ほうかいのおと』『かなしみのいろ』『たいよう』と言った『終末呪文』は使えるが、効果を打ち消される方が多い。

 『とおいそらへ』『かなたよりこなたまで』などは神が降臨してブチ殺されるのが大半だ。

 

 あなたはこのうちのどれか1つを使ってやろうと思っているのだ。

 さぞかし面白いことになるに違いない!

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