あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたは軍へと突入すると同時、速度を最大戦闘速度まで引き上げた。

 常人の30倍ほどの速度。これ以上にすると音の壁を突き破ってしまう。

 その速度を得たあなたは、のろのろと動く敵軍の中を強行突破した。

 

 そして、クローナ王子と目した男の首を叩き切ると、首と胴体をまとめて持ち帰った。

 一応、その周辺にいた連中も適当に叩き切って回収した。

 生きてる状態では『ポケット』に入らないが、殺せば入るのだ。

 だいたい敵軍の高位人物であろう連中の首を確保したら、離脱。

 

 あなたはちょっと距離を開けたところで、久方ぶりの『メテオスウォーム』を発動させた。

 

 『メテオスウォーム』。

 かつて、エルグランドにて(おこ)り、繁栄(はんえい)し、滅びていった文明のひとつ、ローナ。

 湧きいずる魔力の力をこそ神の恩寵(おんちょう)と考え、魔法文明の絶頂を極めたエルグランドの第3期文明。

 その時代に生まれ、文明をも破壊すると恐れられ、理性的な者たちが封印した『滅びの呪文(ドゥーム・スペル)』。

 現在では、あなたのようなアホの寵児である冒険者が暴き出し、面白半分で乱用されている。

 

 その呪文の効果は極めてシンプルだ。

 この空の彼方、宇宙空間に存在する岩石、それを召喚する呪文。

 猛烈な速度で移動している隕石は凄まじい高熱を帯び、直撃した先を火のエナジーで焼き尽くす。

 

 あなたが召喚した隕石が次々と敵軍に着弾し、地面に巨大なクレーターを創り出す。

 地面がめくれ上がり、隕石の宿した熱が大地を溶かし、燃え滾る岩漿(がんしょう)が弾ける。

 人間が弾け飛び、焼き尽くされ、敵軍が瞬く間に消し飛んで行く。

 

 なんか……敵が脆くないか……?

 

 あなたはそんなノリで地獄絵図を眺めていた。

 半分くらいは楽勝で生き残って反撃してくると思ったのだが。

 もしや、属性耐性とか用意していらっしゃらない……?

 

 『メテオスウォーム』は極めて強力な火のエネルギーを宿す。

 隕石そのものが火によって燃え尽きてしまうほどだ。

 そのため、発露するダメージとしては火が主体となる。

 つまり、火への耐性を備えていれば、ほぼノーダーメージだ。

 

 そして火と氷、この耐性はエルグランドでは非常に重視される。

 なぜなら、極めて重大な温度変化は所持する物品の破損を招く。

 自分の手持ちの大事な道具を壊されたくなきゃ備えておけ。そう言う理屈だ。

 火や氷の元素、そのエネルギーを利用する呪文があるこの大陸でも同じだと思っていたのだが……。

 

 あなたはなにかの罠の可能性も疑ったが、どうもそうではなさそうだ。

 僅かな生き残りも、地獄と化した周辺環境に耐え切れずに死んでいく。

 

 どうも、あなたは敵軍のほぼ全てを綺麗さっぱり消し飛ばしてしまったらしい。

 

 

 

 

「生き残りは……ほとんど……僅かに生き残った者も、気を違えて……慈悲を……施しました……」

 

 戦場跡の捜索に当たったものが、顔を真っ青にしてそのように報告した。

 あなたたちは戦闘を終えた後、構えた陣に引き返していた。

 まぁ、そうでもしないとどうにもならなかったというか。

 

 あなたのパナした『メテオスウォーム』は戦場どころか、その背後の陣すら吹き飛ばした。

 王都には被害が出ないようにと気を遣ったのでそちらは無事だが……。

 

「ふふふ……さすがと言うべきか、我が夫よ。強いな。あまりにも強いぞ……!」

 

「凄かった……暴力を超えた暴力……まさに超暴力、いえ、それすらも超えた超々暴力と言うべきすさまじい魔術……!」

 

 陶然とした調子でそのようにこぼすイミテル。

 言語センスが直線運動なダイアはキラキラとした目であなたを見ている。

 そして、居並ぶ諸将たちは、蒼い顔であなたを見ている。

 

「戦士の戦い方じゃない……」

 

「あんな恐ろしい魔術で、戦士たちを纏めて吹き飛ばすなど……」

 

「魔術で……魔術が……魔術……魔術……ああ……」

 

 震えながらも、蔑みの言葉を発するもの。

 ただその凄まじい力に畏怖するもの。

 うわ言のように魔術とつぶやき続ける者。

 

 なんだかなぁと、あなたは溜息を吐いた。

 たしかにすごい破壊をもたらしてしまった。

 しかし、このくらいなら割とできる者はいるはずだ。

 

 アルトスレアの魔法にも、隕石を招来して落とすものがある。

 エルグランドのメテオほど弾数が多くないが、町ひとつ吹き飛ばせる威力がある。

 しかもエルグランドの魔法と違い、安心安全の性能で術者の未来を意味もなく浪費したりもしない。

 発動に1時間かかるという産廃具合を除けば大絶賛したいくらいだ。

 

 また、術者単体では無理にしても、魔法による兵器群なら可能なものもあるはず。

 対軍砲魔ヘルフレイムとか、メイジサンダーカノンとか、スペルモーターとか……。

 アルトスレアにも古代兵器として飛行竜フェイリルガンとか言うのがあったはずだ。

 ボルボレスアスにだって古代兵器としてイデムウェポンとか言うものがあった。

 この大陸にだって、そんな感じのやばい代物くらいあるだろうに。

 

 その手の古代兵器が仮に無いにしても、大量破壊など手立てはいくらでもある。

 たとえば、そう、『ファイアボール』の生ける呪文とかを作って放てばいい。

 生ける呪文とは、そのまんまの意味で、それは生きていて、なおかつ呪文だ。

 ザックリ言えば、その呪文を常時周辺にばら撒くクソヤバ生物である。

 

 『ファイアボール』を常時発動する生物とか割と考えたくない。

 戦うなら楽勝だが、気付かないうちに家の庭に侵入されてたりしたら地獄を見る。

 そんな超害悪生物が自然発生することもあるからメチャクチャ困る。本気でやめて欲しい。

 

 あなたは少しそんな考えを弄んだが、やがてため息を吐いて思考を切り替えた。

 あなたのため息に周囲の人間がビクッと震えていたが、無視した。

 そして、あなたはイミテルにクローナのヘタレに(くみ)した諸侯の名と所在地と言うか、領地を教えてくれと頼んだ。

 

「ああ、既にリストアップ済みだ。征伐に出てくれるのだな?」

 

 そのつもりだ。さっさと終わらせてしまいたい。

 有力諸侯を全員まとめてあの世までぶっ飛ばそう。

 

 正直、ここまでビビられるとは思わなかったのだ。

 あなたは周囲の目は気にしないが、いちいちビビられては鬱陶しい。

 周囲の者のためにも、あなた自身の精神衛生のためにも、離れた方がいい。

 英雄とは遠巻きにして見た方がいいものだ。色んな意味で。

 

「“有力”諸侯などとは言うが、貴様のあの魔術の前では無力そのものだ。さっさと消し飛ばしてしまえ」

 

 あなたは頷く。まぁ、ちょっと時間はかかると思うが。

 詳細な場所さえ分かれば、後は行ってパナすだけの簡単なお仕事。

 有力諸侯を、その都市ごと吹っ飛ばしてしまえばそれで終わりだ。

 住民も吹っ飛ぶので本来なら避けたいところだが、やむをえまい。

 

「お、おっ、お待ちを!」

 

 そこで、突如として待ったがかかった。

 そちらを見ると、発言者はエルフではない人間の男性だった。

 トイネはエルフが多いが、そのすべてがエルフと言うわけでもない。

 あくまでエルフが多めなだけで、総人口で言えば人間の方が多いとか。

 人口調査をしたわけでもないので印象論でしかないらしいが。

 

「我が夫よ。ランドビアス伯だ。元を辿ればマフルージャ王国の貴族だ」

 

 なるほどと頷き、あなたはランドビアス伯の言葉を待った。

 

「お、畏れながら、あのような力を無為に振りまいては、恐ろしきこととなります……! 人とは国家の力であり、それを無暗に殺さば国が滅びまする……!」

 

「無暗ではない。クローナに与した諸侯への懲罰である」

 

「それならば王都入りなさった後、ダイア姫の名の下に戴冠式を執り行うことを発布すべきでございます! 意図の読める者ならば、即位に当たっての祝いの品でもって償いをするでしょう! 懲罰はそれから行っても遅くはないかと……!」

 

「ふむ」

 

 筋の通った意見だ。あなたはたしかにその通りだと思った。

 エルグランドじゃないんだから殺し過ぎたら大惨事だ。

 下手をしたらトイネが滅んでしまうのではないだろうか。

 

 自発的に謝罪するよう促し、従わなかった者には懲罰を執行する。

 たしかにその方が1度は慈悲を見せたということで寛大さもアピールできる。

 王位に就くことを考えれば、悪くない一手と言えるだろう。

 常識的に考えたらこれ以外の手はそうないとも思えた。

 

「いえ、お待ちを」

 

 しかし、そこでセレグロス辺境伯が手を挙げた。

 

「姫様。ランドビアス伯の意見は至極もっともです。しかし、まず初めに慈悲を垂らしては侮る者もいます。クローナめに与した諸侯、その一族郎党は族滅とすべきです」

 

 こちらの意見も分かる。まったくもって正しいとすら言える。

 たしかに慈悲は必要だが、同時に恐怖も必要なのだ。

 舐めた真似をしたらブチ殺されるということを証明する必要がある。

 

「慈悲としては、女子供の助命といたしましょう。ですが、裏切った当人、その親子は処するべきでございます。その者らの自裁で以て女子供の助命を約束し、その後に戴冠式に出席するよう要請すべきかと」

 

 まぁ、その裏切った当人そのものはあなたが大体殺してしまったと思われるが。

 代将を送った者とか、傭兵を雇って遣わせた者もいるだろうと思われるので、必要な措置とも言える。

 女子供は助命するとなると、諸侯の新当主はその子供となるわけで、御しやすくもなる。

 王権の強化と言う意味でも、セレグロス辺境伯の意見は頷くべきものがある。

 

「姫様。いかがなさいますか」

 

 2人の意見を聞いた後、イミテルがダイアに意見を仰ぐ。

 

「どちらが早く終わるでしょうか?」

 

「戴冠式を早急に執り行いたいとの仰せでございましょうか」

 

「そうです。(わたくし)が彼女に約束した報酬は、王でなければ施せないものですから」

 

 そう言えばそんなこと言っていたなとあなたは思い出す。

 トイネ王法では、国王にはすべての民の初夜権があることが明文化されているらしい。

 つまり王なら女抱き放題、男掘り放題で、それを下賜することも可能なのだろう。

 しかし、王でなければ下賜することは出来ない。

 ダイアはあなたに可及的速やかに報酬を与えたいらしい。

 

「この究極の危難にあたって、素朴な報酬のみで助力をよしとした彼女には叶う限り報いたいのです」

 

 そう、ダイアが真摯な瞳であなたを射抜いた。

 あなたはものすごく居た堪れない気持ちになって身を捩った。

 いや、その、ぜんぜん素朴じゃないって言うか、穢れ切ってると言うか……。

 

 やめて欲しい。そんな、そんな純粋な目で見ないで欲しい。

 ダイアの純粋で素朴な感謝の想いに、あなたは自分の穢れを自覚させられた。

 

 

 

 ダイアが軍を率い、王宮へと入城する。

 兵たちが隈なく王宮を探索して伏兵がいないかを探った後、戦後処理が始まる。

 

 まずやるべきは、クローナに尻尾を振った諸侯の特定からだ。

 クローナのカスが王都でやらかした所業の確認と清算も必要だ。

 王都を荒らした兵士どもは死刑に処す必要があるのでその捕縛も必要だし。

 

 また、生き残った宮廷貴族どもの態度についても精査が必要だ。

 やむなくクローナに従っていたのなら、引き続き同じ役職で使っていけるが。

 喜んでクローナに従っていたようならば、閑職に飛ばすとかの処置が必要だ。

 有力ポストに就いている者は蹴落としたい者もいるだろうから、その辺りにも注意が必要だし……。

 

 そんな調子で新王ダイアの下に侍る予定の者たちがてんてこ舞いで働く中、あなたはヒマを持て余していた。

 あなたはトイネの人間じゃないし、宮廷仕事は勝手がまったくわからない。

 そもそも冒険者として雇われている用事は終わり、今は報酬の受け取り待ちである。手伝う理由がない。

 

 一端家に帰ってサシャと遊んだりしたいのだが……。

 この場面でいなくなられると、黒いうわさが立つのでやめて欲しいとのこと。

 ダイアがあなたを暗殺したとか、力を危惧して放逐したとか……そう言ううわさが。

 

 なので渋々ながら半軟禁状態であなたはヒマを持て余している。

 メイド食べ放題でもしようと思ったが、なぜかメイドが全然おらず、男性使用人だらけだ。

 

「このような事態になっては逃げだす者の方が多いからな。女は逃げてもよいが、男は仕事が回らなくなるゆえ逃げてはならぬ、とでも言ったのではないか」

 

 イミテルに尋ねてみたところ、そのような答えが返って来た。

 まぁ、納得いく説明だ。しかし、完全にゼロと言うのも考えにくいが。

 

「うむ、ゼロではないぞ。だがな、姫様に男の使用人をつけるわけにもいかぬ。我が鼓動よ、あなたに遣わす使用人が男だらけでも許してくれ。私が夜に存分に尽くしてやるからな」

 

 なんかイミテルの意図と言うか、浮気は許さん的な雰囲気を感じるが……。

 そう言うことならとあなたは渋々納得した。

 

 

 

 終わってみればあっと言う間だったが、だるい仕事だった。

 報酬はたまらなく美味しいのでよしとするが、しばらくこういう仕事は御免だ。

 あなたはあてがわれた王宮の一室で、ベッドに転がって天井を見上げながらそう思った。

 

 しかし、終わってみると謎が色々と残っている。

 クローナ王子は、何を思って暗殺など目論んだのだろうか?

 イミテルによると王座に就きたいがためとのことだったが。

 

 理屈は分かる。分かるのだが、いささか早計に思えてならない。

 たしかに父王からの譲位より前に、寿命で死ぬ。その可能性はあり得る。

 だが、父王が早逝する可能性だって十分にある。

 そもそも死なずとも、生前に退位を選ぶ可能性もある。

 

 クローナ王子はいったいなにを焦っていたのだろう?

 暗殺を目論み、失敗したとなれば武力で簒奪を狙うほどのなにか。

 魔法使いは低脳ではなれないのだから、愚かさ故の行動の可能性は低い。

 クローナ王子にしかわからない、あるいはその派閥の者のみが知る何か……。

 それこそ、トイネの安寧を揺るがすほどのなにかがあったのではないだろうか。

 可及的速やかに王位を得なければトイネを救えない何かが……。

 

 あなたはヒマを持て余すのをやめて、調査に乗り出すことにした。

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