あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたは『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』のメンバーと共に訓練に励んでいる。

 励んでいるわけだが、あなたの成長はほとんどない。

 それはあなたの実力が円熟の域を遥かに通り越しているため、仕方のない話でもある。

 

 順当に鍛えるだけではもはや何も成長が感じられない。

 実際のところ少しくらいは剣技も上手くなっているのだろうとは思うが……。

 たとえば3000ある技量が3001になって実感があるかと言うと、おそらくない。

 数値はあくまでたとえだが、ある程度まで上手くなってしまうと実感はなくなるものだ。

 

 なにか、新しい技とかを覚えてみたいものだ。

 この大陸で覚えた魔法などはいくつかあるのだが、やはり必殺技と言えるものはないし。

 いっそのこと、なにか使い易い道具とかでもいいのだが。

 そんなことを考えつつも、あなたは今日も訓練に勤しむ。

 

「なにか、一撃の威力のある技が欲しいんだ」

 

 そんな中でリゼラからそんな相談を受けた。

 重装戦士である彼女の一撃は重いが、同時に当たり難い。

 まぁ、それは当たり前と言えば当たり前の話である。

 

 相手も同じく重装戦士であれば、可動域や運動能力は同等である。

 そのため、同じくらい当てやすいし、当てられやすい。

 そう言う意味で人間同士の戦争と言うのは分かりやすくイーブンだ。

 

 だが、そうとは限らないのが冒険者だ。

 って言うか、相手が人間の場合がレアケースではなかろうか。

 剛力無双でありつつ剽悍無比(ひょうかんむひ)なんて怪物だって世の中にはいる。

 そうした相手と戦うと、相手は素早いのにこっちは鈍いなんてことがある。

 そうなるとスイングスピードや立ち位置の微調整が効かず、命中まで持っていけないことがある。

 厳密に言えば、当てられてもクリーンヒットさせられないのだ。

 

 リゼラの言う悩みは、そう言う総合的な悩みだろう。

 当てやすく、なおかつ威力があり、取り回しのいい技。

 巨乳で美人で床上手な彼女が欲しい! とでも言うような欲張りな要望だ。

 

「たとえが下品だぞ……」

 

 しかし、そう言った欲望まみれの願いが叶うこともある。

 あなたの最愛のペットが巨乳で美人で床上手で干し首職人であるように。

 

「と言うことは……何か心当たりが?」

 

 あると言えばある。

 無いと言えば無い。

 

「なんだか妙に歯切れの悪い言い方だが……習得が難しいということだろうか?」

 

 そう言うことになると思われる。

 あなたはエルグランドにおける信仰について話した。

 その中でも、信仰篤き者のみが使うこと能う『神技』。

 

 エルグランドにおける大地の神ハールーンは戦神でもある。

 そして、主たる武器として大槌を使っているという。

 そのため大地の神の授ける『神技』もまた大槌による武技である。

 つまり、エルグランドの神を深く信仰すればワンチャンあるかも。

 

「パラディンもところ違うと違うんだな。しかし、私はそう言う使命みたいなものとは縁遠いから……」

 

 パラディンと言うのは、神からの召命を受けてなるものだ。

 そのため、信仰心を持っているからと言ってなれるものではない。

 ただの騎士も、主を持って叙任(じょにん)されることでなるように。

 パラディンと言うのは神によって叙任されることでなれるものなのだろう。

 

 が、エルグランドにおいては職業がなんであろうが信仰に違いはない。

 信仰篤き農夫が大地を揺るがす一撃を使えるようになってもおかしくはないのだ。

 なので一生懸命祈って、お供え物を欠かさなければいいだけだ。

 

「そんなお手軽なことがあっていいのか……?」

 

 言うほどお手軽でもないが、基本はそれだけだ。

 ただ、いつ頃使えるようになるかは分からない。

 使えるようになれば「あ、いける」と実感はあるのだが。

 あなたは数年かけてようやく使えるようになった。

 それを考えるとそこまで手軽ではない。

 

「ううむ、そんなに甘くはないか……簡単に使える強い技があれば、誰だって使うものな」

 

 力になれなくてすまないとあなたは謝罪した。

 

「あ、いや、私が無理筋なこと言っただけだ。謝らないで欲しい」

 

 そうリゼラが断った後、変な顔をした。

 どうしたのだろうか。おなかでも痛いのだろうか?

 

「……あなたがリーゼと、その、懇ろな関係になったことについて……ああは言ったが、頭の冷えた今、とやかく言うつもりはないんだ。もう子供ではないし、たしかに男を作るわけにもいかない身だから……」

 

 ぽつぽつとこぼすようにリゼラが語り出す。

 

「だが、なんと言うか……はぁ……情けないことを言うようだが、私はきっと、リーゼが取られたようで気に入らないんだと思う」

 

 それが本当に正しいのかはあなたには分かりかねた。

 ただ、インモラルだとか、正道から外れているとか。

 そう言った繰り言に比べれば、幾分納得のいく言葉だった。

 

「あなたが嫌なやつならよかったんだがな。だが、あなたは冒険者として尊敬に値する強者であり、誠実な人だ。複数人といやらしい行為に耽っているのは、その、褒められたことではないが……それ以外で、あなたの言行にケチをつけるのは、難しいだろう」

 

 あなたはサーン・ランドでは孤児院や寡婦(かふ)の支援組織を作ったりした。

 生活苦に喘ぐ寡婦はいなくなったし、裏路地で飢える孤児も1人残らず消えた。

 同時に孤児の中から少年は1人残らず消えたが、まぁ、些事だ。

 

 売名のためにした行為だが、それらが善行なのは間違いない。

 そう言う意味で言うと、たしかにあなたの言行にケチはつけがたい。

 実態を知ったリゼラがどう思うかは知らないが。

 

「だから、ちょっと困ってしまった。嫌いになれればよかったのだが、あなたはいい人だ。あなたを嫌いになるために厭な奴にはなりたくない」

 

 なるほど、真面目だ。

 あなたはリゼラの真面目な返事に笑ってしまった。

 

 誇れる自分でいたいがために誠実であろうとする。

 それが正しいから正しくあろうとする。

 正しく理想の騎士の資質とでも言おうか。

 リゼラにはそう言う(ほま)れがある。

 

「私の懺悔(ざんげ)はそんなところだ。あまり深くは気にしないでくれ」

 

 そう苦笑するリゼラにあなたは頷いた。

 本人もあまり深く考えたくないことなのだろう。

 

 しかし、こういうお堅い少女を落とすのはなかなか難しい。

 単に常識ぶっているだけの人間なら大して難しくはない。

 だが、正しいから正しくあろうとするということは。

 間違っているから正そうとするということでもある。

 

 古来から続く男女同士の交合こそが正しい。リゼラの常識はそうだ。

 そこに来て、女同士だからと言うだけで正しくないと断じる。

 四角四面(しかくしめん)で同性愛への偏見すら混じっていそうな考え方だが。

 それもまた考え方のひとつだろう。否定するほどのことではない。

 

 リゼラをどうやって落とすか……悩みどころだ。

 

 

 

 訓練をはじめて数日経つと、それぞれに方針が決まって来た。

 リーゼは純粋に剣技の基礎能力向上。

 リゼラは新技の開発、または新戦法の考案。

 チーは魔力量の底上げ。

 スアラは投擲技術を重点的に磨いている。

 トキも同様に射撃技術を磨いている。

 カイラはなにをしているか不明だが……。

 

「私たち『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』も、ベテランの域に達して、伸び悩みの時期ですからね~。実に分かりやすく伸び悩んでる訓練内容ですよね~」

 

 言われてみるとそうかもしれない。

 すでに十分以上に熟達した技能にさらに磨きをかける。

 重要なことではあるが、劇的な成長が望めないことでもある。

 それを伸び悩みと言うか、円熟と言うかは人それぞれだが……。

 

 しかし、それを言うとあなたは今に至るまでずっと伸び悩んでいたことになる。

 僅かな成長しか見込めない訓練をひたすらやり続けることで成長する。

 努力の直線運動であり、限界という壁に全力で激突し続ける修行方法だ。

 しかし、結局のところそれが一番の近道だった。今ではそんな風にも思う。

 

「まぁ、そうですね~」

 

 こういう伸び悩んでいる時期に腐らずに真面目に訓練に勤しめる。

 それが出来る者こそ超人級冒険者になれるもの。

 『せかいじゅのおう』がどこまで昇り詰めるかは知らないが……。

 このままいけば、大陸全土に名を轟かせる凄腕になる日もそう遠くはないだろう。

 

「そうだと、いいんですけどね~」

 

 まぁ、あなたたちにできることは応援と。

 訓練に存分に勤しめる環境を作ってあげることくらいだ。

 あなたにすると商売敵を育てることにもなるが。

 冒険者の先達として後輩の成長は喜ばしい。そう思えた。

 

 

 

 訓練に勤しみながら日々が過ぎていく。

 時々迷宮から出て、カイラとデートなんかしちゃったり。

 リーゼと仲良くしたり、チーと仲良くしたり……。

 

 チー的に、リーゼとの同衾はNGらしい。

 頼れるリーダーだからこそ、女にされてるところを見たくないとかなんとか。

 まぁ、なんかその辺は解釈違いとか、そう言う難しい問題なのだろう。

 

 リゼラは早晩落とせないと思うが、トキとスアラは押せばいけそうだ。

 落としたばかりのリーゼを丹念にケアしないといけないので、早々すぐに食指を伸ばせないが……。

 やはり、そう言う心理面のケアをおろそかにしないのがデキる女たらしというもの……。

 

「依頼ですか?」

 

「はい」

 

 そんなあなたの下に、突如として依頼が来た。

 それも『EBTG』としてではなく、あなた個人に。

 依頼主は、いまあなたの対面に座っている白髪白眼の少年とも少女ともつかない人物……。

 アルトスレアはオベルビクーンの地を治める、ジル・ラザッツ・オベルビクーン伯である。

 あなたにしてみると、冒険者学園で自分をボコって来た凄腕冒険者との認識しかないが。

 

「いま、バカンス中なのですけども~……いえ、私に彼女の裁量権はないのでとやかく言えはしませんが~……」

 

 でも行かないよね? と言う顔をするカイラ。

 ソーラスの町でのデート真っただ中なので当然だ。

 

 ソーラスの町でデートをし、このままホテルになだれ込むかぐふふ、なんて思っていたらジルがやって来たのだ。

 わざわざ別大陸からあなたに依頼を持ってくるなんて大事だ。

 その上、ジルは知っての通り超人的に強い。

 エルグランドに渡っても凄腕として名を馳せるだろう。

 そんなジルがわざわざ持ってくる依頼とはいったい……?

 

「私はいま、新しい必殺技の習得に勤しんでいます」

 

 ほう、必殺技。実に興味深い。

 使い易そうな技だったらあなたも会得したい。

 

「その必殺技の名を“影走り(シャドウラン)”と言います」

 

 具体的にどんな必殺技なのだろう?

 

「今まで私は10秒を1ラウンド、あるいは6秒を1ラウンドと捉えていました。ですが、1秒を1ラウンドと捉えることができれば、必然的に私はいままでの10倍から6倍の速度で行動ができます」

 

 つまり、あなたで言うところの速度を上げるのに値する必殺技だ。

 それはたしかに強力だろう。2倍や3倍ではなく6倍から10倍と言う倍率も法外に強い。

 使うにあたってのコストとかリスク次第ではあるが、純粋に強い。

 

「コストやリスクはありません。できると言ったらできます」

 

 つまりノーリスクノーコスト。

 軽率にぶん回していきたい必殺技だ。

 あなたも会得可能なら会得したい。

 

「しかし、会得は難航しており、このままでは失敗することは目に見えています。ですので、シャドウランすればシャドウランできるようになるのではないかと思いまして。いえ、たぶんできます」

 

 あなたは不思議な表現に首を傾げた。

 シャドウランするとシャドウランできるようになる……とは?

 

「シャドウランとは、つまり影を走るような仕事。いわゆる闇系とか裏渡世と言うか。非合法、少なくとも合法ではない仕事に従事する隠語でもあります」

 

 なるほど、つまり汚れ仕事をしたら、その必殺技が会得できるかもしれないと。

 ……なんで? あなたは理論の帰結に納得がいかずに首を傾げた。

 たかが非合法の仕事に手を染めるだけで加速出来たら誰も苦労しまい。

 

「それは私が私であるが故と言いますか。たぶん私だからこそできる事なので、深く考えないでください」

 

 つまりジル固有の異能と言うことだろうか。

 それではあなたには無理そうだ。残念である。

 

「しかし、シャドウランのためには別世界に行く必要があります。そして、別世界への冒険には大変な危険が付きまといます」

 

 まぁ、それはそうだろう。

 別世界と言う概念自体があなたには理解しがたいが。

 言ってみれば、単身で別大陸に挑むのにも等しい行為だ。

 不慮の事故があれば、もう2度と帰れないことだってあるかもしれない。

 

「ですので、あなたに保険としてついて来てもらおうかと思いまして」

 

 なるほど、あなたを護衛兼いざという時の“万能の答え”として使おうと。

 つまり、あなたの圧倒的な暴力で全てを焼き払ってしまおうということだろう。

 

「まぁ、そうですね」

 

 やはり正解だったらしい。

 

「あの~、質問いいでしょうか~?」

 

「はい、どうぞ」

 

「別世界と言うのは、一体どんな別世界なのでしょうか~?」

 

「例えるなら、そう、今現在発展している科学技術が、これからさらに100年も200年もかけて発達したような世界と言いますか」

 

「……ふーむ、なるほど。それ、私も行ってみたいですねぇ」

 

「依頼として同行を要求することはしませんが、彼女の同行者として同行することを私が拒否することはないと思います」

 

「なるほど。じゃあ、依頼請けましょうよ」

 

 カイラがなぜかすごく乗り気である。

 あなたは首を傾げ、バカンスはいいのかと尋ねた。

 

「バカンスはいつでも出来ますからね~。その世界、すごく興味深いです~。行ってみたいですね~」

 

 あなたも興味はあったので、カイラが後押しをしてくれるなら受けてもいいだろう。

 まぁ、さすがに訓練中の皆を放り出すことはできない。

 なので、今しばらくジルには待ってもらう必要があるだろうか。

 あなたはひとまず持ち帰って検討したいとジルに応えた。

 

「はい、構いません。では、私も同行させていただきます」

 

 領地ほったらかしていいのだろうか?

 

「分身置いて来たので問題ないと思います」

 

 まぁ、ジルがいいというならいいのだが。

 あなたは一応カイラに確認を取って、ジルの同行を許可した。

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