あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 盗賊の始末も終え、馬車に追随(ついずい)して歩くあなたはニヘニヘと笑っていた。

 

「ご主人様、何かいいことでもあったんですか?」

 

 とてもいいことがありそうなのだ。

 だから笑っているのだとあなたはサシャに告げた。

 そう、とてもいいことがありそうなのだ。

 だから嬉しいし、笑っているのである。

 

「いいことがありそう……ですか? んー……お天気がいいから……とか?」

 

 その牧歌的な発想はじつに微笑ましい。

 思わずサシャの頭を撫でる。ふにふにとした耳の感触が心地いい。

 この頭の撫で心地だけでサシャを買った甲斐がある。

 

 あなたの言ういいことがありそう、というのは、レインの態度である。

 先ほど、わざわざ盗賊の死体を埋めるのを(うなが)して来た態度から、半ば確信した。

 

 レインはあなたの態度を試したのだ。

 あなたは男に対しては少し不愛想で、女には愛想がいい。

 そして少女の奴隷を買い、それを猫かわいがりしている。

 それらの態度から、どうもそう言う人間である、と見たようだ。

 その上で、レインは自分自身に対してあなたがどんな反応をするかも見ていた。

 

 なにか、あなたに頼みたいことがあるのだ。

 その、頼みたいことの内容が楽しみでならない。

 たとえばそれが、もっと色んな魔法を教えて欲しい、とかならちょっと微妙だ。

 だが、たとえばとても危険なモンスターの討伐を頼みたいとかなら、すごく楽しみだ。

 

 そんな危険なモンスターの討伐を依頼されたならば……。

 報酬はかなり大きなものでもいいのではないか。

 金銭ではなく、行動として報いてくれてもいいのではないか。

 

 たとえばそう……美女との交合とか。

 

 つまり、レインを好きにしていいとか! そう言う要求を!

 出来ることなら亡国必至というレベルがいい。

 それくらい強大なモンスターの討伐なら楽しそうだし、報酬も期待できる。

 それこそレインどころか、レインの母親といっしょとか。

 なんなら祖母にまでも同じ要求が出来るかもしれない

 もしもレインに姉妹が居れば、その姉妹にもだ。

 

 母娘丼とは人類の生み出した文化の極みだ。

 まして3代母娘丼など、実にたまらない。

 可能なら4代とかもやってみたいところだ。

 

 貴族と言うのは長寿な場合が多い。

 4代どころか5代なんてものも出来る可能性がある。

 レインが貴族ならば、別方向の報酬も期待できる。

 家のメイド食べ放題とか、そう言う報酬だ。

 

 貴族の大半は器量を見せるため、自宅で好きに過ごしてくれと言う。

 もちろん、そんなことを言われれば、あなたは本当に好きにやる。

 

 メイド食べ放題最高! 貴族の愛人の寝取り最高! 女主人最高!

 そんなノリで過ごしたせいで、貴族を敵に回したことが何回かある。

 貴族に手を出してはいけないと分かっていても、据え膳は食べるのがあなただった。

 

 しかし、そうした貴族家で最高の滋養があるもの。

 それは侍従長だ。熟れに熟れ切ったご馳走である。

 部下を多数持つので年嵩で手厳しいことが多いのが最高のスパイス。

 それをベッドの上で蕩けさせることの、なんと楽しいことか。

 メイド食べ放題はダメでも、侍従長だけは何としても食おう。

 

 

「ご主人様、楽しそうですね!」

 

 最高に楽しい。あなたは笑顔でサシャに頷いたのだった。

 

 

 

 昼時の大休止。全員が背中の荷を下ろし、休息を取る。

 あなたが『四次元ポケット』から取り出したのは大鍋だった。

 まだアッツアツの鍋だが、一応焚火を用意して火にかけておく。

 わくわくとした様子のサシャの期待に応え、鍋を開けてやる。

 

「わぁ……」

 

 ふわりと広がったのは濃厚なミルクの香り。

 ミルクと各種の野菜、そして肉で作った贅沢なクリームシチューだった。

 ふかふかのパンが一杯に盛られたバスケットも取り出す。

 パンもたーくさんお食べ、とサシャに食べさせる。

 

「あっ、おいしいっ。このシチューおいしいですご主人様!」

 

 嬉しそうにパクパク食べるサシャ。

 その仕草だけで大満足だ。

 白くべたつく何かを喜んで食べる少女。

 なにかこう、劣情を掻き立てられる光景だ。

 こういう時ばかりは女に産まれた自分を悔やむところがなくもなかった。

 あなたも自分の分を皿によそっていると、レインがおずおずと近付いて来て、財布を取り出した。

 

「いくら払えばそのシチューを1杯譲ってもらえる……?」

 

 あなたはさほどに金を欲していない。

 が、タダで譲るのは良くないことは分かっている。

 しかし、シチュー1杯の相場なんて分からない。

 そこらの食事場で食事などしないからだ。

 自分で作った方が旨くて安くて速いし安全。

 

 そのため、適当に銀貨1枚と告げる。

 すると相場からそう遠くなかったのか、ホッとした様子だった。

 レインが財布から銀貨を取り出し、あなたへ差し出す。

 あなたはシチューを皿に大盛でよそってやると、パンも食べていいと告げた。

 

「いいの? このパン、混ぜ物もない上物じゃない。町でも早々買えないわよ?」

 

 この辺りのパンは混ぜ物がないほうがよいらしい。

 エルグランドにおいては混ぜ物をしている方が上等なのだが。

 まぁ、その辺りは混ぜているものが違うのだろう。

 エルグランドにおける混ぜ物は、クルミとかレーズンとかなので。

 あなたは気にせず食べるように告げた。

 どうせ錬金術で作ったパンなので元手は金貨1枚であり、タダ同然だ。

 

「そう、ありがとう」

 

 セアラとオウロも買い取りを持ち掛けてくるかと思ったが、そう言ったことはなかった。

 有り余っているほどではないが、余裕こそあるので別に譲ってもよかったのだが。

 

 

 昼食の後は、また変わり映えのしない旅路が続いた。

 盗賊が全然現れなくて平和である。

 

「いえ、盗賊自体滅多にいませんけど……」

 

 エルグランドではいくらでも湧いて出てくるので困ったものである。

 そもそも、3人などと言う小規模な数での遭遇自体が早々無い。

 

「ご主人様の故郷って……いったいどれくらいの盗賊団が出たんですか?」

 

 大抵の場合は10人程度の規模である。多い時は20人ほど。

 魔法使いもよく見かける。それらが一斉に襲い掛かって来るわけだ。

 もちろん返り討ちにするわけだが。女盗賊が居た場合は美味しく頂く。

 

「結構大規模な盗賊団がいたんですね……」

 

 そして場合によって、その程度の規模の盗賊団に何度も襲われる。

 

「何度も襲われる」

 

 そう、何度も襲われる。本当にどこから湧いてきたのかと思うほどに襲われる。

 1日に5~6回襲われるなどザラである。掃いて捨てるほどに盗賊がいるのだ。

 

「ご主人様の故郷って……」

 

 盗賊団を返り討ちに出来るようになるまでは苦労もあった。

 なにせ相手は盗賊団。冒険者よりもなお荒くれた連中だ。

 女の身ではいろいろな危険も感じたものだ。

 相手が女ならむしろ歓迎なのだが……。

 女盗賊は少数派。大抵は男である。

 無論、男に好き勝手されるなど死んでもごめんだ。

 なのであなたは、文字通りに死んで抵抗した。

 

 まぁ、死んでしまえば死体はその場に残る。

 自分自身は後日自宅で蘇生するのがエルグランドだ。

 なのでもしかしたら、死体は辱められていたかも。

 さすがにそこらへんまでは気にしたことがなかった。

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