あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたはケイと仲良くなった。

 この調子でノーラともコリントとも仲良くなりたいが……。

 正直な話、ノーラとは望み薄だとは思っている。

 

 あなたはかつて、アルトスレアを旅した際にノーラと知己を得た。

 そして、その際にも当然ながらナンパをしたわけだ。

 だが、その時にあなたはナンパに失敗した。

 

 あなただって一応は生物の括りなので、失敗くらいはする。

 特に、未熟だった頃と思えば、その失敗は自然ですらある。

 だが、現在のあなたの目線から見ても、あの時の失敗は必然だった。

 純粋に、ノーラは同性愛がダメなタイプの人間なのだ。

 

 どうしても無理と言う人間はいる。これはもうしょうがない。

 あなたが女が好きで好きでしかたがないように。

 女とはどうしても寝れない女もいる。そう言うことだ。

 

「ふーん、なるほどね。まぁ、ノーラってそう言う部分は保守的だしね」

 

 そんな話をケイに寝物語で語ったというか、語らされた。

 どうせ他の女の子にも手出してるんでしょ? と言った調子で。

 ケイ的にそう言う感じのはナシなのだろうか?

 

「いや、百合の間に挟まると死罪にされるからさ……ノーラとそう言う関係なら俺は身を引いた方がいいのかなって」

 

 あなたは首を傾げた。百合の間に挟まると死罪とは?

 

「百合ってのは女同士での同性愛の隠語だ。そこに男を挟むのは許されざる行いなんだ」

 

 あなたは可愛いペットたちが夫を持つことを否定しない。

 むしろ推奨するまである。そこからすると、あなたは積極的に男を挟んでいると言える。

 だとすれば死罪になるのはあなたではなかろうか。

 どこの誰がその罪を執行するかは知らないが。

 

「でも、君の場合はその男から女寝取るんでしょ」

 

 それはそうだ。

 

「この場合、百合寝取りなので男を挟んだと言えるかは……まぁ、寝取りものの時点で拒否反応出るって人もいるし、男の存在自体が不要と言う見方もあるので批判もあるところだけど……」

 

 なんだかよくわからないが、複雑な学説があるらしい。

 いずれにせよ、あなたが女である以上、ノーラは落とせないだろう。

 

「じゃあ、君も性転換して男になれば? 君が美少年になってノーラ本気で口説いたら秒で落ちると思うよ」

 

 その発想はなかった。なかったが、やるかと言うと……。

 可能不可能で言えば可能だろう。以前、リンに強要されて男になったこともあるし。

 そして男性機能もキッチリあったので、致すことも可能だ。

 しかし、それはそれで女たらしの女として負けた気がするので嫌だ。

 

「そう言う信念かぁ……まあ、頑張れ?」

 

 とりあえず、と言った調子で応援された。

 おざなりな応援だが、あなたは頑張ると頷いた。

 

 

 

 ケイとの密やかな秘め事を終え、あなたはケイと共に昼食の支度をした。

 昼食はほどほどにボリュームを抑えた、軽食に近いものを用意する。

 

 基本、午前中は座学のパターンが多い。

 午後に座学をやると居眠りしてしまうので。

 そのため、消耗がさほどではなく、ボリュームたっぷりの食事は不要なのだ。

 逆に午後はガッツリ体を動かすので、夜にはボリュームたっぷりの食事を用意する。

 

 夜にボリュームたっぷりの食事を食べるのにも利点がある。

 あとは寝るだけなので食べた栄養の消費機会が少ない。

 それはつまり、太りやすいということだ。

 肉体強化のためには、なにはともあれ増量あるのみ。

 肉体鍛錬にあたって夕食をガッツリ食べるのは重要なことなのだ。

 

「今日のお昼はなにかしら?」

 

 昼食の支度を終えたところで、タイミングよくコリントがやって来た。

 あなたはトマトスープとサンドイッチだよ、とクロッシュを持ち上げつつ答えた。

 

「あら、素敵ね。さっそくいただこうかしら」

 

 コリントの食は細い。本来的に食事が不要だからだろう。

 必要ではない嗜好品と言うことになるので抑え気味らしい。

 食事が必須の生者に遠慮をしている、と言うことでもある。

 そのためか、スープを1杯とサンドイッチを2切れのみ取る。

 

 そして、それを楚々とした態度で食べる……というわけではない。

 大きく口を開けて、バクンとサンドイッチを食べ、スープをゴクゴク飲む。

 見た目にはそぐわないが、冒険者らしい豪快な食べ方だ。

 

「ふう。ごちそうさま。とても美味しかったわ」

 

 あなたはそれはよかったと返事を返しつつ、少し話さないか、とコリントに持ちかけた。

 コリントがやや不思議そうに眉根を持ち上げたものの、断らずに頷いてくれた。

 

 あなたはコリントと共に勝手口の方から出て、壁に背を預ける。

 そして、星屑戦争とやらについての詳細と言うか、レウナについて尋ねた。

 レウナが恐怖に震え、怯え切っていたあの姿は、どうにも腑に落ちないものがある。

 そのあたりについて、コリントなら何か知っていれば話してくれそうだと思ったのだ。

 アンデッドは精神性が固定されているらしく、あまり恐怖を感じないと言うし。

 

「ああ、星屑戦争ね……そうね、事情を把握しているのは私が一番かもしれないわ。訪ねて来たのは英断ね」

 

 計らずしも当たりを引き当てたということらしい。

 あなたはコリントに教えてもらえるだろうかと頼んだ。

 

「そうね……レウナちゃんはね、『アルメガ』との戦いで1度死んだのよ」

 

 そう言えば、モモロウが死んだと思っていたと言っていたような。

 

「死んだと思っていたというのも言葉足らずね。死んだままだと思っていた……あるいは完全に死んだと思った……と言うべきかしらね」

 

 いずれにせよレウナが現世を闊歩(かっぽ)していることに驚いていたのに違いはない。

 そのあたりのことは些末だろうと、あなたは続きを促した。

 

「レウナちゃんは自分の命を賭して道を切り開いた。覚悟の上のことでも、それはとても怖いこと……それがトラウマなのかもしれないわね」

 

 なるほど?

 エルグランドの民であるあなたにはいまいち理解不能な話だ。

 だが、他大陸の民が死を恐れているというのは、一応理解している。

 実感はしていないにせよ、分かってはいるのだ。

 

「あるいは……死と生の狭間にすらも喰い込んでいる『アルメガ』の真なる姿を死の淵で垣間見たか……その辺りまでは私にもわからないの。ごめんなさいね」

 

 それは構わないが、死と生の狭間にすらも喰い込んでいる、とは?

 

「ああ、そこね。『アルメガ』は死したる者の魂を掠め取って自らの力としていたの。そもそも『アルメガ』がどこから来たかと言う話よ。長くなるわ」

 

 では、こんなところではなくあなたの部屋の方がいいだろうか。

 それほど長い話になるつもりはなかったので立ち話だったのだが。

 長くなるなら、部屋で座って、お茶でも飲みながらといこう。

 

「そうしてもらえるなら助かるわ」

 

 あなたはコリントを伴って部屋まで移動した。

 あなたの自室は他の個室と同様の広さで、さしたる広さはない。

 ベッド、ライティングデスク、小ぶりなティーテーブル、そしてクローゼット。

 それらがすべてひとつの部屋に纏められた、小ぢんまりとした空間だ。

 そのティーテーブルにお茶を出し、あなたは話をする態勢を取った。

 

「さて、『アルメガ』の話だったわね。その説明をする前に、今の銀河の状況を理解する必要があるの。少し長くなるわ」

 

 あなたは首を傾げた。そもそも銀河とは?

 

「ああ、そこから……輝く星、つまり太陽を中心に複数個の星が存在する恒星系。これらが複数集まるのが星団。この恒星系や、星団が何千万から何兆も集まってできるのが銀河系よ」

 

 洒落にならないほどでかいスケールにあなたは思わずめまいを覚える。

 まぁ、そのあたりはとりあえずよい。その銀河の状況がどう関係するのだろう?

 

「『アルメガ』と『インメタル』は、造られた惑星で壮絶な激戦を繰り広げた。やがて、その戦いは惑星ひとつで留まることを知らずに広がりを見せたわ」

 

 つまり、惑星の外に飛び出して行った?

 

「その通りよ。『アルメガ』と『インメタル』の戦いは、銀河中に広がった。そして、銀河にその版図を広げた人類の帝国、惑星のことごとくを汚染していったわ」

 

 惑星の外にまで版図を広げる帝国があったとは凄まじい話だ。

 スケールが大き過ぎて頭痛がして来た。

 

「『アルメガ』と『インメタル』は激戦の中で取り込んだ種々の生命原質を現地に播種(はしゅ)し、その惑星環境を地球化(テラフォーミング)していったわ」

 

 テラフォーミング?

 

地球(テラ)形成(フォーミング)する。まぁ、そのままの意味ね。惑星環境を地球に近づけようと言うものよ。この惑星のような場所を作ると考えて結構よ」

 

 なるほど、理解した。

 つまり、住環境を整えるのと同じだ。

 スケールが凄まじくでかいだけで。

 

「そうね。その理解であっていると思うわ。そして……この惑星には『アルメガ』が飛来した。『アルメガ』は落着した自分の躯体(くたい)基質(きしつ)として、生命を増殖させていった」

 

 何のために?

 

「自分の強大化のためよ。人間が産まれ来る時、その魂はどこから来るのか? あなた、知ってる?」

 

 知らない。転生と言う事象があるように、再利用されているのではないのだろうか。

 しかし、再利用するにせよ、最初はどこからか持って来ないといけないわけで……。

 はて、そうすると魂と言うのはいったいどこからくるのだろうか?

 

 永遠の盟約によってあちらこちらから魂を融通してもらっているとは聞いた。

 しかし、そうだとして、その融通された魂の根本はどこから?

 もしやもすると、神にしか知り得ないような秘密なのかもしれない。

 

「魂はどこからかやってくる。そして、魂には時として絶大な力が宿っていることがあるし、絶大な力を宿した魂が存在することもあるわ」

 

 神格などがその筆頭だろうか。

 大抵の神格は肉の身を持たない。必要ないからだ。

 その魂だけで在り、必要に応じて肉体を得て降臨する。

 無論、早々起こりえることではないが……。

 

「『アルメガ』はそれを狙っている。強い者が無数に産まれ来れば、無から有が得られる。だから種々様々の負荷をかけて、生命を繁茂(はんも)させる……」

 

 それは畜養(ちくよう)の在り方そのものだ。

 人間は肉や乳を得るために動物を飼育する。

 その動物と言う個がなにを思うかはともかく。

 その種は、人間の利用により絶大な繁栄をする。

 

 そして、それは人間も同じことなのではないか?

 

 コリントの話でそんな仮定に思い至ったあなたは、ぞっとした。

 背筋につららを突っ込まれたような。足元が崩れるような。

 考えるにおぞましい推測を否定するものは、何もない。

 

「……聡い子ね。気付いてしまったのでしょう?」

 

 あなたは頷く。

 つまり、なにか?

 この惑星に存在する生命は。

 その『アルメガ』とやらが生み出したと?

 

「おそらくは」

 

 そして、人類と言う種が地上を席巻(せっけん)するほど繁栄するのも。

 他の強大な種を退けて、自身たちの生存権を確立したのも。

 人々が愛を育み、その営みを営々(えいえい)と紡ぎ続けてきたのも。

 なにもかもが『アルメガ』の利益のための誘導だったと?

 

「ほぼ、確実に」

 

 そして、もっと言ってしまえば……。

 人間と言うものが、地球にもいたのではなく。

 人間と言うものが、地球にいて。

 この惑星でも、増殖したというなら。

 人間と言う種、そのすべての祖は『アルメガ』である、と?

 

「間違いなく、そうよ」

 

 あなたは大きく溜息を吐く。

 壮絶な生命の秘密は、あなたにとって受け止め難いものだった。

 誰だって信じたくはないだろう。

 自身の生、その根幹がすべて仕組まれたものだなどと。

 

 だが、そこらへんは考え方次第ではないだろうか。

 誰かが目的をもってあなたを生み出したにせよ。

 その生き方をとやかく言われるつもりはない。

 

 あなたはあなただ。何を言われようが生き方を曲げることはない。

 あなたはこれからも女をナンパするし、男は女にするし、女と見たら片っ端から抱くだろう。

 なにをどう言われようが『アルメガ』の思い通りになどなってやるものか。

 いや、『アルメガ』が女を存分に抱きまくれと言うなら思い通りになってやってもよいが!

 

「欲望全開ね……まぁ、そう言う心の強さは大事よ」

 

 そう言ってコリントが笑う。

 いつも通り目元はリボンで隠されて見えないが、口元は優し気に微笑んでいる。

 

 さて、銀河の状況とやらは理解したように思う。

 それで、死と生の狭間にすらも喰い込んでいる『アルメガ』の真なる姿、とは?

 

「そう言えばその話だったわね。私もね、詳しいことは分からない……でも、死したる者の魂を捕食し、自身の強大化に使っているのは間違いないの」

 

 しかし、死者蘇生などはできる。

 また、神の御許に導かれた魂なども存在するが……。

 

「死者蘇生をすると魂には壮絶な苦痛がかかり、その生命力が喪われるわね?」

 

 あなたはハッとした。

 たしかに、コリントの言う通りだ。

 蘇生魔法では生命力が喪われ、弱体化する。

 だが、なぜその現象が起きるのか誰も知らない。

 

 死と言う現象から、生と言う領域に引き戻す。

 その奇跡の御業と言うべき現象に誰もが目が眩んでいた。

 死者蘇生とはそう言うものだと誰もが考えていたのだ。

 

「そうよ、死者蘇生に伴うペナルティは、おそらく『アルメガ』が絡んでいる。レウナちゃんは、それを見てしまったのかもしれないわね」

 

 あくまで推測ではあるが、無理筋とは思えない。

 なんともまた、凄まじい世界の秘密を知ってしまったものだ。

 

 あなたは大きく溜息を吐いて、冷めた茶を啜った。

 渋みが出ていてまずいが、淹れ直すのもかったるい。

 なんともまぁ、受け入れがたい世界の真実だ。

 呑み込めはしたが、消化するまでは胃もたれしそうである。

 

「あらあら、ごめんなさいね? あまりにも重大な話で疲れちゃったのね」

 

 そう言って労うように頭を撫でてくれるコリント。

 たおやかな指先の柔らかな手付きが心地よい。

 あなたはもっと撫でてくれぇと頼んだ。

 

「甘えん坊ね。お昼寝でもする?」

 

 添い寝して欲しい。

 あなたはそんな欲望だだ洩れの希望を出した。

 

「んー……仕方ない子ね。あなたに色々と、こう、気を持たせちゃってるのも分かるの」

 

 ほう?

 

「私は知っての通り動きまわる死体であって亡者(アンデッド)なの。だから、体温はほぼ無いわ」

 

 たしかに触れて来るコリントの体は冷たい。外気温とほぼ同一だ。

 

「その上、性感も鈍いし、皮膚感覚自体があんまり正確ではないの。だから、その、反応がすごく悪いと思う」

 

 ほうほう、反応。

 反応……つまり、そう言う反応。

 あなたはどうやら風向きが違ってきたぞと勘付いた。

 

「加えて、経験自体もほとんどないし、なんのかんのと50年以上もご無沙汰だったから……その、物理的に冷たい不感症のマグロ女だけど……いい?」

 

 つまりなんだろう。

 コリントがえっちなことさせてくれる……!?

 

「あなたがしたいなら。重たい事実を受け止める時に、人肌が恋しいことはわかるの」

 

 重大な精神ショックを受けたあなたを(おもんばか)ってくれているらしい。

 優しい配慮による慰めックスをしてくれるなんて、脳が蕩けそう……!

 

「したいこと、全部させてあげるわ。なにしろもう死んでいるから、とても頑丈なのよ。乱暴なことをしても怒らないわ。中で出しても……あなた女の子だから出すものなかったわね」

 

 コリントの見た目は年若い少女だ。

 だが、実年齢は結構な年齢なのだろう。

 50年以上ご無沙汰とのことなので、最低でも50~70歳だし。

 その包容力に溺れてしまいたい。いや、溺れるつもり満々だ。

 

 コリントにテーブル越しに顔を寄せると、香水由来だろうパウダリーな甘い香りがした。

 そして、いまからえっちなことさせて欲しいな、と頼んだ。

 

「あら、それはだめよ。夜まで我慢なさい。できるわね?」

 

 なんとここでお預けとは!

 あなたは(もだ)えつつも、むしろそれがいいと興奮した。

 不倫とか浮気とか寝取りは真昼間にやる方が背徳感があってよい。

 だが、ふつうの秘め事は夜に密やかにやることで盛り上がる。

 

 なにより、夜になったらコリントがえっちさせてくれる。

 その期待感は夜への希望と、行為時の興奮となって作用する。

 

「夜になったら、遊びに来てあげる。それまでいい子にしてるのよ?」

 

 テーブルから立ち、コリントが退室していく。

 去り際のセクシーな流し目は夜への期待感を燃え上がらせた。

 

 まったく、今夜は眠れないな!

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