あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたたちの5階層は『大砂丘』の秘境における死闘は始まりから不利だった。

 とは言え、それは仕方のないことだったと言えるだろう。

 この5層『大砂丘』の支配者たるラセツ・マハラジャは絶対的な強者だ。

 EBTGのメンバーもまた、比肩(ひけん)する者はそういないほどの強者ではある。

 だが、マハラジャを超えるほどの強者ではない。そう言うことだ。

 EBTGがマハラジャに対して勝っているのは、それこそ人数くらいなものだった。

 

 

 

 あなたの剣と、マハラジャのファルシオンが激突する。

 激しい剣戟の衝突音が響き渡り、マハラジャの獣頭に苛立ちの色が浮かぶ。

 獅子頭のマハラジャながらも、その表情の作りは人間のそれに近く、浮かぶ表情から感情が読み取れた。

 なぜこの人間は死なない? とでも思っていそうな顔だ。

 あるいは、凄まじい筋力はいったい何の魔法の力だ? とでも思っているのか。

 

 理由とか秘密は一切なく、ただ強いだけと言うのが答えなのだが。

 頑張って訓練したら、いっぱい強くなれた。そう言うことだ。

 説明したところで納得される気はしないが。

 

「はぁっ!」

 

 マハラジャが怒りを滲ませた声で、あなたに気合と共に剣戟を叩きつける。

 あなたはそれを適当に真っ向から弾き返していく。

 

「なぜだ!」

 

 なぜってなにが? あなたはマハラジャの怒りの声に首を傾げた。

 

「なぜ、我の剣が当たらぬ! なにゆえすべて防ぐ!」

 

 あなたはマハラジャの怒りの疑問の意味が分からなかった。

 なんで当たらないかって、防いでいるからだ。

 そしてなぜ防いでいるかって、当たったら痛いからだ。

 常識的に考えて、それ以外に防ぐ理由はないだろう。

 他に理由があるとしたら、痛いからではなく死ぬからとかに変わる程度で。

 

「我が剣を慮外千万(りょがいせんばん)な輩ごときが防ぎ切れるわけがない! なぜだ!」

 

 そう言って躍起になってあなたに剣を叩きつけて来るマハラジャ。

 あなたはやっぱりそれを適当に捌いていく。

 あんまりあなたばっかり狙われても困る。

 適度にサシャとかフィリアも狙ってもらえると助かるのだが。

 しかし、敵にそんなことを要求してもしょうがない。

 

 どうしたものかと悩んでいるとサシャが復帰して来た。

 先ほどと異なり、その全身に漲るほどの魔法のオーラを纏っている。

 種々の秘術呪文に加え、信仰呪文に、アルトスレアの神聖魔法のパワーまでも感じる。

 

 最も身体能力に秀でるサシャを、持てる限りの手段で以て強化したらしい。

 あなたの見立てでは、現在のサシャの身体能力はマハラジャを上回っていた。

 超大型サイズの巨人に伍する領域にまで身体能力を引き上げられたサシャが剣を振りかぶる。

 

 持てる筋力と耐久力を頼みとした、渾身の一撃だ。

 あなたに躍起になっているマハラジャの不意を打つつもりのようである。

 そして、その不意打ちは見事成功するだろう。

 あなたは確信にも近いものを感じた。

 

「シッ!」

 

 渾身の気合と同時の、踏み込み。

 地面を割り砕くほどの凄まじい脚力でサシャが射出される。

 そして、肩に担ぐように構えた剣が、恐ろしい速度で振るわれる。

 

「なにっ!?」

 

 もはや閃光としか表現できないほどの速度に至った剣戟。

 それに対し、瞬時に反応し、ファルシオンを差し込んだマハラジャはさすがと言うべきか。

 その反射速度、身体運動の精度は、まさに人知を超えた超人の域にある。

 しかして、その防御に向かって打ち込むサシャもまた、既に超人の域にある。

 

「あぁぁッ!」

 

 その総身の力、その全てを振り絞らんとする裂帛の気合。

 女の子がしちゃいけない顔になっちゃってるサシャの剣が、マハラジャのファルシオンと激突する。

 多数の魔法を付呪したファルシオンはサシャの剣戟に見事耐えた。

 だが、その剣越しに、サシャはマハラジャを押し潰さんとしていた。

 

 普段のサシャからして、倍近くに至った筋力はまさに超人の域だ。

 それを大上段から全力で叩きつけられ、マハラジャの体が崩れる。

 剣戟の重さ、衝撃に耐え切れず、膝を折って地面に捻じ伏せられたのだ。

 

「ば、かなっ……!」

 

 尋常の人間にはありえない超常的な筋力。

 それによってマハラジャが押し潰されていく。

 骨の軋む音が聞こえてくるかのようだ。

 

「我の眼を、見よ……!」

 

 マハラジャの眼が妖しく光った。

 その眼光がサシャの眼を射抜く。

 すると、サシャが突如としてぼんやりとして動きを止めたではないか。

 

「我の従僕にするにはいささか美しさが足らぬが……まぁ、その強さは認めてやらんでもない。貴様の同胞どもを殺せ! その肉を裂き、嬲り殺しにするのだ!」

 

 うつろな目でサシャがあなたたちへと振り返る。

 なるほど、なにかしらの精神作用の呪文で操られているらしい。

 この手の呪文は強力な意志力で抗うことが出来るのだが……。

 元より格上の相手なので、抗い切れぬほど強力なものだったのだろう。

 

 あなたは来るかと剣を構える。

 が、サシャはあなたのことを素通りしてフィリアたちの方へと向かっていく。

 あなたはなんでだ? と思いつつもサシャの前に回り込む。

 しかし、サシャはまたもあなたを迂回してフィリアの方へと向かおうとする。

 

「なにをしている! そこの赤い服の女を殺せ! 殺せェ!」

 

 マハラジャが怒りの檄を飛ばしてサシャを従えようとする。

 その声に呼応して、サシャがあなたに剣を向けようとする。

 だが、サシャはぶるぶると体を震わせて抗っている。

 

 それがなぜなのか、あなたには分からない。

 ただ、サシャがマハラジャの命令に必死で抗っていることがわかる。

 その命令だけは実行できないと、全霊で抗っているのだ。

 この手のものは、自殺的行動を命ずることはできないという制限はあるが。

 それはあくまで自殺しろとか、崖から飛び降りろとか、そんな命令の場合だ。

 仲間を攻撃しろと言う命令は自殺的行動かと言えば、おそらく違う。

 

「馬鹿な! たしかに我が支配下にある! それに抗うなどありえるわけが……!」

 

 愛の力だ。あなたは特に根拠はなかったが、そう断言した。

 サシャは愛するあなたに剣を向けられないと、必死で抗っているのだ。

 

「ふざけるな! 愛の力などたわごとを!」

 

 なにがたわごとなものか。

 たわごとなどであってたまるものか。

 

 分かるまい。

 他者をただ浪費するだけの存在と考える者には。

 神の存在を嘲笑(ちょうしょう)し、その愛を否定する者たちには。

 愛は人が人であるがゆえに持つ最強の力だ。

 時としてそれは奇跡を起こすことだってある。

 

 現に今、サシャは抗えぬはずの力に抗っている。

 あなたがそう力強く断言すると、マハラジャは獣頭のたてがみを振って吼えた。

 

「ありえるか! 愛などで抗えるわけがない!」

 

 まるで癇癪(かんしゃく)を起こした幼子のように、マハラジャがあなたへと剣を叩きつけて来る。

 持てる力、その膂力を全て叩きつけるような鬼気迫る剣だった。

 あなたとマハラジャの剣が激しく交錯し合う。

 

 あなたの背後では、レインがサシャにかけられた精神作用を解呪しようと試みている。

 おそらくマハラジャの使った精神作用は魔法そのものではない。

 魔法的な効果を発揮する特殊能力と言うか、種族固有能力だ。

 だが、それが魔法的な効能であれば解呪自体は可能である。

 

「正気に戻りなさいよ! 『上級魔法解呪』!」

 

 ありったけの魔力を注ぎ込んでの力一杯の解呪。

 それはサシャの精神を縛る縛鎖を消し飛ばす。

 解呪は見事に成功し、サシャが正気を取り戻した。

 

「あっ……す、すみません!」

 

「大丈夫ですよ。行きましょう、サシャちゃん!」

 

「はい!」

 

 サシャにかけられたものと同じ、ありったけの強化魔法。

 それがフィリアへとかけられ、サシャと共に加勢してくれる。

 フィリアの基礎身体能力はサシャほどの領域にはない。

 そのため、補助魔法の効能があってもようやくマハラジャに伍する程度だ。

 だが、それで必要十分。マハラジャに脅威を及ぼせるのであればそれで。

 

「おのれぇっ! 『知能低下』!」

 

 マハラジャが膨大な魔力を注ぎ込んで『知能低下』を放つ。

 

「甘いのよ! 『知能低下』!」

 

 それに呼応するように、あなたたちの背後から『知能低下』が飛んで来た。

 レインがマハラジャを鋭く睨みつけ、その一挙一動に神経を尖らせていた。

 サシャを操った魔法が再度振るわれれば、今度こそ全滅の危機があり得る。

 それに対処するべく、どんな魔法も相殺するべくレインは待ち構えていたのだろう。

 

「お、おのれ……! おのれおのれおのれ! 下僕ども、かかれぇ!」

 

 マハラジャが号令を発する。

 その号令に、寝台に控えさせていた美しい従者たちが襲い掛かって来た。

 人間のように見える者や、そうではない者、ラセツ、種々の種族が混じっている。

 

 それらは意思が縛れているか、あるいは恐怖で従えられているか。

 いずれにせよ、敵であるならば、手加減する必要もあるまい。

 

「ご主人様、下がって!」

 

 あなたはサシャの指示に従い、後ろに跳ぶ。

 そしてサシャが『ポケット』から抜き放ったのは、大鎌。

 魔法による強化が施されたそれは、命を刈り取る形をしている。

 周辺を薙ぎ払う凶悪な斬撃が放たれる。

 あなたが授けた剣技『剣群(スウォーム)』が従者を薙ぎ払う。

 

 超人的な筋力で振るわれた斬撃の威力は凄まじく。

 ある者は胴体を両断され、ある者は直撃した柄に肉を削ぎ飛ばされる。

 筋力任せの超広範囲攻撃は、まさに命を刈り取る一撃だった。

 

 命を刈り取られた者の体が霧散する。

 召喚されたか、あるいはこの次元に肉体を縛り付けられていたか。

 いずれにせよ、別次元よりの来訪者であったらしい。

 

 1度では刈り取れなかった命もまた、2度、3度と重ねて振るわれることで薙ぎ倒される。

 従者を盾に、あなたたちへと無数の魔法を放っていたマハラジャまでの道を遮るものはもはやない。

 

「形勢逆転のようだな」

 

 皮肉気に笑いかけながら言うのは、レウナだった。

 傷を癒したり、補助魔法をかけたり、最初にぶっ飛ばされたイミテルを叩き起こしたり。

 そんな補助的な役割に回ってくれていたが、ようやっとフリーハンドを得たのだ。

 

 前衛が肉薄し、もはやマハラジャも好き勝手に魔法を放てない。

 レインもまた、攻勢に転じる形で魔法を準備している。

 

 最初はこのまま全滅するかと思ったが、立て直し切れた。

 一度瓦解しかけたのを立て直すというのはなかなかないことだ。

 やっぱり嬲り殺しまくったお陰で、根性が培われたのだろうか。今後もやろう。

 

 あなたはそう思いながらも剣を構える。

 さぁ、大詰めといこう。大物食い(ジャイアントキリング)を成すのだ。

 

「はい! 行きます!」

 

 サシャが一挙に攻め込む。

 先ほどと違い、大上段の一撃ではなく、横薙ぎの斬撃。

 

「ちっ!」

 

 サシャの意図はなんとなく分かっていた。

 あなたは跳んだマハラジャに対し、さらに踏み込んで剣戟を放った。

 それをファルシオンを掲げて受け止めるマハラジャ。

 

「シィッ!」

 

 そして、マハラジャの背後に空間の歪みと共に突如として出現するイミテル。

 イミテルの歩法の冴えは、空間の狭間に魔法的に割り込むに至った。

 それを可能とする技量を得て、コリントより手ほどきを受けて実現してのけたのだ。

 そして、振りかぶった拳を叩きつける先はマハラジャではなく、地面。

 

「『地脈撃』!」

 

 大地を穿った拳撃が地を揺らす。それにマハラジャがバランスを崩した。

 そして、イミテルの鋭い蹴撃がマハラジャの足を払い、地へと伏せさせる。

 そうなったならば、もはやマハラジャは俎上(そじょう)の鯉も同然である。

 起き上がろうと必死で抗う中、あなたたちは全力の攻撃を準備する。

 

「よってたかってボコらせてもらうわよ!」

 

「正義の力、神の怒りを思い知りなさい!」

 

「おまえの肉を骨から削いでやりますよ!」

 

「神の愛を嘲ったな! 挽き肉にしてやろう!」

 

「我が拳技の冴え、思い知れ!」

 

 超人的な身体能力を得たサシャとフィリア。

 神を愚弄(ぐろう)されてマジギレしているレウナ。

 修行の成果を存分に試してやろうと猛っているイミテル。

 そしてようやく攻撃に移れると喜んでいるレイン。

 

 この漲る殺意を叩きつけられて、生き残れる存在がこの場にいるわけもなく。

 マハラジャはその膨大な生命力、強靱な肉体を砕かれた。

 

「馬鹿な……我が、死ぬ……? ありえるのか……!?」

 

 もちろんあなたは『輪廻転変厭離穢土(りんねてんぺんえんりえど)』を使った。

 実際どうなるのかは不明だが、虫とか小動物になっていたなら儲けものだ。

 あなたたちは遥か格上の強敵、ラセツの王者、マハラジャを打破することに成功したのだった。

 

 

 

 霧散し消滅していくマハラジャの肉体。

 戦いの終了を告げる光景に、あなた以外の面々がへたり込む。

 

「か、勝てたぁ……!」

 

「5回くらい死んだと思いました……」

 

「私は10回くらい死んだと思ったわ……」

 

「フッ……私は本当に1度死にかけた……」

 

「イミテルは内臓が破裂していたからな……」

 

 みんながみんな疲労困憊(ひろうこんぱい)と言った調子だ。

 だが、あなたたちは心地よい達成感に満たされていた。

 得た財宝はともかく、この勝利の達成感は何にも代えがたい財宝だと思えた。

 

 へたり込んで体を休めていると、同行者の面々が部屋に入って来た。

 戦闘中、邪魔にならないようにと部屋の外で待機していたのだ。

 

「お疲れ様。見てたわよ」

 

 コリントがそのように言うが、どうやって見ていたのだろう?

 まぁ、なにかしらの占術とか、魔法的な力だと思われる。

 あなたは頭を掻いて、サシャとの愛の絆を見せつけちゃったかな、などと冗談を飛ばした。

 

「も、もうっ、ご主人様!」

 

 サシャが照れて笑うのが心地いい。

 あなたは笑って、ちょっと休憩したら、戦利品の回収をしようと提案した。

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