あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたはトモを背負って歩いていた。

 飲み過ぎで酔いつぶれたのだ。

 あなたが一番膂力があるので請け負った。

 

 一方のモモはほとんど素面と言った様子だ。

 飲んでいないからではなく、ガバガバ飲んだ上でだ。

 よほど酒に強いのだろう。

 

 サシャは薄い酒を舐めていただけが、疲れからか眠そうだ。

 そしてあなたは完全に素面だった。

 あなたクラスまで肉体が強靭になってしまうと、酒が弱過ぎる。

 酔う前に胃が満杯になってしまうのである。

 

「あんた酒強いな。俺ら並みに酒に強いやつは初めて見た」

 

 ら? とあなたは尋ねた。

 見た目からして異種族なことには気付いていた。

 だが、それがなんなのかは不明だった。

 尖った耳と、縦に絞られた瞳孔は爬虫類のそれに類似している。

 エルグランドにおいては類似した種族が見当たらない。

 

「俺はドラゴニュートだよ」

 

 ドラゴニュート。リザードマンに類似した種族。

 エルグランドにおいては伝説上の種族とされる。

 現生のドラゴニュートも存在しないとされる。

 まぁ、ドラゴニュートを自称するリザードマンも存在するが、ほぼ全てが嘘っぱちだ。

 

 しかし、ドラゴニュートとは驚きである。

 もしかしたらリザードマンかもしれないが。

 いずれにせよ驚きである。

 エルグランドのリザードマンはもっと爬虫類みが強い。

 体全体が鱗に覆われているし、頭部の形はあからさまに爬虫類のそれ。

 手指も人間のそれとは異なるし、体毛はほぼ無い。

 

 よく見ればモモも四肢が人間とは大きく異なっている。

 だが、体幹部の形態は人間のそれと同一だ。髪もあるし。

 さすがに内臓に関しては掻っ捌いてみないと分からない。

 だが、この分では人間と大きくは変わらないのだろう。

 

「え? あんたの故郷ではドラゴニュートの姿がだいぶ違った? へぇ。まぁ、そう言うこともあるんじゃないか。古代のドラゴニュートはもっと小さかったって聞くし」

 

 古代のドラゴニュートはもっと小さかった。

 なるほど、興味深い話である。進化か退化か違うが、形態が変わったということ。

 同時に、それほど古い記録が残っていると言う点が興味深い。

 あるいは、古代のドラゴニュートの遺体を発掘して、それがドラゴニュートと断定出来たということでもある。

 

「俺らも遠いところから来たんでな。この辺りのドラゴニュートとは結構違うところもあるのかもしれない」

 

「へぇー。モモロウさんは遠いところから来たんですね」

 

「ああ、そうだよ。本当は俺らはもっと大所帯なんだけど、ちょっと目的があって別行動してるんだ」

 

「そうなんですね。その目的って聞いたりしても大丈夫ですか?」

 

「別に問題ないぞ。俺らは人間の寿命を延ばす手立てを探してる」

 

「寿命を延ばす手立て……ですか」

 

「ああ。方法はなんでもいい。ただ、長生き出来ればいい」

 

「うーん……ご主人様、何かご存知ですか?」

 

 バランスの取れた食生活を心掛け、暴飲暴食は避け、酒食と喫煙を控える。

 睡眠時間は1日6時間以上取るようにし、麻薬類の摂取は厳禁とする。

 これらを守れば長生き出来る。あなたはそう伝えた。

 

「いや、違……そう言う、そう言うんじゃなくて……」

 

「た、たしかに長生きは出来ると思いますけど、そ、そう言う事じゃないと思います……」

 

 そう言われても、長生きするための心がけと言えばこれだ。

 むしろこれ以外に長生きする方法など聞いたことがない。

 なにせエルグランドでは死んでも蘇ることが可能だ。

 なので諦めずに這い上がり続ければ永遠を生きることも可能。

 長生きする手法がロクにないのも必然と言えるだろう。

 

 エルグランドとは原初の混沌が未だ残る大地だ。

 上下と善悪だけが定まった大陸なのだという。

 生死の境ですらもが未だ曖昧であり、死ぬも生きるもない。

 だからヒトが蘇って来るのだ。生死が曖昧なので、長生きも曖昧なのだ。

 まぁ、そう言ったあたりの事情は説明が大変だし面倒なので、誰にも伝えはしないが。

 

「他に何かないか?」

 

 若返りの薬を作るとかではどうだろうか?

 あなたに思い浮かぶ長生きの方法はこれくらいしかない。

 あとはまぁ、あなたクラスの冒険者ならば、魔法でなんとかできないこともないが。

 

「そんなもんが作れたら苦労しないだろ……いや、もしかして、あんたの故郷にはあったりしたのか?」

 

 若返りの薬そのものはない。

 だが若返りの薬として用いることのできる薬は存在した。

 とある薬に神々の祝福を受けることで、その薬は若返りの妙薬として機能するのだ。

 

「本当に、そんな薬があるのか……」

 

 と言っても、1本あたり2~3歳程度の若返り効果しか得られないため、需要はさほどないが。

 2~3年に1度だけ1本の需要がある薬など、早々売れるものではない。

 

「その薬はどうやったら手に入る?」

 

 作ればいくらでも手に入る。

 そして、あなたはその薬を作れる。

 モモが美少年ではなく美少女ならよかったのに。

 1本やる代わりに1発ヤラせろと嬉々として言えた。

 モノを盾にエロいことの要求は実に捗る。

 

「つ、作れる!? そんなに手軽に!?」

 

 そんなに手軽ではない。

 錬金術の領域の薬品なのだ。

 錬金術師に弟子入りして修行しなければ作れない。

 

「いや、たしかに手軽じゃないかもしれないけど、違……そうじゃ……そうじゃなく……」

 

「ご主人様って全体的に感覚狂ってますよね……」

 

 そうなのだろうか。

 あなたにはよく分からない。

 いずれにせよ、必要と言うなら用意するのもやぶさかではない。

 

「ほ、本当に? いやでも、長期的に必要になるからな……」

 

 それに関してはどうとも言いようがない。

 だが、エルグランドの薬品は経年劣化しない。

 正確に言えば、経年劣化自体はするのだ。

 だが、経年劣化が発生しないようにする技法が極めて発達している。

 生命が無制限に生きるような環境だ。

 エルグランドでは物質の方がついていけなくなる。

 その差を埋める技術が発達するのは必然だろう。

 薬品類にも当然その手法が用いられている。

 

「う、ん……なるほど……なんとか、なるか……なぁ、その薬、用意してもらうことはできるか?」

 

 薬1本につき美少女、あるいは美女と1発。

 そんな交換条件はどうだろうか?

 あなたが冗談半分で提案する。

 すると、モモが少し考え込むような仕草を見せた。

 まさか、美少女か美女を用意してくれるのだろうか?

 

「……その美少女か美女って言うのは、ちょっと(とう)が立っててもいいかな?」

 

 あなたの守備範囲は0~100だ。なんの問題もない。

 まさか、本当に美少女か美女を紹介してくれるのだろうか。

 冗談でも言ってみるものだ。あなたはウッキウキである。

 

「それもう守備範囲って言わねぇよ。無差別って言うだろ」

 

「一応100歳以上は守備範囲外ってことですから……」

 

「100年も生きる人間居ねぇんだよなぁ……」

 

「言われてみればそうですね……」

 

 ウッキウキのあなたはそれを華麗に聞き流していた。

 モモが報酬を支払ってくれる日が楽しみである。

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