あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 休養期間とも準備期間とも言い難い期間。

 あえて名をつけることもしない空白の期間だ。

 あるいは最後になるかもしれないソーラスの町での日々。

 それを噛み締めるように、あなたはソーラスの町をゆっくりと散策していた。

 

 雑踏(ざっとう)の中にまぎれていくと、ソーラスの町の種族的多様性が目に付く。

 人ごみの中で頭1つどころか2つや3つは抜けている丘巨人の労働者。

 岩のごとく頑健な体躯を持つ種族、フィリステア。

 比較的数の多い部類に入るヒト、エルフにドワーフ、ハーフリング。

 

 そんな雑踏の中に紛れて、あなたも多数いる種族のひとつになる。

 自分がちっぽけな何かになってしまったような、そんな気持ちになれる。

 この世界の広さを前にして、自分のなんと小さなことか。

 あなたはなんだか妙に愉快な気持ちになって、足取りも軽く雑踏を抜けていった。

 

 

 

 ふらっとカイラの自宅にまで辿り着いた。

 在宅かなと気配を探ってみると、どうやら皆いるらしい。

 あなたはノックしてもしもしとカイラを訪ねた。

 

「あら~、お久しぶりです~。お客さんを招いて、なにかにぎやかにやっているのは見ていましたが、なにをされてたんですか~?」

 

 当たり前のように内情を把握されている。かなり怖い。

 あなたはヤンデレ少女の恐るべき情報収集能力に身震いした。

 占術の気配もなかったし、誰かの気配も感じなかったのにどうやって……?

 まぁ、情報収集の手立てについては後で調べるとして……。

 カイラの疑問については、べつに隠すことでもないので訓練のために凄腕冒険者を招いたのだと説明した。

 

「ははぁ、贅沢ですね~……まぁ、格上の人からの指導を満遍(まんべん)なく受けられれば、成長につながるというのは分かりやすい話ではあるのですが~……」

 

 ものすごい費用がかかる上に、それで成果が確実に得られるわけでもない。

 そう言う意味ではなかなかに分の悪い賭けと言えばそうでもある。

 しかし、成功すればリターンは大きく、分こそ悪くとも勝ちの眼はある勝負でもある。

 

 そして、絶大な資金力を持つあなたにしてみれば、ためらう理由がない。

 ちょっとした出費で訓練効率を激増させられる可能性があるなら、やらない理由がない。

 仮に失敗して無為にしたところで惜しいというほどの額ではないのだし。

 

「大金持ちだから言えることですね~……さて、今日はどんなご用事ですか~? それとも、遊びに来てくれただけですか~?」

 

 ちょっと鑑定して欲しいものが。

 あなたはそう説明した。

 

「私にですか~? 魔法の道具について、そうまで造詣が深いわけではないのですが~……」

 

 高度な機械技術によるものらしいのだ。

 カイラはそのあたりには結構理解が深いように思える。

 戦闘に使っている、あの大型の鎧とかは確実に機械技術によるものだ。

 

「ああ~、そう言う類のものなんですね~。分かりました~。では、見せてくださいな~」

 

 かなり大型のものなのでとあなたは庭を使わせてもらうことにした。

 そして、あなたはそこで以前に撃破したドラグーンを『四次元ポケット』から取り出して見せた。

 

 カイラが買い取ってくれるならそれで御の字。

 無理ならどこが金目のものなのか分かるだけでもいい。

 少なくとも、鉄くずとして買い取ってもらうよりはずっといい。

 

「……??? え? これ、迷宮から出たんですか?」

 

 厳密に言うと迷宮で出てきた敵そのものだ。

 叩き壊して撃破し、そのあとに回収したものだ。

 

「ええ~……」

 

 カイラがあちこちを眺め、叩いたり、蹴ったりと試す。

 その後、内部へと入り込んで、あれこれと弄り回しだす。

 

「ん~……電源が入らない……コンデンサを破壊されて、稼働不能になったようですね……これは……同じ階層で手に入れたものとかみせてもらえますか?」

 

 あなたは言われるがままに、レウナが言うところの『サンダラー』と言う銃。

 そして、拳銃やナイフ、普段使いさせてもらおうと思っている長剣を取り出す。

 どれもこれも見たことのない様式のものだが、品質は疑いようもない。

 

「どれもこれも高度な工業製品ですね……ふむ、なるほど。これはまた……」

 

 『サンダラー』を弄って、カイラがそれを分解しだす。

 そして、パーツをごちゃまぜにして再度組み立てる。

 それから各部を作動させて状態を確認している。なにをしているのだろう?

 

 その後、カイラが『ポケット』から妙な道具を取り出す。

 妙なくちばしのような形状のパーツがついた長い板だ。

 そのくちばしを開いて、あちこちを挟んでいる。どうやら長さを測る道具らしい。

 

「誤差はほとんどなしと……どう考えても規格品ですね~……」

 

 カイラが顎に手を当てて考え込む。

 それで、金目のものはどこにあるだろう?

 

「あ~。ここにある『サンダラー』は全部で金貨2000枚で買い取りましょう。ドラグーンとやらは5000枚。ドラグーンはあと……そうですね。3体くらいは買い取ってもいいですよ。『サンダラー』はもういらないです」

 

 ドラグーンを買い取ってくれるとはなんとも太っ腹な。5体も持ち込んだのに。

 しかも額が凄まじい。マハラジャの居城から得た財貨に匹敵するか、上回る額だ。

 以前あなたが壮絶な額を払ったので、支払いは問題ないだろうが……。

 カイラをして、それだけの価値があると思わせる品だったということだろうか。

 

「まぁ、そうですね。このドラグーンは解析して取り入れることができれば、私の力になってくれるでしょうから。フフフ……悪くないですね」

 

 どう活用するのか、皆目見当はつかないが。

 カイラがそれを必要としていて、高値を出して買い取るというなら文句はない。

 あなたは今ここにある分はすべていい値で売り渡そうと宣言した。

 

「銃火器の構造、特に連発式銃の構造って全然分からなかったんですよね。揚弾(ようだん)機構と装填(そうてん)装置は、動力を組み込めるので多少雑なつくりでもなんとかなりますけど、銃は反動やらガス圧を利用しますからね。信頼性の高い銃火器を作るという点では、これほど参考になるものはありません……」

 

 『サンダラー』を熱心な目で眺めるカイラ。

 なんだかよく分からないが、カイラがうれしいならあなたはそれでいい。

 高値で買い取ってくれるので、EBTGのメンバーも喜ぶだろう。特に、レインが。

 

 

 買い取りをしてもらった後、あなたは情報についても持ちかけた。

 つまり、5層は『大砂丘』に存在する、ラセツの宮殿についてだ。

 独断では買い取れないとのことで、急遽カイラたちのチームメンバーが招集されて情報会議。

 

 その後、あなたへと情報の買取りをする旨の申し出があった。

 もちろん、出し渋ることもないとあなたはそれを包み隠さず話した。

 

「存在するのは知ってましたが、そんな化け物がゴロゴロいるんですね~……とてもではないですが、私たちでは挑めないですね~」

 

「うーむ……一足跳びに追い抜かされてしまったな……『EBTG』は成長が速いな……」

 

 まぁ、たしかに『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』では無謀だろう。

 しかし、ラセツ・アヌシャラなら打倒することも叶うだろうし。

 どこかを巡回しているラセツ・アヌシャラの卑劣な策謀に絡め捕られそうになった時に、見破ることもできるかもしれない。

 あとはまぁ、こっそりと宮殿に忍び込んでコソ泥するとか。

 

「う~ん……できなくはないけど、ちょっとやりたくはないわね」

 

 野臥せりであるスアラがそう苦笑する。

 万一に見つかったら命は確実に助からない。

 それでいて、手に入るものは多少のお宝のみ。

 決して無価値とは言わないものの、命懸けで挑む価値があるかは微妙だ。

 

「そんな秘境があるんだ……ただ先に進むだけじゃ分からない、迷宮の謎……! 階層に隠された秘境……! くぅ……! 冒険行きたくなってきたぁ!」

 

「うへぇ……落ち着きなよ、リーゼ。私たちじゃまだまだ挑むのは無謀だよ」

 

「ま、そこに秘密があると分かれば挑みたくなる気持ちはわからないでもないな」

 

「トキもそう思う? もっともっと強くなって、いずれは『大砂丘』の秘境に挑みたいね!」

 

「そうだな」

 

 あなたは『大砂丘』の情報について話し終え、お茶を口に含む。

 カイラの心尽くしのミルクティーだ。ほんのり甘くておいしい。

 濃厚な味わいでじつに旨いと思わず頬を綻ばせたところで、脳裏をよぎる不安。

 

 ……このミルクティーに入ってるの、牛乳だよな?

 

 本来は心配しなくていい事柄だが、気になってしょうがない。

 このミルクティーを用意したのは、なぜかあなたに授乳(じゅにゅう)しようとするカイラだ。

 そして、カイラは医者としての見識(けんしき)から母乳を出す手立てを知悉(ちしつ)しているという。

 なにをしでかすか分かったものではないカイラの用意したミルクティー……。

 もし牛乳じゃなかったら……興奮する? でいいのだろうか……?

 

 いや、とりあえずは、いい。考えてもしょうがない。

 不安をとりあえず無視して、あなたは続けて情報について語った。

 つまり『岩漿平原』、その先の階層についてだ。

 

「8層の戦利品をカイラが買い取ったんだよね……」

 

「見たこともない異様な品だったが……」

 

「情報の有用性は間違いないんだよね。今のところ、ソーラスで7層以降にいけた人はいないから……」

 

「それは間違いないわ。でも……その情報活かせる機会はいつ来るのかしら?」

 

「それなんだよな。私たちが8層にいけるのはいつのことだ?」

 

「うう、先輩……実は私たち、まだ7層の探索すら目途が立ってないんですよ……」

 

 なんて半泣きのリーゼ。

 ならばと、あなたは7層の情報について提案してみた。

 つまり、8層に手早く行くための次の入り口の位置情報だ。

 

「うーん、なるほど……8層の情報と合わせて買う価値ある……気がするぞ?」

 

「8層の敵次第では、7層を無理やり駆け抜けて手早く8層にいければ……」

 

 こちらはいくぶん乗り気なようだ。

 あなたはゆっくりと茶を楽しんでいるので、しばし話し合って欲しいと伝えた。

 

 あなたはまたゆっくりと茶を口に運ぶ。

 紅茶の爽やかな渋みがミルクの濃厚でまろやかな味わいで中和されている。

 じつに濃厚でうまいミルクティーだ。ごくごくと飲めてしまう。

 

 臭み、癖のなさ、そして乳脂肪分の濃厚さなどから考えると……。

 おそらくは牛乳。それも、乳脂肪分が多めの種類の牛の乳だ。

 夏時期と言うこともあって、牛たちも水に乾く時期だ。

 それが理由でこれほどまでに濃厚な味わいになっているのだろうか?

 

 しかし、これがカイラのささやかな乳房から溢れ出たミルクだとして……。

 それを仲間たちの目の前で、堂々とゴクゴク飲むのは、なんてインモラルな……。

 あなたはカイラの仕掛けて来た密やかで淫靡な自己主張に興奮した。

 

 ミルクを飲ませたいと張り切っていたが、まさかこんな静かに飲ませて来るとは。

 カイラならば直飲みだとばかり思っていたが、こういうやり方も……。

 いやいや、あくまで可能性、可能性の話だ。ただの牛乳の可能性も依然ある。

 と言うより、カイラならばやはり直飲みさせて来そうだ。

 すると、これは牛乳と言う可能性の方が高い。

 

 しかし、だからこそあえて、これがカイラの母乳だと考えてみたい。

 きっとこっそりと息を荒げながら搾ったのだろう。

 そして、それをコトコトと鍋で温めたのだろう。

 立ち上るミルク色の煙は、どれほど淫猥(いんわい)な香りがしたのだろう!

 

 赤子を育てるための生命の象徴たる母乳。

 それを、本来は必要としていない成人のあなたが飲む。

 これほどインモラルな行為は早々ないだろう。あなたは鼻息が荒くなった。

 

「よし! 決まりだね!」

 

「ですね~。そう言うわけですので~……あの、どうしました~? お顔が赤いし、息も荒いですよ~?」

 

 興奮して紅潮していたあなたはハッと意識を取り戻す。

 そして、手にしていたミルクティーを飲み干して、頷く。

 話はまとまったようだが、いったいどういう結論が出たのだろうか?

 

「8層への入り口の情報と、8層に出没するモンスターについての情報を買わせてください!」

 

「カイラの買い取ってたアレが8層のモンスターなんだろう? すると、バラケが出ない、なんてこともありそうだと思ってな」

 

 あなたは頷いて、『ポケット』から地図を取り出した。

 迷宮探索にあたっての必須事項とすら言えるマッピング。

 それによって創り出された地図を丁寧に書き写して来たものだ。

 基本的にはおおよその概算での位置情報ばかりが記録されているが。

 あなたはその地図を見せて、7層の出入り口の情報について詳細に教えた。

 

「なるほど、直線距離的には大したことない……一気に駆け抜けるのもアリだな」

 

「一気に駆け抜けるにしても、この距離ならバラケを無理やり迂回するのもアリかも……」

 

「次の階層の入り口まで徒歩で12時間かかる距離だと走っても半日はかかるからな……だが、この距離なら走って移動しても体力が保たなくもないぞ」

 

「かなり厳しい行軍にはなると思うけれど、不可能ではなさそうね。バラケから走って逃げて強行突破するのもアリかしら」

 

 続けて、あなたは8層に出現するモンスターについても話した。

 先ほど売り渡したドラグーンに始まり、人間サイズの敵も。

 その敵の使う、謎のエネルギーによる斬撃の切れ味の凄まじさも。

 あなたがほぼ半分に両断され、内臓がぼろんと飛び出したくらいだ。あれは痛かった。

 

「痛かったで済むレベルじゃないんですけど~。普通は血圧の急降下で即死ですよ~?」

 

 でもがんばってがまんしたら耐えられた。そうとしか言いようがない。

 あなたは人間サイズの敵の攻撃には気を付けることを重ねて伝えた。

 サンダラーによる銃撃の威力もすさまじいが、斬撃の威力もすさまじい。

 あれは防御なんか絶対に不可能なのですべて避けるしかないだろう。

 

「なるほど……防御不可能と言うのは痛いな……私は避けるのは苦手なのだよな」

 

「厳密に言えば、刃に触れなければいいということだし、腕の方を迎え撃つようにすれば……」

 

「手立てはいくつかあるだろう。そう悲観しなくてもいいと思うぞ」

 

 侃々諤々(かんかんがくがく)と意見が交わされている。

 あなたはカイラに情報料の支払いを求めた。

 ぼったくるつもりはないが、きわめて貴重な情報なだけあって価値は天井知らずだ。

 そのあたりの誠意をちゃんと見せて欲しい。

 

「金貨3万枚分くらいの価値はあると思ってもいいくらいですね~。サンダラーやドラグーンの買い取り代金もコミで、金貨5万枚でどうでしょう~?」

 

 すごい額だ。あなたはそれでいいと頷いた。

 情報は水物なので、早いところ売り払ってしまいたかった。

 他に到達者がいない以上、しばらくその価値は保たれるだろうが……。

 

 あなたたちが到達できた、と言う情報があれば、誰もが奮起する。

 そうした場合、いつだれが8層に辿り着くかわかったものではない。

 情報と言うものは、手早く現金化するが勝ちなのだ。

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