あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 ついにセリナと結ばれたあなたは、溺れるほどに愛し合った。

 始める前に言っていた、快楽に耽るためではないとか、あくまで修行だとか……。

 そう言ったお題目のすべてを無視する勢いだ。

 セリナの頭からそうしたお題目は吹っ飛んでしまったのだろう。

 まぁ、そっちの方があなたにとっては好都合ではある。

 

 お互いに強く抱きしめ合うだけでも絶頂に至れてしまう。

 それどころか、キスするだけで……見つめ合うだけでも。

 それほどまでに気の循環と言う行為は心地よかった。

 

 まさに気の循環とはセックス以上の快楽だ!

 まぁ、それはそれとしてセリナのことは美味しくいただいたが。

 

 

 

「こんなはずでは、なかった……」

 

 メチャメチャにお愉しみしまくったあなたたち。

 いくら体力が無尽蔵であっても、長時間起きていればやがては眠くなる。

 そうした当然の理屈でもってあなたとセリナは眠くなり、眠った。

 そして起床すれば、さすがに状態も落ち着くというもの。

 快楽に溺れまくっていた自分を思い出し、セリナは落ち込んでいた。

 

「何をやっているんだ私は……克己(こっき)の意志を持たねば武とは成らぬものだろうが……なんたる無様……」

 

 毛布に潜り込んでめそめそと嘆くセリナ。

 あなたはその滑らかな肩に手を置いて、とてもかわいかったよ、とささやいた。

 

「うう、黙っててくれ……」

 

 にべもない。まぁ、無理もない。

 セリナは自分を律することを尊ぶところがある。

 そんな彼女にしてみれば、恥ずべきことなのだろう。

 

 毛布に包まってうめくセリナ。

 そんなセリナに、あなたは自分も怖いくらい気持ちよかったから仕方ないよ、とだけ慰めた。

 

「そうだとしても……そうだとしても……うう……」

 

 まぁそうだろうとは思っていたが、やはり慰めは通じなかった。

 あなたはこれは時間が解決してくれる問題と理解した。

 まぁ、あなたがなにか悪いことしたとかではないので。

 ほかにあなたには打つ手がないというべきかもだが。

 

 なので、あなたは再度セリナに仕方ないよと慰めた後、その場を辞した。

 過ちの相手であるあなたが傍に居た方が気が休まらないだろうし。

 そのうち奮起して吹っ切ってくれる……かもしれない。

 

 まぁ、そのうち様子を見に来るとしよう。

 

 

 セリナの家を出て、あなたはとりあえずふらりと公衆浴場へと入った。

 公衆浴場で身を清めた後は、特に目的もなく町の散策に戻った。

 意味はなく、ただぶらぶらと歩きたいだけだった。

 時間を無駄にしているわけではなく、ゆっくりするをする、と言うか。

 まぁ、それが時間を無駄にしていると言えばそうなのかもだが。

 

 そんなとりとめのない思考が流れては、静かに消えてゆく。

 いままでして来た冒険のこと、この町で過ごした日々のこと。

 ソーラスを攻略するために冒険者学園に通うなんて、とんでもない遠回りもした。

 だが、それこそがあなたにとって最短の道だったように、今になって思う。

 

 サシャとの出会いからはじまって、レイン、フィリアと出会っていった。

 それはきっと、サシャと言う未熟な少女を導くためにこそ起きたことだ。

 もし、あの奴隷商人の店で買ったのが、サシャではなかったとしたら。

 

 たとえば、経験豊富な元冒険者の奴隷だったら、どうだったろう?

 教え導く行程は必要ではなく、ひたすらに迷宮の攻略に乗り出せばよかった。

 元冒険者ならば大なり小なりの伝手はあったろうから、即時迷宮探索に乗り出すことも不可能ではなかったに違いない。

 そして、仮に行き詰ったところで、イチから基礎を固め直す学園通いは必要なかった。

 

 そうなったならば、行商人の護衛依頼なんて請けなかったかもしれない。

 もっと手っ取り早く戦闘力を証明できるような依頼を請けたかもしれない。

 あるいは護衛依頼を請けたかもしれなかったが、そのタイミングはもっと早い。

 

 サシャを冒険に出せるようになるまで、最低限の訓練を仕込んだ。

 そこからあなたは護衛依頼を請けて、レインと……なんか2人の冒険者と出会った。

 タイムロスがなかったならば、あなたはレインに出会うことはなかった。

 そして、その先の町で出会ったモモロウと出会うことも無かっただろう。

 

 そのまま活動を続けて、やがてはどこかの迷宮探索に乗り出していたろう。

 レインとも、フィリアも、モモロウとも出会わなかった。

 モモロウとの出会いがなければ、セリナと知己を得ることもなかったろう。

 そうなればケント氏の店に行くこともなかったので、彼とも知己を得ることはなかった。

 そして、ケント氏との知遇を得たことで、あなたはティーと言う木工職人の紹介を受けた。

 

 即時の建築ができなければ、家を建てることはなかったかもしれない。

 あるいは、建てるにしても町中で普通の業者に頼むか。

 手っ取り早く金にものを言わせて中古物件を購入したかもしれない。

 

 落ち着いた環境、頼れる仲間たち、信頼できる知人、友人たち。

 あなたの今の環境は、そんな最高に恵まれた環境なのだ。

 これ以上を求めたらバチが当たるくらいに恵まれている。

 むしろこれ以上何を求めたらいいのか分からないくらいだ。

 サシャの過激なレズのサディストぶりを受け止めてくれる、過激なレズのマゾヒストとか?

 

 冗談はさておいて、そんな環境が得られたのは遠回りをしたからこそだ。

 サシャと言う、冒険の役には立たないような奴隷をわざわざ買ったから。

 それが巡り巡って、いまのあなたを形作っているのである。

 遠回りこそが最短の近道だった。そうとしか言いようがなかった。

 

 人生とはなにが明暗を分けるか、分からないものである。

 だからこそ面白く、だからこそ理不尽で、だからこそ必死になれる。

 このすばらしきろくでもない世界を真剣に生きる価値がある。

 冒険とは人生とは楽しいものだ。

 

 そんな考えが形を持っては、崩れ、消えてゆく。

 人の流れに沿って適当に歩いていれば、辿り着いたのはいつかの広場だ。

 この広場で、素手の闘技に限っていえばあなたより凄腕と思える彼女と出会った。

 

 その彼女は今もいるだろうか?

 そう思って見渡してみれば、目当ての彼女は以前と変わらずにいた。

 今日もまた、挑戦料銀貨1枚、勝てば金貨100枚と自信を匂わせる看板が立っている。

 そんな彼女の対面には、小柄な少女が立っていた。挑戦者だろうか?

 終わってから声をかけようと思いながら近寄ってみれば、どうやら話し込んでいる様子だった。

 

「ああ……知り得たか……我らの穢れたる熱血を……狂える混血を、終わらぬ継血の儀式を……知り得たか……」

 

「ああ、知り得た。血濡れの芸術。血に濡れて惑わぬ。戦にありて狂わぬ。夜にありて迷わぬ。冷血にして純血なる我が拳、一手馳走仕ろうか」

 

「否……我ら闘士たるは、血にありて惑わぬ。私闘を成さぬ……我らが成すは血濡れの芸術、闘争の美……なにより、我らが指導者の玉体、傷つけるわけにはいかぬ……」

 

「そうか……貴様の穢れた熱血、俺の冷血には痛痒ともならんが。貴様には些か酷だろう。その身の熱血、(こご)らぬうちに()ね」

 

 何の話をしているのかよく分からなかったが、どうにもあまり友好的な雰囲気ではなかった。

 一触即発と言うほどではないようだが、少なくとも関係が進展しそうにはないというか。

 

 そんな2人を見ていると、同時にぎょろりと睨まれた。

 いや……睨まれた、のだろうか……? ちょっとわかんない……。

 

 マロンちゃんも、桃色の髪の少女も、眼の焦点があっていないというか。

 若干ながら視線自体もズレているというか……根本的にこちらを認識しているのだろうか?

 いや、こちらを向いた以上は、あなたの存在には気付いているはずなのだが……。

 そう疑わせるほどに、2人の様子と言うか、気配は異様なのであった。

 

「ああ……なんだ……? 風の香り……」

 

「おまえは。何か、用事か」

 

「貴公……知己か……?」

 

「如何にも。俺に情婦をいたぶらせる妙な趣味のある女だ。いささか、気が狂っているらしい」

 

「ほう……臭う……臭う、ぞ……貴公……臭うぞ……」

 

 えっ。

 あなたは慌てて自分の匂いを嗅いだ。

 ちゃんと公衆浴場で綺麗に体を洗ったはずだ。

 そのあと、ちゃんと消臭のためにアルム水で匂いの発生源となる部位を拭った。

 その上であなたの体臭と合致した香水を、ごく微量のみ纏っている。

 

 間違っても悪臭などはしないはずなのだが。

 もしや、どこかでケアを間違えて、臭いを放ってしまったのだろうか。

 

「熱血野郎。貴様の腐れた脳味噌では思い至らんのであろうが、女人に向けて臭うとは暴言だぞ」

 

「貴公、この身は女人だ……その程度のこと、知っていようとも……」

 

「ならば実行しろ、このくそたわけが」

 

「承知した……貴公……よい香りがするぞ……」

 

 今度はなんか褒められた。

 あなたは首を傾げた。

 

「…………まぁ、いい。それで、なんの用だ」

 

 マロンちゃんの問いに、あなたはヒマだったので立ち寄っただけであると答えた。

 なので、先客の応対が終わった後でいいと。

 いや、いっそのこと出直してくるので、また後日と言うことでも……。

 

「無用だ。この熱血の冒涜者どもに気遣いなどはな……」

 

「……貴公……知己を、思い起こさせる……私には、わかる……」

 

 その、マロンちゃんの言うところの、熱血冒涜者と言うよく分からない存在の少女があなたに1歩近付く。

 その動きに、マロンちゃんが鋭い動作で手刀を放った。

 それを少女が無防備に喰らったまま進む。

 

「くそ、化け物か……! 化け物か」

 

「貴公……その香り……我が友、レウナ・ファンスルシム……レウナ・ファヅル・ネクセロス・スミーブ・ルネルガ・シギミ・ムニンを、知っているか……?」

 

 あなたは首を傾げ、レウナとは友人だと答えた。

 そして、少女にレウナとは知り合いかとも。

 

「如何にも……私は狩る者……血に狂った冒涜者を狩る、狩人……闘争的根治の闘士たるもの……」

 

「ほざけ。貴様こそが血狂いだろうが、この冒涜者どもが」

 

「我が名は、キャロライン……キャロライン・ハント……レウナ・ファンスルシム、彼女とは刎頸(ふんけい)の交わりの仲……だが、妙な話だ……」

 

「貴様の頭ほど妙なものもありはすまい。断ち割ってなにが入っているか検めたいほど。いや……貴様の脳髄など垣間見ては、俺の気が狂ってしまうだろうよ」

 

 キャロライン。

 たしか、そう……。

 レウナが以前に話していた『トンネルワーカーズ』のメンバー、その最初の3人の1人だ。

 リフラと並んで、非常に仲のいい友人だったと言うが。

 

 ……こんなのと友人だったの?

 

 いや、人の言動だけを見て、異常者どうこうなどと決めつけたくはないが。

 決めつけたくは、ないのだが……ない……のだが……これは……。

 もうこれで異常者じゃないと言ったら、それを言った側が異常者としか言えない。

 やっぱりレウナは常識人っぽいようでいて、どこかおかしいとしか思えなかった。

 

 この様子だと、『トンネルワーカーズ』の頭目だったというリフラ。

 リフラ・ハーベスタル・ルイも、相当おかしな女だったのではないかと……。

 いや、勝手な予想で人のことをどうこういうのはよくないことだ。あなたは自分を戒めた。

 

「貴公……レウナとは、真に知己か……?」

 

 キャロラインが訝って訪ねてきた。

 その深い藍色の瞳はいまいち視線がズレているが、あなたは眼を見て頷く。

 レウナとは友人であり、知己で、なおかつイイコトをする仲だ。

 

 そして、あなたはキャロラインにウインクをした。

 もしもキャロラインがよければ、キャロラインともイイコトをする仲になりたいな、とも。

 

「…………おまえ、やはり狂っているぞ。この熱血の左道闘士と、懇ろになりたいなどと……」

 

 問題ない。何も問題ない。

 たしかにちょっと、いや、かなり…………完全に狂っているとは思うが。

 そうだとしても、キャロラインは女の子だ。

 ならば、何も問題はない。男でなければいい。

 

「狂っている……!」

 

「ほう……この身を暴きたいというか……くく……思えば、そのようなことを言われたのは初めてだ……だが、いかにも面白い……」

 

「なにも面白くない。おい、やめておけ。この異常者を寝床に誘うなど」

 

「いいだろう……貴公、この穢れたる熱血を宿す身、純潔にいかほどの価値もない。欲するのならば、くれてやろう」

 

 あなたは話の展開の速さに目を剥く。

 まさか即断即決でOKがもらえるとは思わなかった。

 

「閨への案内を頼むぞ、貴公……いかに価値なき身とは言え、往来で痴態を晒す趣味はない……」

 

 あなたは喜んで頷いた。

 では、さっそくいこう。

 あなたは『妖精のホテル』へと向かった。

 

 カイラが言うところの、ラブホテル。

 カイラがオーナーをしている、いわゆるヤるためのホテルだ。

 さぁ、お愉しみはこれからだ!

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