あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 家に帰りつくと、果樹の上でレウナがだらけていた。

 リンゴをもしゃもしゃと齧りながら本を読み耽っている。

 

「ん……おかえ……り? おい、まさかキャロルか?」

 

「ああ、そうとも……知るがいい……我ら熱血たる闘士の熱血なる由縁を……」

 

「キャロルなんだな?」

 

「そうとも……熱血は湧き出づるもの……聖血を拝領(はいりょう)し、一滴たりとも余さず飲み干すのだ……」

 

「やはり、キャロルだな」

 

 これだけの会話……会話かこれ?

 ともかく、支離滅裂なやり取りでキャロラインと確信できる程度の交友があるようだ。

 あなたはレウナに、広場に居てレウナと知り合いと言うから連れて来たと教えた。

 

「そうだったのか。思った以上に『トンネルワーカーズ』のメンバーがこちらにいるのだな。おまえは何でここにいるんだ? 異常者仕草は控えているか?」

 

「そうとも……我ら闘士は血に酔い痴れるのだ……血吸い虫どもを捻り潰し、止めどなき殺戮の渦が血濡れの闘争芸術となろう……!」

 

「控えていないらしいな。控えろと言ったろうが」

 

「ヒッ……ヒッヒッヒ……ああ、あんた……この町はもう終わりさ……ひひっ……あんたも早く逃げたほうがいい……おれかい? 金目のものをいただいたら、さっさととんずらするさ……」

 

「終わってたまるか。なんの話をしている」

 

「おお……風の香りの狩人よ……なにゆえこの地に参った……疾く去るがよい……貴様の求めるものなど、ありはしないのだから……」

 

「そうか。もう帰れ。話にならん」

 

 思った以上に話になっていなくてあなたは笑った。

 先ほどまでは割とコミュニケーションが取れていたのに。

 もしや、レウナ相手だからこそふざけているのかもしれない。

 ジョークが分かりにく過ぎてやや面白い。

 

 あなたはキャロラインの肩を叩き、この大陸にはなにをしに来たの? と尋ねてみた。

 すると、キャロラインがぎょろぎょろと目を動かしながら答えた。

 

「我らが友……『麗しの淑女(グレイス・メイデン)』が1人、レイの所有物の行方が分からぬ……それを探し当てるのが私の仕事だ……」

 

「おい、なんでこの女たらし相手には普通に返事ができる。おい」

 

「聞いたことがあるぞ……クックック……そう、私は連盟の長……反吐の出るカエルども、頭のイカれた巫女たち、どいつもこいつもうんざりだ……!」

 

「おい!」

 

「クックック……! 貴様の血は汚れたようだ……だが、案ずるな……私が浄化してしんぜようではないか……クックック……!」

 

 レウナのグーがキャロラインの顔面に炸裂した。

 キャロラインが数メートルほど飛んで、地面に転げた。

 

「ふぅむ……再会の挨拶にしては、いささか乱暴ではないか、友よ……」

 

「おまえがふざけるからだ。リフラはいないのか?」

 

「彼女とは幾分前に別れた……この大陸にはいるだろう……」

 

「そうなのか。なぜみんなこの大陸に集まっているんだ? なにかあるのか?」

 

「そうでもない……故郷に戻った者も居る……アルトスレアは動乱の後ゆえ、旅するに向かぬ……ボルボレスアスは飛竜が強大に過ぎ、エルグランドはイカれた異常者ばかり……」

 

「消去法で手頃な冒険先がここと言うことか? それにしても多いような気がするが……」

 

「神ならぬ身に、その作為を知ることは能わぬだろうよ。あるがままだ……あるがままだ、レウナよ……」

 

「そう言われてもな……まぁ、私の考え過ぎか」

 

 あなたは話し込んでいる2人の注目を自分に向けるため、手を叩いた。

 2人の視線が集まったところで、立ち話もなんだし家の中で話したら? と提案した。

 

「そう、するか。すまないな、居候の身で客など招いて……」

 

 気に病むことはない。レウナの客ならあなたの客でもある。

 まぁ、どうしても気に病むというなら、今度もてなしてくれればいい。

 

「……わ、わかった」

 

 レウナは最後まではさせてくれないが、それ以外は大体やらせてくれる。

 その上で、レウナもちゃんと同じことをしてくれるのでかなり捗る。

 本番NG以外は全部OKと考えると、そう言うお店の嬢だと思えば何も気にならなかった。

 

 

 

 家に入り、レウナとキャロラインを応接室に。

 先日の訓練期間中、ティーにいろいろと工事を頼んだ結果、主要な部屋が増えた。

 もはや豪邸(ごうてい)とまではいわないが、邸宅(ていたく)と名乗って差し支えない程度に立派な家になった。

 応接室にお茶とお菓子を持って行った後、あとは旧知の2人でごゆっくりと告げて退室した。

 

 お茶を出して、さてなにをしようかなとあなたは考え込む。

 家の中はかなり静かで、どうやらレウナ以外は誰もいないらしい。

 サシャはたぶん、訓練期間中にいけなかった書店にでもいったのだろう。

 フィリアはボランティアとして、蘇生魔法の行使に行ったのだろう。

 レインはどうせどこかで飲んだくれているのだろう。

 イミテルは……仕事だろうか? まぁ、たぶん家にいない。

 

 あなたは少し考えてから、物音のする家の2階に上がる。

 各々の私室が立ち並ぶ廊下を抜けて、突き当りに出入口がある。

 そこから出ると、高い空と、遠く草原を一望できるバルコニーがあった。

 

「お? どしたの?」

 

 そして、そこで作業をしているティー。

 あなたの家の増築工事はまだまだ終わっていないのだった。

 あなたはバルコニーの進捗状況はどんなものか見に来たと答えた。

 

「ぼちぼちかな。まぁ、明日には終わるよ。料金弾んでもらったから、ガッチリ働くから安心してよ。そのあとは家の外壁の塗装して、塀も造ってと、やることは多いから巻きでやるし」

 

 そう言って笑うティーが、手早くガンガンと釘を打ち込んでいく。

 ろくに見もせず、2打で根元まで打ち込む仕草は実に洗練されている。

 そんなティーに、あなたは『トラッパーズ』ではどういう仕事をしていたの? と雑談を振ってみた。

 

「ああ、『トラッパーズ』ね。私は木工細工専門だから、家の拡張工事とか……冒険に直接って意味なら、矢かな? フレッチングはやっぱ、プロがやらないとさ」

 

 フレッチング。矢にフレッチ、矢羽根をつけることを言う。

 つまり、矢の仕上げの意であり、転じて矢を作ることを言ったりもする。

 フレッチング専用の道具もあるほど専門性の高い技術だ。

 たしかに矢は木工細工の領域なので、ティーの領分かもしれない。

 

「あとは、料理出来るから、そのあたりとかね。まぁ、前にも言ったとおり、後方支援専門だね」

 

 以前に聞いた通りだ。

 して、その『トラッパーズ』……可愛い女の子はどれほど?

 

「私も可愛いケドぉ!?」

 

 それは認める。その上で『トラッパーズ』に可愛い女の子はいただろうか?

 

「そーだねぇ。まぁ、変態とか異常者とか変人とかヤク中とか連邦法違反とか色々いるけど、顔面偏差値の高さは保証するよ」

 

 ロクなのがいない……。

 

「いやいや、でも、ホントに顔がいいのは保証するからさ。うん、そう、テトとか特に可愛いんじゃないかな?」

 

 テトと言うのは?

 

「テトラヒメナ・アークスって言って、戦闘時における切り込み役かな。自分が世界で一番可愛いという妄執に囚われてるけど、言うだけのことはあってたしかに可愛いよ」

 

 なるほど、初手から迸るほどの変人具合だ。

 しかし、それほどの自信を感じさせるとなると、たしかにかわいいのだろう。

 そのうちお目にかかりたいものだ。その上で懇ろになりたいものだ。

 

「そういや、そろそろだな……」

 

 なにが?

 

「『トラッパーズ』本隊からの補給物資が来るのが。私は各町に駐在して情報収集がてら資金集めが役割だから、時々本隊から情報と物資が来るのよ。こっちからも資金送ってるし」

 

 なんだか会社組織のようなやり方である。

 それだけ高度に組織化されていると考えると、やり手のチームだなと思うが。

 

「で、その本隊からの輸送役が来るのがそろそろのはず。もしかしたら、今ごろ家にいるかも。うち、来てみる?」

 

 ぜひとも行ってみたい。

 可愛かったらそのまま3Pしよう。

 あなたはティーにそう提案した。

 

「え~……う~ん……私が『トラッパーズ』の誰かと直で絡まないならイケるかな。つまり、君が2人とも可愛がってくれる感じなら……まぁ」

 

 仲がいいだけに肉体関係を結びたくないとか、そう言うことだろうか?

 まぁ、ティーの申し出に特に問題はない。

 むしろあなたが2人まとめて可愛がっていいというならありがたいほどだ。

 

 あなたはティーの帰宅時間を待った……。

 

 

 やがて日が暮れ、ティーの仕事の時間が終わりを告げる。

 そこであなたは、ティーを送っていくついでにティーに夕食をご馳走になるという体で家を留守にする。

 まぁ、ティーが夕食を用意してくれるという話はしていたので、嘘ではない。

 そのあとにさらにお愉しみタイムが待っていると言うだけであって……。

 

「あんまり期待され過ぎてもね。もしかしたらまだ誰も来てないかもだし」

 

 だとしても行く価値はあるはずだ。あなたはそのように頷く。

 情婦の家で情事に耽るのは得も言われぬ快感があるのだ。

 たとえ3人でイイコトができなくても、それだけで価値がある。

 

「そう言うもの……? まぁ、寝取りこそが最高に気持ちいいとか力説してる変態もいることだし、そう言うアレなのかな……?」

 

 なんて話をしているうちに、あなたたちはティーの家に辿り着いた。

 そして、ティーの家のリビングにあたる位置に、明かりが灯っているのが見えた。

 

「誰か来てるみたいだ。ラッキーだったね」

 

 これは期待できるぞとあなたはウキウキする。

 そして、ティーが家のドアを開けると、なにやら独特な香りが漂ってきた。

 甘いが、悪い意味で刺激的と言うか……どっしりと甘く、悪臭と紙一重のような。

 エルグランドの伝統酒、スタッフエールの原料から使った麻薬のような……。

 

「あー。アイツかぁ」

 

 どうやら、ティーには中にいる人間に心当たりがあるらしい。

 この独特の香り……異国からやって来た、異国情緒漂う美女だと見た!

 あなたはぜひ紹介してくれとティーに頼む。

 

「あー……いいよぉ! ささ、入って入って」

 

 微妙な顔をしたかと思うと、すぐにティーが態度を変える。

 妙だな? と思ったものの、あなたは言われるがままに室内に入る。

 

 室内には、甘ったるく重い煙が立ち込めていた。

 テーブルの上にはマントルタイプのランタンを囲むようにいくつも酒瓶が置かれている。

 その奥のソファーには……。

 

「ヤーマン……随分な別嬪さんを連れて来たじゃねえか、ティー。トモダチかよ?」

 

「ジャンゴ。うちでその臭ェのを吸うなって言ったろ!」

 

「オイオイ、ご挨拶だな。それともなんだ? カールみてぇにジャブしろってのか? お断りだぜ!」

 

「あーもういいよ……紹介するね。こいつはジャンゴ。『トラッパーズ』の前線メンバーで……呪歌(まがうた)を使うバードってやつかな」

 

「ジャンゴだ。よろしくな。マー・グワーン」

 

 そう言って差し出された腕は、太く、厳つい。

 絡み合って出来た髪束を幾本も垂らし、もみあげと繋がった濃い髭。

 野太く低い声と、筋骨逞しく隆々と盛り上がった筋肉。

 それはどこからどうみても厳つい成人男性だった。

 

 色黒の肌に、ティーとは明らかに異なる種類の顔立ちといい、異国情緒は漂っている。

 だが、あなたが出会いたかったのは、異国情緒漂う女性である。

 どうしてなんだよと叫びたかったが、さすがにそれは失礼だ。

 あなたはジャンゴの大きな手を取って握手をする。

 力強い手だが、楽器を扱うからか特有のタコがあったのが印象深い。

 

「嬢ちゃん。お近づきの印に、チルいヤツを一発どうだい? ご近所迷惑だからな、リディム……リリックのない奴を聞かせてやるぜ」

 

 なんて?

 あなたは言葉の意味が分からず首を傾げた。

 

「えーと……夜にピッタリなリラックスできるような感じの、歌無しのリズムだけの曲を演奏してくれるってさ」

 

 首を傾げていると、ティーが翻訳してくれた。

 なるほど、バードならば音楽の腕は保証されていると言っていいだろう。

 あなたは異国の美女とは会えなかったが、異国の友人はできそうだとひとまず喜ぶことにした。

 

 ヤれなかった悲しみを誤魔化しているとかではない。

 知らない文化の知らない曲を聞けるのは楽しいのだ。

 楽しいったら楽しいのである。自分を騙しているわけではない。

 

 

 ジャンゴがギターを用い、どこか楽し気な曲を演奏する。

 なんだか、晴れた日に水辺をスキップしているような。

 うきうきとするが、そのあとに木陰で昼寝でもしたくなるような。

 これが、チルい、と言うやつなのだろうか?

 あなたは異国情緒漂う音楽の感触を静かに堪能した。

 

「ま、残念ながら、見ての通りのレゲエの香り漂う強面だけど、いいやつだよ。上物のアレ除いて」

 

 まぁ、それは見て接していれば分かる。

 あなたは自分で言うのもなんだが、とびきりの美少女だ。

 それに色目も欲情の目線も向けて来ないだけ信頼のおける男性だろう。

 

「うち、前に軽く言ったけど、男もいるチームだからねぇ。輸送役に男が選出されることもあるんだよ。ま、今回は残念だったということで。飲んで忘れよう、ほらほら」

 

 そう言って、先ほどからシャカシャカしていたシェイカーから酒を注いでくれるティー。

 テーブルの上に並んでいる酒と、ティーがどこからともなく取り出した道具から造られている。

 カクテルグラスの上に盛りつけられたのは、白く濁ったシャーベット状の氷だ。

 

「フローズンダイキリ砂糖抜き、の代わりにグレープフルーツを絞ってる。効くよ」

 

 フローズンスタイルのカクテルと言うことらしい。

 あなたは一緒に出された鉄製のストローでそれを吸い込んでみる。

 キリッと冷えたシャーベットに、グレープフルーツの風味。

 そこに立ち昇ってくる添えられたミントの香り。

 これはなかなかうまいとあなたは唇を舐めた。

 

「すごいっしょ。シェイクでフローズンダイキリ作れるのは私くらいなもんさ」

 

 そう言って鼻高々と笑うティー。

 酒が美味く、美女が居て、心地よい音楽がある。

 たまにはこういう夜もいい。

 

「気に入ってくれたみたいだな、嬢ちゃん。ご清聴ありがとうな!」

 

 じつにいい音楽だった。あなたは静かに笑って、ジャンゴの名演を讃えた。

 そして、次は自分がひとつ官能的なやつを披露してやろうと、『ポケット』から艶やかな弦楽器を取り出すのだった。

 今日は音楽と酒、そして語らいで過ごそう。

 今日は禁欲の日。そう言うことにしておこうか。

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