あなたの意識が現世へと立ち返ると、そこには先ほどと変わらない光景があった。
歪んだ時間にくらりと来るものを感じつつ、あなたは相対するパンサラゲア神に問う。
この大地の真実とやらはわかったが、ハンターズのループの真実が分からんと。
『
戦えばいいのでは? 神なんだからさぞかし強かろう。
あなたも壮絶なまでに強いが、神とてそれは同じこと。
あなたはシンプルに強いが、神は理不尽に強いのだ。
『我ら神はヒトにその存在を多かれ少なかれ依存する。アルメガはヒトに対し絶対の服従遺伝子を組み込み、我らに楔を打った。我ら神が戦えば、ヒトが死ぬ。自死を強要され、ヒトが絶えるのだ』
それはまた悪辣な話だ。あなたは思わず唸る。
アルメガがヒトに服従遺伝子を組み込んだとして、それがどの程度の効果かは不明だが。
服従とまで言うからには、それなり以上の強制力はあるのだろう。
意志の強い者、魔法による防護を得ている者。
そうした者ならば抗えるのかもしれないが……人間の総体はそうではない。
総人口の1割ほども抗えれば上等ではないだろうか。
9割死ねば、信仰によって力を得ている神々は大きく弱体化する。
人の存在によらず力を維持している神もいるが……。
少なくとも、その土地に根差す神は人に大なり小なり依存する。
ボルボレスアス大陸の主神であるならば、パンサラゲア神はその典型だろう。
『我ら神では抗い得ぬ。なればこそ、ヒトが抗わねばならぬ。ゆえ、我らは求めた。アルメガの服従遺伝子に抗いうる者を』
それがモモロウたちハンターズだというのだろうか?
しかし、ハンターズであろうとボルボレスアスの民であるのに違いはないだろうに。
『服従遺伝子は肉体に刻み込まれ、幼き頃よりその効力に慣らされ、ヒトは洗脳される。すべての
魂が異なると効力が減ずるとは? 遺伝子とは肉体に由来するもののはず。
精神がどうあれ、魂がどうあれ、その遺伝子とやらがある限りは無駄なのでは?
『遺伝子による特性の発現率など、傾向に過ぎぬ。その傾向にあり、体が慣らされることで、遺伝子の発現に伴い意志が放棄される。洗脳され続けたことによる条件的反射。それこそが服従遺伝子による服従。それゆえ、その条件付けが行われておらぬ精神ならば、服従遺伝子を無力化し得るのだ』
なんだかよく分からないが、なんかそう言うものらしい。
あなたはあんまりそう言ったアカデミックな話題には詳しくないのだ。
『ゆえに、魂を転生させる。他所より招いた魂を民の肉体に組み込み、服従に抗いうる精神を得る。これによってアルメガと戦える戦士を創り出すこと。これこそが我らの目的』
……と言うことは、ハンターズも転生者だと言うのだろうか?
しかし、モモロウらにそう言うそぶりは特になかったような……?
あなたが首を傾げると、今まで会話を見守っていたモモロウが口を開いた。
「たしかに俺らは転生者だ。気付いたらこの異世界に転生してた健全な成人男性だ」
よくもまぁ健全な成人男性を名乗れるな。面の皮が厚いどころではない。
幾度もループして、それでもトモに執着するのは普通に病的だと思う。
思わずそう思ったが、あなたはそんなことに言及していい場面ではないと黙った。
「だが、俺である必要がどこにある! なぜ、俺が選ばれた!?」
『そうだ。おまえたちである必要はない』
「なら、なんで俺なんだ!」
『おまえたち以外にもそうしているものはいる。もっとも芽が出た者が、おまえであった。それだけのこと』
「……なら、俺が選ばれた理由そのものは、ねぇってのか……?」
『ない』
それは、ある意味ではあまりにも残酷な言葉だったのではないだろうか。
何か重大な使命があったのならば、それを理由に出来ただろうに。
だが、そんなものはなかった。ただ、無作為に選ばれた、運が悪かっただけ。
それは、自らの実力で道を切り開いてきたものをこそ打ちのめす言葉だ。
パンサラゲア神の言葉を受け、モモロウは泣いていた。
言葉もなく、ただ
感情の激流を言葉にできず、溢れ出す激情に翻弄される。
あまりにも残酷で、あまりにも無情だった。
『そうして創り出した戦士を育てるために、我らは時を繰り返すことにした。ボルボレスアスに魔法の力は根付かず、蘇生を行えるヒトは現れぬがゆえ』
それがループの理由だと言うのならば、モモロウを強くするために?
だとすれば、ハウロと言う到達点がいればいいはずだ。
なぜ、アトリからハウロまで、6人もの同一人物を同一時間軸に創り出す必要が?
『我らは幾度となく繰り返し、順当に成長し、強くなり続けるヒトの子に満足していた。だが、我らは気付いたのだ』
なにに?
『我ら神の根源は、この大地にあり、ヒトにある。アルメガに由来する存在なのだ、我らは』
まぁ、それはそうだろう。
って言うかそれに気づいていなかったのならば前提条件を見落とし過ぎでは?
『アルメガの軛より逃れ、アルメガの指図により弱体化せぬヒトならば勝てると、そう思っていた。それでは、足らなかった。アルメガを討つには、根源的な能力が不足し過ぎていたのだ』
ちょっとよく分からない。あなたは首を傾げた。
存在しているなら殺せるだろう。たぶん。
事実、レウナによる『降神/コールゴッド』は本当に惜しかった。
追撃にさらにもう1発撃ち込めれば勝てていたのでは?
『アルメガは時を遡ることで対策を打てる。追撃をしようにも、別の時間軸よりアルメガが救援に現れることだろう。我らは時を遡ったアルメガを認識し得たところで、手をこまねく他に何もできない。アルメガが時を遡る前に、完全に殺し切らねばならぬのだ』
それは理解した。で、それが出来ないということだろうか?
『アルメガを創り出すにあたって、ヒトが利用した法則。物理法則。我らはヒトが見出し、定めた物理法則に縛られている。我らは一時的に高速で動いたとしても、時の歯車を加速させることはできぬ』
あなたは少し考え、それはもしやエルグランドの民の時の歯車の加速のことを言っているのかと尋ね返した。
エルグランドの民は、その生命の運行する針を加速させることができる。
これを減速させて標準速度で生活するための魔法が『
『それが満たせぬゆえ、時を巻き戻すことで
それはいったい?
『エルグランドの虚空神。彼の神は至極シンプルな存在を求めた。ただ強いことだけを求めた。そして、エルグランドは、我らとは根源より異なる。未だ天と地に境なく、
物理法則と言う言葉自体はエルグランドにもあるが、割とフワッとしたものであるという認識がある。
別大陸の科学技術によると、物の温度、それには下限があるという。
だが、エルグランドでは特にそう言うことはない。下げようと思えばいくらでも下げられる。
しかし、それができると……何かが違うのだろうか?
『虚空神の求めた者が完成したが、ヒトであるがゆえ、その能力の完成には時が必要だ。熟成の時を待つ必要があった……』
つまり、エルグランドにもアルメガに対抗するための切り札が居るということ。
……だれだろう? ちょっと無法なまでに強い存在に対して心当たりがあり過ぎて……。
あなたの父も母も普通に異常に強いのでなんやかんやなんとかなりそうなのだ。
そしてそれを言うと、あなたの友人や、最愛のペット、って言うかあなたそのものも該当する気がする。
そもそも気付いたらリリコーシャに居たあなたがソレなのは自然な理解な気もする。
『熟成し切ったソレには、動機が必要だ。動機には数が必要だ。それゆえに個のいずれもを呼び寄せ、配した』
なんだかよく分からないが、アルトスレアに漂着したというのはそれ由来と言うことだろう。
だとしたら、なぜハウロだけボルボレスアスにいたのだろう?
『完成はそう遠い昔のことではない。我らは最後まで自らの考えた策が通ずる可能性に賭けた。それゆえ、最も完成度の高まった個は自らの下に配し、更なる熟成を待った』
なるほどそう言う。割と普通というか、順当な考え方だ。
だいたいわかった。分かっただけで、収穫があったとは言えないが。
少なくとも、得た情報はハンターズの心を救う福音足り得なかった。
あなたはため息を吐き、頭をガリガリと掻いた。
だいたいわかったので、もういい。帰ってもらって結構。
あなたはパンサラゲア神にそのようにぞんざいに告げた。
『そうもゆかぬ。世の理を乱すことを看過するわけにもいかぬ。なにより、知らねばならぬ。おまえがこの世を救う救世主たりうるのかを』
やはりそうかと、あなたは嘆息する。
あなたはどうやら、いつの間にか世界を救う命運を背負わされていたらしい。
なんでそうなるのか分からないし、背負いたくもない運命だが……。
まぁ、アルメガと戦うのがソレなら、元々レウナとの約束で戦わなきゃいけなかったっぽいし……。
一応、アルメガと戦うこと自体には、まぁ、納得していなくもない。
だが、他にいろいろと、思うところがある。
神と人を隔てるものは、時ではなく存在だ。
その規模、あり方、考え方、何もかもが遠い。
そのように、人と神の間には確かな隔たりがある。
そしてそれは、人と神と言う存在の差がある限り、永遠に埋まりはすまい。
であるがゆえに、神の在り方、考え方について、とやかく言うことはできない。
だが、だからと言ってあなたは神の横暴を許容できない。
ウカノ神を敬愛するのも、ウカノにそうした横暴さがないが故だ。
すべての神を敬っているなら、神への挑戦行為を繰り返したりはしない。
数多の人間を好き勝手に利用したこと。
それは横暴と言う他に表現のしようがないだろう。
あなたはそれを許容しない、看過できない。
相手が上位神格だろうが構うものか。
1発や2発ぶん殴ってやらねば気が済まない。
『参れ、定命なる者よ。
あなたは熱く染まった怒りの熱を吐息と共に吐き出し、本気装備を取り出す。
それは一見して何の変哲もない杖。飾り気もない、見習い魔法使いに似合いの品だ。
だが、魔法の威力を何千何万倍にも引き上げる驚異のエンチャントが施されている。
それを手に、あなたは切り札を切ることにした。
上位神格を相手に確実に勝てる保証はない。
ならば、持てるものすべてを使って勝ちに行く。
だが、切り札は早々切れないがゆえに切り札でもある。
あなたの切り札は使うこと自体は容易いが、使うことにリスクがある。
切り札を使うことによって、治癒こそするものの後遺症が残る。
とは言え、幸いなことにいまは冒険中というわけでもない。
この大陸を旅行している真っただ中で、冒険再開までは時間がある。
1か月もあれば、完治とまではいわずともだいぶ軽快する。
もう1月ほどあれば完治し、いつもと変わらない状態に復帰できるだろう。
では、やるとしよう。
あなたは究極の加速を始めた……。
標準速度の観点から見て……つまりは、観戦していたモモロウらから見て。
それはほんの一瞬の、瞬きにも満たないほどの一瞬の戦いだったろう。
一瞬でパンサラゲア神が木っ端微塵になり、あなたが血反吐をぶちまけて倒れた。
当事者であるあなたの認識は違うが、観戦者たちにはそう見えたはずだ。
全身にのしかかってくる重たいダメージに、あなたは息も絶え絶えに呻く。
肉体ではなく、魂そのものが軋みを上げているのが分かる。死ぬほどつらい。
外傷はないが、心臓が滅茶苦茶に早鐘を打って肺の血管が破れたのだ。
あなたは色鮮やかな鮮血をドクドクと口から垂れ流していた。
そんな姿を見たハンターズのメンバーが慌てて駆け寄ってくる。
「お、おい! しっかりしろ! なにがどうしてこうなった!?」
「一瞬で負けたのか!? いや、あの神なゴッドが居ねぇぞ!」
「おおおおお嬢様しっかりしてください! お嬢様が死んだら私も死にますよ!」
「とにかく医者に見せないと死ぬぞ! え? なに? そんなことよりおっぱい揉みたい?」
「よし、ハンターズ最胸の私の乳ならば!」
「拙者のおっぱいでよければ!」
あなたはハンターズの面々にやらしい治療を受けた。
どうせ魂に入ったダメージなので、物理的な回復は効果がないのだ。
自然治癒するまで大人しくしているしか手立てはない。
ならば、心のうるおいのために、おっぱいのひと揉みやふた揉みくらい求めてなにが悪いのか。
むしろ上位神格とまで戦ったのだから、ひと舐め、ふた吸いくらいしても許されるはずだ。
あなたはハンターズの色とりどりのおっぱいを堪能し、その魂を癒した……。
文字数はどの程度が好ましいですか?
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