あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたの手による公開失禁を強制され、少年は精も魂も尽き果てんばかりの顔で項垂れていた。

 足元に広がった水たまりの存在が、なんとも言えない物悲しさを漂わせている。

 

「やり過ぎとは言わんが、やり口が悪質だな……」

 

「まぁ、痛めつけるよか効きそうではありますね」

 

 レウナには呆れられ、『アルバトロス』には微妙な距離の肯定。

 まぁ、そんなことはさておいて、あなたは少年に立つよう命じる。

 少年はビショビショのズボンからしずくを垂らしながら立ち上がる。

 そして、次にあなたは仲間や保護している弟妹がいるならそこに連れて行けと命じた。

 

「は? よせ、あいつらになにをするつもりだ!」

 

 べつに何もしない。むしろいいことをしてやるつもりだ。

 『支配』の魔法の力によって抗えない少年が口だけは反抗しながら道案内をはじめる。

 

「やめろ! やめてくれ! あいつらにだけは! やめろ!」

 

 本当になにもしないのに。

 そもそも、失禁で済ませただけ優しいくらいなのに。

 

「まぁ、それもそうだな。おい、小僧。このクズはこんなザマだが、この領地の領主だぞ」

 

 ひどい言われようである。一応領主なのに。

 

「うん? ああ、すまんな。このクズはこんなザマだが、この領地の領主様だぞ」

 

 そこじゃない。いや、まぁいい。

 あなたはこの領地の領主であるから、少年を罰する権利も刑罰を科す権利もある。

 それこそ、貴族に手を出したのだ。見せしめの死刑にされてもおかしくない。

 

「そ、そんな……た、頼む、領主様、俺は、俺がなんでもするから! あいつらだけは!」

 

 今なんでもすると言っただろうか?

 

「ん?」

 

「今」

 

「なんでもするって」

 

「言ったよね?」

 

 『アルバトロス』チームも少年の発言に注目して問い返している。

 

「なんでもする! 肥え貯めの処理でもなんでもするから! だから、あいつらにだけは……!」

 

 では、後でなんでもしてもらうとしよう。

 しかし、今は子供たちの下に連れて行ってもらいたい。

 

「頼むよ、頼む……!」

 

 少年は必死で懇願している。

 まぁまぁ、本当に何もしないから。

 

 

 

 あなたが少年によって連れていかれた先は、奥まった裏路地の先にあった廃屋だ。

 崩れた家の上に布を張って日光を遮り、辛うじてそこで暮らしている。

 トイネが乾燥地帯で雨が少ないからこそできる住み方と言えるだろう。

 

 そして、その中には幼い少女が2人と、少年と同年代くらいの少女が1人。

 特に血縁がある様子は見受けられず、全員が全員に似ていない。

 幼い少女は2人共に10歳くらいだろうか?

 

「ゼイレにいちゃん、おかえり? お客さん?」

 

「た、頼む……こいつらだけは、こいつらだけは!」

 

 うるさいので少し黙っているように。

 あなたは少年にそう命じると、2人の少女に声をかける。

 この地の領主になった領主であり、これからの雇い主であると。

 

「え? 雇い主?」

 

「どういうこと?」

 

「姉ちゃん、わかる?」

 

 そう呼びかけられた15歳ほどの少女だが、返事はない。

 やや饐えた異臭と、痩せ細った体。なんらかの病か、怪我。

 意識自体は若干あるように見えるが、朦朧とした状態であろうことが分かる。

 

 まだ生きてるし、早晩死ぬことはなかろうが……。

 このまま放置すれば、おそらくは衰弱死するだろう。

 あなたはその少女の傍に立ち、『軽傷治癒』と『病気治療』の魔法を使用した。

 

「うっ……あれ?」

 

 少女の意識が覚醒した。

 そして、足を覆っていたボロ布を払いのける。

 そこには傷ひとつない滑らかな裸足がある。

 

「あれ? 夢?」

 

 怪我を負っていたのは足だったのだろうか。

 まぁ、もう治療してしまったので分からないが。

 あなたはそんな少女に、傷は治ったかと尋ねた。

 

「へ? うわっ!」

 

 振り返って、あなたの顔を見て、少女がのけぞる。

 

「クライアント。あなたはもうちょっと自分の顔のよさを自覚していただかないと」

 

 もちろん自覚している。自覚した上でやっている。

 顔のよさで衝撃を与え、性癖を破壊するのだ。

 

「この人、性質悪いな」

 

「人の親のこと悪く言いたかないですが、女癖の悪さは最悪を通り越してますからね」

 

「それ以外の全てが高水準なのもすごく性質悪いと思います」

 

 ひどい言われようだ。

 まぁ、事実だからしょうがないが。

 さておいて、あなたは少女に再度傷は治ったかと問いかける。

 

「あ、ああ……うん、傷は治ってる……あんたは?」

 

 そう問われ、あなたは自身の名を名乗った。

 その上で、新たにこの地の領主となった者であると告げた。

 

「領主サマぁ!? そんなのがこんな場末(ばすえ)にいるもんかい! ガキだからって騙そうったってそうはいかないよ!」

 

 信じてもらえなかった。まぁ、そんなものだろう。

 一番信じたくないのはあなたで、一番やめたいのもあなたなくらいだ。

 まぁ、信じてもらえなくても、あなたが領主なのは残念ながら事実だ。

 なってしまったものはしょうがないので、あなたはあなたらしく領主をやるつもりだが。

 

 さて、そんな調子で怒っている少女にあなたは要件を告げる。

 これから救児院(きゅうじいん)を設立するので、そこのリーダーになってもらうと。

 

「救児……院? なんだいそりゃ?」

 

 あなたが今適当に名付けた名称なので、名称自体に意味はない。

 内容はごく単純なもので、この地の孤児を片っ端から集めて養育する施設だ。

 まぁ、言ってみれば孤児院だが、その孤児の就労支援までも行う予定であり。

 救児院で育つ期間中、就業訓練として十分な教育を受けてもらう。

 

 そして、そうした教育期間においてはリーダーが必要だ。

 集団を引っ張る者、取りまとめる者が必要なので。

 

「はぁん? なんであたしが?」

 

 そこにいたから? まぁ、大した理由はない。

 強いて言うなら年齢がそれなりで、気が強そうだから。

 実際の能力はどうでもいい。そこは教育で叩き直す。

 使えないやつを使えるようにするのが教育だ。力づくで有能にする。

 

「はん……そんなうまくいくもんかね」

 

 まぁ、早晩うまくはいかないだろうが……。

 そのあたりは時間をかけていく予定なので問題ない。

 領地経営とは元よりそう言うものだ、即効性の政策などまずない。

 

「うっ!」

 

「NAISEIしようとしてた私たちに深く突き刺さる!」

 

「すまない……即効性ばっかり期待していて本当にすまない……!」

 

「いらつくぜ……ナローシュに、憧れたんだ……!」

 

 なぜか『アルバトロスチーム』に深々と突き刺さった。

 

「だいたい、孤児を育てるなんて言っても金はとんでもなくかかるんだよ。あんたそんな金あるのかい?」

 

 問題ない。あなたのポケットマネーは莫大だ。

 できることならポケットマネーには頼りたくないが……。

 現状では融資をしてくれるところもないので、しょうがないだろう。

 そもそも、アノール子爵領の財政と、あなたの個人財政を切り離すべきかどうかも不明だし。

 

 王宮を頼れば相当高額な金を相当な低利で貸してくれそうだが……。

 そのあたりの借金を盾になにを要求されるか分かったものではない。

 

「そんなもんかね……」

 

 まぁ、疑う気持ちも分かるが、基本的に拒否は認めない。

 これからこの領地の基本法に救児院についての扱いを盛り込む。

 

 孤児や捨て子は基本的にすべて救児院に入れなくてはいけないようにする。

 そして、子供であれば、原則あらゆるすべてを受け入れることにする。

 意図的にそれ以外の場所に捨てるなどした場合、捨てた者は死罪とする。

 子供側も、最低限の判断ができる年齢であれば、救児院に出頭しない場合は重罪とする。

 なお、自己判断不能な捨て子を発見した場合、届け出れば些少ながら謝礼を与える予定だ。

 

「無茶苦茶強力な体制で孤児をなくそうとしてる……」

 

「領内における法を制定できる貴族制だからこそできるやり口ですねこれ……」

 

「やり方が独裁国家みたいなんですがそれは」

 

「いえ、まぁ……民主的なやり口でうまくいくような教育状態でないのは確かですし……」

 

 『アルバトロス』チームがなぜか困ったような顔をしている。

 慈悲に溢れた救済法であると自負していたのだが……。

 

「孤児をなくせるならそれで構わんだろうが。やり方の善悪はどうでもいい。重要なのは結果だ。善良なやり方で孤児を死なせては話にならんだろう」

 

 レウナがそのように断じてくれた。

 あなたも安心して押し通せると言うものだ。

 

「……あんた、もしかして本当に領主サマなのかい?」

 

 あなたは頷く。

 

「……雑な口調だったのは謝るよ。でも、生憎そこまで丁寧な喋り方なんざ教えられてないんでね」

 

 いちいちそんなことを罪に問うつもりはない。

 口調なんて教育で形作るものだ。そして、教育を受けていないことは罪ではない。

 教育、学問があらゆるすべてに門戸を開いているならともかく。

 限りある富める者にだけ与えられた知を持たないからとて嘲笑することは傲慢だ。

 

「そうかい。で、あたしがそこのリーダーってのは……あれ? ゼイレ?」

 

 そこでようやく少女がスリの少年に気付いた。

 先ほど子供たちも言っていたが、ゼイレと言う名らしい。

 あなたが命じたせいで、口をつぐんだまま直立不動で立っている。

 

「あんたなにして…………なんでズボンが濡れてんだい……?」

 

 先ほどスリをされそうになったので、罰として粗相をするように命じたからだ。

 

「…………」

 

 ものすごく微妙な顔をされた。

 無礼だとして殺されなかっただけありがたいが。

 だからと言って、漏らせとは何事かと。

 

 まぁ、それはさておいてだ……。

 この少年、ゼイレもまた救児院のリーダーになってもらう予定だ。

 気心知れた仲だろうし、同じ境遇の者がいれば多少は気が楽だろう。

 

「そうかもしれないけどね、あんたのこともどこまで信じていいんだか。領主なんてそんなものだろ?」

 

 まぁ、そんなものだなとあなたも頷く。

 領主側には領主の都合があるのだろうが。

 やはり立場の強さが違うので、強権を通されれば領民の側が引くしかない。

 領主への信頼が損なわれるというか、培われないのも当然だ。

 

 あなた自身、そこらへんを培っていくつもりはない。

 民なんて大抵が怠惰で愚かなものだ。具体例はあなた。

 

「怠惰ではないが、たしかに死ぬほど愚かだな、うん……」

 

 レウナも認めるし、あなたも自認している。

 すべてにおいて賢い人間などいるわけがない。

 そして、常に勤勉で真面目な人間もいない。

 やはり楽な方に流れてしまうのが人間なので。

 

 しかし、それを助長するような真似はしない。

 ちゃんと働いてもらわないと領地が維持できない。

 そして、そうなった場合、困るのは領民であってあなたではないし。

 

 なので領民たちが困らないよう、領民たちを働かせる。

 聡明(そうめい)でなくとも、勤勉(きんべん)な民がきちんと報われる領地にする。

 働けば豊かになれる土地にするつもりだ。その最低ラインだけは守る。

 そのための第一歩が救児院だ。孤児たちを無くし、勤勉な良民に育てるつもりだ。

 

「なるほどね……どこまで信じていいんだか知らないけど、期待してるよ、領主サマ」

 

 どうやら認めてもらえたらしい。

 ところで、名前を聞いてもいいだろうか?

 

「ああ、そう言えば、名乗ってなかったね。あたしはマリル……そこのちまっこいのは、イルとメルだよ」

 

 もちろん、そのイルとメルも救児院に入ってもらう。

 そして、救児院の第一弾は、これからだ。

 

 今すぐに、強力な孤児の掃討を開始する。

 この町から孤児を一掃し、速やかに就労支援を開始する。

 第一弾のリーダーとなるゼイレとマリルは苦労するだろうが……。

 

 その苦労の見合っただけの対価は与えるつもりだ。

 あなたは就労支援中の孤児たちにも給与を与えるつもりでいた。

 まぁ、衣食住を保証されて、ただ就労支援を受けるだけの孤児は無給だが。

 

 そうした孤児たちを取りまとめるリーダー役には最低限の給与を与える。

 それこそ銅貨1枚とか、そのくらいの薄給ではあるが。

 リーダー役には重責がある。それに見合う待遇を与える。当然のことだろう。

 

「そりゃまたお優しいことで……まぁ、期待させてもらうことにするよ。こんな場末から抜け出せる、またとない好機のようだからねぇ……」

 

 マリルも乗り気になって来たようだ。

 では、はじめるとしようではないか。

 あなたはマリルに他の孤児たちはどこにいるかと尋ねた。

 孤児同士、行動圏が被っていてもなんらおかしくはない。

 他の孤児の情報を握っている可能性は高いだろう。

 

「はん、あたしに悪だくみの片棒担がせようってかい。いいさ、伸るか反るかの博打、打ってみようじゃないか」

 

 悪だくみというわけでもないが、手伝ってくれるならそれでいい。

 あなたはマリルと言う協力者を得て、孤児掃討を開始した。

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