あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたは町の孤児の一掃を始めた。

 そして、それはまたたく間に、と言うほどではないが。

 そう時間がかからずに終わることとなった。

 

 あなたたちの前には町にいた孤児たち。

 年齢は上が15そこらから下は言葉もおぼつかない2~3歳ほど。

 数は200人近くもいる上に、健康状態もかなり悪い。

 まぁ、率直に言って典型的な孤児、浮浪児と言ったところだ。

 

「町の規模の割には多いな……あまり良い扱いは受けていなかったようだし」

 

 レウナの言にあなたは頷く。

 ここに孤児を集めるにあたって民の手も借りたが。

 その際に手荒な方法で連れて来られた子供も多かった。

 

 穏当に丁重に連れてこいと言ったのにそうされたのだ。

 浮浪児たちが人々にどう見られ、扱われていたのかが分かる。

 ちなみに乱暴に連れて来た者には、領主に逆らった罪を贖う罰を命じた。

 

「鞭打ち39回はさすがに厳罰が過ぎると思うんですが」

 

 まぁ、そうかもだが。初手なので。

 手ぬるくやってると舐められるので、初回限定で罪を重くした。

 

「こんな嫌な初回限定は聞いたことないですね……」

 

「初回限定特典は重罰化!」

 

「初動が大事なのは認めますが……」

 

「まぁ、一罰百戒(いちばつひゃっかい)と言うことで……」

 

 そう言うことなので、多目に見て欲しい。

 次回からはちゃんと鞭打ち5回くらいにするので。

 

「あんまり変わってないんですよね」

 

「そもそも鞭打ち刑自体が重罰なんですが」

 

「……まさかエルグランド基準だと軽い?」

 

 あなたは頷いた。

 エルグランドにおいて鞭打ち刑は微罪に用いられる。

 そもそも、死刑ですら微罪に持ち出されるのだ。

 命が無事な鞭打ち刑が微罪なのは当然では?

 

「嫌過ぎる文化の違いだ……」

 

「下手したらショック死するほどの罰が微罪に……」

 

「ギロチン刑が微罪に用いられる土地とか嫌過ぎる」

 

 エルグランドではギロチンはその手の用途には使われない。

 罪人を死罪にする場合、普通に兵士が切り殺してしまうので。

 基本的に、ギロチンは娼館に置いてあるものだ。

 こう、ものすごく過激なプレイなどに用いる。

 

「エルグランドではギロチンがアダルトグッズなんですって」

 

「意味分かんな過ぎますね」

 

 まぁ、そのあたりはさておいて。

 あなたは集められた孤児たちに、自分が領主であると名乗る。

 そして、これから孤児たちに衣食住と、これからの働き場所を与えることを宣言した。

 

「すばらしい……クライアントが立派なナローシュへの第一歩を踏み出しました……!」

 

「孤児たちを集めて教育を施すのはナローシュの嗜み」

 

「このまま教育改革を進め、最終的には孤児ハーレムですね」

 

「まぁ、ハーレムは既に複数お持ちですけどね……」

 

 『アルバトロス』チームがなにやら変なことを言っている。

 あなたは孤児たちに教育なんて施すつもりはないのだが。

 

「え? 就労支援をなさるのでは?」

 

 職業に就くのに教育が必要だろうか?

 まぁ、その職業に必要な技術と知識を学ぶのも教育と言えばそうか。

 たしかに、そう言う意味では教育を施すと言えるのかもしれない。

 

「……あの、なんの職業に就けるつもりなんですか?」

 

 学もなければコネもなく、技術も金もない。

 そんな子供であっても、かならず持っているものが1つある。

 それこそはすべての人々が持つ輝き、胸に脈打つ命。

 それを賭けることで役立てる場所こそが戦場だ。

 そう、つまりあなたは孤児たちを傭兵にするつもりだった。

 

「ええええ……」

 

「しょ、少年兵……」

 

「まぁ、この世界ではさして問題になる行為では、ないんですけどね……」

 

「そもそも『少年』の定義自体が異なると言いますか」

 

 なぜか『アルバトロス』チームはドン引きだ。

 そんなに悪いことをしたつもりはないのだが……。

 あなたは何が悪いのかを尋ねた。改善できるならするつもりだった。

 

「いえ、何も悪くはないんです……ただ、私たちの世界では問題行為と言うだけで……」

 

「志願の場合は問題ないので15歳くらいから軍人になる人もいますが……」

 

「国や組織が20歳未満の者を徴兵するのは罪に問われますし、倫理的にも問題がある行為とされています」

 

「私たちの常識が噛み合わなかっただけですので、お気になさらず……」

 

 まぁ、そう言うことならいいのだが……。

 『アルバトロス』チームに教育を頼むつもりなので、そのあたりの不満は解消しておきたい。

 

「私たちに少年兵育成をしろと?」

 

 何か問題があるのだろうか?

 『アルバトロス』チームは20そこそこの年齢のようだが。

 どう考えても身に着けた技術などが年齢に見合わない。

 

 15歳から訓練を始めたとしたら、約7年。

 その程度で体得出来ていいレベルではない。

 

 銃火器を使った戦闘技術ならばともかく……。

 カル=ロスの魔法や体術、他にもアキサメの剣技なども相当なレベルだ。

 あれらは絶対に10年単位の訓練を積んでいる。

 

「……あれ? そう言われてみると、たしかにそうですね?」

 

「晶は3歳から訓練受けてたらしいですよ」

 

「秋雨も3歳の頃から修行してますね」

 

「つまり……私たちにとっては、日常……?」

 

 なにやら彼女たちの中で発想のパラダイムシフトがあったらしい。

 纏めると、少年兵育成は大した問題ではないということだろうか?

 

「なんだかいまいち納得いかないものを感じますが、まぁ、はい……」

 

「やれとおっしゃるならやりましょう」

 

「でもこれ、依頼の範囲内なんでしょうか?」

 

「警護と教育では話が別な気が……」

 

 あなたの方からも依頼を出す。

 手すきの者は孤児に教育を施して欲しい。

 どうせ、ヒマなのだろうし。

 まだ3日も経っていないが、暇を持て余しているのはありありと分かる。

 

「……これって新規依頼なんですかね? それとも既存依頼の条件追加?」

 

「クライアントではあるんですが、別時間軸のクライアントをどう扱うかというと……」

 

「私たちにタイムパラドックス的な難しい問題を出さないでくれ!」

 

「うのうがしんだ」

 

 なにやら混乱させてしまった。

 そんなつもりじゃなかったのに……。

 

 

 

 さて、掻き集めた孤児たちだが、なにせ人数が人数。

 収容する場所を作るだけでも大仕事であるが……。

 

「じゃあまず……住む場所を作るところからはじめましょうか」

 

「土木工事で肉体を鍛えましょう。そうしましょう」

 

「それまでの住む場所はテントで済ませるしかありませんね」

 

「兵士なんて円匙(えんぴ)握ってることの方が多いですからね」

 

 とのことで、浮浪児ら自身に作らせることとなった。

 エルグランドの『土地の権利書』でも使おうと思ったのだが。

 アレは土地の用益権を主張する代物でしかないが……。

 建物の建築もセットになっている高級品があるのだ。

 

 家や屋敷、畑や倉庫など、そう言うものが一瞬で建築されるのだ。

 あなたの自宅の小城も最高級品たる『小城の権利書』で建築したものだ。

 それらを使えば一瞬で家が用意できて大変便利である。

 

「それは便利ですね。しかし、肉体訓練のためでもありますし、教育のためでもありますので」

 

「今から彼らの価値観を木っ端微塵に粉砕し、指揮系統への隷従と、命令への服従を叩き込みます」

 

「そのためにはこういう分かりやすい肉体労働は最適なのですよ」

 

「どんな奴でも叩き直せばなんとかなるものです」

 

 なるほど、力づくで頭に叩き込むための環境と言うわけだ。

 そう言うことであれば、下手に用意するのも悪いだろう。

 

「ええ。それに、最悪の場合は頭に叩き込むのでも足りないこともありますからね。生ぬるい環境では困るので」

 

 頭に叩き込むのでも足りないなら、どこに叩き込むのだろう?

 

「脊髄」

 

 曇りなき眼でアスマイーフがそのように即答した。

 なんだかものすごく厳しい訓練をするらしい。

 

「ご安心ください。幸いにも『アルバトロス』チームには正規の軍事教育を受けた者が3名います」

 

「3セクション編成ですので、1セクションに1人の割り当てで配置されており、ブラボーチームはアスマイーフが」

 

「アスマイーフは実戦形式のクッソ厳しい訓練を乗り越えて今に至っています」

 

「ひよっこどもを立派な殺人マシーンに仕立て上げてくれることでしょう」

 

 すると、ローテーションを経てもだれか必ず軍事教育経験者がいる。

 なるほど、それならば立派に仕立て上げてくれることだろう。

 あなたは期待していると『アルバトロス』チームに告げた。

 

「頑張りますので、報酬弾んでください」

 

 もちろん構わない。報酬は何で支払うことがお望みだろうか?

 

「覚醒病の抗体ポーションを」

 

 あなたは妙なものを欲しがるなと首を傾げた。

 覚醒病の抗体ポーションはそのまんまの効能があるポーションだ。

 エルグランドに蔓延る奇怪な風土病、覚醒病。

 これによる突然変異を抑制・治療し、抵抗力をつけてくれる。

 

 覚醒病は血脈に眠る先祖の肉体的特性が発言するという病だが。

 良性、悪性を問わずに発現するので、時に致命的な事態を引き起こす。

 あなたもかつて、両手に毒腺が発現してえらい目にあったことがある。

 抗体ポーションがなければ今も毒まみれの食事を食べる羽目になっていただろう。

 

「使い道はいろいろあるんですよ」

 

 いろいろあるんだ……あなたはちょっと寡聞にして聞いたことがない。

 いったいどんな風に使うのだろうか?

 

「あれ、呪いをかけて服用すると覚醒病を促進するんですよ」

 

 それは知っている。なので、使う前に祝福するのが基本だ。

 

「り患していない場合、り患します」

 

 まさか、『アルバトロス』チームは覚醒病を利用するつもりだろうか?

 あなた自身、強力で優位な特性を持つ突然変異を利用しているが……。

 デメリットも多いので、あまり褒められたやり方ではないのだが。

 

「でも、強いんですよ」

 

 なるほど、それならしょうがない……あなたは即座に折れた。

 強さを追求することは冒険者の嗜みだ。やはり、強いので。

 あなたはどれくらいを報酬として要求するのか尋ねた。

 

「では、そうですね……150服ほどでどうでしょう? 12人分に対する報酬とお考えいただければ、それほど無理筋ではないかと」

 

 かなりの数だ。しかし、12人分と考えれば、まぁ……。

 べつにやろうと思えば『ミラクルウィッシュ』のワンドで頼めば貰えるし。

 特別な知識と技術を教育してくれるということを思うと、むしろ安いのかも。

 あなたはそれでいいと頷き、前金として50服を渡した。

 

「言ってみるものですね」

 

「これで私たちもパラ無しヘイロウができます!」

 

「カル=ロスばっかりずるいですからね」

 

「私たちは魂の姉妹ですから」

 

 覚醒病は扱いが難しいものだ。

 基本的に、り患してしまえば病態は常に進行する。

 あなたも非常にゆっくりだが重症化し続けているはずだ。

 それこそ10年かけて1つ突然変異を発現するとかだが……。

 

 そうであっても進行し続けていることに変わりはない。

 必要とあらば、きちんと抗体ポーションを飲んで変異治療をすることを勧めた。

 

「ええ、そのあたりはまぁ、カル=ロスもいますので」

 

「彼女の意見も聞いて、うまく付き合っていきます」

 

「慎重にやれ、と言うのは分かっているつもりです」

 

「私たちだって死にたくはないですからね」

 

 まぁ、分かっているならいいのだが。

 あなたは大丈夫かなぁ? と思いつつも彼女たちの選択を肯定した。

 

 

 

 孤児たちを掻き集め、用地を選定する。

 と言っても、穀倉地帯と岩塩鉱山の周辺。

 それ以外は単なる乾燥地帯であり、その価値は低い。

 よって、どこであろうとより取り見取りと言うべき状況だ。

 

 そのため用地選定はすぐさま終わった。

 町に近くて、なおかつ訓練のためのスペースが取りやすい場所。

 そう言う利便性を前面に打ち出した選定が普通にまかり通った。

 作業道具を買い集めて、建築に取り掛かるまで1週間とかからなかった。

 

 あなたの前で建築が進んでいく。

 まずは整地をし、地ならし、それから基礎工事だ。

 基礎工事をちゃんとしないと建築物が沈下する。

 小規模建築ならともかく、200人が寝泊まりできる宿舎だ。

 規模はどうしても大きくなるので、基礎が必要になる。

 

「どうして俺たちが……なんでもするって言ったとは言え……」

 

「あたしらじゃなくて、専門業者に作らせた方がいいだろうに……」

 

 汗水たらして働く、あなたにスリを働いた少年ゼイレ。

 そして、あなたが魔法で治療した少女、マリル。

 2人ともリーダー役として幼子を取りまとめつつ、肉体労働に精を出している。

 そして、そんなマリルのぼやきに設計図を手に指示出しをしていたヒフミが声をかける。

 

「自分たちの手で作るから尊いんです。絆が深まるんですよ」

 

「同じ釜の飯を食った、と言うやつですね」

 

「やはり苦楽を共にするというのは強いですから」

 

「リーダーたるもの範を示さねばなりませんからね」

 

 そう言う『アルバトロス』チームも建築にはもちろん参加している。

 そんな姿勢もあってか、好感度はそう悪くないようだった。

 あなたは炊き出しのために食材を持って来たりなどで好感度を稼いでいる。

 やはり、上役として好かれて置いて損はないので。

 

 雑兵ならば好感度を稼ぐ必要などなく、適当に使い捨てればいいが。

 救児院の子供たちは傭兵は傭兵でも上等な傭兵のそれにする予定だ。

 叙任されていないだけの騎士団とでも言うべき集団にするのだ。

 

 まだまだ道のりは遠いが、はじめなければどうにもならない。

 アノール子爵領の運営はこれからも長く続くのだ。

 やがては正規軍にまでできるよう、今から始めなくては。

 

 あなたの目は遠い未来を見据えていた。

 いずれ生まれて来る、あなたとイミテルの子のためにも……。

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