あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「あ、ご主人様っ。おかえりなさい! って、あれ?」

 

「あなた、どうしたの?」

 

 以前の宿に向かったところ、ロビーでサシャとレインがくつろいでいた。

 日当たりがよくて心地よい場所なので、くつろぐには最適な場所なのだ。

 そんなサシャだが、あなたの背後にいるフィリアの姿に気付いて目を丸くしていた。

 

「処分するんじゃなかったの?」

 

 フィリアを処分する理由は、あの件を知られたらまずいからだ。

 だが、あの件について口外させない方法があったのでそれを使った。

 そのポイントさえクリアできれば、フィリアを殺す必要はない。

 そして、あなたにはそのポイントをクリアする手立てがあった。

 既に喪われた魔法だが、『支配』と言う魔法がある。

 その人間の自由意志を縛り上げて絶対服従の奴隷にする魔法だ。

 聞くだけでもわかるほどに凶悪な魔法だが、この魔法はそれだけではない。

 この魔法は1度かかれば最後、2度と解除不能なのである。

 

 まぁ、先に述べた通り、これはもはや喪われた魔法だ。

 なので『支配』を使える人間はそう多くはないのだが。

 まぁ、喪われたとはいえ痕跡すらも消え失せたわけではないので使える者も多少はいる。

 事実、あなたがこの魔法のストックを小なりと持っている。

 

 

「そんな恐ろしい魔法があるの……」

 

 フィリアには既にその魔法を使用済み。

 先日の出来事について一切の口外を禁じている。

 もしも口外せざるを得なくなった場合の対処もしてある。

 その際には自害して口封じをすることになっている。

 命令されたフィリアは泣きそうだったが、さすがにそこまで甘い顔は出来なかった。

 いまは自由に動いているように見えるのにもタネがある。

 これは「禁じたこと以外は自由にしてよい」と命令しているからだ。

 

「そう。ならいいのだけど。それ以外の処分は?」

 

 ちゃんと処分したとあなたは答える。

 

「絶対に見つからない場所に隠したのよね。本当に見つからないの?」

 

 問題ないだろうとあなたは太鼓判を押す。

 なにしろ『四次元ポケット』に突っ込みっぱなしであるので見つけようがない。

 そのうちどうにかして処分する必要はあるだろうが、それはいずれ考える。

 ともあれ、あなたはフィリアを掌で指し示し、にこやかに紹介した。

 

 新しくペットになったフィリアである、と。

 

「ぺ、ペット……」

 

「あなたねぇ……」

 

 2人に呆れたような困ったような顔で見られてしまった。

 しかし、戦力として期待して連れて来たわけではない。

 そうである以上は、ペットと言うのが一番的確なのだ。

 そもそも、サシャだってペットではないか。

 

「あ、私もペット枠なんですね……そうなんですね……」

 

 そうじゃないかなとは思ってた……みたいな顔をするサシャ。

 

「でも、『銀牙』のメンバーだった彼女を引き入れたなら、冒険者としての活動も……活動も……」

 

 レインがそう言いかけ、あなたを見た後。乾いた笑いを浮かべて首を振った。

 

「もう全部あなた1人でいいんじゃないかしら」

 

 レインがどうしようもないことを言い出した。

 たしかにあなた1人で粗方のことはなんとでもなるのだが。

 しかし、たとえばセックスは1人では出来ないのだ。

 2人は1人に勝る。これは絶対の原則なのだ。

 

「言外に仲間の用途がセックスだけと言い切ったわね」

 

 別にそう言うつもりで言ったわけではない。

 まぁ、今のサシャとフィリアでは頼れる仲間とは言えないのも事実だ。

 

「あなたの求める基準っていったい……」

 

 少なくともあなたと互角に戦える程度の戦闘力は必須である。

 そのくらい無くては仲間にする意味がない。

 

「そう……王都でも屈指の冒険者を瞬殺するあなた並みの仲間ね……高望みし過ぎよ」

 

 誰も初めからその水準を望んではいない。

 実際、サシャにだってその水準を望んではいない。

 あくまでも将来的な目標としてその水準に到達することを要求するだけだ。

 

「将来的に……で、出来ますか?」

 

 何度も言うようだが、努力でゴリ押しするのがエルグランド流だ。

 1000回挑戦してもダメなら1万回挑戦する

 それでもダメなら1億回挑戦するのだ。

 

「1億回やってもダメなら?」

 

 当たり前だが1兆回挑戦するだけだ。

 諦めなければいつかは成功する。

 

「根性論ね……」

 

 レインが呆れたように言う。

 だが、根性でやるしかない以上は根性に頼るしかないのだ。

 実際あなたが今までそうして成功してきたし。

 あなたの周りにいた者たちも全てがそうだった。

 

 想像を絶する超絶の天才であろうとも同じだ。

 努力せずに成功できるような世界ではないのだ。

 努力すれば、それだけで成功するほど甘い世界ではない。

 だが、成功したものはみな努力している。それだけだ。

 

「努力すれば報われるとは限らない……ですか」

 

 むごいようだが、それが現実なのだ。

 才能だけでも、努力だけでも成功するとは限らない。

 だが、努力しなければスタートラインにすら立てない。

 スタートラインにすら立てないでは、勝つとか負けるとか以前の問題だ。

 たとえ無様に大敗するとしても、勝負の場に立てないのはそれ以下だ。

 

「そうですね……たしかに、そうかも……勝負の場に立てないのは、それ以下……」

 

 サシャはあなたの言葉に何か感じ入るものがあったのか、真剣に考えこみ出した。

 その姿にあなたは笑みを浮かべて頭を一撫ですると、とりあえず休むと告げた。

 なにしろ今の今までフィリアと壮絶な戦いを繰り広げていたのだ。さすがのあなたでも疲れがあった。

 

 

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