あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 さて、ブレウの見舞いと出産の付き添いで来たあなただが。

 さすがにそれだけで済ませられるほど無責任な立場でもない。

 王都ベランサの屋敷ですべき仕事を済ませたり、税金を納めたり。

 そう言った屋敷の主としての仕事は最低限済ませる。

 

 なお、お忍びで来ているので、社交の類はしない。

 マフルージャ王国の貴族ではなくとも、トイネの貴族ではある。

 隣国の貴族と言うこともあり、やろうと思えばどこぞと社交などは可能だが……。

 

 べつにやりたくないのでパスだ。

 そんなことするくらいなら庭の草むしりでもしていた方がマシである。

 まぁ、それをやると庭師の仕事を奪うことになるのでやらないが……。

 

 

 そう言うわけで、屋敷で適度に仕事を済ませ。

 あとはメイドを食べたりする穏やかな日々を送っている。

 今日もまた朝からモーニングティーを運んでくれたメイドと朝寝をし。

 それから軽く仕事を済ませ、屋敷の中を散歩したりしている。

 

 なんとも優雅な心地だ。

 後遺症もすっかり治った。

 穏やかに時間を過ごすのは気持ちいい。

 また冒険の再開をするまでの余暇と言うわけだ。

 

 ふらふらと中庭に入る。

 なんとなく目についたからだ。

 すると、中庭のテーブルに人影があった。

 黒髪に黒目のカイラと、やはり黒髪に黒目の集団。

 『アルバトロス』チームの面々がお茶をしていた。

 

 屋敷内で何かに襲われる心配はまずない。

 『アルバトロス』チームには自由行動をさせているのだ。

 

「へぇ~。一二三(ひふみ)さんは、インターハイ優勝経験があるんですね~。種目はなんでしょう~?」

 

「徒手格闘、無種目無差別の部です」

 

「聞いたことない種目ですね……空手とか柔道ではなく~?」

 

「それは、徒手格闘空手の部や、柔道の部ですね。無種目と言うのは、なんでもありの部です。空手も柔道もいます。無差別は階級制も無しですね」

 

「あ~。つまり、全国最強女子高生決定戦ですか~?」

 

「まぁ、そうですね」

 

「と言うことは、一二三さんは当代最強の女子高生だったことがある~?」

 

「そうですね。まぁ、秋雨は剣術の部無差別級の優勝経験ありますし。切華もベストエイト入りはしてますよ」

 

「準優勝ではなく~?」

 

「はい。切華は準決勝敗退ですからね」

 

「……皆さんくらいの強さをお持ちなんですよね?」

 

「まぁ、当時に比べれば多少強くはなってますが、そうです」

 

「あ、なるほど。相手もなにかこう、裏渡世とかでバトルしてる感じの人ですね~?」

 

「いえ、たぶん純粋に表の人だと思いますよ」

 

「表界隈でしか活動してなくても、裏渡世の人に勝てる……?」

 

「裏渡世で活動してるからって強くなるわけではないので……」

 

「言われてみればそうではありますね~……」

 

 話題の主な内容は、カイラがあちらの世界について尋ねている。

 あちらの世界、ニッポンについていろいろと興味があるらしい。

 

「普通、フィクション作品とかでは裏渡世で活動してる人の方が強いとか、むしろ表は話にならないみたいなパターンが多いのに……」

 

「武術と言うのは人間の身体構造に由来する限界がありますから。裏でも表でも、突き詰めれば限界点は同じですからね」

 

「あ、じゃあ、氣とか魔力とか、そう言う扱いがアレソレとかでは~?」

 

「魔力はともかく、氣は自然と目覚めますから……それに魔力の扱いが相伝されてる武術流派もありますし」

 

「あるんですか、そんな流派」

 

「日本ではあまり多くないですが、ブリテンではメジャーですね」

 

「メジャーってくらいあるんですか」

 

「いえ、ブリテンでメジャーなバリツと言う流派で魔力の扱いが相伝されてます」

 

「バリツ」

 

「バリツです」

 

「メジャーって、どれくらいですか。使い手は」

 

「正確には不明ですが、約1億2000万人と言われていますね」

 

「1億2000万人」

 

「はい。1億2000万人」

 

「全世界で?」

 

「いえ、ブリテンだけで」

 

「あの、ブリテンに1億2000万人いるんですか」

 

「全人口が約2億人だったかと思います」

 

「すみません、世界地図とかお持ちだったりします?」

 

「すみません、無いです」

 

「そうですか……お、思った以上に、私の知ってる世界と違うなぁ……」

 

 そんなカイラの隣にすとんと腰かける。

 そして、なんの話? 混ぜてよ、と声をかけた。

 

「お母様。カイラさんがあちらの世界の強い人間に興味があるとのことで」

 

「なんだか話を聞く限り、メチャメチャな強さの人が多いみたいですよ~」

 

「そうですね。秋雨の義母は江戸時代に、最強武術ワープで外宇宙に進出して宇宙怪獣と決戦してますし」

 

「単純な強さ以上にメチャメチャな来歴ですね~……どういうことなの~……?」

 

 時代区分はよく分からないが、宇宙と言うことは惑星の外だ。

 惑星の外にまで飛び出せるほどの転移が実現可能とは、すごい武術もあったものだ。

 

「聞いてるだけで頭が痛くなってくる気がします~……話を変えましょう~……」

 

「はい、構いません」

 

「では……カル=ロスさん」

 

「はい、なんでしょう」

 

「えっと、カル=ロスさんは、こちらのとんでもない女たらしを養母に育ったんですよね~?」

 

「はい」

 

「なにかこう……面白おかしいエピソードとかあったら、教えてくださいな~」

 

 あなたは恥ずかしいなぁ勘弁してくれと嘆いた。

 未来の自分の汚点や恥ずかしい話なんて聞きたくない。

 自分になんの責任もない暴露(ばくろ)話にどう対処しろと?

 

「そうですね。未来の話になりますが……恐ろしいことに、未来においてカイラさんは実家の場所をご存知なので、たまに遊びに来ていました」

 

 恐ろしいことに、て。

 いや、たしかにカイラに自宅の場所を知られるのは恐ろしいことこの上ないが。

 それを当人に面と向かって言うのはちょっとおかしいのでは。

 

「カイラさんが遊びに来て、泊まって行かれる場合、お母様は私のベッドに潜り込んできました」

 

「えっ……それは、その……い、インモラルな……?」

 

「いえ、そうではなく」

 

「で、ではどういう理由で……?」

 

「当時の私の視点からするとカイラさんとは面識がないのですが、カイラさんからすると私には面識があるわけです」

 

「はぁ。まぁ、そうですね?」

 

「だからか、私といっしょであればカイラさんが迫って来ないのでセーフゾーンとして私のところに来ていたようです」

 

「ええ~!? それってひどく無いですか~!? 私のことを避けてたんですか!?」

 

「いえ、まぁ、なんせ自宅ですので、お父様もいるわけでして。そこで堂々と浮気すると、お母様が月まで殴り飛ばされてしまいますから」

 

「ああ~……な、なるほど、それなら、たしかにしょうがない……のかな~……?」

 

 なお、月まで殴り飛ばされる、と言うのは比喩表現ではない。

 あなたの最愛のペットが本気でぶん殴れば、洒落抜きで月までぶっ飛ばされる。

 痛いし苦しいし寒いし、アレはとにかくメチャクチャにしんどい。

 うっかり呼吸しようとすると気絶してそのまま宇宙の藻屑になるし。

 

「にしても、お父様ですか……そちらも女性とは聞いていますが、どんな方なんですか~?」

 

「お父様の名前はアイセーラと言います。ただ、本名はカスです」

 

「カスて」

 

「罵倒ではなくて、本当にカスと言う名前なんです」

 

「ええ……」

 

 それは事実だ。あなたの最愛のペットの名はアイセーラと言う。

 だが、それは買われてからあなたの父に命名された名だ。

 本来の名はカスであり、それはハイランダーにおいては伝統的な名前だ。

 

「カスと言うのはハイランダーに伝わるおとぎばなし、カルとロスの姉妹に由来する名前です。私のカル=ロスと言うのも、そのカルとロスの姉妹に由来します」

 

「カルロスだと男の人の名前ですけど、カルとロスなら……まぁ、女性名……と言えないこともない……のかな~……?」

 

「そして、カル=ロスの愛称と言うか、略称がカスなんです。だから、カル=ロスとカスは割と人気の名前なんです」

 

「異文化ですね~……それで、どんな方なんでしょう~?」

 

「こう……蛮族です。そして、いじめっこ」

 

「いじめっこ」

 

「お母様の嫌がることを進んでするタイプです」

 

「どう考えてもいい意味ではないですよね~」

 

「そうですね。お母様の嫌がる顔が見たい一心で干し首をプレゼントしてますから」

 

 ……あれそう言う意図のプレゼントだったんだ。

 あなたは今さらになって最愛のペットの行動の意図を知った。

 

「でも、母性的でなおかつ父性的で優しい人ですよ。躾の仕方が体罰上等なこと以外は尊敬できる父親です」

 

「そうだったんですね~……」

 

「お母様も史上最悪の女癖を除けば、本当に尊敬できる母ですしね」

 

「汚点があまりにもデカすぎるんですよね」

 

「それは認めます。でも、それ以外は体罰はしないし、食事抜きもしないし、優しいしと、理想的な母親ですよ」

 

「あらあ~、私も育てられたいくらいですね~。素敵なお母さんで羨ましいです~」

 

「魔法も剣技もお母様に教えていただきましたしね」

 

「個人レッスンですか~……私も受けてみたいくらいです~……」

 

「魔法の練習中はひたすら応援もしてくれましたしね。頑張れ頑張れできるできる、と」

 

「ひたすら信じてくれるのは嬉しいですね~」

 

「まぁ、私はそれで爆散したのですが」

 

「…………なんて?」

 

「エルグランドの魔法は魔力が枯渇すると、生命力を魔力に強制変換して無理やり起動する機能があるのですが」

 

「それは一般的に禁術と言いませんか?」

 

「はい。エルグランドの魔法はすべて禁術に相当します」

 

「もしかしなくても、エルグランドって命を投げ捨てる文化ですね?」

 

「私はその辺りのことを知らなかったので、生命力が魔力に変換されて血反吐をブチ撒けたのですが」

 

「そ、それで……?」

 

「お母様は、そんなのは気持ちの問題と言って私に魔法の使用を強行させて、私は再度魔法を起動。生命力が完全に枯渇し、肉体が爆散しました」

 

「えええええ……!」

 

 エルグランドではよくあることだ。大した問題ではない。

 

「よくあることだ、じゃないですよ! あなた娘を意図的に見殺しにしたんですか! 見損ないましたよ!」

 

 カイラがあなたの首元を掴んでガックンガックン揺さぶってくる。

 上体だけとは言え、総重量10トンもあるあなたを揺さぶれるとは凄まじい剛腕である。

 しかし、あなたもあなたの父にやられたし、エルグランドでは本当によくあることなのだ。

 

「ええええ……!」

 

「ええ、はい、お母様はナチュラルに鬼畜行為することはあるんですが、エルグランドでは普通のことだったりするので……」

 

「それでいいんですか……」

 

「それでいいのかと言われましても、エルグランドではそう言うものだったので……」

 

「と、遠い……エルグランドが、遠い……!」

 

「まぁ、たしかにエルグランドは遠いですね。ボルボレスアスの西側から出航して120日ほどですから……」

 

「そう言うことではなく……」

 

 やはり、いかなヤンデレ少女カイラであってもエルグランドの文化は理解しがたいようだ。

 エルグランドでは如何なる生物であっても卵を産むとかもたぶん理解しがたいだろう。

 

「どんな生物でも卵を産む? え? それはつまり、牛とか馬でも?」

 

「はい。ネズミも卵を産みますよ」

 

「獣医学部でそんなこと言ったら留年させられますよ! カシオミニを賭けてもいいです!」

 

「いらないです」

 

「ど、どう、どうなってるんですかそれは……もしや、人間でも……?」

 

 もちろん産む。

 

「つ、つまり、私のあなたも……卵を、産めるんですか……?」

 

 まぁ、やろうと思えば。

 

「!?!?!?!?!?」

 

 カイラが百面相を始めてしまった。

 

「じゃあ、なんですか! ヒョギフ大統領の貴重な産卵シーンも見れると言うんですか!」

 

「見たくはないですが、まぁ、やろうと思えば見れるんじゃないでしょうか」

 

「ソ連が崩壊しますよ!」

 

「レーガンに産卵させてアメリカも崩壊させればバランス取れますよ」

 

「バランスの問題ですか!?」

 

「さぁ?」

 

「ええええ……卵、卵って……哺乳類が、産卵……!? いえ、カモノハシと言う事例もありますが……しかし、それにしたって……」

 

 カイラが頭を掻き毟りながら考え込んでいる。

 やはり、エルグランド以外の人間には衝撃的な生態らしい。

 あなたからすると、卵を産めない方が衝撃の生態だが……。

 

「……あの、もし可能であれば、その、人間が産んだ卵っていただけたりしませんか?」

 

「どうぞ」

 

 カル=ロスがさっと卵を取り出してカイラへと渡した。

 鶏卵とそう変わらないサイズの卵だった。

 

「……これが人間の卵なんですか? 小さくありませんか?」

 

「そんなものです」

 

「ちなみにこれは誰が産んだ卵なんですか……?」

 

「秘密です。人間が産んだことは保証します」

 

「ええ……いえ、まぁ、いいです……」

 

 カイラが『ポケット』に卵を仕舞い込む。

 そして、深々と溜息を吐いた。

 

「エルグランド……神秘過ぎる大陸ですね……理解が及びません……」

 

「まぁ、他にも異様な文化ありますし。理解は追々なさるといいかと思います」

 

「そうですね~……いずれは、私も移住するかもしれませんからね……」

 

 出来ることなら、あんまり来ないで欲しい……。

 だからと言って、移住することを拒む権利もないが……。

 あなたはこのまま、この大陸に住み続けていてくれと、静かに祈った。

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