あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 目的地についたら、スクロールを起動する。

 それによって発動した探知魔法で全方位をしらみ潰しにしていく。

 探知魔法の範囲も距離もなかなかのもので、それなりの範囲がすぐに探索されていく。

 

 そして、呪文の効果が切れたら再度スクロールを発動。

 こんなにスクロールを使うとは、なかなか金がかかりそうだ。

 

「0階梯呪文だけど、数使うとやっぱね~。まぁ、スクロール自体はうちの雑務班が作ってるから安上がりだけどさ」

 

「1枚あたり30分の持続で10枚使い切るまで……300分ですのでおよそ5時間ほどですか」

 

「移動時間のこともあるしね~。まぁ、ほんとに地道なやり方だよ」

 

 『トラッパーズ』が100人を超える大所帯だからこそだろうか。

 あれだけの数を投入するからこそ迷宮が見つかるのだろうか。

 なにかこう、もっといい方法とかないのだろうか?

 

「たとえば?」

 

 強力な爆弾で一帯を吹き飛ばして更地にするとか。

 森が綺麗さっぱりなくなれば、迷宮の入り口も見つけやすいだろう。

 

「ありっちゃありだけどね~。でも、そんだけ強力な爆弾の用意は難しいからね。スクロール大量に用意するより金かかるよ」

 

 あなたは自分がやる時は『ナイン』で吹き飛ばそうと決めた。

 あれならキロメートル単位の範囲を綺麗に消し飛ばせる。

 まぁ、周辺被害もなかなかのものになる可能性が高いが……。

 

「まぁ、うちの場合、スクロールはどうしてもやむを得ない時に使うものだし」

 

「と言いますと、自前で使える人は自前で?」

 

「うん、そうそう。使ってる魔法の系統が特殊とか、戦闘技法が特殊とか……そう言う条件で使うものだね」

 

「ワンドでない理由は……」

 

「ほら、あれ、溶接工と同じ」

 

「なるほど……溶接棒全部使い切ったら仕事上がりと言うのと同じわけですね」

 

「そっそ~」

 

 なるほど、スクロールの枚数で仕事の進捗管理をしていると。

 スクロールを捨ててごまかす不届き者がでる問題もあるだろうが。

 そこらへんはマッピング要員による監視で解決と言うわけだ。

 

「まぁ、サボり防止って言うより、頑張り過ぎ防止の意図の方が強いかな~? うちのメンバー、まじめ~なの多いからね~」

 

 そう言う意図もあるかとあなたは頷いた。

 仕事なんぞ叶う限りサボるものと思っている人間は少なくない。

 一般的な仕事における雇われなんかは特にそうだろう。

 冒険者のように自発的に身を立てている者は勤勉な者が多いが。

 これは勤勉でないと生き延びれないというだけな気もする。

 

 

 

 あなたが5枚ほどスクロールを使い終えたあたりで休憩が提案された。

 あなたたちは腰を落ち着けられる場所を探し、昼食にする。

 あなたは相変わらず『四次元ポケット』から食料を出す。

 

 パパッと食べてしまいたいので、今日はサンドイッチだ。

 いつ作ったんだか覚えていないサンドイッチを取り出し、クロモリに渡す。

 あなたも同様にサンドイッチを取り出してかぶりつく。

 

「お~、豪勢なサンドイッチ食べてんね~……あれ? トマトって夏野菜じゃない?」

 

 クリーブがそんな疑問を呈して来た。

 トマトが旬の時期、つまり夏に作ったんじゃない?

 それ以外に答えようがなく、あなたはそう答えた。

 

「いやいや、夏に作ったら腐るっしょ?」

 

 『四次元ポケット』には腐敗を否定する効能があるのだ。

 そのため、中に入れておけばものが腐ることはなく、食材は新鮮なまま。

 旬と言う概念を超克して野菜を食べることができるのだ。

 

「便利だな~。いいな~。あーしもそんな便利魔法覚えたーい」

 

 言いながら缶詰を開けるクリーブ。

 缶詰の中から出て来たのは、なんとパンだ。

 パンを缶詰にするとはなんとも豪快な。

 

「あーし、さっき言った使ってる魔法系統が特殊な側だからさ~、新しい魔法覚えらんないんだよね~……魔力は使うけど厳密に言うと魔法じゃねえし~……はぁあ~」

 

「不便ですね……」

 

「そうなんだよ~、クロちゃん分かってくれる? 新しい魔法覚えらんないのストレスだよ~……」

 

 嘆くクリーブがもふもふとパンを食べている。

 時折、チューブに入ったオレンジ色のねっとりした液体をかけている。ジャムだろうか。

 

「やっぱり、天は二物を与えてくれないって言うかさ~、あーしが美し過ぎるせいなのかなぁ。はあ~」

 

「は、はは……」

 

 クロモリは自己愛の権化にちょっと戸惑っている。

 とりあえず美しいのは確かなのだから肯定すればいいのに。

 そんなことを想いながら、あなたたちは手早く昼食を済ませた。

 

 

 

 それからまた、あなたは5枚スクロールを使い終えた。

 太陽は中天を超え、時計を見やれば午後2時を指している。

 なかなか勤勉に頑張ったが、1日では早々成果は出ないらしい。

 

「あ~、おつかれ~い。帰って水浴びでもしようよ」

 

「はい。さすがに、熱気林の中は蒸しますね……冬だと言うのに、汗でじっとりしております」

 

「そうなんだよね~。ほら、あーしの美しいおっぱいって大きいっしょ? 谷間とか下の方、あせもがさ~……」

 

「それは……大変ですね……」

 

「夏なんかだとさ~、全身汗だくの美少女になっちゃうんだよね。スキンケアが大変なんだよ~」

 

 そんな調子で嘆くクリーブ。

 いずれは夏場に汗だくでベッドの上で愛し合うとかしたい。

 きっとすごいのだろう。汗だくの谷間に挟まれるのは。

 リンにやってもらった時はおぼれ死ぬかと思った。

 

「は~あ……お風呂入りたーい……」

 

 そう溢すクリーブにあなたは訝る。

 こんなに暑いのに風呂に入りたいって。

 

「いや、暑くてもお風呂は入りたいっしょ」

 

「そうですね」

 

「真夏に汗だくになって帰宅したら、風呂! 飯! 寝る! ドビュッ! って感じで、やっぱりまずは風呂っしょ!」

 

「ドビュッはともかく、たしかに汗みずくになったら入浴をしたいですね」

 

 そうなの? そうなんだ……。

 あなたはその辺りの感覚はちょっとわからない。

 しかし、思い返せばサシャたちは真夏でも入浴していた。

 あなたも付き合って入ってはいたが、窃視目的でなければすぐに上がっていた。

 暑いなら水浴びの方が気持ちいいだろうに、風呂なのだろうか?

 

「風呂ですよ」

 

「お風呂だね」

 

 即答された。カルチャーギャップと言うやつだろうか?

 まぁ、風呂に入りたいなら付き合うのがデキる女たらしと言うもの……。

 

「そう出来たらいいんだけどね~。さすがに100人規模の入浴が可能な浴場の用意は無理がさ~……燃料問題よ、燃料」

 

「魔法での湯沸かしの手立ても色々とありますが……」

 

「まぁ、あるけどねえ。やっぱりコスト問題が……どうしても入りたいときは町に戻るしかないね」

 

「やむを得ないことではありますか……」

 

 そのあたりのライフバランスは難しい問題だ。

 あまり追求し過ぎると、いろんな面での負荷が上がり過ぎる。

 やはり、妥協できるところは妥協する必要がある。

 『トラッパーズ』は入浴を妥協することを選んだ。そう言うことなのだろう。

 

 ぼつぼつと話しながら歩いて、拠点へと辿り着いた。

 そして、水浴びに使っている川があるとのことで、そちらへと向かう。

 先客はいないようで、あなたたちはさっそく服を脱いで川へと身を浸した。

 

「おっふぅ~……冷たくて気持ちいぃ~」

 

「心地よいですね」

 

 あなたも気持ちいい。そして何よりうれしく楽しい。

 水に浮くクロモリとクリーブの立派なお乳……!

 ふよふよと柔らかそうに水面に揺れる柔肉。

 いますぐにむしゃぶりつきたいくらいだ。

 

「あーしのおっぱい、そんなに気になる?」

 

 もちろんだ。あなたは力強く頷く。

 女の子のおっぱい、常時見ていたいね。あなたは断言した。

 特に大きければ大きいほどによいとあなたは信ずる。

 

「なるほど。思う存分見てもいいよ。あーしはもちろん世界一美しいけど……おっぱいも世界一美しいことを今日は覚えて帰って」

 

 なるほど最高である。

 あなたは喜んでクリーブのおっぱいを脳へと焼き付けた……。

 

 

 

 おさわりはさせてくれないが、いくらでも見せてくれるクリーブ。

 性格と言うか、自己愛の度合いが似ているテトもそうなのだろうか?

 今度会ったらヌード鑑賞をさせて欲しいと全力で頼み込むことにする。

 

 さておいて、あなたたちは夜までヒマになった。

 あなたはもう1度探索に繰り出してもいいのだが……。

 クリーブとクロモリの身体的疲労を無視するのもよくあるまい。

 あんまり根を詰めても続かないし。

 明日も同じ作業が待っているのだ。

 無理をしてもしょうがないだろう。

 

 そのため、あなたはクリーブを案内役に、クロモリと共に前哨基地を見て回っている。

 ここにいるのは全員『トラッパーズ』とのことだが……。

 

「あー。夜はね。昼は他所から来てるのもいるから、全員『トラッパーズ』ではないっかな~?」

 

「こんな熱気林の中に人がいるのですか?」

 

「ゴブリンの氏族がちょろちょろとね。レッドスケイル族ってのと商取引してんの。まぁ、人間もいるみたいだけどね~。たま~に人と遭遇することあるから」

 

 未開地に住む、未開の部族がいるのだろう。

 エルグランドではそう言うのはいなかったが……。

 ボルボレスアスではそう言った類のと出くわすことは多々あった。

 

 寒冷地だと森の中で生き延びることは極めて難しいが。

 温暖地だと森の中で生き延びることが十分できる。

 困難ではあるのだろうが、極寒の地よりは容易なのだろう。

 

「それに、人の領域ともそこまで離れてるわけじゃないからね。根性ある行商人が物売りに来ることもあるよ」

 

「そう言えば、ここはいったいどのあたりなのでしょうか?」

 

「ティーんとこから来たんだっけ?」

 

「はい。ソーラスの町よりまいりました」

 

「古代迷宮のあるとこだったっけ。ここはマフルージャからずうっと東だよ。国は……なんだっけ? どうでもいいから忘れた」

 

「そうですか」

 

 まぁ、国の名前なんぞはどうでもいい。

 あなた自身、マフルージャ王国の国名だってしばらく知りもしなかった。

 

「ともあれ、最寄りの町から……50キロくらいかな? そんくらいだね」

 

「馬車なら夜明けと同時に出れば辛うじて日暮れ前には来れますか……」

 

「そうだね。トラブルなければいけるかなー」

 

 この熱気林の中を突っ切ってくるのは大変だろうが……。

 まぁ、根性のある行商人ならば、やってできないことはないのだろう。

 護衛の冒険者がいれば、野営してでも来れないことはないだろうし。

 ここにいるのは冒険者集団だ。金払いはいい。

 商品さえ持って来れれば凄まじい利益になるだろう。野営する価値はありそうだ。

 

「週1で来てくれる、ジューンって行商人が特にすごい商品運んでくれるから、その日はみんな群がるね~」

 

「どんなものを?」

 

「その時々に寄るけど、食料品……嗜好品に近いものが多いかな。酒とかすんごい量持って来てくれるしさ」

 

「こんなところに専売店の人が来るのですか。根性がありますね」

 

「ああ、たぶん密売人でしょ」

 

「ああ……ここならたしかにバレませんものね……」

 

 たしかにこんなところなら密売も早々バレまい。

 そう言うグレーな商品も捌きやすくて商機があるのかも。

 そんな話をしながら、バラックの居並ぶ地点を歩く。

 

 先ほどクリーブが言っていた通り、小柄なゴブリンが商品を売っている。

 やや拙いが、人語を普通に話しているし、商取引も問題なく成立しているようだ。

 看板を書いていたりするゴブリンもいるあたり、読み書きもできる知識層らしい。

 トイネの王女、ダイアは読み書きすらできなかったのに……。

 

「いらさいぃー! いらさいー! どうぞ寄っていって聞いてって!」

 

「お代は今日の収入の1割ポッキリ! 見てって見てって!」

 

「聞かなきゃ損損! パンとワインもあるよ!」

 

「ほんの1分だけでも寄ってってちょうだいな! いらっしゃいいらっしゃーい!」

 

 バラックを抜け、ひときわ大きい建物の前。

 そこで『アルバトロス』チームが威勢よく客引きをしている。

 何かの仕事をしているのだと思われるが……。

 同様に黒い貫頭衣を着た女性が客引きをしているので、彼女の店の手伝いだろうか?

 背後の立派な木造建築が店舗のようだが、なんの店だろう?

 看板もないし、それらしい商品の展示もないし。

 目立つものと言えば十字架だが……さすがに教会じゃないだろうし……。

 

「あ、お母様。お帰りなさい。お疲れ様です」

 

 カル=ロスに手を挙げて挨拶をする。

 

「よかったら、寄って行かれますか」

 

 そう言ってクイッと親指で背後の建物を指すカル=ロス。

 娘のアルバイト先だ。寄って行きたいのはやまやま。

 しかし、ここはいったいなんのお店だろう?

 

 そう思っていると、店主と思われる女性が出張って来た。

 

「らっしゃい! 1名様ですか!」

 

 1名様だが、そもそもここはなんの店だろうか?

 

「うちは教会ですよ! 新鮮な説教と懺悔(ざんげ)が売りです! 大人気の懺悔、やっていきませんか!」

 

 教会の割には呼び込みが熱すぎる。

 ともあれ、懺悔なんかしてたら1か月はかかるのでやめておく。

 

「ケチな背教者め! でていけ!」

 

 追い出された。

 

 

 教会を追い出され、あなたたちは宿舎に向かって歩いていた。

 まぁ、あなたは異教の人間だ。こういうことは覚悟の上。

 あなたが仲良くしたくても、出来ないなんてことは珍しくない。

 そう、宗教的な対立は、悲しいが本当によくあることなのだ。

 

 それでも追い出されれば、心にちくりとしたトゲが刺さる。

 思えば、説教と懺悔への参席には歓迎的だった。

 あちらからの歩み寄りはあったのだ。あなたはそれを断った。

 敵対と判断されたのもやむなしなのだろうか……。

 

 そうだとすれば、追い出されただけ優しかったのだろう。

 悪罵(あくば)でもって追い出されるのはつらくて悲しいことだ。

 しかし、槍によって追い出されるよりはマシと言える。

 

「うんと、あのね……ごめんね? あーしが思うに、あれはノリで言ってるだけで、そこまで重い意味ないと思うの……」

 

「そうでしょうか……?」

 

「たぶん、すぐに引き返したら、また歓迎してくれたんじゃないかなって。あいつ頭おかしいから」

 

「……クリーブさんは比較的まともとお見受けするのですが、その……『トラッパーズ』の方は、こう、いささか……」

 

「あたおかなやつが多いって? うん、まぁ、自覚はあるんよ。あるけど、どうしようもないからさ……」

 

「は、はぁ……」

 

「まぁまぁ、あのカスに代わって謝るしさ。晩ご飯も奮発するからさ。笑って許してちょうだいな」

 

 まぁ、悲しくはあるが、打ちひしがれるほどでもない。

 クリーブの謝罪は受け取るとしよう。

 

「よっしゃ、んじゃ、晩ご飯は宿舎に作って持ってくね! カリーナと一緒のとこだっけ?」

 

 あなたは頷く。

 

「おっけー。楽しみにしててね!」

 

 楽しみだ。主に、晩ご飯の後とか。

 クリーブと仲良くできると思っていいだろうか?

 わざわざ食事を作って持って来てくれるなんて期待してもいいのではなかろうか。

 こう、お詫びの気持ちは体でと言うか……お詫びックスと言うか……。

 

 ともあれ、今夜が楽しみだ……。

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