あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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12-007

「お待たせ! 森のトマトサラダに、デリシャスバーガー! そんでもってフライドチキンだァ! 激ウマだよ!」

 

 宿舎の改造を進めていると、クリーブが料理を手にやって来た。

 薄っぺらい金属製の箱から次々と料理を出してテーブルに並べていく。

 クロモリお手製のテーブルがさっそく役に立った。

 

「お残しはノン・グッドだ! お腹いっぱい食べてネ! うまいゾ!」

 

 とのことなので、あなたたちは心していただく。

 というか、昼時にトマトが旬ではないとか言っていたが、サラダにトマトが使われているのはいったい……。

 

「倉庫開けたらトマトあったから使ってみた! いつのかは知らね!」

 

「なんか怖い発言が聞こえたんですが」

 

「いえ、でも、このトマト普通に新鮮でおいしいですけど……」

 

「ハンバーガーも美味しいです。ビーフ100%みを感じる」

 

「ああ、肉ね。よく分かんない。まぁ、食えればいっしょいっしょ。少なくとも人肉じゃないから」

 

「不安過ぎる……」

 

「エルグランドの民としては、正体の分からない肉の怖さは骨身に沁みてるんですよね……」

 

「だぁら、食えりゃいっしょだって~。あーしの特製料理、おいしいよ?」

 

「はぁ。では、クリーブさんも食べては?」

 

「いいや、あたしは遠慮しとく」

 

「…………本当に人肉じゃないんですよね?」

 

「うん」

 

「…………」

 

 カル=ロスがなんとも言えない顔でハンバーガーを食べている。

 あなたも食べてみると、たしかにこれは実にうまい。

 なにより、クリーブが作ってくれたという最高のスパイスがある。

 

 味はたしかにアキサメの言うように牛肉のように感じる。

 まぁ、そのあたりの肉の種類は些末事だろう。大した問題ではない。

 

「テトを筆頭にしたナルシスト四天王たち、顔がいいだけじゃないのが最高にむかつきますよね」

 

「あれー? 敗残兵ごときがあーしにそんな口きいていいのかなー? ガーディアンぞ? あーし、ガーディアンぞ?」

 

「うっざぁ……そもそもガーディアンはテトもじゃないですか……」

 

「口で言い返すだけでそれ以外なにもできないなんて、とんだ腰抜けだね~! 首魁が首魁……それも仕方ないかァ! カリーナは所詮、先の時代の敗残兵だもんねぇ!」

 

「敗残兵……?」

 

「んー?」

 

「取り消してくださいよ、その言葉……! 皇国は、まだ()けておりません!」

 

「うわ、思想強ぇ。極右カリーナだった」

 

 言葉面は険悪だが、2人ともきゃらきゃら笑いながらの会話だ。

 口さがない物言いができるほど仲がいいというべきだろう。

 

「大体ですね、ガーディアンって行動の自由って意味の権限は強いですけど、部下も無ければ隷下の部隊もないしで、動かしやすくて権限内だからって責任おっ被せられるただの便利屋……」

 

「あー! それは言っちゃいけない約束でしょ! そもそも、あーしよりもカリーナの方が立場ひどいじゃん! 将軍になっても最前線で兵士同然に使われてるくせに!」

 

「わ、わわわ、私は現場主義だからいいんです……! 自分の意思でやってるんで! 指揮官として部隊指揮とか好きじゃないんで……! やろうと思えば指揮官もできますし……!」

 

「……部下欲しい」

 

「私も……」

 

 そして今度は消沈してしまった。

 聞いていると、カリーナもクリーブも、故郷ではかなり立場ある人間らしい。

 こんなところで冒険者の真似事なんてしてていいのだろうか?

 

 そう思いながらも夕食を続けていると、ふらりと人影が姿を現した。

 そちらへと目をやってみると、今朝にも見た姿、『トラッパーズ』の頭目、タイトだった。

 

「邪魔をする。土産だ」

 

 言って、タイトが机の上に酒ビンを置いた。

 茶色い大型ビンだ。中身はいまいち分からない。

 

「ラガーだ」

 

 なるほど、軽やかなやつならちょうどいいと、あなたはさっそく栓を開けた。

 そしてコップに注いで飲んでみると、強烈なキレのある味が喉を襲う。

 爽やかな苦みとキレ、味の深みはないが、のど越しがたまらない。

 これは舌で味わうタイプの酒ではなく、のどで味わう酒だ。

 

極度乾燥しなさい(スーパードライ)なやつじゃん。あーしにもちょーだい」

 

「あ、私も私も」

 

「自分で買え馬鹿ども」

 

 土産はありがたく受け取ったが、なにか用だろうか?

 夕飯の相伴に与りに来たというならクリーブに頼んで欲しいが……。

 

「世間話をしに来た。世間話をするぞ」

 

 世間話をすると前置きをされたのは初めてだ……。

 まぁ、何か話したいことがあるなら聞くが。

 

「そうか。助かる。ソーラスの迷宮、あの古代迷宮を踏破したと聞いた。最深部に何かいたか?」

 

 あなたはなにもいなかったと答えた。

 きらびやかな金銀財宝が山積していただけだ。

 あなたも拍子抜けだったが、本当に何もいなかった。

 

「ふむ。そうか」

 

 タイトは少し考え込むような仕草を見せて首をひねる。

 あなたはなにか最下層にいると予想していたのかと尋ね返した。

 質問が妙に確信的と言うか、居ただろうと言う態度で聞いてきた感じがする。

 

「ああ。上手く形容しがたいが、悪夢に捻じ曲がった人体をばらした化け物みたいなのがいるのではないかと思っていた」

 

 なんだそれ気持ち悪い。そう思って、同時にあなたは考えた。

 もしやタイトがいると確信していたのは『アルメガ』だろうか?

 『アルメガ』の本性……オレンジ色の不定形生物みたいなアレ。

 アレも一応人体を無茶苦茶に接合したようなナニカではあった。

 

「そうだ。『アルメガ』の端末がどこかにいるのではないかと考えている。この大陸に存在する迷宮は明らかにおかしい」

 

 おかしい、とは?

 

「入る都度に構造が変わるなんぞ、普通はありえんだろう」

 

 エルグランドではべつに珍しくもなかったが。

 タルタロスとかナラカとかアストラとか。

 そのあたりは入る都度に構造が変わった。

 

「内部の生命体とて、どこからか湧き出している」

 

 それもべつによくあることでは。

 異次元から来てるとかそう言う。

 

「無から金やマジックアイテムが湧き出て来るなどありえんことだろう」

 

 『ハーヴェスト』の魔法を使えば金もマジックアイテムも降ってくる。

 地面を掘れば宝石類もジャンジャン湧いて出て来るし。

 

「エルグランドは異常な場所だ。すべておかしいんだ」

 

 タイトにそう断言されてしまった。

 まぁ、エルグランドが普通だとはあなたも思っていないが。

 

 しかし、この大陸の迷宮に働いている法則。

 あなたは特に疑問にも思っていなかったが、たしかにおかしいのか?

 生命がどこから湧いて出ているのかとは疑問に思ってはいたが……。

 

 しかし、タルタロスとかナラカではやはり湧いて出て来るので。

 ああいう迷宮と同類の作用でも働いているのかなとかぼんやりと考えていた。

 そう言う意味では疑問に思っていなかったとも言えるのか。

 

「……普通はあり得ることではないんだ。だから、『アルメガ』が関与していると考えた。あれならば人知を超越した法則を作用させることとてできる。そして、その場合どこかに制御端末がいるはずだ」

 

 なるほど、そう言う。

 人知を超越した現象が起きた場合。

 それは神格や、それに伍する者が引き起こしたと考えるのが自然だ。

 

 人知を超越した存在なのだから。

 人知を超越した現象を起こすなど容易いだろう。

 そう言う単純な論法である。

 

「そうだ。だが、ソーラスにもいないとは。だとすれば、やはり俺の思い違いか……」

 

 思い違い?

 

「俺たちはサイキックだ。祖を同じくする存在は探知しやすい。そのため、『アルメガ』は俺たちを感知して隠れている可能性が高い。俺たちよりも、ヤツの方がサイキックとしては上だからな。隠れたならば見つけられん」

 

 なるほど、同じ魔法使いなら魔法使いに気付けるのと同じことだ。

 あなたがサイキックではないから、サイキックに気付きにくいように。

 

「だが、あんたならば『アルメガ』の探知から逃れやすく、なにより捕食対象として適切と判断される。姿を現すはずだ」

 

 しかし、実際には何にも遭遇しなかった。

 

「だとすれば、『アルメガ』はもうこの世にいないのかもしれん。討ち漏らした可能性を考慮していたが、杞憂だったか」

 

 そのようにタイトが溢すが、あなたは首を振った。

 あなたはソーラスにいるかもしれないと答えた。

 あなたがボルボレスアスの神、パンサラゲアに見せられた光景。

 あれはソーラスの迷宮の入り口にそっくりだった。

 まぁ、単に似ているだけで別の迷宮と言う可能性も十分にあるが……。

 

 あなたを前にして、なんらかの理由で隠れたとか。

 様子見をしていたとか、どこかにバカンスに行っていたとか。

 何かそう言う類の理由で出くわさなかったのかも。

 

「ふむ……ありえない、とは言わんが……」

 

 迷宮内をしらみ潰しにしたわけではないというのもある。

 それに、今にして思えば、6階層と7階層にいたというバラケ。

 あれこそが『アルメガ』の端末なのかもしれない。

 

「あれは、なんとも言えない。何かに遠隔操作されているわけではなく、スタンドアロンの存在だった。サイキックで稼働しているわけでもない。『アルメガ』の端末かと言われれば、可能性を否定出来ないとしか言えない」

 

 それは断言が出来ないだけで『アルメガ』の端末だろうと言うことなのか。

 それとも『アルメガ』の端末ではなさそうだが、根拠がないので断言できないのか。

 

「どちらでもない。中間だ」

 

 つまり、何も分からないということだ。

 

「そうだな」

 

 しかし、タイトたちは『アルメガ』をどうするつもりなのだろう?

 

「討つ。アルトスレアで討ち漏らした可能性を考慮していたが……やはり、討ち漏らしていたのか。努力は無駄ではなかったらしい」

 

 すると、タイトたちは『トンネルワーカーズ』の一党だったのだろう。

 まぁ、なんとなくそんな気はしていたのだが。

 それにしても『トンネルワーカーズ』の規模の大きさと言うか……。

 これほどの超人集団を一手に掻き集められた求心力の高さと言うか。

 

 リーダーだったという、リフラ・ハーベスタル・ルイ。

 彼女の手腕の凄まじさを如実に感じさせられる。

 

「すごい奴だったことは肯定しよう。だが、あのうさん臭い女に率いられていたわけではないぞ」

 

 と言うと?

 

「アレはまさしく烏合の衆だった。瓦解していないだけで、集団の体を成さない。それでも1つの名の下に集う。そうだな……つまりだ、『トンネルワーカーズ』に加盟していた連中は、みんなリフラの友達だったのだ」

 

 ……それはそれで凄まじいことをしている気がする。

 つまりなにか、リフラと言う少女は、実務能力や調整能力ではなく。

 100人を遥かに超える、我の強い超人集団すべてと友誼を結び。

 コミュニケーション能力だけで1つの集団として成立させたと?

 

「そう言われるとたしかに凄まじいことをしているな。信じられんほどうさん臭い女だったが、なぜだかやつのために骨を折ってやってもよいかと思える妙なやつだった」

 

 レウナも言っていたが、やっぱりうさん臭いらしい。

 幼馴染だったらしいレウナですらうさん臭いというのだから相当なものだろう。

 まぁ、レウナも昔からあんな調子だったとのことなので。

 人のことを言えない程度にうさん臭い子供だったと思われるが……。

 

「俺たちは俺たちで『アルメガ』を追う理由があったが。命を賭して戦ったのは、リフラのためでもあったか。もう、2度とはごめんだがな」

 

 そう言って、タイトが苦笑する。

 いい友人だったのだろうなと、そう思わされる苦笑だった。

 なんのかんのと言っても手を貸したくなるような。

 あなたもそのうちリフラに会ってみたいものだ。

 

「結局、わからんことだらけだな。新規の迷宮を探し当てて踏破していれば『アルメガ』の尻尾を掴めるのやもとも思ったが……」

 

 溜息を吐くタイトに、あなたは酒を注いでやる。

 まぁ、飲んで憂鬱な気持ちは吹っ飛ばしてしまえ。

 明日には明日の風が吹くのだから、それに任せて気ままにやればいい。

 今やれるだけのことを精一杯やるほかあるまい。

 今は飲んで、しっかり休んで。また明日から頑張れ。

 

「そんなものか。まぁ、そんなものだな……」

 

 またタイトが苦笑し、酒を注いで一息に飲み干した。

 それを後目に、羨まし気に見ていたカリーナとクリーブを手招きで呼んで酒を注いでやる。

 

「わあい、極度乾燥。クリーブ極度乾燥大好き」

 

「おまえを愛するために生まれて来ましたね、間違いありません。うまひ」

 

 しかしこのラガー、たしかにうまい。

 味は深みがないというか、淡泊な味と言うか。

 好みの問題でもあるだろうが、旨くはない。

 

 だが、飲んだ時の爽快感、清涼感と言うか。

 切れ味、炭酸の刺激感、そう言う喉で味わう感覚がうまい。

 美味ではないが、旨い。変な表現だが、そんなラガーだ。

 正直、酒と言うよりソフトドリンクみたいな飲み味だ。

 

 暑い時、汗だくになった後、最初の1杯として飲むには最良の1杯かも。

 2杯目以降をうまいと感じるかは、まぁ、好みによるのでは。

 酒なんか1杯目以降はなに飲んでも一緒という説もあることだし。

 

「気に入られましたか?」

 

「行商人……ジューンしか用立てられない酒だからね。そこで買うしかないかな~」

 

 なるほど、昼にも聞いたが、腕利きらしい。

 ぜひとも買いだめしておきたいものだ。これはいい酒だ。

 あなたは最後の1杯となったラガーを注ぎ、一息に干した。

 

 抜群のキレに、あなたは思わず唸る。

 世の中にはまだ知らない酒がある。

 それも、こんな辺鄙な場所で出会える。

 まったく、冒険とはやってみるものだ。

 

 あなたは笑って、明日への鋭気を養うべく新しい酒を取り出してはタイトらに注いでやった。

 夜はまだ深く、明日の朝日は遠かった。

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