あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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12-014

 カリーナとイイコトして、その翌日。

 あなたは冒険を始めるべく、マッピング役兼護衛役の派遣を依頼する。

 そして、前回と同じくクリーブランデラが寄越された。

 

「おっ! おひさー!」

 

 ハイタッチを求めてきたのでハイタッチをする。

 ぱちーんと快音が響き、クロモリも同様にハイタッチ。

 

「クロちゃんも元気~?」

 

「はい、そちらもお元気そうで」

 

「もち! あーしの美しい顔、見るの久し振りでビックリしてない? 大丈夫?」

 

「は、はい、大丈夫です……」

 

「そっか。ブロマイドを見て慣らしてたワケね。世界一美しいあーしの顔、見たいのは当然だよね……うんうん……」

 

 あいかわらず自己肯定感が天井知らずだ。

 あなたはそんなクリーブに苦笑しつつも、今日もよろしくと挨拶をした。

 

「護衛はあたしに任せろー! バリバリー!」

 

 などと言いながら背負っている杖を手にし、そこから紫電を奔らせるクリーブ。

 強力な魔力を放っているだけあり、なかなか派手な放電だ。

 

「よっしゃ、いくかー!」

 

 あなたは頷いて、さっそく行こうと熱気林の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 冬場であっても熱気林の中は多少蒸す。

 足元から立ち込めて来る熱気、濃い緑の香り。

 それを感じながら、あなたたちは熱気林を分け入っていく。

 

「迷宮の探索は、順調なのでしょうか?」

 

「んー。何をもってして順調かってー話だよね……まぁ、少なくとも事故は起きてないから順調と言えるんじゃない? 知らんけど~」

 

「そう言うものですか」

 

「事態が前進してりゃあ順調よ順調! ガハハ! ん?」

 

 クリーブが突然立ち止まり、周囲を見渡す。

 あなたがどうしたのかと尋ねると、クリーブが耳もとに手を当てる。

 

「地鳴りしてない?」

 

 言われてあなたも耳を澄ませる。

 すると、たしかに地鳴りが聞こえる。

 あなたはこれはいったい? と思った直後。

 地面の下から突き上げるような震動があなたを襲った。

 

「うわっと」

 

「うわぎゃあああああ――――!」

 

 クリーブが飛び上がって驚く。

 クロモリは絶叫してその場にうずくまった。

 あなたは地震かぁ、とぼやいた。

 

「地震だねぇ。こりゃ結構でかい。震度5はあるなぁ」

 

 なにを基準にして5と言うのかは不明だが、たしかにでかい。

 エルグランドでは年に1度や2度は地震が起きる。

 地表に露出した過去の遺構、エルグランドにおける迷宮。

 それが地中に没したり、逆に地表に姿を現したり。

 地震の際には度々あることだし、やろうと思えば引き起こすこともできる。

 

 小規模なものでよければ魔法でなんとかできるし。

 国家単位の規模であってもイモータル・レリックを使えばいい。

 そのため、エルグランドの民たるあなたには慣れっこの現象だ。

 多少驚くものの、それほど心胆を寒からしめるようなものではない。

 

「あ、あぶ、あばば、お、終わっ、終わりだっ……! 神の怒りだ……! わ、わ、私は災いを恐れませっ……おゆるし、おゆっ、おゆるし……!」

 

 しかし、クロモリはどうやら地震は初体験だったらしい。

 発狂したかのような勢いで祈りを捧げ、足元には水たまりが出来ていく。

 これはひどいとあなたはクロモリの狂乱振りに驚いた。

 

 しかし、考えてみるとこの大陸では地震に遭ったことがないような。

 というより、エルグランド以外の大陸では地震が起きたことがない……?

 ボルボレスアスでは起きたような……いや、あれは火山の噴火の余波だったか。

 いずれにせよ、どうやらクロモリは地震初体験らしい。

 

「落ち着け落ち着け~。ただの地震だよ~」

 

「地震とは!? な、なにが、何が起きたのですか!」

 

「地面が揺れて……うん、そんだけ。ここら辺は海ないし、山もないし、川も大規模なんはないし……うん、心配いらんて」

 

「しかしこんな! こんなことが起きるなんてきっと神の怒りに違いない……!」

 

「まぁまぁ、あーしの顔でも見て落ち着きなよ。幸せになれるし、落ち着くよ」

 

「結構です!」

 

「えっ……」

 

 クリーブが心底傷付いたような顔をしている。

 冗談とかではなく、本気で言っていたらしい。

 

「あ、あなた様! 大丈夫なのでしょうかこれは! だ、大丈夫なのですか!?」

 

 クロモリが狂を発したかのように問いかけて来る。

 あなたは心配はいらないと自信満々に答えた。

 少しでも安心感を与えてやれるようにとの配慮だ。

 

 そして、次にあなたは言葉で語り掛けた。

 地震はエルグランドでは度々あった。

 建物が崩れて死んだり、海から大波が来たりすることはあるが。

 ここは海から遠いし、建物も近くにはない。

 もっと大きい地震が来ても大丈夫!

 

 そのように太鼓判を押してやると、ようやく少し落ち着いた様子を見せた。

 

「そ、そうですか……」

 

 しかし、クロモリが発狂するほど地震への慣れがないとなると。

 この地震の原因はいったい……? あなたは首を傾げた。

 

 十数秒ほど地震は続いたものの、やがて地震は止まった。

 あなたはひとまず前哨基地の方に戻るかと提案した。

 宿舎の方で何か起きていないかも心配だし。

 なによりクロモリの状態がもう冒険出来そうにないし。

 

「おおおお……」

 

 クロモリが失禁した自分に気付いて嘆いている。

 クリーブは自分の顔のよさを拒否されて落ち込んでいる。

 なんだかなぁ、と思いつつ、あなたは戻ることにした。

 

 

 

 

 冒険再開からさっそくケチがついてしまった。

 まぁ、自然が相手だ。仕方ないと言えば仕方ない。

 そう思いながら一度宿舎に戻り、クロモリを入浴に向かわせる。

 

 宿舎の近くには『アルバトロス』チームが設営してくれた入浴設備がある。

 かなり大規模なもので、同時に20人以上が入浴できる。

 当然、必要な水も燃料も多大なものになるのだが……。

 

 『アルバトロス』チームはこれをただの風呂として使っていない。

 なんと商業設備として運営しているらしい。

 つまり、料金を取って入浴客を受け入れている。

 

 この大陸の人間は入浴好きだし。

 『トラッパーズ』も入浴好きだ。

 そのため、ひっきりなしに入浴客が来ている。

 24時間運営は難しくとも、朝から夜まで常に稼働状態だ。

 具体的に時刻で言うと朝10時から夜6時くらいまでの営業だ。

 

「うぅ、助かります……」

 

「…………あーしの、あーしの顔が……結構です……? あーしは美しいのに……?」

 

 クリーブはまだ落ち込んでいる。

 まぁ、しばらくお湯にでも漬けておこう。

 『トラッパーズ』の例に漏れず風呂好きのようだし。

 しばらく漬け込んでおいたら元気になるだろう。

 

 そう言うわけで2人を纏めて風呂に放り込む。

 あなたは接客のために残っていたアストゥムとアキサメに大事ないか聞き取る。

 

「こちらはなんともないですね」

 

「カル=ロスは炭鉱に買い出し、アキラは水酌みですからそう心配はいらないと思います」

 

 とのことで心配いらないようだ。

 次に、あなたは『トラッパーズ』の前哨基地中心部。

 つまりはタイトの方へと情報収集に出向いた。

 

 そちらへと出向いてみると、随分と慌ただしい様子だった。

 『トラッパーズ』はクリーブを見る限り、地震慣れしているようだった。

 全員すっかり地震慣れしていて多少の揺れでは動じないと思っていたのだが。

 そう思ったのだが、どうも地震の不安で動揺が広がっているわけではないらしかった。

 

 あなたは4人で固まって話し込んでいる少女たちに情報を聞くことにした。

 『アルバトロス』チームよろしく、水兵服を着ているのが特徴的な4人組だ。

 その少女たちに向かって、何が起きたの? と問いかけた。

 

「なんでも、すぐ近くに新しい迷宮が発見されたらしいわよ」

 

「既に探索済みの区域だから、さっきの地震で地面から出て来たみたい」

 

「ういっく……つまり、次からは地中に向けての探索もしなきゃ……ウッ!」

 

「おおおお、落ち着くのですドロレス! 吐くならアンジェリカの隣に行くのです!」

 

「勘弁してちょうだい!」

 

 約1名、アッシュグレーの髪色をした少女の具合が悪そうだった。

 まぁ、酒臭いところから見るに2日酔いのようだが。

 しかし、新しい迷宮が地面から湧き出て来るとは。

 まるでエルグランドみたいだ。

 

「あなたはたしか、ちょっと前から探索班に入ってるEBTGってところのリーダーだったかしら」

 

 黒髪の少女に問われ、あなたは頷く。

 そして、自己紹介をした。

 

「私はクラリッサ。この子たちのお姉ちゃんよ」

 

「ど、ドロレスだよ……その飲みっぷりから、マーライオンの通り名も、うっ! う……せ、セーフ……」

 

「アンジェリカよ。それは飲みっぷりじゃなくて吐きっぷりから来た通り名よ……」

 

「ぶ、ブリジットなのです……よろしくおねがいします……」

 

 なんとなくまとまりのない集団だ。

 まぁ、『トラッパーズ』自体がそう言う集団と言えばそう。

 しかし、お姉ちゃんと言う以上は姉妹なのだろう。

 それにしてはあんまり似ていない。

 

 アンジェリカとブリジットはかなり似ているが。

 クラリッサは他の3人にさっぱり似ていないし。

 ドロレスもやっぱり他の3人にさっぱり似ていない。

 なにかこう……血縁的に複雑な事情がある姉妹なのだろうか……。

 

 アンジェリカ、ブリジット、クラリッサの3人はなんとなく……。

 こう、顔の作りと言うか、人種が近いような印象があるが。

 クラリッサだけ明らかに他国の人間のような印象のある顔立ちだ。

 クラリッサだけ、母親の不貞の結果出来た子なんじゃ……みたいな邪推をしてしまう。

 

「私たち、これからその迷宮の先行調査に向かうところよ。よければついてくる?」

 

 あなたは同行していいのならと答えた。

 

「ええ、いいわよ。ただ、自己責任だから、そこのところはよろしくしてちょうだいね」

 

「私たちは4人でいる限りほぼ確実に生還できるからね。帰ったら祝杯あげようね」

 

「飲み過ぎ厳禁油断大敵、焼肉定食なのです!」

 

「焼肉定食はなんか違うのよね……」

 

 賑やかな姉妹だ。まぁ、楽しそうでなにより。

 あなたはクラリッサ姉妹の調査に同行することにした。

 

 

 4人姉妹に先導されて向かった先は、既にあなたも調査に向かった先。

 前哨基地のある地点から、ほんの300メートルも離れていない地点だった。

 あなた自身が魔法……占術によって調査した地点ではないが。

 この辺りは何度も通った場所だ。絶対こんなところに迷宮はなかった。

 

 あなたは新たに出来上がった迷宮の入り口。

 ごく普通の岩窟のような外見の入り口をよくよく確認した。

 今日の出がけにもらった占術のスクロールを発動して確認してみる。

 すると、占術によって一切感知出来ない謎の空間として映る。

 

 ソーラス迷宮の入り口と同じような反応だ。

 やはり、ここは新しく発見された迷宮の入り口なのだろう。

 

「うーん、これはあからさまに迷宮ね……ドロレス! ゴー!」

 

「うん……私は不死身の異名もあるからね……」

 

 ドロレスがそこに顔を突っ込んだ。

 そして、そのまま崩れ落ちた。

 数秒ほどその様子を見守り、アンジェリカとブリジットがその足を掴んで引っ張る。

 すると、頭から矢を生やしたドロレスが出て来た。

 これは即死では……? そう思うくらい深々と刺さっている。

 

「さぁ、ドロレス! 起きなさい!」

 

 クラリッサがその矢を掴んで引っこ抜く。

 なんと言う無茶をするのだろう。丁寧にやらなきゃいけないのに。

 下手にやると脳みそが引きずり出されかねないのだが。

 というか、頭に刺さった矢は適当に引っ張っても抜けるものではないのだが……。

 

 しかし、クラリッサの手によって抜かれた矢には多少の血がついているのみ。

 そして肩をバンバン叩かれたドロレスが頭を振りながら起き上がった。

 

「ああ、痛ぁい……内部はトラップがあるね。感知方式は分からないけど、石像が矢をパナして来たよ」

 

「うーん。矢じりは戦争用のものね。危険なやつ。町中で持ってたら罰されることもある感じのやつね」

 

「感知方式が分かるまで突っ込むしかないのです。次は私が行くのです!」

 

「よし、任せたわブリジット! ゴー!」

 

「なのです!」

 

 今度はブリジットが頭を突っ込む。

 そして、ビクンッと痙攣してそのまま崩れ落ちた。

 数秒待って、今度はクラリッサとドロレスが掴んで引きずり出す。

 やはり、ブリジットの頭には矢が生えていた……。

 

「大丈夫! 私がいるじゃない!」

 

 アンジェリカが矢を引っこ抜き、肩をバシバシ叩く。

 すると、先ほどのドロレスよろしくブリジットが体を起こす。

 

 この姉妹、生態が無茶苦茶過ぎるのでは……?

 頭に矢の直撃をもらって死なないなんて、そんなことある……?

 というか魔法もなにもなしで傷が治癒してるのはなんで……?

 

 しかし、先行偵察に向かわされる理由も分かる。

 この姉妹、まず死ぬことなく生還できる上に。

 即死トラップも体当たりによって攻略できてしまうのだ。

 

 攻略の完遂はできないかもしれないが。

 先行調査をして情報を集めるには最適かもしれない。

 ……しかし、この無茶な調査をする4人の足を引っ張らないのは難しいかも。

 あなたとこの姉妹では体の頑強さが違うのでこうはいかないが……。

 

 へらへらしていてはあなたが邪魔をしかねない。

 あなたは気を引き締めてかかることにした。

 なにより……まだ誰も入っていない迷宮に足を踏み込める。

 その楽しい楽しい攻略を目の前にして、引くという選択肢はなかった。

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