あなたは傍で身じろぎする気配を感じた。
あなたは意識を覚醒へと向かわせた。
そっと目を開けると、薄っすらと暗い部屋。
サシャが取っていた宿ではない。
「ん……おはよう」
身じろぎした何者かが甘い声でささやく。
昨夜モモに紹介された少女、アトリだ。
お互いに一糸まとわぬ姿で、シーツだけがお互いの肢体を隠している。
「すごく可愛かったよ。報酬抜きにしても、何度でも誘って欲しいな」
そう言って微笑むアトリ。
それこそ、身悶えしたくなるような色気がある。
あなたも微笑んで、同じように答えた。
何度でも誘うし、何度でも誘ってくれて構わないと。
相手がだれであれ、なんであれ。
性別が女である以上はあなたのお姫様だ。
である以上、喜んで相手をするのが当然。
それで相手が見目麗しい少女であればもはや何も言うことはない。
そしてアトリは誰もが頷くほどに見目麗しい少女なのだ。
誘われたらホイホイついていくのは当然だ。
「フフ、素敵だな。ん……」
アトリが顔を寄せてきて、あなたの唇へとキスを落とした。
あなたもそれに応じ、
計らずも最高の一夜を過ごした以上、約束を果たす必要がある。
なので、あなたは約束通りに若返りの薬をアトリへと渡した。
小さな瓶に入った少量の液体を陽に透かすようにするアトリは不思議そうな顔だ。
「随分と中身が少ないが、こんなものなのか?」
そんなものである。
大量に飲めば効果があるというものでもない。
薬によって一服分の分量が異なるのは当然のことである。
最低限の分量に抑えるのは薬品を扱うにあたっては当然のことである。
「だが、たくさん飲めばたくさん効くんじゃないか?」
たしかにたくさん飲めばたくさん効く。
そうではない薬もあることにはあるが。
しかし、若返りの薬が効き過ぎると大変なことだ。
赤ん坊以前の胎児期にまで戻るとどうしようもない。
「なるほど、恐ろしい話だ。これ1つでどれくらい効くんだ?」
おおよそだが、2~3歳ほど若返る。
その日の体調などによっても効き具合が違ってきたりするが。
あなたは複数回以上その薬を服用したことがある。
なので、感覚的にどれくらい効くかは分かる。
「凄いものだな。つかぬことを聞くが、これをおまえに何服か飲ませるともっと可愛くなるんじゃないか?」
アトリはどうやらロリコンらしい。
あなたを若返らせればもっと滾るようだ。
あなたは女なら赤ん坊だろうが老婆だろうが容赦なく抱く。
言ってみればあなたもロリコンだ。なのでロリコンに偏見はない。
「逆に、加齢する薬とかないのか?」
ある。と言うより、その薬がその加齢する薬でもある。
「なに? どういうことだ?」
正確に言えば、その薬は生物の時の針を操る薬品だ。
若返りもできるが、それだけの薬と言うわけではない。
正の方向に作用すれば若返る。
負の方向に作用すれば加齢する。
中立状態であれば現在の時が停滞する。
これはそう言う作用をもたらす薬だ。
もちろん、アトリに渡した薬は正方向に作用するように調整してある。
ちなみに中立状態では動きが数分のろくなるだけで終わる。
「なるほど……ちなみにだが、これは例えば、1年前まで五体満足だった者に飲ませたりするとどうなる?」
その薬は時を巻き戻すわけではない。
手足を喪ったような者の手足が戻ることはない。
肉体の時の針を巻き戻すというのは、たしかに肉体を若返らせる。
だが、肉体そのものの時を巻き戻しているわけではない。
年齢と言う数値に対してのみ作用する、と言うべきか。
いずれにせよ、年齢を変えるだけの効能しかない。
そう言ったことを説明すると、アトリは少々ガッカリした様子だった。
「そうか。残念だ」
手足を喪った者がいるのだろうか。
残念ながらあなたにしても手足の欠損の対処は難しい。
エルグランドではちょっと3日ほど休んでいただく。
つまりは1回死ねば五体満足で復帰出来る。
なので手足をわざわざ回復させると言う考え自体が薄いのだ。
一応、エルグランド以外の大陸に存在する高位の治癒魔法。
あるいは蘇生魔法を用いれば回復可能とは聞く。
エルグランドの回復魔法はそう言った後遺症を考慮していない。
切断直後の腕を繋げたり、強力な回復魔法で無理やり生やしたりは出来る。
だが、喪って久しい手足には何もできない。久しくなる前に死ぬからだ。
その、手足を喪った者が喪った直後の、それこそ傷口もふさがっていない状態であればあなたでもなんとかできただろうが。
「無理だな。もう喪ってからだいぶ経っている。やはり、金を溜めるしかないか」
金があればなんとかなるのだろうか?
「ああ。高位の治癒魔法なら戻せるからな。それを依頼するための金がないだけであって」
なるほどとあなたは頷いた。
金ならあるが、さすがに頼まれてもいないのに金を払おうとは思わない。
素晴らしいお礼が期待できるならもちろん喜んで支払うわけだが。
「なるほど。よし、分かった。では、私はこれで失礼する。また今度」
そう言って、アトリはあなたの唇を奪っていった。
お互いの熱を分け合うように情熱的なキスをして、あなたとアトリは別れた。
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