あなたが肉を捧げたり、血を捧げたり。
そんなこんなの繰り返しで10層まで降りた。
結局、自らの身を削って犠牲にすれば進める。
この迷宮のギミックはそんなのばっかりだ。
一貫性があると言えば聞こえがいいが。
まぁ、ワンパターンと言ってしまえばそれまで。
分かりやすく楽でいいが、迷宮としては雑な造りの気がする。
ギミックの解除に苦戦しないのはいいことではあるが。
そんな具合で迷宮の攻略は順調なのだが。
あなたたちは、10層と言う節目に来て戦闘で苦戦していた。
あなたの目の前には、それはそれは巨大なイモムシがいた。
それは強靱な甲殻を持ち、鋭く巨大な牙を持っている。
それこそ牛だろうが人だろうが一飲みにする口。
ジャイアント・ワーム。あるいはグレート・ワーム。
またはその甲殻、鱗をして、スケイルド・ワームと言おうか。
その艶めく深紅の甲殻を持った超巨大サイズのワーム。
鱗1枚あれば、住居の壁か屋根が賄えそうなほどである。
「あーもう! 愚直に突っ込んで来るだけとは言え、にっちもさっちもいかないわ!」
「弾が通らない! チェーンソーも入らない! 爆弾も通じない!」
「どうしろって言うのよ!」
カーマイン姉妹がそのようにキレ散らかしている。
やや特徴的な喋りの少女、ブリジットの姿はない。
あなたたちが交戦中のワーム、その腹の中にいる。
人は大き過ぎるものに気付くことがむずかしい。
玄室に入るにあたって、あなたたちは深紅の壁をした部屋と誤認した。
この深紅のスケイルド・ワームはそれほど巨大なのだった。
そして、気付くことに遅れた代償はブリジットが払った。
動き出したスケイルド・ワームに一飲みにされてしまったのだ。
今はなんとかスケイルド・ワームを撃破してブリジットを救出しようとしているが……。
「あなた様、このワームは私たちの手に余ります……」
クロモリが言う通り、このワームはかなり強い。
この超絶な巨体を持つモンスターが弱いわけがないのだ。
大きいことは、ただそれだけで強いのだから。
少なくとも、大きければ大きいなりの強さを持つ。
このワームにかかれば、大抵のモンスターはエサでしかない。
リッチなんかただの骨くらいの感覚で飲み込んでしまうだろう。
あなたがサワーハンマーで鉄くずにしてしまったアイアンゴーレム。
アレよりも遥かに強いことは間違いない。
カーマイン姉妹では手も足も出ないのは当然と言えばそう。
……あれ? そう言えば、アイアンゴーレムは……。
あれを倒すための攻略班を編成するのではなかったか?
サワーハンマーがあまりにも楽しみ過ぎて忘れていたが。
もしや、攻略班を置き去りにして攻略に来ているのでは……?
あなたは今さらになってそんなことに気付いた。
いや、切羽詰まったこの状況で重要なことではないのだが。
こういう時に限ってどうでもいいことが気にかかる。
宿舎の部屋の鍵、ちゃんと閉めたかな? とか。
「どうされますか。あなた様の御力なくしては、ブリジットさんの救出は難しいかと……」
クロモリに再度問われ、あなたは意識を現世に立ち返らせる。
そして、こうなったら仕方ないので自分が解決すると宣言した。
ことここに至っては仕方ないだろう。
「うぅ~! しかたないわね! ブリジットが中で自爆しても無駄なのか、あるいは自爆もできない状況なのか……」
「どうにせよ、私たちではもう打てる手がない」
「全滅するのを待つばっかりだものね……やってちょうだい!」
同意も取れたので、やるとしよう。
あなたはサワーハンマーにカートリッジを装填。
そして、スケイルド・ワームの頭をぶん殴った。
ぐんにゃりとシャフトの曲がる嫌な手応えがした……。
サワーハンマーが折れた。
金属製シャフトだからと言って調子に乗り過ぎた。
エルグランドの武器じゃないのだ。壊れる時は壊れる。
あなたはひん曲がったサワーハンマーの惨状に嘆く。
「わあぁぁ! あ、アンジー! アンジー! 武器! 武器持ってこい! アンジ――――!」
「武器って言われても銃しか持ってないわよ!」
「終わった……!」
クラリッサがアンジェリカに武器を出すように言う。
愛称で呼んでいるのは初めて聞く気がする。
切羽詰まると愛称で呼ぶのだろうか。
そんな声を聴きながら、あなたはワームの飲み込みを避ける。
そして、あなたは雑に『魔法の矢』をパナした。
あなたの『魔法の矢』が直撃したスケイルド・ワームのその箇所が消し飛んだ。
「ぅわ」
「は?」
「?????」
なんとも言えないリアクションをするカーマイン姉妹。
クロモリは苦笑気味にあなたのもたらした破壊を見ている。
あなたが手加減しまくっていることはよく分かっているのだ。
「つよい……」
「私たちがあんだけ苦戦したのに……」
「野砲直撃したみたいなのです……」
さて、ブリジットはいったいどこにいるのだろう。
まぁ、頭部を喪ってもなおのたうっている胴体。
そちらの動きが止まるまでは救出もできないが……。
なんて思っていると、その胴体側から勢いよく飛び出して来るものがあった。
それはあなたたちの目の前でどちゃりと落ちた。
強烈な刺激臭がする。ワームの体内で分泌された腐食液だろう。
それによってドロドロに汚れた人型、ブリジット。
「う、あぁ……い、痛いのです……」
あなたはブリジットに駆け寄り、無事かと尋ねる。
いつもならすぐに回復するのだが……腐食液のせいだろうか。
彼女たちの回復力は受傷中は作用しない特性があるらしい。
肉体内部に剣とか銃弾を取り残さないための作用だろう。
それが浴びている腐食液のせいで作動中なのだろう。
なるほど、便利な特性だと思ったが、こういう欠点もあるのか。
「お、お姉さん、どうか、お姉ちゃんたちと、ママに……」
そんな遺言されても。
いや、本当に死ぬならもちろん届けるが。
どう考えてもブリジットは蘇るだろうし……。
なんて思っていると、クラリッサがブリジットの手を掴む。
「よっし、いきましょうか」
ぐいっと引き起こされるブリジット。
それと同時、腐食液で焼けただれていた皮膚が一瞬で治る。
姉妹同士でこうして接触して救護すると、万全の状態に回復するのだ。
なんと言うか本当に無茶苦茶な生態をしている。
「ふー、助かったのです」
あっさりと完治したブリジット。
それに一安心し、次にあなたはサワーハンマーの修理にかかる。
『完全修理』の呪文をかけ、シャフトを修復する。
ひん曲がったシャフトがあっさりと戻ったので一安心だ。
買ったばかりの武器なのだ。壊れて修復不能はつらい。
金貨40枚なので金銭的にはさして痛くもないが。
なんせ特注品だろう武器だ。金を出したからと言って買えるとは限らない。
「それにしても、どうしようか」
「この玄室が特別強いという線もあるけど、10層と言う節目だからね」
「ここからの玄室の守護者はこれくらいが標準と言う線が強いのです」
「私たちではこれ以上の偵察は厳しいわ。撤退すべきね」
あなたが修復作業に勤しんでいる間、クラリッサらはそのような結論を出していた。
たしかに、これほど強力なモンスターが出て来たのだ。
これ以降もこのレベルのモンスターが出てくれば、クラリッサらでは対応不能。
撤退を選ぶのもやむなしか。あなたは頷く。
「まぁ、一気に10層まで進めたんだもの。報酬はガッポリもらえるわ!」
「そのためにはたっぽりと報告書を書く必要があるけどね」
「うう、報告書がめんどくさい……せめて、せめてワープロが欲しい……!」
「手書きとか原始時代もいいとこなのです。1000年くらい前の水準なのです」
報酬をもらうための報告書提出は相当面倒らしい。
あなたも領主としての仕事で書類作業は随分慣れたが。
それはそれとして、やりたいとは思わない。
クラリッサらが嫌がるのもやむなしか。
まぁ、そのあたりはあなたには関係ないことだ。
あなたでは力になれないのだからしょうがない。
今はともあれ、撤収するとしよう。
あなたたちは撤収に移った。
帰り道では玄室のモンスターは復活していない。
ギミックも帰り道では再度作動させる必要もない。
撤収するのになんらの苦労もない。
「にしても、ここのギミック、私たち以外ではどうやって解決するのかしらね……」
「たしかにね……質はともかく量なら、って思っていたけど、普通は量を用意する方が大変だよね?」
「普通の人間は2リットルも血を絞ったら死ぬのです」
「私たちなら何百リットル絞ったところで死にはしないものね」
やはり、そこらへんは回復魔法で解決するしかないだろう。
回復魔法が多数使える神官を連れて行くか。
あるいはポーション、ワンドをたっぷりと持っていくか。
神官の持てるリソースを使いすぎるのもよくはない。
やはり、かさばらずに回数が使えるワンドを持ち込むのが妥当か。
まぁ、金がかかるが、そこらへんはやむなしだろう。
あとはまぁ……ちょっと人の心がないが……。
質はともかく量を補えるという点から。
クラリッサら姉妹のうち、出血要員1名、回復要員1名で2人連れて行くとか。
「人の心とかないの?」
「でもね、それが効率的なのだから……」
「効率の前には人間性を捨てる必要があるのです」
「悲しいね、ブリジット」
まぁ、そのあたりをタイトらがどう解決するかは不明だが。
本格的な攻略に乗り出すにあたって、あなたは参加させてもらえるだろうか?
「参加はさせてもらえると思うよ。報酬は知らないけど」
「そもそもお姉さん、いまタダ働きしてるのです」
「タダで手伝ってくれる分には誰も文句言わないわよ」
「だって、タダ、だからね」
言われてみるとそうである。
あなたは迷宮攻略にあたって報酬をもらっていない。
今まで迷宮の攻略そのものに報酬が発生することはなかった。
攻略するにあたって、敵を討伐したりする際に得たもの。
それらを換金するなどして、副次的に得るもの。
あなたにとって、迷宮攻略の報酬とはそう言うものだ。
「そこらへんはちゃんと請求した方がいいよ。いくらになるかはともかく」
「タダ働きしてくれる分にはありがたいけども、タダ働きするのを当然と思われるのはよくないものね」
「そうそう、
「給料をもらうためってなると、春闘以前じゃないかしら……」
なんだろう、春闘って。
「賃上げ交渉なのです。春頃にやるから春闘なのですよ」
「初任給5000兆円欲しいわ!」
「30円くらい賃上げしようと思ったら、2180円も賃上げしちゃった……」
「2180円の賃上げはともかく、30円はせこすぎるでしょ」
なるほど、まぁ、報酬をタイトに請求するのは後ほど考えておこう。
正直、大した報酬ではないだろうが、もらえるならもらうべきだ。
まぁ、新発見した迷宮の攻略に参加させてもらえるだけありがたいので。
仮に報酬はやらん、と言われてもそんなものかと素直に引き下がるが。
無事に迷宮から脱し、あなたたちはタイトの下へと報告に向かった。
「10層までの攻略は完了したわ。でも、それ以降は私たちの持てる手段では攻略不能ね」
「そうか。ところで、こいつらを見てくれ。どう思う」
タイトがそう言って指し示す集団。
獣人であろう少女や、この前哨基地に来た時に見知ったアクア・コンデンス。
その他にも複数人の少女、女性たちの集団だ。
一見してみると、なんとも共通性のない集団に見える。
しかし、彼女たちの持つ戦闘力。
そのあたりはおそらくクラリッサらよりも上なのだろう。
つまりだが……彼女たちはおそらく……。
「えーと……えーと……? ごめん、分からないわ。なんの集まり?」
「おまえの要求して来た、アイアンゴーレム撃破のための攻略班だ」
「ア!」
やっぱり、そう言うことだったらしい。
あなたはすっかり忘れていたし、クラリッサらもそうだった。
元々、アイアンゴーレムが突破できずに初日は離脱したのだ。
そして、今日あなたはサワーハンマーを買った歓びですっかり忘れていた。
突入してサワーハンマーの使い心地を大喜びで試した。
トロールやリッチやアイアンゴーレムを殴りまくった。
アイアンゴーレム攻略のための攻略班の編成のことをすっかり忘れて。
「コイツらを置いて探索に行った件について聞こうか」
「ごめ~ん! 忘れてたわ!」
「なるほど、死刑だ」
「うわーん! ごめんなさい! カレーライスお腹いっぱい食べた幸福感で忘れてたの!」
「まぁ、いい。反省文を書くのと、こいつら攻略班にちゃんと謝っておけよ」
タイトが大きく溜息を吐いて、そのように片付ける。
あなたもその点は反省しなくてはいけない。
「報告書の提出は急がんが、10層以降の攻略不能について聞こうか」
「単純に、出て来た敵が強いわ。おばけワームが出て来て、私たちじゃ手も足も出なかったわ。彼女がいなければブリジットが呑まれたままだったでしょうし」
「ほう、なるほど。おまえたちカーマイン姉妹の偵察班、攻略班、補助班の3班編成で行くとするか」
「それが無難かもしれないわね」
あなたはそこで、自分も攻略班に含めてもらえるかと提案した。
「手伝ってくれるならありがたいことだが、そう大した報酬は出せんぞ」
それでかまわない。そもそも、あなたは勉強に来ているのだ。
報酬がもらえるだけありがたいくらいだ。
「そうか。まぁ、それでいいなら俺たちとしては助かる。代わりと言ってはなんだが、不純同性交友については目をつぶろう」
タイトからお墨付きが出た。
つまり、この前哨基地の女の子食べ放題ということか!
「そこまでは言っとらん……まぁ、同意があればいいのか……好きにしろ……」
なんか疲れたような顔で呆れられた。
まぁ、どうにせよ、あなたは攻略の続きに参加できるし。
その攻略の報酬も貰えることになったのだ。
あなたの欲していた回答に対し、満額回答が出たと言っていい。
明日からも張り切って攻略するとしよう!
文字数はどの程度が好ましいですか?
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2000文字前後
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