あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「はじまりがいずこにあったかは、今となってはもはやわからない」

 

「西暦3000年。極限の科学力と超絶の叡智によって創り出された人類の帝国は絶頂期を迎えていた」

 

「宇宙開拓時代にあって一惑星その一地方に固執することの意味は薄く、人々の多くが宇宙へと旅立っていった」

 

「ある者はその科学力によって宇宙空間にいとけなき人々の揺籃たるスペースコロニーを作り出し」

 

「またある者はその叡智によって大地を埋め尽くし、その悉くを(さら)えて、惑星を作り替えていった」

 

「遭遇するエイリアンをも飲み込み、あるいは滅ぼし」

 

「果てを知らぬ繁栄への欲動は際限なく拡大し、人類は侵略の尖兵。帝国風に言うなれば、教育者たちが次々と生み出された」

 

「人類の持ち得る才能を最大限に開花させた、人類の臨界を極めたる天性の兵士、リンカー」

 

「その才能を機械技術によって極限にまで拡張させた鋼鉄の兵士、サイバネナイト」

 

「超絶の科学と練兵技術の脅威的な融合によって生み出されたナノマシンの統率者、ナノトルーパー」

 

「究極のサイキック技術、生命をも思うがままとした最強の兵士、サイキックソルジャー」

 

 そこでタイトは一度言葉を止め、酒を呷った。

 そして、深く深く、溜息を吐いた。

 

「サイキックソルジャーのはじまりは、未だにわからん。だが、分かることがひとつある」

 

 それは?

 

「サイキックソルジャーの祖……いやさ、サイキックそのものの祖、それは『アルメガ』である」

 

 つまり、『アルメガ』はその西暦3000年と言う暦に達する以前に作られていた?

 

「いいや。『アルメガ』の建造がはじまったのは31世紀に入ってからだ……だが、『アルメガ』は時を超えることができる。その超絶のサイキック能力によってな」

 

 たしかにタイトの言う通り、『アルメガ』は時を超えることができる。

 滅ぼされかけた時、それを拒んで過去の時代に飛んでその運命を避けた。

 つまり、『アルメガ』は自らの創造のために、自ら暗躍していた……?

 

「そうだ。アルメガは過去の時代にサイキック因子を播種(はしゅ)し、強大なサイキックを数多産み出した……はじまりがいずこにあったのかは、もう誰にもわからんのだ」

 

 なるほど、そう言う……なんとも無茶苦茶な存在だ。

 自分を生み出すために自分で暗躍する? 普通に意味が分からない。

 

「生まれたサイキックらからサイキック因子を採取し、それを元にサイキック兵器が創り出された。『アルメガ』の原型だ」

 

 やがて『アルメガ』は産み出された。

 そして、暴走した。その暴走は果てなく続き。

 遥か彼方の宇宙にまで達した。

 

「サイキック因子はあればあるほどにいい……だからこそ、俺たちのサイキック因子、遺伝子は広がった……悲惨なものだよ」

 

 と言うと?

 

「人類の帝国は、その超科学技術により、血の一滴から人間のコピーを作りだすことを可能としていた。クローン技術、そう呼ばれるものだ。俺たちサイキックのクローンが無数に創り出されていった……」

 

 つまり、タイトのコピーもたくさん作られた?

 

「ああ、そうだ……世界中でクローンが作られた。サイキックソルジャーの生産のために。みんなマジギレしていた……」

 

 みんなと言うと、やはりサイキックがだろうか。

 とすると、タイトもマジギレしていたのだろう。

 まぁ、マジギレもするだろう、勝手に作られていたら。

 あなただってする。だれだってする。当然だ。

 

「火消しに躍起になって、それでも結局は無意味だ。その当時、既に人間の再現クローンはそう難しいことではなかった。俺たちのクローンが無数に造られた。そして外へと外へと広がっていった」

 

 あなたにはいまいち理解が及ばないが、べつの星にまで行く技術があったという。

 そこまで広がってしまうと、追いかけて火消しをするのにも限界があるだろう。

 どうにもならないほどに作られていく、自分のコピー。

 それは想像するにおぞましい光景だった。

 

「そして、『アルメガ』が作られ、それは暴走した。『アルメガ』が宇宙に広がりゆく中、俺たちは察知した。このサイキック因子は俺たちのものだと。タイムパラドックスだな……『アルメガ』のサイキック因子から俺たちは作られたが、『アルメガ』のサイキック因子は俺たちから採取された……はじまりのサイキック因子はどこから来たのやら」

 

 なるほど? よくわからん。

 たしかにどこから来たのかはわからないが。

 そこにある以上は、あるのだろう。

 ならばとりあえずそれでいいのでは。

 

「どうにせよ、俺たちは戦わねばならなかった。サイキック因子の大本であるがゆえに、俺たちは取り込まれればその自我すらも食われる。俺たちは戦わねばならなかった……戦わねば、食われる。その魂をな」

 

 そこでまた、タイトが酒を呷った。

 飲まねば語っていられない、そう言う内容なのだろう。

 

「宇宙中に広がった『アルメガ』との戦いの果てはなかった。何百年、何千年と戦いは続いた」

 

「『アルメガ』と『インメタル』の戦いは割と互角だった。あちらこちらで相打って滅び合うことの方が多かった」

 

「しかし『アルメガ』が生き延びることも、そう少なくはなかった」

 

「そうした『アルメガ』を討つために、宇宙中を駆け巡り、俺たちは戦った」

 

「そして、見つけた。この惑星を。遥か過去の時代に根付き、生命そのものが『アルメガ』に依存した惑星だった」

 

「不思議な惑星だった。『アルメガ』が異様なまでに大人しかったのだからな。必死で隠れているかのようだった」

 

「『アルメガ』が活動を開始しなければ、浸食されなかった幸運な惑星だと思い込んで取り逃がすところだったくらいだ」

 

「『アルメガ』の活動に出くわすことが出来たのはただの偶然だ。厳密に言えば、出くわしたのは俺たちではなくグレイスメイデンだったのだが……」

 

「この惑星での戦いは、うまくいった。まさか現地住民があそこまで大きな役割を果たすとは思わなかった……魔法とはすごいものだな」

 

「うまく滅ぼせたと思ったが、なにせ魔法と言う不確定要素を含む戦いだった。慎重意見を取り、俺たちは入念に滅ぼしたことを確認することにした」

 

「先にこの惑星に入り、『アルメガ』の調査をしていたグレイスメイデンに変わり、俺たち『トラッパーズ』が残った」

 

「そして、滅ぼせていなかったことが分かった。今までの戦いもすべて見直しが必要だ……」

 

 タイトがでかでかと溜息を吐いた。

 まあ、あそこまでしぶとい存在なのだ。

 やり過ぎなくらいに見直してちょうどいいくらいなのでは。

 

「俺たちの素性、事情はそんなところだ。サイキックの深淵、人間の可能性、そのあたりは分かってもらえたか?」

 

 サイキックの深淵についてはよくわかった。

 まさか人間の創造すらも可能なのだとは……。

 

 人間の可能性についても分かった。

 まさかタイトからサツキと言う変態が産まれるとは……。

 

「……………………」

 

 そうじゃないんだけど、そうだとしか言えない状況だよな。

 タイトの顔にはそう書いてあったが、口には出していなかった。

 あなたもその辺りを汲み取って、何も言わないでおいた。

 

 だが、サツキはともかくとしても。

 クラリッサやティー、アクアやカリーナと言った面々。

 彼女らの持つ技能、能力などなどはすべてタイトから生まれている。

 それを思えば、人間の可能性が極めて大きなものであると思える。

 

「そうそう、そう言う感じだ」

 

 さて、そんな人間の可能性はともかくとしてだ。

 『アルメガ』との戦いについて。あなたは聞きたい。

 

「ああ」

 

 こういうと申し訳ないのだが。

 タイトらの戦闘力は『アルメガ』と戦えるレベルにないと思う。

 この大陸の迷宮ごときに苦戦するようでは、アレと戦うのは夢のまた夢では?

 

「ああ、なるほど。たしかにその疑問もごもっともだな。これはサイキック能力の特性に由来するのだが……」

 

 と言うと?

 

「サイキックは特定の因子によって発現するが、その因子を抑えれば能力を極めて効率的に抑止することができるのだ」

 

 『アルメガ』のサイキック因子はタイトらサイキックから採取されたものであるという。

 するとなるほど、同じサイキック因子を持つがゆえに、その因子を効率的に抑えられる?

 

「そう言うことだ。『アルメガ』も俺たちのサイキックを効率的に封止できるが、俺たちはサイキックだけに頼ってるわけでもない」

 

 たしかに、銃火器を使ったり、魔法の道具を使ったり色々やっている。

 なにもかもサイキックだよりではないのは明白だ。

 そうした余技とも言えるようなものを主体にして戦うと。

 

「究極的にものを言うのは科学兵器だがな……お互いのサイキックを封じて、科学兵器で殴り合うわけだ。この惑星の戦いでは、レウナが神を降臨させたが……」

 

 結局うまくはいかなかった、と。

 

「結局のところ、サイキックを完全に封止できていなかったのだろう。俺とグレイスメイデンの頭目らで封止したが、やはりサイキックとしてはあちらの方が格上なのだからな……」

 

 結局はそこに尽きるわけだ。

 いったいどうやって滅ぼせばいいのだろう?

 

 光と同化して存在するので光がある限りは滅ぼせない。

 そして、概念的に滅ぼそうとしても、時を遡って回避する。

 しかも惑星全体を呑み込むほどの凄まじい巨体を持っている。

 

 もうなにもかもスケールがでかすぎて嫌になる。

 なんとかかんとかうまいこと滅ぼす方法がないものか。

 

「あれはサイキックを媒質にして存在しているから、サイキックを完全に封止できれば物理的に滅ぼせる。俺たちはそうして滅ぼしていた……いや、滅ぼしたつもりになっていた、のか」

 

 あなたはもちろんサイキックは使えない。

 なので、その場合はタイトらサイキックに助力を乞うことになるか。

 

「それでうまくいくといいのだが」

 

 不安そうにするタイトだが、他に手立てはないだろう。

 あなたはサイキックが使えないし、サイキック因子とやらも分からないのだ。

 サイキックで『アルメガ』のサイキックを封印する。

 それ以外に手立てがないなら、やるしかないのだ。

 

「まぁ、そうなんだがな……『インメタル』を持ってくる手もあるが、惑星が消し飛びかねん……というか、十中八九消し飛ぶからな……」

 

 それは最後の手段にして欲しい……。

 さすがのあなたも故郷が丸ごと物理的に消滅するのは嫌だ。

 

「だろうな……後はまぁ、超光速で攻撃するとか」

 

 超高速で攻撃するだけで通じるのだろうか。

 

「いや、そうではなく……光よりもなお速く攻撃すれば、光の速さで伝播する『アルメガ』の増殖連鎖を断ち切れる、はずだ……」

 

 光速を超える速さだから、超光速と。

 なるほど。なんかもうメチャメチャな高速であることは分かる。

 具体的な数値がどんなもんかは知らないが。

 

「秒速29万9792キロメートルほどだ。1秒でこの惑星の外周を7周半できる」

 

 なるほど?

 人間の標準速度からすると、何倍と言う表現になるだろう?

 

「なに? 人間の標準速度? 人間の標準速度ってどれを言うんだ……? まぁ、歩行速度だとしたら一般的に時速4キロと言うが、計算しやすく秒速1メートル、時速3.6キロとすると……」

 

 タイトがテーブルの上に、水滴で計算式を書いていく。

 酒で茹った脳ではやや厳しいのか、数秒ほど考えたりしながら計算を進めていく。

 

「大体だが、3億倍ほどになるか。凄まじい速さだ……ん? そもそもこの計算要らなかったな……?」

 

 スケールがでかすぎてなんだかよくわからなかった。

 だが、大体は理解した。つまり、標準速度の3億倍あればいい。

 光よりもなお速く動くのがそれくらいであるのは理解できた。

 

 なるほど、よく分かった。

 普通は無理では?

 

「うん、無理だな。光速度不変の原理を何だと思ってるんだという話だ」

 

 からからとタイトが笑う。

 それを聞きながら、あなたも自分の手元の酒を呷る。

 普通の3億倍もの超スピードが、光よりもなお速い速度。

 数字がでかすぎて非常に分かりにくいが、まぁ分かった。

 そんなものが必要とは、やはり『アルメガ』は凄まじい存在なのだろう。

 

「ああ、そんな相手だ。厳しく、難しい戦いだ。本当に勝てたかもわからんような曖昧な戦いでもある。それでも戦わねばならん。だから戦っている」

 

 そう言うことはある。

 本当に必要な戦いか分からなくとも。

 たとえ負けるのだとしても。

 戦わなければいけない時はある。

 そして『アルメガ』との戦いはまさにそれだ。

 

 戦わなければいけない相手だ。どんな理由があったとしても。

 あなたもまた、この星に生きる者として、時が来れば戦わねばなるまい。

 

「その時は、手を貸してもらえるか」

 

 もちろんだ。

 あなた側の事情……レウナとの約束もある。

 あなたは『アルメガ』との戦いに最大限の努力を約束する。

 

「そうか……手を貸してもらう以上、俺に払える報酬なら払おう。何か望みはあるか?」

 

 じゃあ、この前哨基地で女の子食べ放題してもいい許可と。

 あと、それによって生ずる問題とか、痴情のもつれとかの仲裁を……。

 

「…………………………許可する」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で許可が下りた。やったぜ。

 あなたは喜んで祝杯を乾かした。

 女の子コマし放題の確約を得た上での酒は美味い……。

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