あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたはサツキをそれはそれはデロデロに甘やかした。

 我が子だったら絶対にやらないってくらい甘やかした。

 吐き気を催すほどの可愛がり。それこそ、腐るほどに甘やかした。

 こんなに甘やかして育てたらロクな大人になれないくらい。

 というか、正常な人間にすらなれないくらい甘やかした。

 

「お、溺れる……! 溺れてしまう……! 臓器売ってでも通ってしまう……!」

 

 サツキはド嵌りした。ド嵌りするようにたっぷりサービスしたのだ。

 あなたはサツキに服を着せてやりつつ、安くしておくよと答えた。

 

「い、いくらだ……形態としてはどれが正しいんだ……? イメクラ? いやしかし本番あったし……コスプレありのソープなのか……? ぐぅ……サービス料いくらだろ……お泊りコースは高いだろうし……!」

 

 苦悩するサツキに、あなたは金貨1枚でいいと答えた。

 

「基本料金で金貨1枚……入浴料が金貨1枚なのかな? いやもう率直に聞く。昨晩のプレイで総額はいくらだい?」

 

 金貨1枚だ。

 

「…………?????」

 

 サツキが首を傾げて固まってしまった。

 

「あのドえぐいプレイが金貨1枚?」

 

 金貨1枚だ。

 

「金貨1枚だが……3枚になったりする?」

 

 ならない。金貨1枚だ。

 

「金貨1枚だとして……たとえば、そう。金貨5枚の店がある。そう言う店があったとしても、君は金貨1枚?」

 

 金貨1枚だ。

 

「こう……主婦とかがヒミツの副業として、銀貨8枚とかで売ってる店があるとしても……金貨1枚?」

 

 金貨1枚だ。

 

「金貨1枚だが……銅貨17枚から始めさせられた、一番つらかったあの頃とかがあったりする?」

 

 いったいなんの話だろうか?

 あなたは娼婦ギルドに所属する前から私娼をやっていた。

 その頃の料金にしても、普通に金貨数千枚単位だった。

 まぁ、エルグランドの金貨数千枚なので、この大陸では金貨1枚にも満たないが。

 

「ん、んん……ん……去年は何枚だった?」

 

 1枚だ。

 

「今年は何枚かい?」

 

 1枚だ。

 

「よしんば2枚だったとしたら?」

 

 何度も言うようだが、1枚だ。

 

「嬢のレベル激高、年齢激若、NG……はなにかある?」

 

 男以外ならまぁ大体なんでもOKだ。

 

「実質的にNG無し……指名料は?」

 

 なんだろうそれは?

 

「え、なんだろうって……それは、指名料なわけだから……指名する時に払う、料、金……?」

 

 つまり娼館で、この娼婦がいい! と選んだ時に払う料金?

 なんだその意味不明な料金は。基本料金に含めていいだろう。

 

「まあ、そういわれるとそうなんだが……入会金は?」

 

 会員制の娼館をやっているつもりはない。

 というか、現状あなたは私娼だ。

 

「オプション料金は?」

 

 まぁ、道具類が必要な場合、その道具は自前で用意して欲しいくらいか。

 用意が無理ならあなたが用意するが、その時は代金をもらう。

 まぁ、それも相場通りのものをもらうので、追加料金はなしと言っていいだろう。

 

「優良店にもほどがある……! 毎日通います。たくさん甘えさせてくださいママ」

 

 先客が居たらそちらに譲るように。

 

「ぐっ、さすがにそこは普通のソープといっしょか……朝に予約入れるのアリかな?」

 

 ナシだ。

 

「いつから指名できる?」

 

 あんまり考えたことがなかったが……。

 まぁ、その日の仕事が終わったらだろうか。

 昼は冒険者、夜は娼婦。それがあなただ。

 だからまぁ、夜になったら?

 

「なるほど。では日没前には張り付いておかないとな……」

 

 どうやらサツキはすばらしい情熱であなたを連日指名するつもりらしい。

 まぁ、そうしたいと言うなら止めはしないが……。

 あなたにも拒否する権利があるので拒否の可能性はある。

 

「くっ、つらい……! だが、出禁喰らうのも嫌だ……その時はがまんするほかないか……!」

 

 納得いただけたようで幸い。

 では、そろそろ帰ろう。

 日も登ったことだし。

 

「待った。最後に、一服だけ……」

 

 一服? なにを?

 そう思っていると、サツキが手をくるりと返す。

 すると、そこには淡い色合いの彩色が為された紙箱が握られていた。

 その淡くも華やかなデザインに思わず目が奪われる。

 

 サツキがその紙箱を開くと、中から細長い棒が出て来た。

 その片側をひょいひょいと潰し、それを口に咥える。

 そこであなたは、サツキが手にしているものがタバコだと気づいた。

 

 たかがタバコを入れるのにずいぶんと洒落た箱を使う。

 額縁にでも入れて、机の前に飾っておきたいくらい可愛らしい絵なのに。

 

「すぅ……ふぅー……」

 

 マッチでタバコに火を灯し、サツキがそれをじつにうまそうに()る。

 ただタバコを吸っているだけだと言うのに、妙に色気がある。

 元々、色気のある仕草をすると思っていたが、余計に艶っぽく見えた。

 

「前哨基地は敷地内禁煙なんだ。煙草(たばこ)()みにはつらいところでね……」

 

 敷地内禁煙となると、上層……おそらくはタイトか。

 そのあたりが出しているお触れなのだろうが。

 それを全員が律義にキッチリ守っているのだろうか。

 なんと言うか『トラッパーズ』のモラルと言うか規律の高さには驚かされる。

 

「基地内で呑んでるのがバレると、スイカバーの刑とか、恒例行事の刑とかに処されるからなぁ……」

 

 と言って、紫煙と共に溜息を吐くサツキ。

 なんだかよく分からない刑罰があるらしい。

 

「今のうちに吸い溜めしておかないと。場所さえあれば、呑むに困らない力の持ち合わせもあるのでね」

 

 サツキも『トラッパーズ』の例に漏れずサイキックなのだろう。

 すると、このタバコもそのサイキックの力で創り出している?

 

「ああ。私のサイキックはアポート系……なのかな。軍需品ならばおおよそなんでも召喚できる。これも軍用の煙草なんだよ」

 

 手にした淡い絵柄の箱をふりふりしながら言う。

 紙で巻いたタバコは割と新しめの種類のものだ。

 喫煙具が必要なく、火種さえあれば吸える手軽さがある。

 その中でもこれは口付きと言われるタイプだ。

 エルグランドでも度々見かけるものだ。

 

 口の中に葉が入らない工夫がされていて気楽に吸えるのだ。

 また、吸い口を潰して吸うので、口を大きく開けずに吸える。

 そのため、楚々とした態度で吸えるので娼婦が吸っていることが多い。

 あなたはタバコをやらないので縁遠い品だが。

 娼婦の嗜みとしてその辺りは把握している。

 あなたは吸わずとも、客が吸っていることは多い。

 

「よければ、いるかい?」

 

 サツキがもう1つ、タバコの箱を差し出して来た。

 物欲しそうに見てしまっていたのだろうか?

 まぁ、くれるというならもらう。

 中身は要らなかったが、箱は欲しかった。

 喜んで受け取り、『ポケット』へと放り込んだ。

 

「軍需品しか召喚できないせいで、煙草は古臭いものしか召喚できないのが難点なんだけどね。まぁ、廃盤の煙草も吸える利点があると思うことにしているよ」

 

 サツキのいたところでは、古臭い種類らしい。

 エルグランドでは新しい部類に入るタバコなのだが。

 時が経てば、いずれのものも廃れることはある。

 もちろん、長く続くものもあるわけだが。

 

 思えば、エルグランドのタバコは口の部分がもっと長い。

 手袋をつけたまま吸えるよう、長めに作ってあるのだ。

 他所では廃れても、エルグランドでは長く続くかもしれない。

 

「それ以外には大して使いどころのある能力でもないのがつらいところだ」

 

 苦笑し、サツキがタバコをいつの間にやら持っていた袋の中へと押し込む。

 携帯用の吸い殻入れらしい。なんとも律義と言うか。

 

「やろうと思えば聯合(れんごう)艦隊でも、空母打撃群でも召喚できるけど……それを召喚しても戦う相手がね」

 

 艦隊を召喚できるとはまたごつい話だ。

 やはり、戦列艦とかを何百隻も召喚できるのだろうか?

 それとも最新鋭艦たる装甲艦?

 

「ああ、まぁ、装甲艦……装甲艦なんかな? まぁ、鋼製船殻ではあるね……そうか、20世紀初頭くらいなものだから、まだ戦列艦が運用されている時代なんだねぇ……」

 

 しみじみと言うあたり、サツキからすると古いものらしい。

 まぁ、星を飛び越えて移動できる文明だから当然と言えばそうか。

 なんか面白い兵器とか積んでそうだ。そのうち見せてもらいたい。

 きっと、1発で大陸を焼き尽くすような凄い威力のやつがあるに違いない。

 絶対面白い。1発もらってコピーして量産したい。

 たぶん神々にマジギレされるが、それでも量産して使ってみたい。

 

「ま、戻ろうか」

 

 超科学文明による破壊兵器を夢想していたところをサツキの声で現実に引き戻される。

 あなたは頷いて、サツキと共に前哨基地へと『引き上げ』で転移した。

 

 これからサツキはしょっちゅう客としてくるだろう。

 たっぷりサービスして、ものすごい破壊兵器を1つ譲ってもらおう。

 手軽でものすごい爆弾とかあるといいのだが。

 いや、ものすごい火炎放射ができる兵器とか。

 恐ろしい病気をものすごい勢いでばら撒く兵器とかもいい。

 疫病系は『疫病黒死(プレイグ・ブラックデス)』でコピーしやすいし。

 

 個人で操作できる、総合兵器とかでもおもしろい。

 イ・ドの時代に大陸を焼き尽くした人造神みたいな感じのやつ。

 科学技術で造られた、気軽に操作できる感じのがあったらすごく欲しい。

 

 あなたはまだ見ぬ超破壊兵器の夢を描いていた……。

 

 

 

 前哨基地に戻ると、ずいぶんと日が昇っていた。

 元々時差のあるところだったのでそこはしょうがない。

 あなたはさっそく迷宮探索に行くかとタイトのところに向かうことにした。

 サツキもタイトに用事があるらしく、共にタイトのところへ。

 

「おはよう。ここは上古の時代より受け継がれし定型句として、こういっておこう。ゆうべはおたのしみでしたね」

 

「最高過ぎた。女に生まれてよかった……」

 

「そうか。よかったな」

 

「タイト……」

 

「なんだ」

 

「女に産んでくれてありがとう……」

 

「…………どういたしまして」

 

 タイトが非常に複雑そうな顔でサツキの礼を受け取っていた。

 たしかにタイトによって産まれたわけだから、タイトが産みの親だ。

 しかし、男性のタイトが産みの親とは妙な話である。

 

「お姫様は女の子だけの専売特許じゃないという説もある。すると、やはり産婦も女の子だけの専売特許じゃない……」

 

 サツキが意味不明な理論を持ち出して来た。

 なにを言っているんだろうか……。

 

「タイトォ! おまえは私にとっての新たなママだ!」

 

「…………こいつになにをしたんだ?」

 

 タイトに訝し気な顔で見られた。

 あなたは反論しようとしたが、できなかった。

 あなたは昨夜、腐るほどの勢いで全力で甘やかした。

 それこそ脳を破壊するくらいの勢いで。

 サツキの頭がおかしくなってしまった可能性は否めない……。

 

「タイト、女になるつもりはないか? その上で、私のことを娘として可愛がって欲しいんだけど」

 

「別ベクトルでキショくなってる……そんなことができるわけないだろう」

 

 あなたはそこで反論した。

 あなたの持つ『ミラクルウィッシュ』のワンドならば、それは可能だ。

 ぜひともタイトも女になって愉しもう!

 

「すごいものをくだらないことに使おうとするな……俺は女になるつもりはない……」

 

「えー。なんでー。なって、その上で私をバブちゃんとして甘やかして欲しいんだけど……」

 

「本気でキショいな……と言うより、俺が女になったら十中八九おまえたちは消滅するぞ」

 

「む、それもそうか……」

 

 タイトのその発言にあなたは首を傾げる。

 女になったら消滅する……とは?

 

「サイキック因子は肉体機能であることに違いはない。そのため、種々の要因で発現形質が変化することがある」

 

「性染色体が変わった場合、それはもう大きい変化だから……たぶん、サイキックも変化する」

 

 つまり、タイトが女になった場合。

 サツキらを形成しているサイキック能力が喪われる?

 

「ほぼ間違いなくな。加えて俺のサイキック因子は古く、純粋なものだ。極めて強力でもある。これを乱したらなにが起きるか分かったものではない」

 

「まぁ、グレイスメイデンの例を見るに、近似した能力になる可能性は高いけど……それで私たち消滅したら困るからなぁ……」

 

「一応俺が男に戻れば再形成は可能だろうとは思うが、その場合、おまえたちの人格が連続しているかは不明だからな。やめた方がいい」

 

 つまり、タイトを女の子にして食べることはまず無理。

 あなたは悲しい情報にがっかりした。

 

「節操がないにもほどがある……頭痛がして来た……二日酔い気味かもしれん。サツキ、ラムネをもらえるか」

 

「あいよ。海軍ラムネだ。君もどうぞ」

 

 サツキがなんかジュースくれた。

 ガラス瓶で、飲み口のところにガラス玉……。

 あなたは開け方がよく分からず、飲み口をもぎ取った。

 

「……サツキ、開け方くらい教えてやれ」

 

「もぎ取って開けるなら底のところ開けた方が地上最強風味で風情があるよ」

 

「どういうアドバイスだ」

 

「でも上のところ開けるならデコピンで開けても地上最強風味だね」

 

「開け方を教えてやれと言っているんだ」

 

 なんだかよくわからないが、それがいいと言うなら今度はそうしよう。

 あなたはとりあえずラムネなる清涼飲料水を口に運んだ。

 ……なるほど。炭酸水に砂糖水とレモン汁を入れてある。つまり、レモネードだ。

 レモネード……ラムネ……現地語風の訛りがあるだけで、レモネードそのものと言うことらしい。

 

「そう言えばタイト。私はどうやって仕事場に戻ったらいいの?」

 

「……気合で何とかしろ」

 

「は?」

 

「気合でなんとかしろと言ったのだ。五省(ごせい)を知らんのか……氣力(きりょく)()くる()かりしか。十分な精神力で戻ろうと試みたのか」

 

「おい! 戻す方法分かんないからって精神論で片付けようとするな! 旧軍上層部かてめーは!」

 

「わからんものはわからんのだ! 気合で戻れ!」

 

「ふざけんじゃねー!」

 

 なんか喧嘩がはじまった。

 サツキはいったいどこから呼び出されたのだろう?

 

「ん、ああ……私は海洋型ダンジョン……この場合は海の中にあるダンジョンね。それを探すために外洋航海してる……んだけど……」

 

「ランダムで適当に呼んだら皐月が来てしまった。誰でもよかった。今は反省している」

 

「反省しているじゃねーんだよ! なんとかしろ!」

 

「努力に(うら)()かりしかと言うだろうが……十分に努力したのか?」

 

「てめーが努力しろや! オオオォン!?」

 

不精(ぶしょう)(わた)()かりしか……やりもせずにこちらに求めるな!」

 

「こっちのセリフだクソボケがぁ!」

 

 なんか要するに、タイトが悪いらしい。

 べつにタイトも悪意があったわけではないようだが。

 まぁ、要するに。全体的に運が悪かったらしい。

 

「もーいい! しばらく休暇だ! 休暇! いいな!?」

 

「まぁ、いいだろう。今回の場合、俺が悪いのはたしかだからな……」

 

「これで毎日ママに本指名入れるための張り付きが可能になる……嬉しいなぁ……」

 

「……こいつがストーカー行為に出たら申し出ろ。処罰する」

 

 タイトの申し出にあなたは頷く。

 まぁ、よほどひどくない限りは言わないが。

 

 さて、そろそろあなたは仕事に戻りたいと思う。

 今日の迷宮探索の予定はどうなっているのだろう?

 もう時間も遅いので、出発してしまっただろうか?

 

「いや、偵察班がカーマイン姉妹なのはそのままだが。戦闘班と補助班の編成がまだだ。攻略は現状停止中。今日明日は休め」

 

 なるほど、了解した。

 では、昼寝でもしよう。

 サツキと盛大に楽しんだので、ちょっと眠いのだ。

 

 あなたは宿舎に戻ることにした。

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